goo blog サービス終了のお知らせ 

宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

原始惑星系円盤の中に隠された惑星の光を探す

2019年05月18日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
すばる望遠鏡の新しい装置を使った原始惑星系円盤の観測で、これまで円盤中の惑星から発せられていると考えられてきた光のほとんどが、実際には円盤の散乱光だと分かってきたんですねー
このことは、惑星は想定よりも小さいということを示しているのかもしれません。


原始惑星系円盤からの光をとらえる

おうし座の方向約500光年彼方にある若い太陽型の星“LkCa 15”の周囲には、惑星の材料になるガスやチリで作られた原始惑星系円盤が広がっています。

この円盤には大きな隙間が見られ、この隙間で若い惑星が形成されていると考えられています。

これまでの観測から予測されているのは、“LkCa 15”は若い頃の太陽系に似た惑星系を持っていて、木星よりも質量が大きい形成途中の3つの惑星候補天体があるということ。

3つの惑星があるのは、中心星“LkCa 15”から数十億キロ離れたところ。
太陽系では土星~海王星の軌道に相当する場所なんですが、これら惑星からの光を太陽系と同じようなスケールで地上から直接とらえるのは非常に困難なことなんですねー


原始惑星系円盤の光と惑星の光を区別することが必要

今回、NASAエイムズ研究センターと国立天文台ハワイ観測所の研究チームが行ったのは、すばる望遠鏡に搭載された極限補償光学装置“SCExA0”と面分光装置“CHARIS”を使った“LkCa 15”の観測。

“SCExA0”は地球の大気揺らぎの影響をより高度に補正でき、そのままではほやけて見えてしまう星像をより鮮明に映し出すことができます。
さらに、“CHARIS”に光を送ることで、天体から来る光の色の場所ごとの違いを高い解像度で直接見分けることができ、惑星の大気成分などを詳しく調べることも可能になります。

この2つの装置で得られた観測データを解析してみると、“LkCa 15”の周囲から届く光の大部分は惑星からではなく、広がった弧のように見える円盤部分からの散乱光によるものであり、以前示唆されていた惑星候補と同じ明るさを持っていることが分かります。

ケック望遠鏡を使った追観測からは、円盤の弧の形状が時間とともに変化していないことを確認。
軌道を回っている惑星からのシグナルと思われていた光は、円盤のような動きのない構造と一致していることが確かめられることになります。
○○○
太陽型の星“LkCa 15”
(左)2017年9月7日に“SCExA0”と“CHARIS”でとらえた画像。
2つの弧のような形状は“LkCa 15”の原始惑星系円盤が2つの構造を持っていることを示している。
(中)理論モデルから予想される“LkCa 15”の円盤からの散乱光。
(右)3つの惑星があった場合に予想されるイメージ。

“SCExA0”と“CHARIS”によるデータは、これまでのシグナルが円盤本体から来ているものであることを示すことになりました。

このことが意味しているのは、惑星自身が想定していたよりも質量が小さく暗いので、円盤内に隠されている可能性が高いということ。
惑星のことを知るには、“LkCa 15”の円盤と、その円盤に隠された惑星からの光をはっきりと区別して見分ける必要があります。

このことは難しい挑戦なんですが、観測技術も確実に前進してきています。
“SCExA0”の改良は今後も継続されるようなので、近い将来には“LkCa 15”の円盤に存在する木星型惑星をとらえることが出来るかもしれません。

私たちの太陽系が辿ってきた歴史が普遍的なものなのか、それとも特別なものなのか。
“SCExA0”のような最先端の撮像装置がもたらす観測結果が、惑星系の起源と進化をよく理解するための糸口になるといいですね。


こちらの記事もどうぞ
  太陽系もこうして作られた? 原始惑星系円盤の問題が解決
    


公転軌道の傾きが不揃いな惑星系はこうして作られる? 生まれたての原始惑星系円盤で見つかった回転軸のズレ

2019年01月20日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
生まれたばかりの原始惑星系円盤で、回転軸の傾きが円盤の内と外でズレているものが初めて見つかったんですねー

このズレから考えられるのは、惑星の公転軌道の傾きが不揃いな惑星系などの原因になっていること。
ただ、このようなズレが生じるのはむしろ自然なことで、どこの天体でも起こり得るようです。


惑星系の元になるガスの円盤“原始惑星系円盤”

恒星や惑星系は、宇宙を漂うガスやチリからなる分子雲が自らの重力で収縮して生まれます。

そして、生まれたばかりの恒星“原始星”の周りには多くのガスが存在し、そのガスが原始星へ引き寄せられ、渦を巻いて落下していきます。

これらのガスは、原始星に向って落ち始めたときの回転の向きを保ったままどんどん落ちていき、やがて遠心力と重力が釣り合って“原始惑星系円盤”を形成していくんですねー

このため、原始星に向って降ってきたガスの角運動量(回転の向きと勢いを表す量)が、後の“原始惑星系円盤”の向きや大きさの起源と考えられていて、円盤がどのように形作られたかを理解することは惑星形成を理解する上で非常に大事なことになります。


外側がズレた円盤構造

今回、理化学研究所と千葉大学先進科学センターの研究チームは、おうし座の方向約450光年彼方にある原始星“IRAS 04368+2557”を取り巻く若い原始惑星系円盤からの電波をアルマ望遠鏡で観測。

円盤に何らかの構造が存在するか、また円盤に含まれている星間チリの粒子のサイズが、円盤の周囲にある分子雲の星間チリと比べて成長しているかを調べています。

すると、この円盤は外側ほど厚みが大きい“フレア構造”を持っていることが分かります。

さらに分かったことは、円盤の厚みと半径の比率や円盤の回転軸の傾きが、中心の原始星から半径60億~90億キロ(40~60天文単位)を境にして急に変化する“二重フレア構造”になっていること。

内と外で回転軸がズレている原因は、かつて外から降着してきたガスの回転軸が時代とともに変化してきたためだと考えられています。
○○○
(a)波長0.9ミリと1.3ミリの電波観測から明らかになった、
円盤の厚みと中心の原始星からの距離(半径)の関係。
半径40~60天文単位で急に厚みが大きくなっている。
(b)円盤が放射する電波の強度分布。
波長0.9ミリ(上)と1.3ミリ(下)の両方で、
円盤の中央面(黒の点線)が半径40~60天文単位より外側で
鉛直方向にわずかに歪んでいて、内と外で円盤の傾きが異なっている。
このように外側がズレた円盤の構造は“ワープ構造”と呼ばれ、伴星を持つ原始惑星系円盤や進化の進んだ円盤では見つかっていたのですが、今回のように伴星を持たない、かつ形成初期の円盤で見つかったのは初めてのことなんですねー
○○○
内側と外側で回転軸の傾きがズレている“ワープ構造”を持った原始惑星系円盤(イメージ図)。


“ワープ構造”が公転軌道の傾きが不揃いな惑星系を作っている?

こうした“ワープ構造”は、惑星の公転軌道の傾きが不揃いな惑星系など、ここ数年で次々に発見されている“風変わり”な惑星系の起源として注目されています。

これまで、こうした風変わりな惑星系は、離れた別の惑星の影響で軌道の傾きと離心率が変動する“古在機構”や、近くを通過した惑星の重力で軌道が変化する“惑星重力散乱”など、中心星と惑星と別の惑星という3つの天体の相互作用によってできたと考えられてきました。

でも、複数の惑星の軌道面が他の惑星の軌道面から同じようにズレている惑星系や、主星と惑星軌道の回転軸の傾きがズレている惑星系なども発見され、3天体の相互作用だけでは説明が難しいことが問題になっています。


“ワープ構造”はどこの天体でも起こり得る一般的なもの

原始星へと降り積もるガスの量は、原始星の周りのガス分布に密度の揺らぎがあるので、必ずしも一定にはなりません。

こうした状況では、原始星や円盤に降着するガスの量や回転の向きは時代によって異なっている可能性が高くなるので、“ワープ構造”が生じるのはむしろ自然なことなのかもしれません。

そのため研究チームでは、今回明らかになった現象は、どこの天体でも起こり得る一般的なものと考えています。
○○○
“ワープ構造”を持つ原始惑星系円盤の概念図。
内円盤と外円盤で回転軸の傾きにズレがあるので、このような構造になる。
外円盤のさらに外側は、エンベロープと呼ばれる降着ガスへとつながっている。
原始星に近づくにつれて密度や温度が高くなるので、電波強度も高くなり、
実際の観測データでは中心付近が最も明るく見える。
また、今回の観測で、波長1.3ミリと0.9ミリの電波の強さの比率が円盤内の半径に応じてどう変わっていくのかを調べてみると、半径90億キロより内側では、内に行くほど波長0.9ミリの電波強度が相対的に弱いことが分かります。

短い波長の電波が相対的に弱いということは、その場所にある星間チリの粒子サイズが大きいことを示しています。
そう、今回のような若い円盤で、初めてチリのサイズが場所ごとに変化している様子がとらえられたんですねー

この結果が示唆しているのは、初期円盤の段階ですでに星間チリが成長し始めていること。

このようなチリの成長が、やがては円盤内に構造が生まれて惑星の形成につながるきっかけになると考えられるので、惑星の形成についても理解を大きく変えることになるのかもしれませんね。


こちらの記事もどうぞ
  太陽系もこうして作られた? 原始惑星系円盤の問題が解決
    

太陽系もこうして作られた? 原始惑星系円盤の問題が解決

2017年02月22日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
アルマ望遠鏡による原始惑星系円盤の観測から、
ガスが円盤に降着する際に、角運動量の一部を円盤の垂直方向に放出していることが、
明らかになったんですねー

このことで「惑星系がどうやって作られたのか」が少しずつ分かってきたようです。

角運動量の放出が必要

星や惑星系は、星と星との間に漂うガスやチリからなる分子雲が、
自らの重力で収縮することで誕生します。

そして、生まれたばかりの原始星の周りには多くのガスが存在し、
そのガスが原始星へ引き寄せられ、渦を巻いて落下していくことに…

これにより原始星の周りでは、
惑星系の元になるガス円盤“原始惑星系円盤”が成長。

落下していくガス“エンベローブガス”は、
角運動量(回転の勢いを表す量)を持っているので、
原始星の周りには回転する円盤構造が形成されていきます。

ただ、ガスの角運動量の一部が外部に放出されなければ、
安定して回転する原始惑星系円盤を形成できないんですねー

それは、“エンベローブガス”が原始星にある程度まで近づくと、
原始星の重力よりも回転による遠心力が大きくなり、
ガスが原始星から離れていってしまうからです。

この角運動量を放出するメカニズムの問題は、
“惑星系円盤誕生における角運動問題”と呼ばれ、
円盤形成の研究で最大の謎になっていました。

この問題に対しては、理論的には研究されてきているので、
今度の課題は、実際に星が誕生する現場を詳しく観測することになります。


衝撃波による回転エネルギーの消費

観測の対象になったのは、
分子雲コアの中心に、生まれたばかりの太陽型原始星を持つ、
“L1527分子雲コア”でした。

研究チームはアルマ望遠鏡を用いて、
地球から450光年離れた、おうし座にある“L1527分子雲コア”を観測。

“エンベローブガス”中に含まれる、
炭素鎖分子の一種“CCH分子”の分布を詳細に調査しています。

  炭素鎖分子は、多くの炭素原子が鎖状に結合した化合物。
  炭素鎖には水素・窒素・酸素・硫黄などが結合するが、
  不飽和結合のものが多く反応性が高い。
  このため、地球環境では通常存在せず、星間空間の分子雲に見られる。


すると、ガスが遠心力バリアの手前で厚く膨れていることが分かります。

  遠心力バリアとは、ガスが原始星に最大限近づける距離、
  原始惑星系円盤の端に相当する。


この観測結果から考えられるのは、外側から原始星に落下してきたガスが、
遠心力バリア手前で滞留・衝突を起すことで衝撃波が発生。

その衝撃波によって、回転のエネルギーが消費(角運動量が放出)され、
ガスが原始星に落下できるということです。

さらに、この衝撃によって円盤と垂直方向にガスが膨れ出ているようです。

おうし座“L1527”分子雲コアにおける、
原始惑星系円盤の周りのCCH分子の分布。
(赤・青)CCH分子の依存量が高い領域。
等高線は星間チリの分布でピーク位置(中心)に原始星がある。
南北方向に伸びた原始惑星系円盤を真横から観測している。
遠心力半径と遠心力バリアの間で、
円盤の垂直方向(東西方向)の厚みが変化していることが分かる。


回転エネルギーを円盤垂直方向に放出

また、衝撃波でガス中に放出された一酸化硫黄分子の温度を調べたところ、
“エンベローブガス”の温度よりも160度も高温になっていました。

さらに、遠心力バリア付近でのガスの回転速度は、
“エンベローブガス”の回転速度より明らかに低くなっていました。

これらの結果が示しているのは、
衝突によって回転のエネルギーが消費されるとともに、
円盤垂直方向への動きを得た一部のガスが角運動量を放出することで、
残されたガスの角運動量が減少したということでした。

つまり、“エンベローブガス”が円盤に降着する際に、
ガスが滞留・衝突し衝撃波が発生することで、
ガスが自ら角運動量の一部を円盤垂直方向に放出していることが分かったんですねー

観測で明らかになった惑星系円盤形成の様子(イメージ図)。
中心に原始星、
周りに原始惑星系円盤(断面で表面がオレンジ色、内部が紫色)が
形成されている。
赤線のように、外側から落下してきたガス(低温)が
遠心力バリア手前で滞留・衝突し、
生じた衝撃波によって円盤と垂直方向にガスが膨れ出し、
高温になっている。

今回の研究では、これまでほとんど観測されなかった、
円盤の“垂直方向の構造”に着目しています。

その構造を明らかにすることで、
角運動量問題解決への糸口を発見することが出来ました。

今後、他の円盤形成領域でも同様の現象が確認できれば…

角運動量問題の全容解明へとつながり、
「太陽系がどのように形成されたのか?」
という問いへの答えに結び付くのかもしれませんね。


こちらの記事もどうぞ ⇒ 原始星を取り巻く大型有機分子が惑星系の特徴を決めている!?