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宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

大質量原始星を育むガス円盤を探る上で“塩”が重要なツールになるようです。

2020年09月28日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
アルマ望遠鏡を使って二つの大質量原始星“IRAS 16547-4247”を観測してみると、それぞれの原始星を囲むガス円盤の中に、チリが砕かれて飛び出した塩化ナトリウムや、高温に加熱された水蒸気が含まれているのが見つかりました。
さらに、それら分子から放たれる電波を解析することで明らかになったのが、二つのガス円盤が逆回転する様子でした。
ガス円盤の様子を明らかにできたのは、原始星近傍のみに含まれる塩化ナトリウムなどの分子を検出することができたおかげ。
大質量星の誕生を探る上で重要な手掛かりになることを示しているようです。

大質量星の形成メカニズム

夜空に輝く星には、太陽のような小質量星もあれば、ベテルギウスに代表されるような太陽の約10倍以上の質量を持つ巨大な星“大質量星”もあります。

いずれも、宇宙に漂うガスやチリの雲を材料にして生まれます。

でも、大質量星は小質量の星に比べて数が少なく、その誕生現場も地球から遠くにあります。
なので、大質量星の形成メカニズムの理解は、小質量星のそれに比べて十分には進んでいません。

一方、大質量星は強烈な光を放ち、一生の最期には超新星爆発を起こして周囲の宇宙環境に大きな影響を与えます。
このため、大質量星の形成メカニズムを理解することは、さまざまな宇宙現象を理解するための重要な要素と言えるんですねー

特に重要なのは、生まれたばかりの星が周囲からどのように物質を取り込んで大質量星に成長していくのかを理解すること。

小質量星の場合だと、生まれたばかりの原始星の周囲をガスの円盤が取り巻いていて、原始星の重力によって引き付けられた物質はいったん円盤に滞留し、さらに原始星へと流れ込んでいくという過程が明らかになっています。

大質量星も同じような過程をたどると考えられます。
ただ、これまで大質量原始星の周囲のガス円盤の観測は十分にできていませんでした。

これは、大質量原始星の周囲には非常に大量のガスが存在し複雑な分布をしていて、ガス円盤を見分けるのが困難だったためです。

これまでのアルマ望遠鏡を使った観測でも、大質量原始星周囲のガス円盤をとらえた例は限られています。

分子が放つ電波を解析する

今回、この問題に挑んだのは国立天文台の研究チームでした。

研究チームは、さそり座の方向約9500光年彼方に位置している大質量原始連星“IRAS 16547-4247”をアルマ望遠鏡を用いて観測。
太陽の1000倍もの質量を持つ巨大なガスの雲の中に深く埋もれている“IRAS 16547-4247”は、二つの原始星からなる“連星系”であることが知られていて、その質量の合計は太陽の25倍と見積もられています。

研究チームは、アルマ望遠鏡の高い分解能と感度を活かして、原始連星“IRAS 16547-4247”の周囲にある様々な分子が放つ電波をとらえることに成功。
そして、明らかになったのは、分子によって分布が大きく異なることでした。

有機分子シアン化メチル(CH3CN)や二酸化硫黄(SO2)といった大質量原始星観測でよく調べられる分子は、二つの原始星を大きく取り巻く領域から検出されたので、原始星近くの様子を調べるのには適していませんでした。

一方、それぞれの原始星の近傍から検出されたのは、高温の水蒸気(H2O)や塩化ナトリウム(NaCl)、一酸化ケイ素(SiO)の分子が放つ電波でした。
アルマ望遠鏡が撮影した原始連星“IRAS 16547-4247”周囲の構造。チリが放つ電波を黄色、シアン化メチル(CH3CN)が放つ電波を赤色、塩化ナトリウム(NaCL)が放つ電波を緑色、水蒸気(H2O)が放つ電波を青色で合成していて、画像下にはそれぞれの中心部の様子をクローズアップした様子を示している。原始連星を大きく取り巻くように広がっているチリとシアン化メチルに対して、塩化ナトリウムと水蒸気が個々の原始星の周りに集中して存在していることが分かる。全体画像で原始星の上側には、原始星から放たれるジェットの電波を水色で合成している。
アルマ望遠鏡が撮影した原始連星“IRAS 16547-4247”周囲の構造。チリが放つ電波を黄色、シアン化メチル(CH3CN)が放つ電波を赤色、塩化ナトリウム(NaCL)が放つ電波を緑色、水蒸気(H2O)が放つ電波を青色で合成していて、画像下にはそれぞれの中心部の様子をクローズアップした様子を示している。原始連星を大きく取り巻くように広がっているチリとシアン化メチルに対して、塩化ナトリウムと水蒸気が個々の原始星の周りに集中して存在していることが分かる。全体画像で原始星の上側には、原始星から放たれるジェットの電波を水色で合成している。
アルマ望遠鏡がとらえた分子などからの電波を解析することで、連星系を取り巻く大きなガス円盤、それぞれの大質量原始星を囲む二つの小さなガス円盤、そこから噴出するアウトフローとジェットといった、原始連星“IRAS 16547-4247”の詳細な姿が浮かび上がりました。

特に二つの小さな円盤は、それぞれの原始星にガスを供給していて、大質量原始星の成長を探るカギになるはずです。
観測結果をもとに描いた原始連星“IRAS 16547-4247”周囲のイメージ図。連星を成す個々の原始星の周囲に小さなガス円盤があり、これらはより大きなガス円盤の中に位置している。右側の原始星から細く絞られたジェットが噴き出していて、周囲のガスと衝突していくつかの明るい電波源を作っている。
観測結果をもとに描いた原始連星“IRAS 16547-4247”周囲のイメージ図。連星を成す個々の原始星の周囲に小さなガス円盤があり、これらはより大きなガス円盤の中に位置している。右側の原始星から細く絞られたジェットが噴き出していて、周囲のガスと衝突していくつかの明るい電波源を作っている。

大質量原始星を取り巻く二つの円盤は互いに逆方向に回転している

さらに、研究チームが見つけたのは、個々の大質量原始星を取り巻く二つの円盤が、互いに逆方向に回転している兆候でした。

二つの星からなる連星系が、一つの巨大なガス円盤の分裂から誕生した“双子”だとすれば、個々の原始星円盤の回転は同じ方向になるはずです。

もし、本当に二つの円盤が逆回転しているとしたら、それぞれの原始星は少し離れた場所にあった別々のガスの集まりから生まれ、やがて出会ってペアを組んだ可能性があります。

つまり、“IRAS 16547-4247”は本当の双子ではなく、隣り合って生まれた他人だったというわけです。

ガス円盤を探る上で“塩”が重要なツールになる

ガス円盤の様子をつぶさに明らかにできたのは、原始星近傍のみに含まれる塩化ナトリウムなどの分子を検出することができたおかげでした。

食卓塩としても馴染みのある塩化ナトリウムですが、実は宇宙ではありふれた分子ではありません。
大質量原始星の周りの円盤に塩化ナトリウムが見つかったのは、オリオンKL電波源Iに次いで今回が2例目でした。

オリオンKL電波源Iは、大質量原始星の中でも少し変わった特性を持つ星なので、塩化ナトリウムが本当に大質量原始星の周りを見るのに適しているかどうかは分かっていませんでした。

今回観測した“IRAS 16547-4247”は、一般的な大質量原始星です。
なので、今回の研究によって、大質量原始星のガス円盤を探る上で“塩”が本当に重要なツールになる事がはっきりしたことになります。

高温に熱された水蒸気やチリが砕かれることで飛び出したと考えられる塩化ナトリウムが検出されたことで、大質量原始星を育むガス円盤の熱くダイナミックな姿が明らかになってきました。

今まさに検討が進む次世代超大型電波干渉計“ngVLA”は、塩化ナトリウムのようなチリの破壊で飛び出す分子が放つ電波を観測するのに適した性能を持っています。
“ngVLA(next generation Very Large Array)”は、アメリカ国立電波天文台が中心になって検討を進めている次世代の電波干渉計。アルマ望遠鏡より少し低い周波数の電波を非常に高い解像度で観測し、惑星の形成や星間化学、銀河の進化、パルサー研究やマルチメッセンジャー天文学などに大きな進展をもたらすと期待されている。

そのため、“熱い円盤”に含まれる分子の観測は今後ますます発展し、大質量星の誕生メカニズムの解明につながるはずです。

また、46億年前に私たちの太陽系を生んだ原始太陽系円盤でも、チリが蒸発するような高温を経験したことが隕石に含まれる様々な証拠から知られています。

今後、塩化ナトリウムと高温の水などを手掛かりに“熱い円盤”の観測を進めることで、太陽系誕生時の様子を探るヒントが得られるかもしれませんね。


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若い3連星“オリオン座GW星”を取り巻く原始惑星系円盤。ここにあるリングの傾きは惑星の存在を示している?

2020年09月05日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
アルマ望遠鏡による観測で、若い3連星“オリオン座GW星”の周囲に3連のチリのリングが存在していることが明らかになりました。

最も外側のリングの半径はおよそ340天文単位もあり、原始惑星系円盤の中で発見されたリングとしては観測史上最大のもの。
それぞれのリングには、巨大惑星の種になるのに十分な量のチリが含まれていることも分かりました。

さらに明らかになったのが、中心の3連星の軌道面と3本のリングは同一平面上に無く、特に最も内側のリングが大きく傾いていること。
3連星の重力だけでは傾いたリングを作ることはできないはず… なので、リングの間に惑星などの天体がすでに存在している可能性があるようです。

これまで、3連星の周りで惑星は一つも発見されていませんでした。
“オリオン座GW星”を詳しく調べることで、3連星の周りでの惑星形成について理解が進むのかもしれません。
アルマ望遠鏡が観測した若い星“オリオン座GW星”の周りの原始惑星系円盤。3本のリング状構造がはっきりと映し出されている。最も内側のリングはほぼ円形に、外側の2本のリングは縦に伸びた楕円に見えている。リングが実際には円形に近いと仮定すると、内側のリングはほぼ正面から、外側の2本のリングはやや斜めの角度から見ていると考えられ、リングの傾きが異なることが分かる。この画像には映っていないが中心に若い3連星がある。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Bi et al., NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello)
アルマ望遠鏡が観測した若い星“オリオン座GW星”の周りの原始惑星系円盤。3本のリング状構造がはっきりと映し出されている。最も内側のリングはほぼ円形に、外側の2本のリングは縦に伸びた楕円に見えている。リングが実際には円形に近いと仮定すると、内側のリングはほぼ正面から、外側の2本のリングはやや斜めの角度から見ていると考えられ、リングの傾きが異なることが分かる。この画像には映っていないが中心に若い3連星がある。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Bi et al., NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello)


まだ見つかっていない3連星の周囲を回る惑星

天の川銀河にある恒星の約半数は、2個以上の星が互いを回り合う“連星系”として生まれることが知られていて、これまでに見つかっている4000個以上の太陽系外惑星でも、2個以上の太陽を持つものはいくつも存在しています。

でも、3連星の周囲を回る惑星は、まだ発見されていないんですねー
なぜ、3連星の周りでは惑星が見つからないのでしょうか?

3連星以上(多重星系)になると、恒星による重力の影響が複雑になってしまいます。
惑星は、お互いの周りを公転する連星に引き込まれて消滅したり、外にはじき出される可能性も高くなります。
惑星が多重星系の中で生き残るためには、軌道や複雑な環境など、一定の要件を満たす必要があると考えられます。

若い星を取り巻くチリとガスの円盤“原始惑星系円盤”の中で惑星は作られます。
なので、連星系の周りの原始惑星系円盤を調べることで、連星系周囲での惑星の形成について理解することができるはずです。


原始惑星系円盤の中に発見された観測史上最大のリング

地球から約1300光年彼方に位置する“オリオン座GW星”は、1天文単位の間隔で互いを回り合うA星とB星、そこから8天文単位離れた場所を回るC星からなる3連星です。
1天文単位は太陽~地球間の平均距離、約1億5000万キロに相当し、太陽~海王星間の距離は約30天文単位。

今回の研究では、この“オリオン座GW星”をカナダ・ビクトリア大学と工学院大学のチームが、アルマ望遠鏡を用いて観測。
これまでの観測で知られていた、3つの星を取り巻く大きな原始惑星系円盤の構造を調べるためでした。

観測の結果、“オリオン座GW星”を取り巻く原始惑星系円盤は3本のリングでできていることが分かります。
リングの半径は、内側から46天文単位、188天文単位、338天文単位。
太陽系の惑星で最も外側を公転する海王星の軌道半径が30天文単位なので、これと比べると“オリオン座GW星”の原始惑星系円盤が星からいかに遠い場所にあるかが分かります。

これまで数多くの原始惑星系円盤にリング構造が見つかってきました。
でも、“オリオン座GW星”の最も外側のリングは、これまで発見された中でも最も巨大なリングとなりました。


原始惑星系円盤にあるリングの傾きは惑星の存在を示している

それぞれのリングの電波強度から研究チームが導き出したのは、リングに含まれるチリの質量。
その質量は、内側のリングから順にそれぞれ地球質量の75倍、170倍、245倍と見積もられています。
これは、巨大惑星の種を“オリオン座GW星”の周囲に作るのに十分な量といえます。

3本のリングをさらに詳しく分析してみて分かったのは、中心の3連星の軌道面と比べてリングが3本とも大きく傾いていること。
特に、最も内側のリングは他の2本のリングとは大きく異なった傾きを持っていました。
アルマ望遠鏡で同時に観測した円盤内のガスのデータでも、円盤の内側がねじれていることが確認されています。
今回の研究で明らかになった、“オリオン座GW星”の周りの原始惑星系円盤の構造。中心に3連星があり、その周りを3本のリング状にチリが分布している。最も内側のリングは他のリングに比べて大きく傾いている。リングの間に分布する低密度のチリは薄い色で示されている。(Credit: Kraus et al., 2020; NRAO/AUI/NSF)
今回の研究で明らかになった、“オリオン座GW星”の周りの原始惑星系円盤の構造。中心に3連星があり、その周りを3本のリング状にチリが分布している。最も内側のリングは他のリングに比べて大きく傾いている。リングの間に分布する低密度のチリは薄い色で示されている。(Credit: Kraus et al., 2020; NRAO/AUI/NSF)
研究チームは、3連星が原始惑星系円盤にどのような重力的影響を与えるかを調べるためシミュレーションを実施。
その結果、3連星の重力だけでは、内側のリングの大きな傾きを再現することができませんでした。

そこで、考えられるのが原始惑星系円盤内に惑星が存在している可能性です。
惑星によって円盤に隙間が作られ、内側のリングと外側のリングが作られたと考えることができます。

長く議論されてきた「連星の周囲で惑星形成はどのように起こるのか?」っという問題ですが、今回の観測によって、3連星というより複雑な系における惑星形成を、観測に基づいて調べる道筋が見えてきたことになります。

今回の研究とは別に、イギリス・エクセター大学の研究チームも“オリオン座GW星”を調べています。

観測に用いられたのは、アルマ望遠鏡とヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLT。
近赤外線の観測では、最も内側のリングの影が外側に伸びていることを初めて見つけています。
これは、内側のリングが大きく傾いていることを裏付ける結果と言えます。
アルマ望遠鏡と超大型望遠鏡VLTで観測した“オリオン座GW星”の周りの原始惑星系円盤。アルマ望遠鏡が観測したチリの分布を青色、VLTが観測した近赤外線をオレンジ色で示している。中心から左下と上の方向に黒い筋が伸びていて、これが内側のリングの影だと考えられている。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), ESO/Exeter/Kraus et al.)
アルマ望遠鏡と超大型望遠鏡VLTで観測した“オリオン座GW星”の周りの原始惑星系円盤。アルマ望遠鏡が観測したチリの分布を青色、VLTが観測した近赤外線をオレンジ色で示している。中心から左下と上の方向に黒い筋が伸びていて、これが内側のリングの影だと考えられている。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), ESO/Exeter/Kraus et al.)
リングの形状に関するシミュレーション研究は、エクセター大学の研究チームも実施しています。
こちらは、大きく傾いたリングが3連星の重力だけでも作られるとしています。

リングの成因について、両研究チームは異なる説を提唱していて、まだ決着はついていません。
いずれにせよ、“オリオン座GW星”は連星の周りの複雑な環境下における惑星形成を理解するための、重要なサンプルと言えます。


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これまで見逃していた? とらえきれていなかったガスの渦巻き模様から分かる複雑な惑星形成環境

2020年08月12日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
若い星を取り巻くガスとチリの円盤を観測してみると、チリの外側にガスでできた複雑な渦巻き模様が見つかりました。
惑星が誕生する現場は、想像以上に複雑でカオスな状態になっているのかもしれません。


若い星の周りにできるガスとチリの円盤

太陽系の惑星も太陽系外惑星も、若い星の周りにできるガスとチリの円盤“原始惑星系円盤”の中で生まれます。

アルマ望遠鏡は、その高い解像度を活かして、これまでたくさんの惑星誕生現場を撮影。
その多くには、同心円状のリングや隙間といった構造があり、まさに生まれつつある惑星がそこにある可能性を示していました。

最も有名なのは“おうし座HL星”や“うみへび座TW星”の原始惑星系円盤ですが、すべての原始惑星系円盤が、これほど整った形をしているとは限らないんですねー

今回、アルマ望遠鏡が観測したのは地球から約520光年の彼方に位置する“おおかみ座RU星”。
ここには、私たちの理解を超えるガスでできた立派な渦巻き腕があり、それはチリの円盤よりもはるかに大きいようです。
“おおかみ座RU星”を取り巻くガスの円盤(アルマ望遠鏡による観測)。渦巻き模様の構造は1000天文単位の大きさにまで広がっている。(Credit: Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), J. Huang; NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello)
“おおかみ座RU星”を取り巻くガスの円盤(アルマ望遠鏡による観測)。渦巻き模様の構造は1000天文単位の大きさにまで広がっている。(Credit: Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), J. Huang; NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello)


ガスでできた立派な渦巻き腕の発見

これまでにもアルマ望遠鏡で観測されていた“おおかみ座RU星”。
DSHARPと名付けられたプロジェクトでは、原始惑星系円盤にリング模様があることが明らかになっています。
DSHARP(Disk Substructures at High Angular Resolution Project:高解像度による原始惑星系円盤構造観測プロジェクト)では、20個の若い星をアルマ望遠鏡の高い解像度で観測し、星の周りにある原始惑星系円盤の姿をとらえることを目的としている。
このリング模様は、原始惑星系円盤の内側に今まさに形成途中の惑星がある可能性を示していました。

今回、ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの研究チームが気付いたのは、“おおかみ座RU星”を取り巻く円盤の外側に、かすかに一酸化炭素分子ガスが広がっていること。
そこで研究チームではガスの分布に注目、アルマ望遠鏡を使ってチリではなくガスの分布を観測しています。

原始惑星系円盤には、実はチリよりもガスの方が豊富に含まれています。
惑星の“種”を作るのに必要なのがチリで、ガスは惑星大気の材料になります。

観測の結果、明らかになったのは、チリの円盤の外側にガスでできた立派な渦巻き腕が存在していること。
その大きさは、中心からおよそ1000天文単位にも及び、半径60天文単位のチリの円盤と比べるとはるかに大きいものでした。
1天文単位は太陽~地球間の平均距離、約1億5000万キロに相当する。
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アルマ望遠鏡が観測した、若い星“おおかみ座RU星”の周囲の原始惑星系円盤。左下は、星のすぐ近くを取り巻くチリの円盤で、リングや隙間が見えている。今回はより広い領域に広がるガスを観測し、チリの円盤よりも巨大な渦巻き模様があることが分かった。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), J. Huang and S. Andrews; NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello)
アルマ望遠鏡が観測した、若い星“おおかみ座RU星”の周囲の原始惑星系円盤。左下は、星のすぐ近くを取り巻くチリの円盤で、リングや隙間が見えている。今回はより広い領域に広がるガスを観測し、チリの円盤よりも巨大な渦巻き模様があることが分かった。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), J. Huang and S. Andrews; NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello)
これまで、アルマ望遠鏡が行ってきた原始惑星系円盤に含まれるチリの観測は、惑星形成に対する理解を大きく変革してきました。

ただ、今回得られたガスの分布が示していたのは、その理解ですらも単純化し過ぎたものであったこと。
チリの円盤は非常にきれいに揃ったリング構造をしていましたが、このことから推測されるよりも、実際の惑星誕生の現場はずっとカオスな状態にあるようです。

今回のガスの渦巻き模様は、アルマ望遠鏡を使った長時間観測により見えてきものです。
っということは、これまでの観測では惑星形成環境の全貌がとらえきれていなかったということに…
そう、他の原始惑星系円盤でも、ガスの構造を見逃している可能性があるということになります。

ガスの渦巻き模様ができる原因について、今回の研究では複数のシナリオを提示しています。
  1. ガス円盤は質量が大きいので自らの重力で形が崩れつつある。
  2. “おおかみ座RU星”に別の星が近づき、その重力の影響で円盤が並みだった。
さらに、円盤を取り囲む星間物質が、この渦巻き腕にそって星に流れ込んでいるという可能性もあるそうです。

ただ、これらのどのシナリオも、観測結果を完全には説明することができていません。
なので、まだ知られていないメカニズムが惑星形成の途中で生じているのかもしれません。

“おおかみ座RU星”と似た構造の円盤を持つ別の星が見つかれば、それらを比較することで謎を解く手がかりが得られるかもしれません。


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誕生直後の原始星“ファーストコア”を発見! アルマ望遠鏡のアタカマ・コンパクト・アレイだからできたこと。

2020年08月08日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
“おうし座分子雲”の中で“星の卵”から“星のヒナ”へと成長する各段階がとらえられたんですねー
観測に用いられたのは、アルマ望遠鏡を構成する一部、そう日本が開発を担当したアタカマ・コンパクト・アレイ。
これにより、多数の“星の卵”の観測から、星が誕生する道筋の解明がまた一歩進んだようです。


“分子雲コア”の中で物質が集まることで星が誕生する

恒星は、星々の間に漂うガスやチリが自らの重力によって集まることで誕生します。
そして、星間物質が密集する場所では、水素分子を主成分とする“分子雲”となって存在しているんですねー

“分子雲”の多くは天の川に沿って存在していて、その一つに“おうし座分子雲”があります。
おうし座の方向に位置する“おうし座分子雲”は、地球からの距離が450光年と比較的近いので、これまで盛んに観測されてきました。

“おうし座分子雲”の中には、ガスが特に濃い“分子雲コア”と呼ばれる領域が約50個存在しています。
“分子雲コア”は“星の卵”とも言え、その中でさらに物質が重力によって集まることで、一つの星(あるいは一対の連星系)が誕生します。

“分子雲コア”は、その進化の初期段階では非常になめらかな内部構造をしていて、時間が進むにつれ中心部の物質密度が高まり、やがて原始星が誕生することになります。

“おうし座分子雲”にはこうした“分子雲コア”が多数あり、その一部にはすでに原始星を宿しているものも発見されています。
コンピュータシミュレーションが描き出した“分子雲コア”から“ファーストコア”が誕生するまでの進化過程。アタカマ・コンパクト・アレイの観測では、中心のガス密度が徐々に高くなり赤く表示された部分(1立方センチあたり約100万個)をとらえていると考えられる。シミュレーションには国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ“アテルイII”が使用された。(Credit: 松本倫明 (法政大学))
でも、理論計算とは違って、原始星の誕生には10万年規模の時間がかかるので、人間がひとつの天体をずっと追いかけて観測することはできません。

さらに、星がまだ生まれていない“分子雲コア”については、これまでの電波望遠鏡では解像度が不足していたので、中心部のガス密度が高まって内部の構造が発達し始めているかどうかを特定し、その進化の様子を明らかにすることが困難でした。


“分子雲コア”観測に最適なアタカマ・コンパクト・アレイ

今回、大阪府立大学や名古屋大学、国立天文台などの研究者からなるチームが目指したのは、アルマ望遠用を用いて“おうし座分子雲”内にある“分子雲コア”のほぼ全てを観測し、その進化段階を明らかにすること。
さまざまな成長段階にある天体を調べ、進化の道筋を理解しようとしたわけです。

ただ、“分子雲コア”は個々の原始星に比べるとずっと大きく広がっていて、さらに内部構造も乏しいという特徴があるんですねー

アルマ望遠鏡のように多数のアンテナを組み合わせて観測する電波干渉計は、一般的にはこのような特徴を持つ天体の観測には不向きとされてきました。

そこで今回の研究で用いたのは、アルマ望遠鏡の中でもアタカマ・コンパクト・アレイの口径7メートルアンテナのみ。

のっぺりと広がった天体の進化を電波干渉計で観測するには、電波干渉計を構成するアンテナをできるだけ近接させて設置する必要があります。
アルマ望遠鏡の場合、口径12メートルアンテナよりも口径7メートルアンテナの方が密集して配置されているので、“分子雲コア”を観測するには最適だったわけです。
アタカマ・コンパクト・アレイは、南米チリのアタカマ砂漠に設置されたアルマ望遠鏡の一部。日本が開発を担当した16台のパラボラアンテナ(直径12メートル4台、直径7メートル12台)が、アンテナ群の中心付近にコンパクトに配置されている。アルマ望遠鏡の50台の12メートルアンテナではとらえきれない、大きく広がった天体が発する電波を余すことなくキャッチすることができ、アルマ望遠鏡が撮影する電波写真をより高精度なものにすることが可能。

研究チームは、アタカマ・コンパクト・アレイの7メートルアンテナのみを用いて、“おうし座分子雲”にある“分子雲コア”39天体を観測。
そのうち7天体はすでに内部に原始星があることが知られており、32天体はまだ原始星が作られる前段階のものでした。

観測の結果、原始星を持つ“分子雲コア”の全てと、原始星を持たない“分子雲コア(星なしコア)”のうち12天体で濃いガスに含まれるチリが放つ電波の検出に成功。

電波が検出されなかった星なしコアは、アタカマ・コンパクト・アレイでもその姿をとらえることができないほど内部構造が発達していない、非常に若い段階にあるようです。

今回の研究で明らかになったのは、水素分子の密度がある値(おおよそ1立方センチ当たり100万個)を超えると、自分自身の重力に支配されて星へと急速に進化すること。
“分子雲コア”には、磁場やガスのランダムな運動による収縮を妨げる力が働いていますが、自分自身の重力がそれらに打ち勝って星へと進化する条件を精度良く突き止めたことになります。
“おうし座分子雲”とそれに含まれる多数の“分子雲コア”。ヨーロッパ宇宙機関の赤外線天文衛星“ハーシェル”が遠赤外線で観測した“おうし座分子雲”を背景に、アルマ望遠鏡で観測した星のない分子雲コア12天体(“ファーストコア”候補天体を含む)を合成した画像。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Tokuda et al. ESA/Herschel)
“おうし座分子雲”とそれに含まれる多数の“分子雲コア”。ヨーロッパ宇宙機関の赤外線天文衛星“ハーシェル”が遠赤外線で観測した“おうし座分子雲”を背景に、アルマ望遠鏡で観測した星のない分子雲コア12天体(“ファーストコア”候補天体を含む)を合成した画像。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Tokuda et al. ESA/Herschel)


誕生直後の原始星“ファーストコア”

一方、原始星を持たないと思われていた“分子雲コア”のうちの一つ“MC35”で発見されたのが、中心部から両側に向かって移動するガスの流れ。
これは、原始星に特有のアウトフロー(双極分子流)と考えられます。

アウトフローの広がりはおよそ2000天文単位と、一般的な原始星のアウトフローに比べると規模の小さいものでした。
1天文単位は太陽~地球間の平均距離、約1億5000万キロに相当する。

広がりとガスの移動速度からアウトフローの年齢を求めてみると、導き出されたのは数千年という非常に若い値でした。

原始星は一般的に赤外線で輝きます。
でも、誕生直後の“ファーストコア”と呼ばれる段階は温度も低く、発する赤外線は大変弱いと考えられています。
“ファーストコア”が形成されている中心部分までズームインし、その後ズームアウトした様子。(Credit: 松本倫明(法政大学))
これまでの観測では“MC35”に赤外線源は確認されておらず、今回発見されたアウトフローの性質は理論的に予想されるものと矛盾はありませんでした。
このことから、中心には“ファーストコア”が存在しているようです。

理論的研究では“ファーストコア”は、数千年から数万年でより明るく輝く原始星に成長すると考えられています。
ただ、これは“分子雲コア”の成長に必要な時間と比べると短時間なので、“ファーストコア”を実際に観測できる確率は非常に低くなります。

これまでも、他の領域でいくつか候補天体が報告されていますが、数が限られているんですねー
より詳しく観測ができる地球から最も近い星形成領域の一つ“おうし座分子雲”で“ファーストコア”が見つかったのは、今回が初めてのことでした。

おうし座における“星の卵”と“星のヒナ”の研究は、日本の研究者たちが名古屋大学4メートル電波望遠鏡や国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45メートル電波望遠鏡を使って1990年代から研究してきたテーマです。
今回の“おうし座分子雲”の研究で使われたアタカマ・コンパクト・アレイも日本が開発したものです。

今後、研究チームでは、より解像度の高い観測や、環境の異なる外の分子雲の観測を進め、星の多様性の起源に迫るそうです。


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まだ、微粒子の円盤が惑星と共存する“けんびきょう座AU”を観測すれば、惑星形成モデルのことが分かってくる。

2020年07月23日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
一人前の恒星になる前段階の星“けんびきょう座AU”を公転する惑星が見つかったんですねー
周囲に微惑星同士の衝突でできた岩石や氷の微粒子からなる円盤“残骸円盤”が、まだ残っている“けんびきょう座AU”。
そのため、惑星がどのように生まれ、どうやって惑星大気を持つようになるのか? っといった惑星と主星がどのように相互作用するかを研究する上で格好の実験室になるようです。


2000万~3000万歳ほどの幼児期の恒星

研究者たちが10年以上にわたって探していた恒星“けんびきょう座AU”を公転する惑星。
この惑星“けんびきょう座AU b”を発見したのは、アメリカ・ジョージ・メイソン大学を中心とする研究チーム。
地球から31.9光年の距離に位置する“けんびきょう座AU”の観測に用いられたのは、NASAの系外惑星探査衛星“TESS”と赤外線天文衛星“スピッツァー”でした。
“けんびきょう座AU”(左)と今回見つかった惑星“けんびきょう座AU b”(右)のイメージ図。(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center/Chris Smith (USRA))
“けんびきょう座AU”(左)と今回見つかった惑星“けんびきょう座AU b”(右)のイメージ図。(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center/Chris Smith (USRA))
“けんびきょう座AU”は低温の赤色矮星(M型矮星)で、推定年齢は2000万~3000万歳。
約46億歳の太陽と比べれば幼児期の恒星と言えます。

この段階の恒星は“前主系列星”と呼ばれていて、エネルギーのほとんどはまだ核融合ではなく、自身の重力収縮でまかなわれています。
“前主系列星”としては太陽から2番目に近く、微惑星同士の衝突でできた岩石や氷の微粒子からなる円盤“残骸円盤”が“けんびきょう座AU”の周囲には、まだ残っていました。

そのため、惑星がどのように生まれ、どうやって惑星大気を持つようになるのか?
っといった惑星と主星がどのように相互作用するかを研究する上で、“けんびきょう座AU”は格好の実験室といえます。

まだ、年齢も若く、太陽系の近くにあるM型矮星で、大きな“残骸円盤”に囲まれている“けんびきょう座AU”。
こうした特徴を全て持つ恒星系が見つかったのは、今回が初めてのことでした。


“けんびきょう座AU”には同じ星間ガス雲から同時期に誕生した兄弟がいた

主星である“けんびきょう座AU”の周りを8.46日周期で公転している“けんびきょう座AU b”は、海王星より8%ほど大きく、質量は地球の58倍(木星の0.18倍)以下と見積もらています。

さらに、“けんびきょう座AU”は“がか座β運動星団”と呼ばれる恒星の集団の一員で、この集団の星々は、かつて同じ星間ガス雲から同時期に誕生したと考えられています。

集団の代表メンバーである“がか座β”は“けんびきょう座AU”より大きく温度が高いA型恒星ですが、やはり“残骸円盤”を持っていて、惑星も2個(がか座β b、がか座β c)存在しています。

同じ年齢のはずの“けんびきょう座AU”と“がか座β”ですが、何故かそれぞれの惑星の性質はかなり違っているんですねー

“けんびきょう座AU b”の質量は海王星に近く、主星のすぐそばを回っています。
一方、“がか座β b”と“がか座β c”は“けんびきょう座AU b”より50倍以上重く、それぞれの公転周期は長く21年と33年…

そこで、研究チームが考えているのは、“けんびきょう座AU b”は主星から遠く離れた場所で作られ、現在の軌道まで移動してきたという説。

こうした惑星の軌道が移動する現象は、惑星がガス円盤や他の惑星と相互作用することで起こります。
一方、“がか座β b”の軌道はそれほど移動していないようです。

年齢がほぼ同じなのに両者でこのように違いがあることから、今回の研究では惑星の形成や移動について多くの手掛かりが得られると期待されています。


惑星の存在を検出して公転周期と質量を求める

実は、“けんびきょう座AU”のような恒星で惑星を検出するのは難しいことだったりします。

系外惑星の発見には“トランジット法”という手法が用いられます。
“トランジット法”では、地球から見て惑星が主星の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探ることになります。

ただ、“けんびきょう座AU”のようなタイプの星は強い磁場を持っていて、表面に多くの黒点があり強力なフレアをしばしば発生させています。
こうした黒点やフレアによって星の明るさが絶えず変わっていくことで、“トランジット法”による惑星の発見は難しくなってしまいます。

そこで、研究チームが考えたのは、詳細な解析を行うことで黒点やフレアの影響を観測データから取り除くこと。
これにより、惑星による減光だけを抽出することに成功しています。

ちょっとした問題は、惑星の公転周期を求める時にもありました。
それは、“TESS”がデータを地球に送信するため観測を中断しているときにやってきました。
ちょうどその時、3回のトランジットのうちの2回目の減光が始まってしまうんですねー

研究チームでは、“TESS”が観測できない時間を埋めるため“スピッツァー”の利用を思い立ちます。
“スピッツァー”による観測で、さらに2回のトランジットをとらえ、惑星の公転周期を確定できたわけです。

また、惑星の質量を求めるため“ドップラーシフト法”も使われています。

主星の周りを公転している惑星の重力で、主星が引っ張られると地球からわずかに遠ざかったり近づいたりします。
“ドップラーシフト法”では、この動きによる光の波長の変化“ゆらぎ”を読み取り惑星の質量を計測。
観測に用いられたのは、ハワイにあるケック天文台やNASAの3メートル赤外線望遠鏡“IRTF”、南米チリのヨーロッパ南天天文台といった地上の望遠鏡でした。

“TESS”の観測データからは、今回の惑星とは別のトランジット現象候補も見つかっています。
今年の後半には“TESS”の延長ミッションにより、もう一度“けんびきょう座AU”を観測することができます。
恒星の運動についても、“ドップラーシフト法”による観測が現在も続いているので、新しい発見が期待できますね。
NASAの“TESS”や“スピッツァー”により幼年期の恒星を回る惑星を発見。(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center)


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