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宇宙のはなしと、ときどきツーリング

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生まれてすぐに恒星に落ち込んでいくはず… 木星よりも大きなガス惑星が生き残る方法とは?

2020年04月17日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
木星やそれ以上に大きなガス惑星はどうやって形成されるのでしょうか?
惑星形成のシナリオを再現しようとすると、これまでの理論では生まれてすぐに恒星に落ち込んでしまうんですねー
でも、観測では木星よりも大きなガス惑星が見つかっているので、何か理由があるはずです。


木星よりも大きなガス惑星は恒星へ落ち込んでしまう

太陽系以外の恒星の周りを回る系外惑星が初めて見つかったのが1995年のこと。
それ以来4000個以上の系外惑星が発見されています。

ただ、質量も軌道の形も様々なこれら系外惑星の統計結果を、うまく説明できるような惑星の形成モデルを構築するのは容易ではありません。

とりわけ問題になっているのが、木星や土星のようにガスを主成分とし、その木星を上回るほどの質量を持つ巨大ガス惑星の存在です。

系外惑星は太陽系の惑星と同じように、恒星が誕生する際に周囲を取り巻くガスやチリからなる“原始惑星系円盤”の中で形成されると考えられています。

巨大ガス惑星だと“原始惑星系円盤”の中で、ガスを大量に集積することで作られたとされています。
でも、残された物質が抵抗になって巨大ガス惑星の回転を遅らせていくと、急速に恒星へ引きずり込まれることになります。

なので、木星よりも大きな質量のガス惑星は、最終的には恒星へ落ち込んでしまい生き残ることができない。っとされてきました。
ただ、これまでに木星よりも大きなガス惑星は見つかっているんですねー


巨大ガス惑星の生き残りはガス密度の低下にあった

この謎に迫るため、東北大学の研究チームは最新の数値流体計算に基づいて新たな理論モデルを構築。
これまで別々に研究されていたガスが集積する過程と惑星の落下を同時に計算すると、落下が抑制されることが分かってきます。

落下が抑制されるのは、ブレーキになるはずのガスが惑星に取り込まれることで、ガス密度が低下して抵抗が減るからでした。
惑星質量と惑星軌道半径の進化経路を表した図。実線は今回の研究結果、破線はこれまでの研究の一例。青点は観測された系外巨大ガス惑星、赤は土星を表す。これまでの研究の進化経路では、惑星は急速に落ち込んでいくので重い巨大惑星を作れないが、今回の研究の進化経路であればすべての系外惑星の形成が可能になる。(リリースより)
惑星質量と惑星軌道半径の進化経路を表した図。実線は今回の研究結果、破線はこれまでの研究の一例。青点は観測された系外巨大ガス惑星、赤は土星を表す。これまでの研究の進化経路では、惑星は急速に落ち込んでいくので重い巨大惑星を作れないが、今回の研究の進化経路であればすべての系外惑星の形成が可能になる。(リリースより)
このモデルでは、木星の10倍以上も重い系外巨大ガス惑星も中心星に落ち込むことなく形成ができていました。

巨大ガス惑星の最終的な質量は“原始惑星系円盤”の総質量で決まります。
この形成モデルは、観測されている様々な“原始惑星系円盤”の質量の分布から、これまで観測された巨大系外惑星の質量の分布を説明することにも成功しています。
今回の研究のモデルによる系外惑星を再現する“原始惑星系円盤”の質量分布と、観測された“原始惑星系円盤”の質量分布を比較したグラフ。恒星質量の0.01倍以上では両者の質量分布の形はよく一致していて、観測された“原始惑星系円盤”から系外巨大惑星を再現できることを示す。恒星質量の0.01倍以下の“原始惑星系円盤”では巨大惑星は形成されない。(リリースより)
今回の研究のモデルによる系外惑星を再現する“原始惑星系円盤”の質量分布と、観測された“原始惑星系円盤”の質量分布を比較したグラフ。恒星質量の0.01倍以上では両者の質量分布の形はよく一致していて、観測された“原始惑星系円盤”から系外巨大惑星を再現できることを示す。恒星質量の0.01倍以下の“原始惑星系円盤”では巨大惑星は形成されない。(リリースより)
今回の研究で対象になっていたのは、質量が地球の数百倍から数千倍もある巨大ガス惑星でした。

でも、理論モデルをさらに発展させることで岩石惑星にも対応できれば…
生命が居住できる条件を備えた地球型惑星の誕生を説明できるようになるかもしれませんね。


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太陽が二つあると惑星の形成環境や性質はどう変わるの? とりあえず惑星の軌道面は影響を受けるようですよ。

2020年04月13日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
私たちの住む太陽系には恒星は1つしかありませんが、意外なことに恒星の多くは2つ以上で一緒に生まれ、互いの周りを回る“連星”を形成しているんですねー
今回は、誕生したばかりの連星を取り巻くチリとガスの円盤“原始惑星系円盤”のお話し。
新たな性質が分かってきたようです。

恒星の多くは2つ以上で一緒に生まれている

過去20年余りにわたって数多く発見されてきた太陽以外の恒星を回る惑星“系外惑星”。

その中には、映画スターウォーズでルーク・スカイウォーカーの故郷として描かれた架空の惑星“タトゥイーン”のように、連星の周りを回るものあります。

私たちが住む太陽系には、恒星は太陽1つしかありません。
でも、意外なことに恒星の多くは2つ以上で一緒に生まれ、互いの周りを回る“連星”を形成しているんですねー
こうした惑星では、空を見上げると2つ以上の太陽が見えるはずです。
太陽が2つある惑星から見た光景(イメージ図)。(Credit: NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello)
太陽が2つある惑星から見た光景(イメージ図)。(Credit: NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello)

連星系の軌道面と“周惑星系円盤”の傾き

惑星は、一般的に若い恒星を取り巻くチリとガスの円盤“原始惑星系円盤”の中で作られます。
  原始惑星系円盤とは、誕生したばかりの恒星の周りに広がるガスやチリからなる円盤状の構造。恒星の形成や、円盤の中で誕生する惑星の研究対象とされている。

これまでに観測された“原始惑星系円盤”の多くは単独の恒星を取り巻くものでした。

一方、連星を取り巻く“原始惑星系円盤”は“周連星系円盤”といいます。
アルマ望遠鏡はこの“周連星系円盤”の観測も行ってきました。

2つ以上の恒星が存在するという多様な環境で、惑星はどのように形成されるのか?
このことを理解するのに“周連星系円盤”を観測することは重要なことだからです。

これまでの観測から見つかっているのは、波打つようにゆがんだ“周連星系円盤”や連星の軌道面に対して傾いた“周連星系円盤”など。
極端な場合では、連星の軌道と“周連星系円盤”が、ほぼ直角に交わっているものも発見されています。

この“周連星系円盤”の典型的な特徴を知るため、研究を行っているのがカリフォルニア大学バークレー校のチームがです。
研究では、アルマ望遠鏡が観測した19個の“周連星系円盤”のデータを活用し、連星の軌道と“周連星系円盤”の傾きについて分析しています。
  高い解像度を持つアルマ望遠鏡は、これまで観測された中で最も小さく暗い“周惑星系円盤”を観測するのに適している。

その結果、連星系の軌道周期が短い、つまり恒星同士が近づいているものほど、連星系の軌道と“周連星系円盤”の向きがよく一致していることが分かります。

逆に、軌道周期が長い連星系(恒星間の間隔が大きな連星系)では、“周連星系円盤”は連星系の軌道面から大きく傾いていました。
アルマ望遠鏡で観測された“周連星系円盤”の例。観測画像の左下は連星の軌道を示している。(左)コップ座の“HD 98800 B”と呼ばれる連星系(軌道周期は315日)。中央にある連星系の軌道面と円盤面が一致していない。(右)“さそり座AK星”と呼ばれる連星系(軌道周期は13.6日)。連星系の軌道面と円盤の傾きが一致している。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), I. Czekala and G. Kennedy; NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello)
アルマ望遠鏡で観測された“周連星系円盤”の例。観測画像の左下は連星の軌道を示している。(左)コップ座の“HD 98800 B”と呼ばれる連星系(軌道周期は315日)。中央にある連星系の軌道面と円盤面が一致していない。(右)“さそり座AK星”と呼ばれる連星系(軌道周期は13.6日)。連星系の軌道面と円盤の傾きが一致している。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), I. Czekala and G. Kennedy; NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello)

連星を回る惑星の軌道面との比較

さらに、研究チームでは、この結果をNASAの系外惑星探査衛星“ケプラー”の観測と比較しています。

“ケプラー”は連星系を回る惑星も発見しています。
でも、定常観測期間が4年間に限られていたので、軌道周期が40日以内の小さな連星系ばかり…
ただ、発見した連星系の系外惑星は、すべて軌道面が連星系と一致していました。
  “ケプラー”は地球から見て系外惑星が主星の手前を通過するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探る。連星系が大きい場合、その周りを回る惑星の軌道周期も長くなり、観測期間中に惑星の兆候をとらえるのが難しくなる。

そう、軌道周期が短い連星系を回る“周連星系円盤”と“ケプラー”によって連星系の周りに発見された惑星の性質がよく一致していたんですねー
この一致により、“ケプラー”が見逃してしまうような大きく軌道の傾いた惑星は、さほど多くはないと研究チームは考えています。

今回の研究から分かってきたのは、間隔の大きな連星系には、軌道の大きく傾いた惑星が存在しうること。
このような惑星は、直接撮像や重力レンズ効果を使った方法などによって発見が期待できそうです。
  重力レンズ効果とは、恒星や銀河などが発する光が、途中にある天体などの重力がレンズのような役割を果たすことで、曲げられたり、その結果として複数の経路を通過することにより、恒星や銀河が発した光の像が複数に見える現象。

研究チームが考えているのは、小さな連星系において連星系の軌道面と“周連星系円盤”の傾きが一致している理由。
それには、アルマ望遠鏡や現在構想中の次世代電波望遠鏡“ngVLA”による詳細な観測が必要なようです。

円盤の構造をこれまでにないほど詳しく調べることができれば、円盤のねじれや傾きが、惑星の形成環境にどのような影響を及ぼすのか? その中で作られる惑星の性質にどう影響するのか? が明らかになってくるはずです。


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理論上は太陽の8倍以上に成長できないはず… 太陽の何十倍もある大質量星が数多く存在するのはなぜ?

2020年02月22日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
これまでの理論では、星は太陽の8倍以上の質量には成長できないことになっています。
でも、宇宙には太陽の何十倍もの質量をもった大質量星が数多く存在しているんですねー

今回の研究で分かってきたのは、間欠的な降着によって原始星が大量の物質を獲得するということ。
質量の大きい原始星の観測では、星への爆発的な物質降着によって発生した“熱の波”が発見されたそうです。


周囲からガスが一気に原始星に落ち込む現象

生まれたばかりの星“原始星”の周りには大量のガスやチリが存在し、それらは原始星の重力にひかれて落下していきます。

恒星の形成理論によると、原始星からの強い光に阻まれるため、星の質量は太陽の8倍以上には成長できないことが示されています。
  天体の光度がある値を超えると、光の圧力が重力を上回り、ガスが天体に落ちることができなくなる。

でも実際には、宇宙には太陽の何十倍もの質量を持つ大質量星が数多く存在しているんですねー
これまで、この恒星の形成理論と現実との不一致は天文学上の謎になっていました。

どうすれば、この不一致を解決できるのでしょうか?

解決案の一つとして、原始星が短時間の“爆発的な物質の降着(降着バースト)”を繰り返すことによって質量を増やすという説があります。

このモデルから考えられるのは、周囲からガスが一気に原始星に落ち込み、短時間に多くの質量を獲得できるということ。
また、“降着バースト”が起こるのは数百年から数千年に1回で、それ以外は穏やかな期間が続くとされています。

このように“降着バースト”は期間が短く、原始星は熱いガスやチリに覆われることになり、可視光線での観測が難しくなります。
そう、“降着バースト”を直接的にとらえることは困難なことなんですねー


“降着バースト”によって引き起こされた現象を発見

2019年1月のこと、へびつかい座の方向にある質量の大きな原始星“G358-MM1”で、“降着バースト”につながる兆候が発見されます。

これを受けて、国立天文台水沢VLBI観測所の研究チームは、南半球の電波望遠鏡ネットワーク“メーザー監視機構”を編成。
“降着バースト”を起こした原始星が出す熱によって生じる放射の細かい構造を調べることになります。

研究チームでは、数週間おきに“メーザー監視機構”によって得られた観測画像の比較を実施。
すると、“G358-MM1”の位置から外に向けて広がっていく“熱の波”を発見します。

そして、この波が“降着バースト”によって引き起こされたことを、NASAの航空機望遠鏡“SOFIA”を用いた観測により確認することができました。
(左)“熱の波”のイメージ図。“降着バースト”が引き起こした“熱の波”が外に向けて広がっていく様子を示している。(右)“メーザー監視機構”が取得したデータを用いて描いた電波画像。メタノール分子が出すメーザー輝線の環が、重い原始星(白い十字)の位置を中心に外向きに広がっていく“熱の波”の痕跡を示している。図中の色は、ガスが観測者から見て近づく(青)、もしくは遠ざかる方向(赤)の運動の速度を虹色の勾配で示している。
(左)“熱の波”のイメージ図。“降着バースト”が引き起こした“熱の波”が外に向けて広がっていく様子を示している。(右)“メーザー監視機構”が取得したデータを用いて描いた電波画像。メタノール分子が出すメーザー輝線の環が、重い原始星(白い十字)の位置を中心に外向きに広がっていく“熱の波”の痕跡を示している。図中の色は、ガスが観測者から見て近づく(青)、もしくは遠ざかる方向(赤)の運動の速度を虹色の勾配で示している。
今回の研究では、原始星への“降着バースト”が引き起こす現象が、初めて詳細にとらえられました。

このことは、間欠的な降着によって原始星が成長するという理論を支持する発見になります。
恒星の形成理論と現実とが一致し、天文学上の謎を解く1つの証拠を得ることになったんですねー

“メーザー監視機構”では、今後も質量の大きな原始星の性質や形成メカニズムについて、より詳しい研究を続けていくそうです。


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なぜデブリ円盤内にガスが存在しているのか? 若い惑星系に大量の炭素原子ガスを発見

2020年01月13日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
誕生から約4000万年の恒星の周囲を取り巻くガスとチリの円盤内。
ここに、大量の炭素原子ガスが検出されました。
これまでの理論では、惑星が形成されるとガスは散逸してなくなっているはず…
理論の再検討が必要なのかもしれません。


惑星系の形成

生まれたばかりの星(原始星)の周りには大量のガスやチリが存在し、それらは原始星の重力にひかれて落下していきます。

同時に、原始星の周りではガスとチリからなる円盤“原始惑星系円盤”が成長。
その円盤内でチリが合体を繰り返して惑星が作られていきます。
  原始惑星系円盤とは、誕生したばかりの恒星の周りに広がるガスやチリからなる円盤状の構造。
  恒星の形成や、円盤の中で誕生する惑星の研究対象とされている。


そして、最終的には円盤のガス成分が消失して、惑星系の形成が完了すると考えられています。

形成されたばかりの惑星系では、惑星形成過程で残ったチリや岩石同士の衝突でまり散らされたチリが円盤状に漂うことになります。

これはデブリ円盤と呼ばれ、惑星系の形成が最終段階に達したことを意味しています。


デブリ円盤内に発見されたガス

これまで、デブリ円盤にはガス成分は存在しないと考えられていました。
でも近年、デブリ円盤にガスが発見され始めているんですねー

例えば、地球から186光年の距離に位置する“くじら座49番星”では、2017年にデブリ円盤内に炭素原子ガスが世界で初めて検出されています。

ただ、“くじら座49番星”の年齢の見積もりは約4000万歳。
これは標準的な惑星形成論ではすでに惑星形成が完了してガスが散逸している段階に当たります。

この謎を解くため、アルマ望遠鏡を用いた観測を進めているのが国立天文台の研究チームです。
“くじら座49番星”のデブリ円盤内のガスの分布や量を調査して、ガスが残存している原因やその起源についての研究を行っています。

その結果明らかになったのは、デブリ円盤内で最も豊富に存在する分子である一酸化炭素よりも、炭素原子の方が広く分布していること。
さらに、炭素原子の希少同位体である13Cのサブミリ波輝線も世界で初めて検出しています。


電波強度からデブリ円盤内のガス密度を計算してみると…

13Cは通常の12Cの1%程度しかなく、13Cの輝線はこれまでどんな天体からも観測されたことがありませんでした。
なので、デブリ円盤のような、ガスが少ないと考えられている環境で検出されたことは大変な驚きだったんですねー
○○○
くじら座49番星のデブリ円盤の疑似カラー画像。
(青)炭素原子ガス、(緑)一酸化炭素分子ガス、(赤)チリの分布を表している。
左は合成画像、右は成分ごとの画像。
13Cからの電波の検出が示唆しているのは、通常の12Cがこれまでの推測よりも大量に円盤内に存在すること。
一般的な環境では、豊富にある12Cが放つ電波は、希少な13Cが放つ電波より100倍以上強いはず。

でも、今回12Cの電波強度は13Cの電波強度より12倍強い程度にとどまっていました。

このことは何を示しているのでしょうか?
それは、デブリ円盤内に12Cが大量にあり、12Cが放つ電波の一部が12C自身によって吸収されていることです。

つまり、12Cの電波強度から求められていた従来のガスの質量は、実際よりも少ない値になっていたことになります。

はじめは12Cによる吸収がないと仮定して電波強度からデブリ円盤のガス密度などを計算しようとしていました。
でも、この方法だと、どうしても観測結果と合致しないんですねー

電波を吸収するほど12Cが大量に存在しているというのは、全く予想外なことでした。


なぜデブリ円盤内にガスが存在しているのか

計算の結果、“くじら座49番星”のデブリ円盤に含まれる炭素原子ガスは、これまで考えられていた量の10倍以上存在することが明らかになります。

これは、より若い星の周りで盛んに惑星形成が進んでいる段階の“原始惑星系円盤”のガスの量に匹敵するものでした。

それでは、なぜデブリ円盤内にガスが存在しているのでしょうか?

考えられている説は2つ。
惑星系のもとになったガスが残存しているという“残存説”と、原始惑星系円盤のガスが一度消失した後にチリや微惑星の衝突によってガスが新たに供給されているという“供給説”です。

今回の観測結果を“残存説”で説明しようとすると、若い原始惑星系円盤から十分に進化したデブリ円盤でも長時間散逸せずにガスが残っていることになります。
でも、これを実現するシナリオはまだ提唱されていません。

一方、“供給説”だとしても、デブリ円盤に含まれるチリからこれほど大量のガスが供給できるメカニズムは知られていません。

いずれにせよ、今回の研究成果が示しているのは、原始惑星系円盤内で惑星が形成されるとガス成分はすぐに散逸してしまう っという従来の理論モデルを大きく覆すものになります。

ガスが長期にわたって存在できるのであれば、木星のような巨大惑星が作られやすい環境が持続する可能性も出てきます。
そうなれば、惑星形成過程全体の理論研究に大きな一石を投じることになりますね。
○○○
くじら座49番星のデブリ円盤(イメージ図)。
星を取り巻くチリ円盤があり、その周りを大量のガスが取り囲んでいる。


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2019年12月28日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
若い星を取り巻く原始惑星系円盤の中で、ガスが滝のように隙間に流れ込んでいる様子が初めて三次元的にとらえられました。
ガスの流れはどのようにしてできるのでしょうか?
若い星を回る形成中の惑星が、円盤内でガスやチリを押しのけて隙間を開けたことによって作られた可能性が高いようです。


原始惑星系円盤内の隙間はどうやって作られる

惑星は若い恒星(原始星)を取り巻くガスやチリでできた原始惑星系円盤の中で誕生します。

アルマ望遠鏡などによる観測では円盤内の隙間などがとらえられていて、こうした構造は惑星によって作られている可能性が高いと考えられています。

では、円盤内の隙間や惑星はどうやって作られるのでしょうか?
これを理解するためには、原始惑星系円盤の質量の99%を占めるガスの研究が不可欠になります。

アルマ望遠鏡によって昨年行われた観測で測定されたのは、いて座の若い恒星“HD 163296”の周りの円盤内で公転する一酸化炭素ガスの速度。
この観測データから、円盤内に惑星のような構造が3つ存在することが明らかにされています。

さらに、ミシガン大学の研究チームは、このデータを利用してガスの速度を詳しく調査。
そして、1方向だけでなく3方向のガスの流れを測定することに成功しています。


隙間は惑星がガスやチリを押しのけることで作られる

多方向のガスの動きが測定されたのは初めてのこと。
円盤内のガスは星の周りを回転したり、星に近づいたり遠ざかったり、円盤内を上下に移動したりしていました。

そして研究チームが発見したのは、円盤内の異なる3か所で上層から中層に向かって移動するガスの流れ。
この現象から、若い“HD 163296”を回る惑星が、円盤内でガスやチリを押しのけて隙間を開けている可能性が高いとみることができます。

原始惑星系円盤の表層から中層に向かうガスの流れが存在することは、1990年代後半から予測されていたことでした。
でも、実際に観測されたのは今回が初めてだったんですねー

隙間の上層にあるガスが滝のように流れ込み、円盤内でガスの回転流を引き起こしているようでした。
○○○
(左)原始惑星系円盤の3か所で測定したことをっ示すイメージ図。
(右)惑星がガスやチリを押しのけて隙間を開ける様子(イメージ図)。
矢印はガスの流れを表している。


隙間に流れ込むガスが惑星の大気を形成する

もちろん、他の可能性も排除できません。
でも、今回とらえられたガスの流れのパターンは独特であり、惑星だけがこの現象を引き起こす可能性が非常に高いと言えます。

今回の研究で予測された3つの惑星の位置は、昨年の観測・研究結果に対応していて、位置は中心星の“HD 163296”からそれぞれ約130億キロ(太陽~海王星の約2.9倍)、約210億キロ(同約4.6倍)、約355億キロ(同約7.9倍)とみられています。

また、惑星の質量は、中心星に最も近いものが木星の半分で、中央の惑星が木星と同等、いちばん外側が木星の2倍と想定されています。

今回とらえられたようなガスの流れは、生まれたばかりの惑星を検出するのに役立つだけでなく、巨大なガス惑星がどのようにして大気を獲得するのかについての理解にもつながっていきます。

惑星は円盤の中層、星の放射から保護された寒い場所で形成されます。
なので、惑星によって引き起こされる隙間は、化学的に活性な円盤の表層からより温かいガスをもたらし、このガスが惑星の大気を形成すると考えることができるんですねー

ガスの流れを特徴づけることにより、どのようにして木星のような惑星が生まれるかの理解が進めば、惑星誕生時の化学組成を明らかにすることもできます。

惑星は形成過程を通じて移動しているので、惑星誕生の場所を追跡するためにガスの流れを利用することができるのかもしれませんね。
○○○
ガスが滝のように原始惑星系円盤の隙間に流れ込んでいる(イメージ図)。


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