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生命の誕生には複雑な有機分子が不可欠! ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が原始星の周りで複雑な有機分子を初観測

2023年01月22日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
今回の研究では、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を用いて、おおかみ座にある太陽型原始星“IRAS15398-3359”を中間赤外線で観測。
原始星周辺のチリに付着した氷の化学組成を調べています。
 今回の研究を進めているのは、理化学研究所 開拓研究本部 坂井星・惑星形成研究室のヤン・ヤオルン研究員、坂井 南美主任研究員らの国際共同研究グループです。
これまでよりも圧倒的に高い感度で得られた吸収スペクトルから検出されたのは、水や二酸化炭素、メタンなどの単純な分子の他に、ホルムアルデヒドやメタノール、ギ酸などの有機分子でした。

また、エタノール、アセトアルデヒドといった複雑な有機分子についても、モデル構築による確認が必要なものの、氷に含まれている可能性があることが分かっています。

これらの有機分子は、最終的には原始惑星系円盤に取り込まれる可能性があるようです。
原始惑星系円盤は数千万年程度をかけて、ゆっくりと惑星系へ進化していくので、原始星を取り巻くガスやチリの化学組成は、将来の惑星系の化学組成の起源になるはず。
星の誕生から太陽系のような惑星系に至るまでの化学進化の特徴を明らかにできそうですね。
 原始惑星系円盤とは、誕生したばかりの原始星の周りに広がる、水素を主成分とするガスやチリからなる円盤状の構造。この円盤からガスやチリが降着するとともに、円盤に垂直な方向へジェットが放出される。
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(Background image credit:Gabriel Rodrigues Santos)と原始星周囲の氷による赤外線吸収スペクトル(Credit: 理化学研究所)
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(Background image credit:Gabriel Rodrigues Santos)と原始星周囲の氷による赤外線吸収スペクトル(Credit: 理化学研究所)

複雑な有機分子は、どこで、どのように作られたのか

私たちはどこから来たのか?
この質問は単純ですが、宇宙物理学者にとっては最も難しい質問の一つになります。

地球上で生命が誕生するのに不可欠なのが複雑な有機分子です。
でも、複雑な有機分子は、どこで、どのように作られたのでしょうか?

星間化学分野では、メタノールなどの有機分子が宇宙空間でどのように作られ、どのような化学反応を起こして、複雑な有機分子へと進化していくのかを調べています。

この20年間に、生まれたての星“原始星”や太陽系で最も古い物質を含むと考えられている彗星から、地球で知られている有機分子と同様の分子が検出されるようになりました。

それらの有機分子は、星が誕生する場所である分子雲に含まれるチリの粒の表面で、水分子(氷)とともに作られたと考えられています。
 星間空間に撒き散らされた原子やチリが集まって雲のようになった際、周囲からの紫外線(星間紫外線)が内部まで届かなくなると、紫外線によって分子が壊されなくなるので、原子から分子が作られ始める。そのような雲を“分子雲”と呼ぶ。数光年~数十光年と様々な大きさのものがある。分子雲の中で、自己重力でガスやチリが集まってできた高密度な場所を、分子雲コアと呼び、暗黒星雲“B228”もその一つになる。
このチリの粒の周りに凍り付いた有機分子を特定するのに有効なのが赤外線分光法です。

原始星から赤外線が放射されると、その赤外線のエネルギーを得て、氷に含まれる有機分子が振動。
その結果、特定のエネルギー(波長)の赤外光が中間赤外線の波長領域で弱くなり、吸収線として観測されます。
 波長の違いによって、電磁波(光)は電波・赤外線・可視光・紫外線など異なる名称で呼ばれている。波長1~400μmのものを赤外線と呼び、この範囲で波長が短いもの(1~3μm)を近赤外線、長いもの(40~400μm)を遠赤外線と呼ぶ。中間赤外線は、近赤外線と遠赤外線の中間に相当する波長(3~40μm)の赤外線の総称。赤外線のうち、地球大気に吸収されずに地上まで届くのはごく一部なので、観測は主に宇宙から行われる。
これを理論計算や実験などで得られているデータと比較することで、この赤外光の吸収の原因となる氷を特定し、氷に含まれる分子の組成を調べることができます。

中間赤外線の分光観測研究は、日本の赤外線天文衛星“あかり”注1やアメリカの赤外線天文衛星“スピッツァー”注2によって先駆的に進められました。

実際、原始星周囲からは、氷(H2O)や二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)などの単純な分子が見つかっています。
でも、有機分子を観測するには、これらの赤外線天文衛星では感度が十分ではなかったんですねー

一方、赤外線分光観測の感度が100倍に向上したジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が2021年12月に打ち上げられ、2022年7月に科学運用が始まっています。
これで、ようやく氷に含まれる様々な有機分子の観測が可能になりました。

また、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡はチリ表面の氷だけでなく、一部のガス状の分子も十分な空間分解能で観測することが出来ました。
 ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、NASAが中心になって開発した口径6.5メートルの赤外線観測用宇宙望遠鏡。ハッブル宇宙望遠鏡の後継機として、2021年12月25日に打ち上げられ、ヨーロッパ宇宙機関と共同で運用されている。名称はNASAの第2代長官ジェームズ・E・ウェッブにちなんで命名された。

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を用いた中間赤外線分光観測

今回の研究では、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を用いた中間赤外線分光観測により、太陽型原始星“IRAS15398-3359”の周りに存在する様々な分子を含む氷を調べています。
 太陽型原始星は、将来、太陽と同程度の質量の星に進化する若い星を指す。分子雲の中で、ガスやチリが自己重力によって収縮することで誕生する。
“IRAS15398-3359”は、おおかみ座の方向約500光年の彼方に位置する暗黒星雲“B228”で形成途中の若い原始星です。(図1)
 暗黒星雲は分子雲の別名で、背後の星からの光を遮って真っ黒に見えるのでそう呼ばれている。
図1.おおかみ座にある暗黒星雲(Background image credit:Gabriel Rodrigues Santos)青線で囲んだ場所が“B228”と呼ばれる場所で、今回の観測対象となった若い原始星“IRAS15398-3359”はここで誕生している。(Credit: 理化学研究所)
図1.おおかみ座にある暗黒星雲(Background image credit:Gabriel Rodrigues Santos)
青線で囲んだ場所が“B228”と呼ばれる場所で、今回の観測対象となった若い原始星“IRAS15398-3359”はここで誕生している。(Credit: 理化学研究所)
観測では、中間赤外線観測装置の中分解能分光(MRS)モードを用いて、波長5~28マイクロメートル(μm、1μmは100万分の1メートル)の赤外線吸収スペクトルを取得。
得られたスペクトルには、水、二酸化炭素、メタンといった単純な分子の他に、これまでの観測では確定できていなかったホルムアルデヒド(H2CO、波長6.7μm)、メタノール(CH3OH、波長9.74μm)、ギ酸(HCOOH、7.24μm)などの有機分子による吸収がはっきりと見られました。(図2)

また、他の分子による吸収線と混合しているものの、エタノール(C2H5OH)、アセトアルデヒド(CH3CHO)など、より複雑な有機分子による吸収の影響を受けていると思われるスペクトルも得られています。(図2上の枠内)
図2.観測された赤外線吸収スペクトル<br><br><br><br><br><br>
上:今回ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で観測された赤外線吸収スペクトル。メタノール(CH3OH)のはっきりとした吸収が見られる。左上の枠内には、ホルムアルデヒド(H2CO)、ギ酸(HCOOH)といった様々な有機分子の吸収が見られる。エタノール(C2H5OH)、アセトアルデヒド(CH3CHO)などの、より複雑な有機分子による吸収の影響を受けていると思われるスペクトルも検出されている(*は他の分子による吸収と混合しているため暫定検出)。<br><br><br><br><br><br>
下:過去に赤外線天文衛星“スピッツァー”で観測された赤外線吸収スペクトル(オレンジ)と今回ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で観測されたスペクトル(青)の比較。左は図2上の5~8μmの波長域における比較、中は波長分解能の違い、右は空間分解能の違いに起因する吸収強度の違いを表している。(Credit: 理化学研究所)
図2.観測された赤外線吸収スペクトル
上:今回ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で観測された赤外線吸収スペクトル。メタノール(CH3OH)のはっきりとした吸収が見られる。左上の枠内には、ホルムアルデヒド(H2CO)、ギ酸(HCOOH)といった様々な有機分子の吸収が見られる。エタノール(C2H5OH)、アセトアルデヒド(CH3CHO)などの、より複雑な有機分子による吸収の影響を受けていると思われるスペクトルも検出されている(*は他の分子による吸収と混合しているため暫定検出)。
下:過去に赤外線天文衛星“スピッツァー”で観測された赤外線吸収スペクトル(オレンジ)と今回ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で観測されたスペクトル(青)の比較。左は図2上の5~8μmの波長域における比較、中は波長分解能の違い、右は空間分解能の違いに起因する吸収強度の違いを表している。(Credit: 理化学研究所)
さらに、水素(H2)、一酸化炭素(CO)、電離したネオン(Ne)や鉄(Fe)原子などについては、吸収ではなく発光のスペクトルも検出されました。
このことは、原始星周辺の温度や衝撃波領域の有無、原始星から放出された物質と周囲のガスとの相互作用などを調べられることを意味しています。

実際、この相互作用が起こっている領域の中間赤外線画像が偶然観測視野に入っていたため、原始星から噴き出したジェットによって作られた殻状の痕跡を発見することもできました。(図3)

この痕跡は、これまでの赤外線観測では、ぼやけて形が全く分からなかったもの。
観測では、明らかに殻状になっている様子が初めてとらえられ、原始星から放出されたガスによる衝撃の様子が明らかになっています。
図3.原始星“IRAS15398-3359”から噴き出したジェットによって作られた殻状構造左から順に、5.6μm、7.7μm、10μmの波長での中間赤外線画像。赤の×で示した原始星から右下に向かって3つの殻のような構造が検出されているのが分かる。一番右は、過去に赤外線天文衛星“スピッツァー”で観測された5.8μmの波長での赤外線画像。(Credit: 理化学研究所)
図3.原始星“IRAS15398-3359”から噴き出したジェットによって作られた殻状構造
左から順に、5.6μm、7.7μm、10μmの波長での中間赤外線画像。赤の×で示した原始星から右下に向かって3つの殻のような構造が検出されているのが分かる。一番右は、過去に赤外線天文衛星“スピッツァー”で観測された5.8μmの波長での赤外線画像。(Credit: 理化学研究所)

原始星ごとの化学組成の違いの原因を解明

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の登場は、赤外線の感度を100倍向上させ、原始星周りの氷の科学の探求に革命を起こしたといえます。

今後、詳細なモデルやガス中に含まれる類似分子との比較研究などが進めば、日本の小惑星探査機“はやぶさ2”注3で検出されている太陽系始原物質に含まれる複雑な有機分子の起源との関連についても解明が進むとものと期待できます。

今回の観測は、氷の化学的特徴の詳細を明らかにした一方で、氷の存在量を導き出すことが非常に複雑であることも示しています。

今後、研究グループでは、実験室での測定と数値モデルを用いて、検出されたスペクトルの特徴をモデル化することで、氷の存在量を推定したいと考えています。

今回の観測は、ヤン研究員が率いるジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の第1サイクル観測プログラムのひとつ。
得られたデータは、総計25時間で4つの原始星にある氷の特徴を観測して比較する計画の一部として活用されます。
そして、2023年の春には、他の3つの若い原始星の観測も予定されています。

今回観測した原始星“IRAS15398-3359”を取り巻くガスには、チリに付着した氷から蒸発したメタンにより生成されたと考えられる不飽和有機分子(炭素間に二重結合や三重結合を持つ分子)が他の天体に比べて多く存在していることが知られています。

4つの原始星の観測結果が揃えば、ガスの化学組成とチリ表面の氷の化学組成の関係を丁寧に比較できるようになり、原始星ごとの化学組成の違いの原因も解明できるかもしれません。

さらに、氷とガス、それぞれに含まれる原子の関係を調べていけば、星の誕生から太陽系のような惑星系に至るまでの化学進化の特徴を明らかにできるはずです。

注1:赤外線天文衛星“あかり”
 “あかり”は、JAXAの宇宙科学研究本部が開発した赤外線天文衛星(別名IRIS)。2006年2月22日にM-Vロケット8号機によって打ち上げられた日本初の赤外線天文衛星。赤外線専用の望遠鏡と2種類の観測装置を搭載し、波長1.7μメートルの近赤外線から180μメートルの遠赤外線まで、幅広い波長域の赤外線を高い感度で観測できる唯一の天文衛星だった。目標寿命の3年を超えて運用されていたが、2011年11月24日に停波され運用を終えている。約130万天体に及ぶ“赤外線天体カタログ”の作成や原始星周りの氷を観測しただけでなく、太陽系内の小惑星に水を発見するなどの成果がある。

注2:赤外線天文衛星“スピッツァー”
 “スピッツァー”は、“ハッブル宇宙望遠鏡”や“X線天文衛星“チャンドラ”、“コンプトンガンマ線観測衛星”と共に、様々な波長の電磁波で宇宙を観測する衛星群“グレート・オブザーバトリーズ”の1機として、NASAが2003年8月に打ち上げた赤外線天文衛星。広い波長範囲や高い感度で赤外線を観測し、暗黒星雲に埋もれた多くの原始星を発見してきたが、2020年1月31日に機体はセーフモードに移行、すべての科学運用を終了している。“スピッツァー”が投入されたのは、地球から距離を置いて、追いかけるような位置関係で太陽を公転する軌道。これにより、地球から出る熱放射の影響を避けることができ、より口径の大きな地上望遠鏡を上回る感度を達成していた。

注3:小惑星探査機“はやぶさ2”
 JAXAが開発した小惑星探査機“はやぶさ2”は、世界で初めて小惑星イトカワのサンプルを採取した“はやぶさ”の後継機。2014年12月3日に種子島宇宙センターからH-IIAロケット26号機で打ち上げられた。2019年2月に地球近傍小惑星“リュウグウ”へ2回タッチダウン(接地)し、“リュウグウ”の表面部室と、弾丸の発射による表層物質をそれぞれ採取することに成功している。2020年12月に地球に帰還し、5g以上のサンプルを持ち帰った。


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惑星系の起源と進化を解き明かす新たな“指紋”になるかも!? アルマ望遠鏡がとらえた物質組成の大きな変化

2022年09月04日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
総合研究大学院大学と国立天文台の研究チームは、アルマ望遠鏡で取得されたデータを元に、惑星誕生の現場で物質組成が大きく変化していることを明らかにしたんですねー

新たに開発した手法を用いた研究チームは、“うみへび座TW星”周りの原始惑星系円盤の一酸化炭素同位体比の測定に成功。
その結果、分かってきたのが一酸化炭素同位体比が場所によって大きく変化していることでした。

一酸化炭素同位体比は、物質のルーツを探る“指紋”としての活用が模索されています。

この“指紋”を照合することによって、
太陽系や太陽系外惑星の物質がどこでどのように作られたのか?
あるいは、どこから運ばれてきたのか?
そのルーツが解き明かされることが期待されます。

太陽系の惑星や小惑星、彗星などを刑する物質はどこで作られてのか

私たちが住む太陽系は、約46億年前に若い太陽を取り巻くガスとチリの雲“原始惑星系円盤”の中で生まれたと考えられています。
原始惑星系円盤とは、誕生したばかりの恒星の周りに広がるガスやチリからなる円盤状の構造。恒星の形成や、円盤の中で誕生する惑星の研究対象とされている。
その大まかなプロセスは分かってきています。
でも、現在の太陽系の惑星や小惑星、彗星などを形作る物質が“原始惑星系円盤”のどこで作られ、どのように運ばれてきたのかについては謎が多く残されているんですねー

太陽系の物質が“原始惑星系円盤”のどこで作られたのかは、同位体組成を比較すれば分かる

太陽系形成という“事件”を物質的な側面から解明するための“指紋”となるのが同位体の組成です。
同位体とは質量が異なる同一の元素。
たとえば、地球の水に含まれる重水素(水素の同位体)の割合は、宇宙全体の平均値よりも高くなっていることが知られています。

一方で、星が生まれる現場である分子雲に含まれる氷でも、重水素の割合は高くなっています。

この2つの“指紋”を照合することで、地球の水の一部は太陽が生まれた分子雲で作られた氷に由来する っと推測することができます。

これまでに、惑星系が今まさに誕生している現場である“原始惑星系円盤”という天体が数多く見つかっています。

このような“原始惑星系円盤”は、太陽系の惑星が生まれた当時の“原始太陽系円盤”とよく似ていると考えられています。

なので、“原始惑星系円盤”と太陽系の物質の同位体組成を比較すれば、太陽系の物質が“原始太陽系円盤”のどこで、どのように作られたかということが分かるかもしれません。

希少な同位体と豊富な同位体の量を正しく同時に測定する手法

太陽系の物質の同位体組成は、隕石や“はやぶさ”などの探査機により得られる小惑星や彗星のサンプルなどの分析により明らかになっています。

でも、“原始惑星系円盤”の分子ガス同位体組成の測定は、これまで一部の分子を除き難しかったんですねー

これは、希少な同位体と豊富な同位体の量を正しく同時に測定することができなかったためです。

今回の研究では、同位体を含む分子の電波スペクトルの今まで着目されてこなかった一部分を使って、“原始惑星系円盤”の同位体組成を測定する新たな手法を開発。

さらに、その手法をアルマ望遠鏡による観測データに適用して、“うみへび座TW星”周囲の“原始惑星系円盤”で、一酸化炭素分子の同位体“13CO”の“12CO”に対する割合を求めています。

その結果、円盤内側では“13CO”の割合が高く、それに対して外側では4分の1以下になっていることが明らかになりました。

研究成果をもとに作成した“うみへび座TW星”周辺の原始惑星系円盤の炭素同位体比のイメージ図。円盤内部の方が“12CO”に対する“13CO”の割合が高い。
研究成果をもとに作成した“うみへび座TW星”周辺の原始惑星系円盤の炭素同位体比のイメージ図。円盤内部の方が“12CO”に対する“13CO”の割合が高い。(Credit: NAOJ)
今回解析した天体は、“原始惑星系円盤”の中では比較的年を取っているものです。

なので、“原始惑星系円盤”内の物質の進化が進んでいて、その結果として一酸化炭素同位体比も変化したのではないかと考えられています。

同位体比の変動は、どのような要因で起こっているのか

当初は、太陽系の多くの天体では“12C”と“13C”の割合(炭素同位体比)が概ね一致していることから、“原始惑星系円盤”の“13CO”の“12CO”に対する割合も均一であると予想されていました。

そう、今回の予想外の結果が示しているのは、炭素同位体比も水素同位体比のように物質のルーツを探るのに役立つ“指紋”となりうる っということなんですねー

実際、隕石中の一部の物質では、炭素同位体比が宇宙全体の平均値から外れていることが分かっています。

また、最近の太陽系外惑星の大気の観測からは、ある惑星では“13CO”の割合が高く、また別の惑星では“13CO”割合が少ない、という結果も得られています。

このような“指紋”を照合することで、太陽系や太陽系外惑星の物質のルーツを解き明かすことができるかもしれません。

研究チームが考えているのは、今後これらの同位体比の変動がどのような要因で起こっているかを明らかにすること。

さらに、より多くの“原始惑星系円盤”や太陽系外惑星、隕石などの物質の分析を組み合わせることで、太陽系や太陽系外惑星系の物質的起源を探るようですよ。


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星のゆりかご降着円盤は巨大な赤ちゃん星の成長にも関わっていた

2022年07月09日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
今回の研究で中国科学院上海天文台の国際研究チームが見つけたもの。
それは、銀河系中心部に太陽の32倍の質量を持つ赤ちゃん星“原始星”を取り巻く降着円盤でした。

これほど巨大な原始星の周りに降着円盤が観測されるのは珍しいことなんですねー

さらに分かってきたのは、この降着円盤には2本の渦巻き腕が見られること。
渦巻腕は、1万年以上前に別の天体が接近・通過した影響によって形成されたと考えられています。

これまでよく分かっていなかった重い星の形成にも、軽い星と同様に降着円盤を介した成長過程が関係していること。
この可能性があることを今回の発見は示しているようです。

大質量星はどのような過程を経て形成されるのか

太陽のような軽い星は、星の材料になる分子ガスの塊の中に円盤が形成され、その円盤を通して周囲のガスが中心へと降り積もり形成されることが知られています。

赤ちゃん星“原始星”を取り巻く降着円盤は“原始惑星系円盤”とも呼ばれ、星のゆりかごのような存在なんですねー
原始惑星系円盤とは、誕生したばかりの恒星の周りに広がるガスやチリからなる円盤状の構造。恒星の形成や、円盤の中で誕生する惑星の研究対象とされている。

一方、太陽質量を大きく超える重い星“大質量星”、特に進化が速いO形原始星はどのように形成されるのでしょうか。
軽い星と同じ過程で形成されるのか、それとも別の過程を経て形成されるのでしょうか。
このことについては、まだよく分かっていませんでした。

銀河中心部での星の形成過程

地球から約26,000光年の距離にある銀河系中心部には、水素分子を中心とした高密度な分子ガスが大量に分布している“銀河中心分子雲帯”と呼ばれる領域があります。

この領域は、これまでの研究では星の誕生には適さない環境だと考えられていました。
でも、近年の観測により原始星の存在が確認され、星の形成領域としても注目されていました。

ただ、この領域を観測することは容易なことではないんですねー

その理由は、銀河系中心部では星の形成過程を調べる対象としては地球から遠い位置にあること。
さらに、銀河中心と地球の間に分布する星間物質が邪魔をしてしまい、星が形成される様子を詳細に調査することが困難だからでした。

銀河系中心部にある原始惑星系円盤を電波で直接とらえる

そこで、中国科学院上海天文台を中心とする国際研究チームが用いたのはアルマ望遠鏡でした。
南米チリのアタカマ砂漠(標高5000メートル)に建設されたのが、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array = ALMA:アルマ望遠鏡)。高精度パラボラアンテナを合計66台設置し、それら全体をひとつの電波望遠鏡としてミリ波・サブミリ波を観測することができる。

アルマ望遠鏡の長基線観測を用いて、40ミリ秒角の解像度で銀河中心分子雲帯の一部を観測しています。
この解像度を持ってすれば、東京から大阪にある野球ボールを簡単に見つけることができる。

そして、銀河系中心部に見つけたのが、太陽の32倍の質量を持つO形原始星を取り巻く降着円盤。
その直径は、約4,000auに達していました。
1天文単位auは太陽~地球間の平均距離、約1億5000万キロに相当。

これは降着円盤を持つことが分かっている最も重い原始星の1つ。
銀河系中心部にある原始惑星系円盤を電波で直接撮像した初めてのものでした。

さらに、興味深いのは、今回発見された降着円盤には2本の渦巻き碗が見られることでした。

原始惑星系円盤で渦巻き碗が検出されるのは珍しいことです。

研究チームが調査を続けて見つけたのは、降着円盤から約8000au離れた場所にある太陽質量の3倍程度の天体。
数値シミュレーションとの比較から示されたのは、1万年以上前にこの天体が降着円盤に接近・通過した際に、円盤を乱し渦巻き碗が形成された可能性でした。

そう、アルマ望遠鏡を用いて見つけた降着円盤の渦巻腕は、天体同士が近接した痕跡と考えられるんですねー

今回の発見により、これまでよく分かっていなかった重たい星の形成にも、降着円盤の存在が関係している可能性が示されました。

星の質量が違っても、その形成過程は同じである可能性が出てきたわけです。

アルマ望遠鏡による更なる高解像度観測によって、大質量星の形成の謎が解明されることが期待されますね。
赤ちゃん星を取り巻く降着円盤と接近・通過した天体の時間変化を迫った数値シミュレーション画像(a-c)。<br><br>左下から、接近時、それから4,000年後、8,000年後の様子。通過後、降着円盤に渦巻き腕が見られる。アルマ望遠鏡によって観測された渦巻き腕を持つ降着円盤とその周りにある2つの天体の電波画像(b)。天体同士が最も接近した時から約12,000年が経過していると推測される。
赤ちゃん星を取り巻く降着円盤と接近・通過した天体の時間変化を迫った数値シミュレーション画像(a-c)。左下から、接近時、それから4,000年後、8,000年後の様子。通過後、降着円盤に渦巻き腕が見られる。アルマ望遠鏡によって観測された渦巻き腕を持つ降着円盤とその周りにある2つの天体の電波画像(b)。天体同士が最も接近した時から約12,000年が経過していると推測される。(Credit: Lu et al.)



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アルマ望遠鏡の膨大なアーカイブデータを活用! すると連星系の軌道運動が分かってきた

2021年10月30日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
鹿児島大学の研究チームは、連星が互いの周りを回る軌道運動を検出することに成功しました。

この連星は若い双子の星“おうし座XZ星系”。
3年間にわたって観測したアルマ望遠鏡のアーカイブデータを解析することにより検出できたそうです。

アルマ望遠鏡の豊富なアーカイブデータを有効活用することで、若い連星の運動を動画として作成した初めてのものでした。

この結果が示していること、それは複数年にわたるアルマ望遠鏡の観測データを解析することで、天体の様々な時間変化を調べられること。
アルマ望遠鏡によるアニメーションを用いた新たな科学の開拓が期待できる成果なんですねー

連星系ではどのように原始惑星系円盤が形成されるのか

宇宙には2つの星が互いの周りを回っている双子の“連星”であふれています。

すでに、天の川銀河にある恒星の約半数は、2個以上の星が互いを回り合う“連星系”として生まれることが知られています。

これまでに見つかっている4000個以上の太陽系外惑星でも、2個以上の太陽を持つものはいくつも存在しています。

また、若い連星のそれぞれの星の周囲には、分子ガスとチリからなる“原始惑星系円盤”が存在し、この円盤が惑星形成の現場であることも分かっています。
“原始惑星系円盤”とは、誕生したばかりの恒星の周りに広がるガスやチリからなる円盤状の構造。恒星の形成や、円盤の中で誕生する惑星の研究対象とされている。

実際に連星に付随する惑星も多く検出されていますが、連星系でどのように円盤が形成され、その中で惑星がどうやって作られるのかは未だに謎に包まれているんですねー

それでは、連星における惑星形成を調べるにはどうすればよいのでしょうか?

それには、2つの星が互いの周りを回っている軌道運動を観測から正確に求め、個々の原始惑星系円盤の傾き、回転方向を比較することが重要になります。

もし、連星や原始惑星系円盤が、一つの大きな円盤が分裂することによって形成されるのであれば、連星の軌道と個々の円盤の面は同一平面上に存在するはずです。

一方、分子ガスが乱流によって分裂することで連星や原始惑星系円盤が形成されるのであれば、連星の軌道と個々の円盤は異なっていることが予想されます。

これは、最終的に出来上がる惑星の軌道面にも影響する大きな問題です。

連星系の軌道面と原始惑星系円盤面の傾き

そこで、今回の研究ではアルマ望遠鏡のアーカイブデータを活用。
地球からおよそ480光年彼方にある年齢が1000万年程度の若い連星“おうし座XZ星系”について調べています。

すると、個々の原始惑星系円盤が40度以上傾いていることが明らかになります。

さらに、2015、2016、2017年と1年おきに観測されたデータを解析した結果、連星が時計回りに運動していることを発見。
これは、連星の軌道運動を見ているものと考えられます。

3年間での軌道運動の大きさは3.4天文単位で、地球と太陽の間の距離の3.4倍に達していました。
1天文単位は太陽~地球間の平均距離、約1億5000万キロに相当。

さらに分かってきたのは、この連星系の軌道面は、個々の原始惑星系円盤の円盤面とも異なっていること。

つまり、連星を作る2つの星が持つ個々の円盤が互いに傾いているだけでなく、連星同士の軌道を含めすべてが異なる平面上にあることが明らかになったんですねー

これまでにアルマ望遠鏡による観測でも、若い連星の原始惑星系円盤が互いに傾いている例は発見されていました。

でも、連星の軌道運動を明らかにしたうえで、連星の軌道面とも異なる傾きを持っていることが分かったのは、今回が初めてのことでした。
アルマ望遠鏡のアーカイブデータをもとに作成した“おうし座XZ星系”の軌道運動。“おうし座XZ星A”(左下)の位置を固定し、“おうし座XZ星B”(右上)の位置の変化を表している。円盤から放射される電波の強度分布を、2015年はグレースケール、2016年は赤色の等高線、2017年は青色の等高線で表し、それぞれから求められた星の位置を十字印で示している。
アルマ望遠鏡のアーカイブデータをもとに作成した“おうし座XZ星系”の軌道運動。“おうし座XZ星A”(左下)の位置を固定し、“おうし座XZ星B”(右上)の位置の変化を表している。円盤から放射される電波の強度分布を、2015年はグレースケール、2016年は赤色の等高線、2017年は青色の等高線で表し、それぞれから求められた星の位置を十字印で示している。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T. Ichikawa et al.)

アルマ望遠鏡のアーカイブデータをもとに作成した“おうし座XZ星系”の軌道運動アニメーション。“おうし座XZ星A”(左下)の位置を固定し、“おうし座XZ星B”(右上)の位置の変化を表している。円盤から放射される電波の強度分布を、年ごとにグレースケールと等高線で表し、求められた星の位置を十字印で示している。
アルマ望遠鏡のアーカイブデータをもとに作成した“おうし座XZ星系”の軌道運動アニメーション。“おうし座XZ星A”(左下)の位置を固定し、“おうし座XZ星B”(右上)の位置の変化を表している。円盤から放射される電波の強度分布を、年ごとにグレースケールと等高線で表し、求められた星の位置を十字印で示している。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T. Ichikawa et al.)

今回の観測結果をもとに描いた“おうし座XZ星系”のイメージ図。連星系を成す2つの若い星の周りにそれぞれ原始惑星系円盤があり互いに傾いている。また、2つの若い星はいずれの円盤面とも異なる平面状を軌道運動している。
今回の観測結果をもとに描いた“おうし座XZ星系”のイメージ図。連星系を成す2つの若い星の周りにそれぞれ原始惑星系円盤があり互いに傾いている。また、2つの若い星はいずれの円盤面とも異なる平面状を軌道運動している。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO))
これらは、アルマ望遠鏡の高い解像度と豊富なアーカイブデータによって成し遂げられた成果です。

今回の研究で活用されたのは3年分の観測データでした。
今後、追加観測によってさらに観測点を増やし、より正確な軌道運動の検出が待たれます。

様々な天体現象の解明に応用可能な新たな研究手法

今回の研究が示しているのは、これまでの“天体画像”ではなく“天体アニメーション”を使った新たな研究手法の可能性でした。

高感度かつ高解像度を誇るアルマ望遠鏡の膨大なアーカイブデータをフル活用し、天体の運動の動画を作成すれば、それに基づいた研究ができることになります。

この研究手法は、連星の軌道運動のみならず、星から噴き出すジェットの運動や星の明るさの時間変化など、様々な天体物理学研究に応用可能です。

今後、この手法が様々な天体現象の解明の手助けになってくれるはずですよ。


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惑星がまさに作られつつある現場で分子がどのように分布しているのか? アルマ望遠鏡による惑星誕生現場の大規模観測

2021年09月23日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
今回、東京大学と国立天文台の国際研究チームが実施したのは、5つ若い星を取り巻く“原始惑星系円盤”を対象としたアルマ望遠鏡による大規模計画でした。
そして、惑星の形成現場において重水素を含む分子とイオン化率の分布を、これまでになく高解像度に描き出すことに成功したんですねー

特に重水素を含む分子は、地球に存在する水の起源を探るカギになる物質です。

なので、惑星が生まれる現場で重水素の分布を普遍的に明らかにすることは、太陽系の天体と太陽系外惑星の誕生過程を理解する上で欠かせないステップになるようです。

原始太陽を取り巻くガスとチリの円盤

様々な化学組成を持っている太陽系の天体たち。

なぜ、このような化学組成に違いが出ているのでしょうか?

天体は原始太陽を取り巻くガスとチリの円盤“原始惑星系円盤”の中で作られます。
原始惑星系円盤とは、誕生したばかりの恒星の周りに広がるガスやチリからなる円盤状の構造。恒星の形成や、円盤の中で誕生する惑星の研究対象とされている。

この“原始惑星系円盤”は場所によって化学組成や物理状態が異なっているんですねー
なので、それぞれの天体が作られた場所によって化学組成が違ってくるわけです。

このことから、“原始惑星系円盤”内での化学組成や物理状態を明らかにすることは、惑星形成の基礎になるわけです。

“原始惑星系円盤”内での分子の分布

“原始惑星系円盤”には多様な分子が含まれていて、それぞれの分子は特定の波長の電波を放出しています。

この電波の多くは数ミリメートル程度の波長を持ち、アルマ望遠鏡で観測することができます。
若い星を取り巻く“原始惑星系円盤”のイメージ図。この円盤内でガスとチリが集積して惑星が形成される。“MAPS”では、この円盤内における様々な分子の分布を明らかにしている。
若い星を取り巻く“原始惑星系円盤”のイメージ図。この円盤内でガスとチリが集積して惑星が形成される。“MAPS”では、この円盤内における様々な分子の分布を明らかにしている。(Credit: M.Weiss/Center for Astrophysics | Harvard & Smithsonian)

今回の研究で実施されたのは、アルマ望遠鏡を用いた大規模観測計画“MAPS”。
“原始惑星系円盤”に含まれる分子が放つ電波を高解像度にとらえることを目指しているんですねー
MAPSはMolecules with ALMA at Planet-forming Scales(アルマ望遠鏡による惑星形成スケールでの分子研究)。

この計画で目標とされていたのは、およそ20種の分子の“原始惑星系円盤”内での分布を約15天文単位の解像度で描き出すこと。
観測されたのは、5つの若い星(おおかみ座IM星、ぎょしゃ座GM星、AS 209、HD 163296、NWC 480)の周囲にある“原始惑星系円盤”でした。
1天文単位は太陽~地球間の平均距離、約1億5000万キロに相当し、太陽~海王星間の距離は約30天文単位。

アルマ望遠鏡で撮像した若い星“AS 209”と“HD 163296”の周囲の“原始惑星系円盤”。円盤内の分布が分子によって異なることが分かる。
アルマ望遠鏡で撮像した若い星“AS 209”と“HD 163296”の周囲の“原始惑星系円盤”。円盤内の分布が分子によって異なることが分かる。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Cataldi et al./Aikawa et al.)

アルマ望遠鏡を使うことで見ることができたのは、惑星がまさに作られつつある現場で分子がどのように分布しているのか。
なかでも、地球上の生命の起源にも関連する窒素有機化合物の分布を調べることが、今回のプロジェクトのワクワクするポイントだったそうです。

これまでにも、“原始惑星系円盤”内での分子の分布を調べる研究は行われてきました。

でも、これほどの高解像度・高感度で多様な分子の分布を明らかにするのは今回が初めてのこと。
“MAPS”では、HC3N、CH3CN、c-C3H2などの複雑な有機分子の“原始惑星系円盤”における分布も明らかにしています。
アルマ望遠鏡で観測した若い星“HD 163296”の周囲の“原始惑星系円盤”。この画像ではHCNの分布を淡い部分まで強調して表している。
アルマ望遠鏡で観測した若い星“HD 163296”の周囲の“原始惑星系円盤”。この画像ではHCNの分布を淡い部分まで強調して表している。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/D. Berry (NRAO), K. Öberg et al (MAPS))

さらに、“原始惑星系円盤”の内側の領域では想像していたよりも10倍から100倍も多くの大型有機分子が発見されています。

その科学的特徴は太陽系の彗星に似ています。
大型有機分子は、宇宙に豊富にある一酸化炭素などの単純な炭素含有分子と生命の素になるより複雑な分子の間をつなぐ存在として、とても重要になります。
“MAPS”の観測結果は20本の論文にまとめられアメリカの天体物理専門誌“アストロフィジカル・ジャーナル・サプリメント・シリーズ”のMAPS特集号として出版される。

惑星形成にも大きく影響を及ぼすイオン分子の分布

今回の研究では、“原始惑星系円盤”におけるイオン分子の分布も明らかになっています。

今回のHCO+分子の観測によると、“原始惑星系円盤”の半径100天文単位より外側のイオン化率は、中心星表面の磁気活動で生じたX線が円盤上空のガスを電離させていると考えると良く説明できました。
一方で半径100天文単位より内側のイオン化率は低くなっていました。

これは、“原始惑星系円盤”の内側ほどガスの密度が高くなっているためだと考えられます。

“原始惑星系円盤”のガス中にイオン分子が多いと、磁場の影響で円盤からガスが流れ出したり、円盤の回転の勢いが弱められてガスが中心星に向かって落下しやすくなったりと、円盤内での惑星形成にも大きな影響を及ぼすことになります。

今回、N2D+の観測からは、円盤の中心面付近のイオン化率は天体によって異なる可能性も示唆されていて、今後より多くの円盤の観測も待たれます。

高い感度と解像度を持つアルマ望遠鏡を使った“原始惑星系円盤”の観測結果。
さらに、彗星など太陽系物質の分析・観測結果を比較することで、私たちが住む太陽系の形成過程の謎に迫っていけるはずです。


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