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太陽系外惑星“PDS 70 b”には同じ軌道を公転する兄弟のような惑星が存在している? ラグランジュ点の1つL5点でデブリの雲を発見

2023年09月11日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
もし、地球と同じ軌道を公転する兄弟のような惑星が存在するとしたら…
そこには地球に似た環境が広がっていて生命も存在するのでしょうか。

今回発表されたのは、太陽系外惑星“PDS 70 b”と公転軌道を共有する別の系外惑星が存在する可能性を示した研究成果です。

この研究成果は、同じ軌道を公転する“兄弟”のような2つの惑星が実在することを示す有力な証拠になるのかもしれません。
この研究は、スペイン宇宙生物センター(CAB)の学生Olga Balsalobre-Ruzaさんを中心とする研究チームが進めています。

原始惑星系円盤が残る形成過程の惑星系

“PDS 70 b”は、ケンタウルス座の方向約370光年彼方に位置する若い恒星“PDS 70”を公転している系外惑星です。

“PDS 70”は誕生から540万年ほどしか経っていないと考えられていて、その周囲は広い空洞が生じた原始惑星系円盤に取り囲まれています。
原始惑星系円盤とは、誕生したばかりの恒星の周りに広がる水素を主成分とするガスやチリからなる円盤状の構造。恒星の形成や、円盤の中で誕生する惑星の研究対象とされている。
空洞で見つかっているのは、“PDS 70 b”とその外側を公転している“PDS 70 c”という2つの系外惑星。
まだ形成過程にある惑星系の一例として研究対象になっています。
アルマ望遠鏡で観測された若い恒星“PDS 70”。中央の大きな円は太陽系外惑星“PDS 70 b”の公転軌道、小さな実線の円は“PDS 70 b”の位置、小さな点線の円は今回検出が報告されたデブリの雲の位置を示している。リング状の構造は“PDS 70”を取り囲む原始惑星系円盤で、空洞内の3時方向には“PDS 70 c”もとらえられている。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO) /Balsalobre-Ruza et al.)
アルマ望遠鏡で観測された若い恒星“PDS 70”。中央の大きな円は太陽系外惑星“PDS 70 b”の公転軌道、小さな実線の円は“PDS 70 b”の位置、小さな点線の円は今回検出が報告されたデブリの雲の位置を示している。リング状の構造は“PDS 70”を取り囲む原始惑星系円盤で、空洞内の3時方向には“PDS 70 c”もとらえられている。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO) /Balsalobre-Ruza et al.)

惑星の公転軌道上に見つかったデブリの雲

今回の研究では、南米チリの“アルマ望遠鏡”を使用して過去に取得された“PDS 70”の観測データを分析しています。

すると、“PDS 70”と“PDS 70 b”のラグランジュ点の1つ“L5”付近で、微弱な信号が検出されていたことが分かりました。
日本を含む22の国と地域が協力して、南米チリのアタカマ砂漠(標高5000メートル)に建設されたのが、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array = ALMA:アルマ望遠鏡)。人間の目には見えない波長数ミリメートルの“ミリ波”やそれより波長の短い“サブミリ波”の電波を観測する。高精度パラボラアンテナを合計66台設置し、それら全体をひとつの電波望遠鏡として観測することができる。
分析の結果、“PDS 70 b”のL5点付近には、総質量が地球の月の0.03~2倍に相当するデブリ(残骸)の雲が存在することが判明しています。

ラグランジュ点とは、ある天体“A”を別の天体“B”が円形の軌道で公転しているときに、天体“A”や“B”と比べて質量がずっと小さい天体“C”が(天体“A”と“B”に対して)静止した状態を保てる5つの場所を指します。

例えば、太陽と木星のラグランジュ点のうち、木星の公転軌道上にあるL4点付近(公転する木星の前方)とL5点付近(公転する木星の後方)には、数多くの小惑星が分布していることが知られています。
これらの小惑星は、“木星のトロヤ群”というグループに分類されています。
トロヤ群とは、惑星の公転軌道上の太陽から見てその惑星に対して60度前方あるいは60度後方、すなわちラグランジュ点L4・L5付近を運動する小惑星のグループ。最初に見つかった小惑星にトロイア戦争の英雄にちなんだ名前が付けられたことから“トロヤ群”と呼ばれている。
参考画像:太陽(黄)を中心に、水星~木星までの惑星(白)と木星のトロヤ群主惑星(緑)の位置を示したアニメーション。トロヤ群小惑星は木星(Jupiter)に先行するL4点のグループと、後続するL5点のグループに分かれている。(Credit: Astronomical Institute of CAS/Petr Scheirich (used with permission))
参考画像:太陽(黄)を中心に、水星~木星までの惑星(白)と木星のトロヤ群主惑星(緑)の位置を示したアニメーション。トロヤ群小惑星は木星(Jupiter)に先行するL4点のグループと、後続するL5点のグループに分かれている。(Credit: Astronomical Institute of CAS/Petr Scheirich (used with permission))

同じ軌道を公転しているもう1つの惑星

今回、“PDS 70 b”のL5点付近で発見されたデブリの雲について研究チームは、これから形成される惑星の材料か、あるいはすでに形成された惑星の残余物が検出されたと考えています。

つまり、研究チームが発見したのは、“PDS 70 b”と同じ軌道を公転しているもう1つの惑星の存在を示す証拠なのかもしれません。

ある惑星のL4点やL5点に、同程度の質量を持つ別の惑星が長期的に安定して存在する可能性は、20年ほど前から提唱されていたようです。

そのような惑星は“軌道共有惑星(co-orbital planets)”あるいは“トロヤ惑星(Trojan planet)”と呼ばれています。
でも、これまでその存在を示す確実な証拠は得られていませんでした。

そう、理論上存在することは分かっているけど、誰も検出したことがない惑星なんですねー

2つの惑星が、公転周期(1年の長さ)や生命の居住可能性を共有している…
このような惑星が、ハビタブルゾーンで見つかることを想像するだけでワクワクしますね。
“ハビタブルゾーン”とは、主星(恒星)からの距離が程良く、惑星の表面に液体の水が安定的に存在できる領域。この領域にある惑星では生命が居住可能だと考えられている。太陽系の場合は地球から火星軌道が“ハビタブルゾーン”にあたる。
この研究で取り組んだのは、そのような世界が実在する可能性を示す最初の証拠探しでした。

さらに、様々な惑星系におけるトロヤ惑星の形成、進化、出現する頻度について、新たな疑問も生まれています。
アーティストによる太陽系外惑星“PDS 70 b”とデブリの雲のアニメーション。今回の研究成果をもとに作成。(Credit: ESO/L. Calçada)
ただ、今回の研究で示されたのは暫定的な検出なので、確認するには追加の観測が必要になります。

“アルマ望遠鏡”による追観測が可能になるのは、早ければ2026年2月。
研究チームでは、“PDS 70 b”のデブリの雲が同じ軌道に沿って運動する様子が観測されることに期待を寄せているそうです。


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惑星は微惑星の衝突で形成されるんだけど、その微惑星を微粒子の衝突合体のみで形成することは難しいようです

2023年08月27日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
今回の研究では、惑星の材料物質である原始惑星系円盤内の固体微粒子の塊について、様々な大きさでの衝突挙動の数値シミュレーションを実施。
シミュレーションには、国立天文台が運用する総コア数2160で構成された“計算サーバ”が用いられました。

その結果、明らかになったのは、塊が大きい場合には2つの塊が衝突合体する確率が低下すること。
固体微粒子が衝突合体を繰り返すのみでは、微惑星のようなサイズにまで成長することは難しいことを確認したそうです。

この研究成果は、7月6日に海洋研究開発機構(JAMSTEC)、東京工業大学(東工大)、東北大学、国立天文台(NAOJ)から発表されました。
この研究は、海洋研究開発機構 付加価値情報創生部門 数理科学・先端技術研究開発センター 計算科学・工学グループの荒川創太Young Research Fellowらの共同研究チームが進めています。

固体微粒子同士が衝突合体しても微惑星サイズにまで成長できない

惑星の形成は、原始惑星系円盤の中でμmサイズの固体微粒子同士が衝突合体して成長することから始まります。
原始惑星系円盤とは、誕生したばかりの恒星の周りに広がる水素を主成分とするガスやチリからなる円盤状の構造。恒星の形成や、円盤の中で誕生する惑星の研究対象とされている。
でも、微粒子同士の塊がある程度の大きさまで成長してくると、衝突しても跳ね返りやすくなるんですねー
なので、自己重力が働くようなサイズに成長するまでの条件が、長年の謎になっていました。

また、数値シミュレーションと室内実験の結果にも大きな乖離があり、特に衝突時の跳ね返り現象を引き起こす塊の密度の条件が大きく異なっていました。

たとえば、シミュレーションでは、塊の内部の隙間の割合が50%程度以下という高密度の場合にのみ、跳ね返り現象が頻繁に見られていました。
でも、室内実験では、隙間の割合が90%程度という低密度の場合でも、高い確率で跳ね返ることが報告されています。
微惑星は、惑星系形成の初期段階にある原始惑星系円盤の中で、固体微粒子が衝突合体を繰り返すことで作られる直径10キロ程度の小天体。原始惑星系円盤の内側には岩石や金属などの固体粒子が多く、外側には氷を含むものが多い。微惑星が衝突や合体を繰り返すことで原始惑星や惑星に進化すると考えられている。
微粒子の塊同士が衝突し、跳ね返るシミュレーションのスナップショット。(Credit: S. Arakawa et al.(出所:NAOJ CfCAプレスリリースPDF))
微粒子の塊同士が衝突し、跳ね返るシミュレーションのスナップショット。(Credit: S. Arakawa et al.(出所:NAOJ CfCAプレスリリースPDF))

微惑星形成の2つの仮説

現在、微惑星の形成モデルとしては2つの仮説があります。

もし、跳ね返りが無いのであれば、衝突合体で微惑星が形成される可能性があるのに対し、跳ね返りがあるのであれば、衝突合体以外の成長メカニズムが必要になります。

そこで考えられた仮説が、微粒子の塊が原始惑星系円盤内で局所的に濃縮し、その後自己重力によって集積し形成されるというものです。
原始惑星系円盤の中では、μmサイズの固体微粒子が衝突合体によって巨視的な塊に成長し、さらに微惑星、原始惑星の状態を経て惑星に進化していく。微粒子の塊から微惑星に成長する段階では、塊の衝突合体によるものと、原始惑星系円盤内での局所的な塊の濃集による自己重力によるものとする2つの仮説ある。(Credit: JAMSTEC(出所:NAOJ CfCAプレスリリースPDF))
原始惑星系円盤の中では、μmサイズの固体微粒子が衝突合体によって巨視的な塊に成長し、さらに微惑星、原始惑星の状態を経て惑星に進化していく。微粒子の塊から微惑星に成長する段階では、塊の衝突合体によるものと、原始惑星系円盤内での局所的な塊の濃集による自己重力によるものとする2つの仮説ある。(Credit: JAMSTEC(出所:NAOJ CfCAプレスリリースPDF))
塊の衝突挙動の理解には、2つの仮説のどちらが微惑星形成シナリオとして妥当かを判断するかがカギになります。

このことから、今回の研究では“離散要素法”を用いた衝突シミュレーションを実施。
構成粒子数が約1万~約14万の様々な大きさの塊について、衝突時の付着率を調査しています。

今回、採用された条件は、塊が半径0.1μmの氷の微粒子で構成されていて、隙間の割合が60%の塊同士を衝突させるもの。
その結果、微粒子の塊は隙間の割合が同じなら、半径が大きい方がより付着率が低いことが判明しました。

また、塊の半径が微粒子半径の50倍以下の場合だと、塊同士が付着する確率は約90%にもなりました。

一方で、それよりも塊が大きい場合には跳ね返り易くなり、微粒子半径の70倍の大きさを持つ塊では、付着率は約50%まで下がってしまいました。

研究チームではこの結果について、過去のシミュレーションと室内実験の乖離についても、定性的な説明を与えるものだとしています。

固体微粒子の衝突合体とは別のプロセス

過去のシミュレーションで扱われてきたのは、構成粒子数が数万程度で、塊の半径が微粒子の半径数十倍という比較的小さな塊。
一方、室内実験で用いられてきたのは、微粒子数が数億以上で、微粒子半径の数百倍から数千倍の半径を持つ塊でした。

つまり、これまでのシミュレーションと室内実験とでは、用いられてきた塊の構成粒子数に大きな差があったんですねー
このことが、両者の衝突挙動の違いをもたらしていたと考えられます。

今回の結果から、原始惑星系円盤での固体微粒子の衝突合体は、塊がある程度大きくなった段階で付着率が低下し、抑制されることが示唆されています。

つまり、微粒子の衝突合体のみで微惑星を形成することは困難だということです。

このことから、微惑星の形成には、原始惑星系円盤内で微粒子の塊が局所的に農集するなど、別のプロセスの助けを借りる必要がある可能性があるようです。

実際、アルマ望遠鏡による原始惑星系円盤の観測では、固体微粒子の塊は100μm程度で成長が止まっている可能性が指摘されていて、今回の成果はこの観測結果に説明を与える可能性があるようです。

なお、今回の研究では、塊内部の隙間の割合が60%で固定されていました。
なので、異なる密度の塊については、跳ね返りが起こる条件はまだ解明されていません。
さらに、現実の塊内部の隙間の割合は、もう少し高く低密度になる可能性があるようです。

仮に、そのような低密度でも十分大きい場合には、今回の研究結果と同様に、跳ね返りが生じると考えられるものの、定量的な理解は得られていません。
2つの微粒子の塊の衝突数値シミュレーションの様子と、付着確率と塊の半径の関係。半径0.1μmの氷微粒子で塊が構成され、隙間の割合が60%の場合、塊の半径が微粒子半径の50倍よりも大きくなると付着確率が顕著に低下する(跳ね返りやすくなる)ことが示された。(Credit: S. Arakawa et al.(出所:NAOJ CfCAプレスリリースPDF))
2つの微粒子の塊の衝突数値シミュレーションの様子と、付着確率と塊の半径の関係。半径0.1μmの氷微粒子で塊が構成され、隙間の割合が60%の場合、塊の半径が微粒子半径の50倍よりも大きくなると付着確率が顕著に低下する(跳ね返りやすくなる)ことが示された。(Credit: S. Arakawa et al.(出所:NAOJ CfCAプレスリリースPDF))
今後。研究チームでは、現時点で調査できていない室内実験と同規模の非常に大きな塊を用いた衝突シミュレーションを実施することで、跳ね返り現象を支配する物理の解明を目指すそうです。


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星の赤ちゃん“原始星”が誕生してから惑星はいつ頃から形成されるのか? 周囲に広がる円盤とより進化の進んだ原始惑星系円盤の違い

2023年08月16日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
星の赤ちゃん“原始星”が誕生してから、惑星はいつ頃に形成されるのでしょうか?

この問への理解を深めるため、今回の研究で対象にしたのは、地球の近傍に位置する星形成開始から1~10万年程度の初期段階にある19の原始星。
アルマ望遠鏡を用いて、これまでにない高い解像度で周囲の円盤を観測し、円盤の詳細な構造を系統的に調べています。

その結果分かってきたのは、原始星周囲の円盤では、星形成の比較的後期段階にある原始惑星系円盤と比べると、惑星形成の兆候は見られないか、見られても原始惑星系円盤ほど惑星系形成は進んでいないこと。
惑星系形成は、中心の恒星の形成開始10万年後から100万年後ぐらいにかけて急速に進むようです。
この研究は、台湾中央研究院の大橋永芳さんを中心とする国際研究グループが進めています。
原始星周辺の円盤のイメージ図。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO))
原始星周辺の円盤のイメージ図。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO))

原始星の周りに広がる円盤の中で惑星は誕生する

私たちの太陽系や太陽系以外の系外惑星の起源を探ることは、私たち自身の起源にも迫る、現代天文学における重要なテーマの一つといえます。

太陽は今から約46億年前に、約1億年の時を経て形成されたと考えられています。

太陽程度の質量を持った恒星は皆、太陽と同様の過程を経て形成され、その際に周囲に円盤が形成されます。
そして、その円盤の中で地球のような惑星が形成されると考えられています。
誕生したばかりの恒星(原始星)の周りに広がる水素を主成分とするガスやチリからなる円盤状の構造を原始惑星系円盤という。恒星の形成や、円盤の中で誕生する惑星の研究対象とされている。注1
円盤は、星が形成されてから数100万年後ぐらいには消失してしまうので、惑星系の形成も星形成開始から数100万年ぐらいの間に起こると推測されています。

それでは、その数100万年の“どの段階”で惑星は形成されるのでしょうか?
このことは、まだはっきりとは分かっていませんでした。
注1.1960年に京都大学の林忠四郎を中心とする研究グループが、“林モデル”と言われる惑星系形成のモデルを構築。そのモデルでは、星形成開始から100~1000万年程度経過した若い星周囲の円盤内で、惑星系形成が進行すると考えていた。これらの円盤は、惑星系形成の現場と考えられることから“原始惑星系円盤”と呼ばれる。でも、その当時は、若い星周囲に原始惑星系円盤が存在することを、観測的には確かめることができなかった。その後、観測技術が飛躍的に向上し、若い星の周囲には実際に原始惑星系円盤が存在することが確かめられた。

星形成過程のどの段階で惑星系が形成されるのか

最近のアルマ望遠鏡を用いた高分解能の観測から明らかになってきたのは、星形成開始から100~1000万年程度経過した若い星周囲の原始惑星系円盤には、同心円状のチリのリングの間にギャップ(溝・隙間)が見られることです。
これは、円盤の物質を掃き集めながら惑星が成長しつつある証拠だと考えられています。

その一方で、このような惑星成長の兆候は多くの原始惑星系円盤で見られています。
なので、原始惑星系円盤では惑星系形成がすでにかなり進行している、あるいはほぼ完了していることも示唆されています。

これらのアルマ望遠鏡の結果を踏まえると、星形成過程のどの段階で惑星系が形成されるのか? っという問いに答えるには、星形成のより初期段階を調べる必要があります。

そこで、研究グループが着目したのは、星形成開始から1~10万年程度の初期段階にある原始星周囲の円盤でした。
アルマ望遠鏡で円盤内のチリ(惑星の材料)が出す電波の観測を行うという大型プログラム“Early Plant Formation in Embdded Disks(eDisk)”を開始しています。

これまでにも、原始星周囲の円盤に着目した観測的研究は行われていましたが、限られた数の天体を個々に調べる程度…
また、0.1秒角を切るような空間分解能の観測も、ごく一部の原始星周囲の円盤に限られていました。

原始星周囲の円盤とより進化の進んだ原始惑星系円盤

今回の観測で対象としたのは、地球からおよそ650光年以内に位置する、19の原始星周囲の円盤。
0.04秒角注2という非常に高い空間分解能で観測し、円盤の構造を詳細に調べることに成功しています。
注2.この分解能は、100キロ先にあるコインを見分けることのできる能力に相当する。
このような高い空間分解能で、20個近い天体の原始星周囲の円盤の詳細な構造を系統的に調べた研究は、今回が初めてのことでした。
この研究で観測された連星系4天体を含む、原始星19天体周囲の円盤のイメージ。連星系4天体のうち、1天体は主星と伴星周囲の円盤を別々に表示している(二段目一番右と三段目一番右)。左上の円盤ほど若く、右下ほど進化が進んでいる。一番右下の最も進化した二つの円盤で淡いリング“ギャップ”の構図が見られる。それぞれのイメージに対して、20au(1auは太陽と地球の距離の1億5千万キロに相当)のスケールが灰色の実戦で示されている。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), N. Ohashi et al.)
この研究で観測された連星系4天体を含む、原始星19天体周囲の円盤のイメージ。連星系4天体のうち、1天体は主星と伴星周囲の円盤を別々に表示している(二段目一番右と三段目一番右)。左上の円盤ほど若く、右下ほど進化が進んでいる。一番右下の最も進化した二つの円盤で淡いリング“ギャップ”の構図が見られる。それぞれのイメージに対して、20au(1auは太陽と地球の距離の1億5千万キロに相当)のスケールが灰色の実戦で示されている。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), N. Ohashi et al.)
その結果、確認されたのは、原始星周囲にはより進化の進んだ若い星と同様に円盤が存在すること。
ただ、原始星周囲の円盤は、より進化の進んだ原始惑星系円盤とは大きく異なる特徴を示すことも、系統的に明らかになったんですねー

惑星系形成の兆候であるリングやギャップが見られたのは、19天体の中で比較的進化の進んだ原始星数天体周囲の円盤でのみ。
でも、その構造は原始惑星系円盤で見られたリングやギャップ構造と比べると非常に淡いものでした。

その一方で、多くの円盤では、惑星の材料になるチリが円盤面に沈殿しておらず、円盤面上空に巻き上げられた状態にあることも分かりました。

より進化の進んだ原始惑星系円盤は厚みが薄いことがこれまでの観測で分かっていて、原始星周囲の円盤よりもチリの沈殿が進んで、惑星形成の準備ができてきている段階にあると考えられます。

今回のアルマ望遠鏡を用いた観測により、原始星周囲の円盤とより進化の進んだ原始惑星系円盤との間に、このような明確な違いがあることが分かりました。

さらに、研究結果から考えられるのは、惑星系形成は星形成開始後10万年から100万年ぐらいにかけて急速に進むことでした。

今回の観測は、アルマ望遠鏡の0.04秒角という非常に高い空間分解能に加え、アルマ望遠鏡が“大型プログラム”という、長い観測時間をかけて数多くの天体観測が実行できる制度を導入したことにより初めて可能になりました。

1つの円盤を観測しただけでは、たまたまそこでの惑星形成が早かったり遅かったりしているだけかもしれません。

今回のプログラムで観測にかけたのは約100時間。
これにより、多数の原始星周囲の円盤を統計的に観測できわけです。

そして、何よりも、このような大型プログラムを立案、実行するための国際協力の重要性です。
この研究を推進した国際研究グループには、15の研究機関から37名の研究者が参加しています。

その約半数は、大学院生や博士号を取得して間もない若手研究者でした。
この研究は、そのような多くの若手研究者の力で推進されていると同時に、将来の研究者の育成に大きな役割を果たしているとも言えますね。


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星のゆりかごでは、赤ちゃん星から噴き出す高速のガス流が、星の形成を誘発したり邪魔したりしている

2023年02月25日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
今回の研究では、アルマ望遠鏡を使ってオリオン座の星団形成領域を観測。
すると、若い星から噴き出す高速のガス流が、同じ星団形成領域内の若い星たちに激しく衝突している様子をとらえることに成功しました。

衝突によって星団形成領域のガスやチリは激しく揺さぶられ、そこでの星の形成に影響を与えている可能性があるんですねー
このことは、若い星や星の材料が密集して存在する星団形成領域において、星が生まれてくる複雑な過程の理解に迫る重要な一歩といえる成果になります。
 今回の研究を進めているのは、九州大学大学院生の佐藤 亜紗子さんたちの研究チームです。
図1.星団形成領域“OMC-2”の“FIR 3”および“FIR 4”のイメージ図。アルマ望遠鏡によって、原始星が集団で生まれている星のゆりかご内部の詳細が明らかになった。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), A. Sato et al.)
図1.星団形成領域“OMC-2”の“FIR 3”および“FIR 4”のイメージ図。アルマ望遠鏡によって、原始星が集団で生まれている星のゆりかご内部の詳細が明らかになった。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), A. Sato et al.)

星誕生の目印“双極分子流”と星のゆりかご“星団形成領域”

赤ちゃん星“原始星”は、宇宙空間のガスとチリが豊富にある領域“分子雲コア”の中で生まれます。
 宇宙空間には星の材料となる水素原子や水素分子を主成分としたガスが漂っている。その中でも特に水素分子が豊富に存在する場所が分子雲。さらに濃くなった場所は分子雲コアと呼ばれていて、いわゆる星の卵に相当する。分子雲コアがさらに収縮することによって、太陽のような恒星や、それよりもさらに重い星(大質量星)その連星が誕生する。
また、原始星周囲で観測されるものに、分子ガスが噴き出している様子“双極分子流”があります。
この双極分子流は、原始星のサイズの100万倍以上の大きさにも広がることがあり、原始星よりも観測しやすいので、分子雲コアでの原始星の誕生をとらえる非常に強力なツールといえます。
 双極分子流とは、原始星からほぼ反対向き(南極方向と北極方向)に放出される分子ガスの高速な流れで、星の産声に例えられる。これにより分子コアが持っている回転の勢いを捨て去ることで星に成長する。太陽系の周辺数万光年以内や大マゼラン雲の原始星では普遍的に観測されてきた。
宇宙に存在するほとんどの星は、孤立して生まれるのではなく複数の原始星が集団で誕生し、これを星団形成といいます。

この星のゆりかごともいえる星団形成領域での双極分子流の役割は、周辺の分子雲コアに衝突することで局所的に星の形成を誘発すること。
でも、逆に星のゆりかご内の環境をかき乱すことで、周辺の星の成長を邪魔したりする可能性もこれまでに予測されていました。

このように、星団形成領域は原始星が誕生する一般的な環境であり、重要な研究対象になるはずです。
にもかかわらず比較的遠方にあるため、これまで領域内を詳細に観測することが困難でした。

さらに、星団形成領域は複数の原始星や双極分子流が混在した複雑な構造を持っています。

そう、これらを十分に見分けられる鮮明な画像を得るには、アルマ望遠鏡のような高い空間分解能を持つ望遠鏡を用いることが必須になるんですねー

星団形成領域を広視野で観測

そこで、今回の研究では、アルマ望遠鏡を使って最も若い星団形成領域のひとつである“OMC-2”内の“FIR 3”および“FIR 4”領域を観測。
この天体はオリオン座の方向に位置し、太陽系から最も近い巨大分子雲である“オリオンA分子雲(地球からの距離1400光年)”の中にあります。

研究チームが調べたのは、この星団形成領域をカバーするような広視野観測を行い、チリ、一酸化炭素(CO)、一酸化ケイ素(SiO)の3つの物質の分布でした。

チリは、星を育むゆりかごである分子雲コアの基本構成物質のひとつです。

一酸化炭素は、双極分子流や分子雲コアの主な構成要素である水素分子ガスに次いで多く存在している物質。
強い電波を出すので、星が成長する様子を観測的にとらえるために重要な分子のひとつになります。

そして、激しい衝突現象があるときに観測されるのが一酸化ケイ素です。
分子雲を構成するチリの表面に付着しているケイ素(Si)が、分子流と周辺物質の激しい衝突などの場面で宇宙空間に叩き出され、宇宙空間に浮遊する酸素(O)と結びつくことで、一酸化ケイ素ガス(SiO)からの放射が観測されるようになります。

今回、“FIR 3”および“FIR 4”領域での高感度観測により見つけることができたのは、これまでに報告されていた2倍の数の双極分子流、つまり原始星が形成されている直接的な証拠でした。
これにより、複雑な星団形成領域の様子が鮮明に描き出されることになります。
図2.アルマ望遠鏡による観測から得られた、星団形成領域“OMC-2”の“FIR 3”および“FIR 4”領域の電波画像。一酸化炭素ガスに赤、一酸化ケイ素ガスに青、チリからの放射にオレンジ色を割り当てた疑似カラー画像。各色について、電波強度が強くなるほど白みを帯びた色で表している。画像上側に“FIR 3”領域、下側に“FIR 4”領域がある。“FIR 4”領域内の原始星の候補天体は緑色の円で示している。“FIR 3”の原始星から噴き出した分子流(赤で示された一酸化炭素ガス)が“フィラメント状に広がる分子雲”などの周辺の高密度物質(オレンジ色で示されたチリの分布)と衝突し、分子流の端が圧縮されている様子が分かる(白い点線で囲まれた“圧縮された分子流のガス”)。また分子流の下流にある高密度ガスとの衝突では、“衝突領域”が一酸化ケイ素ガス(青白色)で鮮明に検出された。(Credit: Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), A. Sato et al.)
図2.アルマ望遠鏡による観測から得られた、星団形成領域“OMC-2”の“FIR 3”および“FIR 4”領域の電波画像。一酸化炭素ガスに赤、一酸化ケイ素ガスに青、チリからの放射にオレンジ色を割り当てた疑似カラー画像。各色について、電波強度が強くなるほど白みを帯びた色で表している。画像上側に“FIR 3”領域、下側に“FIR 4”領域がある。“FIR 4”領域内の原始星の候補天体は緑色の円で示している。“FIR 3”の原始星から噴き出した分子流(赤で示された一酸化炭素ガス)が“フィラメント状に広がる分子雲”などの周辺の高密度物質(オレンジ色で示されたチリの分布)と衝突し、分子流の端が圧縮されている様子が分かる(白い点線で囲まれた“圧縮された分子流のガス”)。また分子流の下流にある高密度ガスとの衝突では、“衝突領域”が一酸化ケイ素ガス(青白色)で鮮明に検出された。(Credit: Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), A. Sato et al.)

アルマ望遠鏡がとらえた分子流が星団形成領域内の星形成に与える影響

今回の一番の成果は、星のゆりかごである若い星団形成領域“OMC-2”内で、“FIR 3”領域中の原始星から噴き出た巨大双極分子流が、複数の若い星が密集している“FIR 4”領域に激しく衝突していることを示す決定的な証拠をとらえたことでした。

この巨大双極分子流が“FIR 4”領域と激しく衝突することで、その境界面で発生したと考えられる一酸化ケイ素ガス(SiO)の観測に成功。
図2の左上から進んできた巨大双極分子流が、“FIR 4”領域にある原始星の材料となる高密度ガスやチリと2か所で衝突した様子を、U字状の衝突面としてはっきりととらえることに成功しています(図2の“FIR 4”領域で青白く光っている構造を参照)。

アルマ望遠鏡の高い感度と空間分解能のおかげで、このように非常に若い星団で形成された原始星の双極分子流が、星団形成領域内の他の領域に衝突している証拠を、撮像することが初めて可能になったわけです。

また図2からは、巨大双極分子流が“FIR 4”領域に向かって進む途中、フィラメント上に広がる分子雲(図2のオレンジ色で表現されている“フィラメント上に広がる分子雲”)とも激しく衝突し、分子流内のガスが激しく圧縮されている様子も分かります(図2の白みを帯びた赤色で表されている“圧縮された分子流のガス”)。

双極分子流と激しく衝突したことで、分子雲内のチリが加熱されている証拠もとらえられています。

さらに、この圧縮された分子雲内で多数発見されたのが、星のゆりかご“分子雲コア”の起源になりうる分裂片でした。

それでは、星団形成領域内での巨大双極分子流と若い星たちの衝突をきっかけとして、星団内の星形成が誘発されたのでしょうか?
それとも、衝突前にはすでに星が誕生していたのでしょうか?
このことについては、今回の研究では明確に区別できませんでした。

それでも、今回の研究成果からは、双極分子流が衝突することで星団形成領域内のガスやチリを揺さぶり、星が生まれる環境がかき乱されている可能性がが示されました。
研究チームではアルマ望遠鏡を用いたさらなる観測で詳細を解明していくそうです。

双極分子流によって圧縮されたガスの運動を調べ、星団形成領域への物質の流入、もしくは分子雲コアの破壊をとらえることができれば、“FIR 4”がどのような進化をたどり最終的にどれくらい重たい星を形成するのかを予測することができます。

今回の観測では、分子流が星団形成領域内の星形成に与える影響を直接とらえることに成功しました。
この研究をさらに進めていけば、一般的な星形成の形態である星団形成の理解を紐解くカギになるはずです。


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恒星が誕生してから時が経っているはずなのに… 十分なガスが残っているのはなぜ? 惑星系形成を促進しているガスの移動と集積

2023年02月01日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
今回の研究では、“うみへび座TW星”を取り巻く原始惑星系円盤のガスの量を、アルマ望遠鏡の観測データを用いた新たな手法で測定しています。
天体の年齢が比較的高いことから、かなり少なくなっていると考えられていたガスの量でしたが、予想外に多く存在していることが分かったんですねー
この結果は、惑星系の形成過程を解明するための重要な一歩になるのかもしれません。

若い恒星を取り巻くガスやチリからなる円盤

惑星は、若い恒星を取り巻く原始惑星系円盤と呼ばれる円盤の中で形成されます。
 原始惑星系円盤とは、誕生したばかりの恒星の周りに広がる水素を主成分とするガスやチリからなる円盤状の構造。恒星の形成や、円盤の中で誕生する惑星の研究対象とされている。
特に、木星のような巨大ガス惑星は、円盤の中のガスを材料として作られます。

惑星が作られた後、残ったガスは円盤から外へと流れ出して、太陽系のようにガスが存在しない惑星系になります。

なので、惑星系の形成過程を理解するには、いろいろな原始惑星系円盤でのガスの量を測定することが必要になるんですねー
でも、これまでは様々な制約のために測定が進んでいませんでした。

円盤内のガスの移動が惑星系の形成を促進している

今回の研究で用いたのは、“うみへび座TW”を取り巻く原始惑星系円盤を観測したアルマ望遠鏡のアーカイブデータ。
このデータを用いて、感度がこれまでより10倍以上高い画像を作成しています。
 この研究を進めているのは、総合研究大学院大学の大学院生の吉田有宏(よしだ ともひろ)さんを中心とする研究チームです。
そして、その画像を解析してみると、円盤の中心近くにあるガスが出す電波から、これまでの感度でははっきりと分からなかった特徴をとらえることに成功しました。

その特徴は、惑星の大気のようなガスの密度が非常に高い場所から放射される電波と、よく似ていたことでした。
そう、円盤の中心近くにあるガスの密度は、惑星の大気と同じくらい高くなっていたわけです。
図1.“うみへび座TW星”を取り巻く原始惑星系円盤。アルマ望遠鏡による観測データを画像化したもの。中心の白色の部分が、今回の研究で明らかになった大量のガスが存在する場所に対応している。(Credit: T. Yoshida, T. Tsukagoshi et al. – ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)
図1.“うみへび座TW星”を取り巻く原始惑星系円盤。アルマ望遠鏡による観測データを画像化したもの。中心の白色の部分が、今回の研究で明らかになった大量のガスが存在する場所に対応している。(Credit: T. Yoshida, T. Tsukagoshi et al. – ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)
解析を進めた結果、太陽系における木星軌道にあたる中心からおよそ5天文単位より内側の領域に、木星の質量の7倍にも相当する大量のガスが存在することが明らかになりました。
 1天文単位(au)は太陽~地球間の平均距離、約1億5000万キロに相当。
“うみへび座TW星”は、原始惑星系円盤を持つ他の若い星に比べて年齢が高く、これほど大量のガスが存在していることは予想されていませんでした。

また、この天体の過去の観測データと比較してみると、木星軌道より内側に存在するガスの量が急激に多くなっていることも明らかになりました。

ガスは、時間の経過とともに円盤の内側へとゆっくり移動していると考えられています。

ただ、その移動速度が急に変化すると、ある特定の場所にガスが溜まってしまうんですねー
このことは、惑星形成の材料になるガスが木星軌道付近に集積し、惑星系の形成を促進していることを示しています。
図2.“うみへび座TW星”周りのガスの分布のイメージ図。木星軌道付近より内側の場所では、その外側と比較して、ガスの量が格段に多くなっている。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)
図2.“うみへび座TW星”周りのガスの分布のイメージ図。木星軌道付近より内側の場所では、その外側と比較して、ガスの量が格段に多くなっている。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)
今回の研究では、初めてガスの分布を観測的に測定できました。
これによって明らかになったのは、年齢が高い原始惑星系円盤の中にも、惑星形成の材料であるガスが豊富に存在することでした。

今後、研究チームでは、同様の手法を他の原始惑星系円盤にも適用していくそうです。
さまざまな特徴、さまざまな年齢の円盤に存在するガスの量を調べて、ガスが失われる過程や惑星系が形成される過程が明らかになることが期待されますね。

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