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モバライダー mobarider

宇宙が誕生した頃の軽い元素が多く存在した環境では、どのように星が誕生するのか?

2022年09月13日 | 銀河・銀河団
宇宙が誕生した頃は、恒星の中で長時間かけて起こる元素合成が進んでいませんでした。
なので、重元素が少なく、軽い元素が多く存在していたんですねー

このように軽い元素が多く存在する環境は、現在の宇宙と大きく異なるので、どのように星が誕生するかは明確には分かっていませんでした。

そこで今回の研究で目指したのは、重元素が少ない環境で幼年期の星“原始星”を見つけ出すこと。
アルマ望遠鏡による観測で、太陽系よりも重元素が少なく、約100億年前の宇宙の環境を残した場所から星の産声を検出することに成功しています。

この発見により、宇宙の進化の歴史において星が誕生するメカニズムが共通しているということが分かってきたようです。

宇宙が誕生して間もない重元素が少ない環境

ヘリウムよりも重い元素のことを天文学では“重元素”と呼びます。
天文学では水素とヘリウムよりも重い元素のことを重元素と呼ぶ。太陽およびその周辺を基準とし、最も多い元素である水素に対して重元素がどれくらい含まれているかを表す。
宇宙が誕生した頃は、恒星の中で長時間かけて起こる元素合成が、現在よりも進んでいませんでした。

なので、重元素量が少ない環境を調べることは、宇宙が誕生して間もない頃を調べることに相当します。

このような場所では、星が誕生する条件(主に、星の卵となる分子雲コアの温度や密度の状態)が大きく異なっています。

現在よりも活発に星を誕生させている銀河が多いので、星の誕生メカニズムが現在と異なっているか、もしくは共通しているかを調べることは宇宙の歴史紐解く上で重要な課題でした。

地球から約19万光年の距離に位置する銀河

でも、重元素が少ない場所は100億光年ほど彼方に存在することが多く、現在の観測技術をもってしても星の産声を直接聞くことは不可能でした。

ただ、私たちが住む天の川銀河も属する局所銀河群の銀河の中には、重元素量が太陽系の1/5と最も低い環境にある小マゼラン雲があるんですねー
小マゼラン雲は、地球から約19万光年の距離に位置する銀河。私たちの天の川銀河も含まれている局所銀河群の中では、分子ガスが観測できてかつ原始星(幼年期の星)が詳しく観測できるものの中では、天の川銀河の1/5程度と最も重元素量が少ない環境にある。
小マゼラン雲は、太陽系から19万光年と比較的近い距離にあるので、宇宙の昔の状態を色濃く残した場所での星の誕生を調べるのに絶好な場所といえます。

星誕生の目印“双極分子流”

今回の研究では、小マゼラン雲に存在する大質量星の原始星をアルマ望遠鏡で観測。
小マゼラン雲内で、星の誕生の産声とも呼べる双極分子流を初めて検出しています。
双極分子流とは、原始星からほぼ反対向き(南極方向と北極方向)に放出される分子ガスの高速な流れで、星の産声に例えられる。これにより分子コアが持っている回転の勢いを捨て去ることで星に成長する。太陽系の周辺数万光年以内や大マゼラン雲の原始星では普遍的に観測されてきたが、今回最も重元素の少ない銀河で検出できたことが、この研究のポイントになる。
双極分子流自体は、これまでの天の川銀河を初めとする原始星の観測で“星誕生の目印”として普遍的に見られていた現象です。

ただ、小マゼラン雲においては、分子ガスを観測するために一般的に用いられている一酸化炭素からの電波が非常に微弱なんですねー
このため、この産声を検出するのは、局所銀河群の他の銀河よりも困難を極めていました。

そこで、今回は温度や密度が高い場所でより強い電波が期待される輝線を選択。
これにより、“Y246”という原始星からの双極分子流を初めて検出することが出来ました。
(左)ヨーロッパ宇宙機関の赤外線天文衛星“ハーシェル”が遠赤外線で観測した小マゼラン雲と(右)原始星“Y246”からの双極分子流。シアンおよび赤色で示した部分が、それぞれ地球に近づく方向および遠ざかる方向に時速54000キロ以上の速さで運動している。十字マークが示しているのは原始星の位置。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Tokuda et al. ESA/Herschel)
(左)ヨーロッパ宇宙機関の赤外線天文衛星“ハーシェル”が遠赤外線で観測した小マゼラン雲と(右)原始星“Y246”からの双極分子流。シアンおよび赤色で示した部分が、それぞれ地球に近づく方向および遠ざかる方向に時速54000キロ以上の速さで運動している。十字マークが示しているのは原始星の位置。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Tokuda et al. ESA/Herschel)

天の川銀河と同様の現象を観測

この分子流の性質について詳しく調べてみると、ガスの運動の勢いなどが天の川銀河で見られていたものと共通していることが突き止められたんですねー

天の川銀河を初めとする現在の宇宙の原始星は、分子雲コアと呼ばれる星の卵から誕生します。
宇宙空間には星の材料となる水素原子や水素分子を主成分としたガスが漂っている。その中でも特に水素分子が豊富に存在する場所が分子雲。さらに濃くなった場所は分子雲コアと呼ばれていて、いわゆる星の卵に相当する。分子雲コアがさらに収縮することによって、太陽のような恒星や、それよりもさらに重い星(大質量星)その連星が誕生する。
そして、分子流を通して余分な回転の勢いを捨てることにより、収縮して大人の星へ成長していきます。

この天の川銀河と同様の現象を、今回の観測により小マゼラン雲で初めて検出することができたというわけです。

100億光年という遥か彼方に存在する重元素が少ない場所では、現在の観測技術では星の産声を直接聞くことは不可能でした。

なので、これまではアルマ望遠鏡を用いて、大マゼラン雲(地球から16万光年の距離)など、現在の太陽系や天の川銀河とは異なる環境での星の誕生に関しての研究が続けられていました。

今回は小マゼラン雲という、現在の観測技術を用いて幼少期の星“原始星”に手が届く範囲では最も重元素量の低い銀河で、星の産声をとらえることができたときは、まさにパズルのピースを埋めたときのような達成感があったそうです。

100億年前から現在に至るまで、星や惑星系の形成メカニズムは同じだった

双極分子流の発生源は、原始星周辺の円盤“原始惑星系円盤”であると考えられています。
この“原始惑星系円盤”の中で太陽系は形成されました。

今回の小マゼラン雲における初めての双極分子流の発見は、何を示しているのでしょうか?

それは、宇宙の歴史の中で重元素が少ない100億年前から現在に至るまで、星や惑星系の形成メカニズムが同様であることです。

また、今回の研究成果は、このような重元素量が少ない環境での原始星アウトフローの検出手法に、大きな指針を与えたという意味でも重要なことと言えます。

今後、予定されているのは、小マゼラン雲において数10個以上確認されている同種の原始星に対して、網羅的な観測を行うことです。

これにより、双極分子流の発生が全ての環境に通じる性質であることを検証していくそうです。

さらに、アルマ望遠鏡はさらなる解像度を達成することを期待できるので、実際に原始星の周辺に円盤が形成されているかどうかも検証できる可能性があります。

重元素が少ない環境のコンピュータシミュレーションにより、星々の誕生を描き出す理論的な計算の進展も期待されますね。


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