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1年周期で地球を周回している衛星のように見える小惑星“カモオアレワ”は、月面から飛び出した破片なのか?

2023年11月15日 | 太陽系・小惑星
地球の準衛星になっている小惑星“469219 Kamo oalewa(カモオアレワ)”。
この小惑星は、ひょっとすると月から飛び出した破片かもしれないんですねー

この可能性を改めて示した研究成果が、アリゾナ大学の大学院生Jose Daniel Castro-Cisnerosさんを筆頭とする研究チームから発表されました。

研究チームによると、月の破片がカモオアレワのように数百万年にわたって、地球と似たような軌道を公転する小惑星となる確率は低いものの、ありえないことではないそうです。
図1.地球と月の近くを移動する小惑星“469219 Kamo oalewa(カモオアレワ)”のイメージ図。(Credit: Addy Graham/University of Arizona)
図1.地球と月の近くを移動する小惑星“469219 Kamo oalewa(カモオアレワ)”のイメージ図。(Credit: Addy Graham/University of Arizona)

1年周期で地球を周回している衛星のように見える天体

カモオアレワは2016年4月27日にハワイの掃天観測プロジェクト“パンスターズ(Pan-STARRS)”によって発見された幅46~58メートルと推定される小惑星です。

当初、“2016 HO3”という仮符号で呼ばれていたのが、後にハワイ語で「振動する破片・断片」を意味するカモオアレワに改名されています。

地上から観測したカモオアレワのスペクトル(光の波長ごとの強度分布)が、アポロ計画で採取された月の石と一致したことから、カモオアレワは天体衝突などで飛び出した月の破片ではないかと考えられています。

現在のカモオアレワの公転周期は地球とほぼ同じ1年。
地球からはカモオアレワがヒル球(※1)の外側で一緒に公転しているように見えます。
※1.ヒル球(Hill sphere)は、重い天体を周回する別の天体(例えば太陽を公転する地球)の重力が、重い天体の重力を上回る範囲のこと。太陽を周回する地球のヒル球は、半径約150万キロ(地球から月までの距離の約4倍)。地球のヒル球に入り込んで一時的に地球を周回する天体はミニムーンとも呼ばれている。
このように1年周期で地球を周回している衛星のように見える天体は、“準衛星(Quasi-satelite)”と呼ばれています。

衛星のように見えるのはあくまでも地球を基準とした場合。
太陽を基準にすれば、地球の公転軌道付近で太陽を周回する小惑星の軌道が描かれることになります。
小惑星カモオアレワの軌道を描いた動画。動画では太陽(Sun)を中心とした動きと地球(Earth)から見た動きの両方が黄色の線で示されている。カモオアレワは太陽を中心に公転する小惑星だが、地球から動きを観測すると地球を公転する衛星のように見える。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
研究チームによると、カモオアレワは準衛星の中でも特徴的な公転運動をしているそうです。
現在のカモオアレワは地球の準衛星ですが、約100年前までは地球から見て太陽の反対側を中心とした馬蹄形の軌道を公転していて、約300年後からは再び馬蹄形の軌道を公転するようになると見られています。
図2.a:地球に似た約1年周期の軌道を公転する小惑星の地球から見た動き。左は馬蹄形の軌道(紫)、右は準衛星の軌道(緑)。b:馬蹄形の軌道と準衛星の軌道を遷移する小惑星カモオアレワの特徴的な動き。c:小惑星カモオアレワの西暦1600年~2500年までの軌道長半径と、太陽を中心とした角度で示された地球に対する相対的な平均位置。(Credit: Castro-Cisneros et al.)
図2.a:地球に似た約1年周期の軌道を公転する小惑星の地球から見た動き。左は馬蹄形の軌道(紫)、右は準衛星の軌道(緑)。
b:馬蹄形の軌道と準衛星の軌道を遷移する小惑星カモオアレワの特徴的な動き。
c:小惑星カモオアレワの西暦1600年~2500年までの軌道長半径と、太陽を中心とした角度で示された地球に対する相対的な平均位置。(Credit: Castro-Cisneros et al.)

月面から飛び出した破片がカモオアレワのような軌道に入る可能性

カモオアレワは、このような軌道の変遷を数十万年~数百万年という長期間にわたって繰り返す可能性が過去の研究で示されていました。

でも、地球と月の重力を振り切るのに十分な運動エネルギーが与えられたカモオアレワのような月の破片のスピードは、このような軌道に進入するには速すぎるんですねー

そこで、今回の研究では、太陽系の惑星全ての重力を正確に再現した数値シミュレーションを開発。
月面の様々な場所から様々な速度で飛び出した後に、太陽からの平均距離0.98~1.02天文単位(※2)の範囲にしばらく留まると仮定して、破片の動きを分析しています。
※2.1天文単位は太陽~地球間の平均距離、約1億5000万キロに相当する。
シミュレーションの結果が示していたのは、月から飛び出した破片の大多数は、アテン群やアポロ群のような軌道で太陽を公転する小惑星になるものの、破片全体のうち6.6%は一時的に地球の公転軌道付近で太陽を周回する可能性があることでした。

アテン群は、地球横断小惑星(Earth-crossing asteroids)のグループの一つで、軌道長半径が1天文単位より小さく、太陽から最も遠くなる位置“遠日点”までの距離が0.983天文単位より大きな軌道を持つ小惑星。

アポロ群も地球横断小惑星(Earth-crossing asteroids)のグループの一つ。
地球より大きな軌道長半径を持つ小惑星で、地球に非常に近付くことがあるので潜在的な脅威ともいえます(軌道長半径が地球のそれに近いほど、軌道を横断するのに必要な離心率は小さくなる)。
離心率が大きいものだと近日点が水星より内側にあったり、遠日点が海王星の外側にあったりすることもあります。

そして、アテン群やアポロ群のような軌道で公転しない破片6.6%の内訳は、馬蹄形の軌道を公転する破片が5.8%、カモオアレワのように馬蹄形の軌道と準衛星の軌道を遷移する破片が0.8%になりました。

また、月の公転方向とは反対側(地球上から見て西側)の半球から、月の脱出速度(毎秒2.4キロ)をわずかに上回る速度で飛び出すことで、月面から飛び出した破片がカモオアレワのような軌道に入る可能性が最も高いこともシミュレーションから示されました。

この結果をもとに研究チームでは、カモオアレワが月から飛び出した破片である可能性が高まったと結論付けています。
今後は、このような軌道に入ることを可能にした条件の特定や年齢の推定を進めていくそうです。

でも、本当にカモオアレワは月の破片なのでしょうか?

この疑問に結論を出すには、さらなる研究が必要になってきます。
カモオアレワは、中国が2025年に打ち上げを計画している小惑星探査ミッション“鄭和(チェン・フー)”でサンプルリターンの対象になっているので、そう遠くはない内に答えが得られるかもしれませんね。
今回の研究成果をまとめた論文は、“Nature Communications Earth & Environment”に掲載されました。


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これまでに行われた古い隕石の年代測定は再検討が必要!? 理由は初期太陽系全体でアルミニウム26の分布が不均一だったから

2023年11月14日 | 太陽系・小惑星
初期の太陽系の状態を研究する上で、非常に古い年代が隕石の調査は有効な手段の一つになります。

でも、何十億年もの時間を遡って当時の様子を推定しようとすると、様々な問題や障害が立ちはだかることになります。

オーストラリア国立大学のEvgenii Krestianinovさんたちの研究チームは、年代が古い隕石の1つである“チェック砂砂漠002隕石(エルグ・チェック002、Erg Chech 002、EC 002)”(※1)の分析結果を発表。
その目的は、初期太陽系での重要な熱源であり、年代測定の手掛かりとなっているアルミニウムの同位体(※2)“アルミニウム26”の指定濃度を他の隕石と比較しながら調査することでした。

分析の結果、初期の太陽系におけるアルミニウム26の濃度は、かなり不均一だった可能性が判明。
この結果が示しているのは、「アルミニウム26の分布が均一だったら」という前提で年代が分析されてきた古い隕石の年代を、再検討しなければならないことでした。
※1.Erg(エルグ)は、砂砂漠(砂漠という名前から一般的に想像される砂が主体の砂漠)を意味し、その後に続く番号は発見順や記載順などをもとに付与される。Erg Chech 002は「チェック砂砂漠の地域で発見された隕石のうち、2番の番号が付与された隕石」という意味になる。

※2.原子核は複数の陽子と中性子で構成されている。同じ数の陽子が含まれている原子核は同じ元素に分類されるが、陽子の数が異なる場合は、その元素の“同位体”として区別される。また、異なる元素同士を比較する場合にも、“核種”という言葉の代わりとして使用される。

図1.チェック砂砂漠002隕石の磨かれた断面の様子。緑色の輝石結晶(特に左上側)があることが特徴的な隕石。(Credit: A. Irving (Public Domain))
図1.チェック砂砂漠002隕石の磨かれた断面の様子。緑色の輝石結晶(特に左上側)があることが特徴的な隕石。(Credit: A. Irving (Public Domain))

希少な安山岩でできた“チェック砂砂漠002隕石”

地球では数多くの隕石が見つかっていますが、その中でもかなり興味深い隕石の1つが“チェック砂砂漠002隕石”です。

巨大な緑色の輝石結晶が特徴的のこの隕石は、2020年にアルジェリアのチェック砂砂漠(Erg Chech)で発見された隕石の1つです。

2021年に発表された研究では、チェック砂砂漠002隕石は約45億6500万年前に固化した安山岩(※3)だということが分かっています。
この年代は、地球で見つかる最も古い鉱物結晶(約44億400万年前)よりも古く、太陽系が誕生したとされている約45億6730万年前(±16万年)にかなり近いものになります。

現在のところ、チェック砂砂漠002隕石は太陽系で最も古い火成岩(※3)の1つになります。
また、初期の太陽系における標準的な組成の物質を溶かして固化させると、安山岩ができることが分かっています。

でも、これまでに見つかった火成岩に分類される隕石のほとんどは玄武岩(※3)であり、安山岩は非常に珍しく数例しか発見されていません。

希少な安山岩の隕石であるチェック砂砂漠002隕石は、誕生したばかりの太陽系に岩石が溶けるほどの高温な環境があったことを示す重要な手掛かりになります。
※3.マグマが冷えて固まった岩石を火成岩と呼ぶ。火成岩はその成因や成分で様々な分類があるが、今回の話に限って説明すると、より金属元素に乏しい火成岩を安山岩、金属元素に富む火成岩を玄武岩と呼ぶ。
ただ、研究チームではチェック砂砂漠002隕石の年代は、再検討が必要だと考えているんですねー

それは、上記の2021年の研究とは別に、2022年にはマンガン53の崩壊で生じるクロム53の比率を調べる、2つの独立した研究が行われていたからです。

2つの研究チームは、チェック砂砂漠002隕石が固化した年代を、それぞれ45億6556万年前(±59万年)と46億6666万年前(±56万年)と推定。
双方の結果には1億年ものズレがあったので、再検討が必要だと考えたわけです。

2つの研究で示された古い方の年代は、チェック砂砂漠002隕石の元になったマグマの中に偶然入り込んだ、より古い年代の岩石による可能性がありました。

もし、この予測が正しい場合、チェック砂砂漠002隕石は分析する部分によって異なる年代を示す可能性があるので、より細かな分析が必要になります。

非常に古い隕石の年代測定方法

初期の太陽系における岩石を溶かすほどの熱源には、様々な要因(微惑星同士の衝突、重力による分化、太陽放射など)が考えられますが、主要なものとして挙げられるのは“アルミニウム26”の崩壊熱です。

アルミニウム26は半減期70万5000年で崩壊するので、現在の太陽系にはほとんど残っていないことになります。
でも、太陽系誕生時には豊富に存在していたと考えられていて、その崩壊熱が微惑星の主要な熱源の1つになっていたと考えられています。

また、アルミニウム26が崩壊すると安定同位体のマグネシウム26に変化するので、マグネシウムの他の同位体との比率をもとに、隕石が岩石として固まった年代を割り出す手がかりの1つにもなります。

でも、アルミニウム26とマグネシウムによる年代測定が成立するには、ある前提が必要なんですねー

それは、「アルミニウム26が初期の太陽系全体で均一に分布していて、他の隕石同士で同位体の比率を補正せずに比較できる」というものです。

太陽系が誕生した当時の詳細は謎が多く、物質がほとんどムラなく均一に分布していたのか、それとも場所によって不均一だったのかはよく分かっていません。

そこで、通常の隕石の研究では、アルミニウム26の均一性に依存することを避けるため、他の元素の同位体を分析することで、年代測定の確かさを高める手法が取られます。

ただ、分析の対象となる元素がサンプルに十分含まれていないので、この手法が適用できない場面も多々あります。

古い隕石の年代をアルミニウム26の均一性に依存して測定せざるを得ないというこの問題は、特に太陽系誕生時から一度も変化が起こっていない“コンドライト隕石”と呼ばれるタイプの隕石でよく指摘されています。

チェック砂砂漠002隕石のように、全体が溶けて均一に混ざっていると推定される“エイコンドライト隕石”と比べて、コンドライト隕石は物質の構成がかなり不均一で、場所ごとの形成年代もバラバラな傾向にあります。

また、コンドライト隕石の中で最も年代が古いとされる“CAI(Calcium-Aluminium-rich Inclusion)”と呼ばれるタイプの隕石は、しばしば詳細な分析が行わますが、CAIは軽い元素が豊富に含まれる一方で、年代測定によく使用されるウランや鉛といった重い元素は不足している傾向があります。

そのため、年代が極めて古いと推定される隕石のいくつかは、アルミニウム26が崩壊して生じるマグネシウムだけで年代が推定されるか、アルミニウム26とマグネシウムから推定された年代が、精度の低い他の年代測定結果よりも重視される傾向にあります。

初期の太陽系では場所によってアルミニウム26の濃度は相当不均一だった

今回の研究では、チェック砂砂漠002隕石の確かな年代を確かめるための詳細な分析を実施しています。

まず、鉛の同位体比率による年代測定を、チェック砂砂漠002隕石の全体で7回、鉱物結晶の単位で16回(輝石が15回、斜長石が1回)行っています。

その結果、チェック砂砂漠002隕石がマグマから固化した年代は、今から45億6556万年前(±12万年)ということが分かりました。
過去の研究も合わせると、チェック砂砂漠002隕石の元となったマグマが固化した年代は45億6556万年前後で正しいようです。

この場合、チェック砂砂漠002隕石は、太陽系が誕生したとされる45億6730万年前から174万年後に固化したことになります。
図2.様々な隕石をアルミニウムの同位体比率(縦軸)と鉛による年代(横軸)でグラフ化したもの。岩石が固化した時のチェック砂砂漠002隕石(EC002)のアルミニウム26の推定濃度は、最も少ないサハラ99555隕石(Sahara 99555)の4倍にも達する大きな違いがあることが今回判明した。(Credit: Evgenii Krestianinov, et al.)
図2.様々な隕石をアルミニウムの同位体比率(縦軸)と鉛による年代(横軸)でグラフ化したもの。岩石が固化した時のチェック砂砂漠002隕石(EC002)のアルミニウム26の推定濃度は、最も少ないサハラ99555隕石(Sahara 99555)の4倍にも達する大きな違いがあることが今回判明した。(Credit: Evgenii Krestianinov, et al.)
次に、チェック砂砂漠002隕石に含まれるアルミニウムと鉛のそれぞれの同位体比率を、同程度に古いと推定されるほかのエイコンドライト隕石と比較。

すると、岩石(隕石)がマグマから固化したときに含まれていたアルミニウム26の推定濃度には、最大で4倍もの差が生じていることが分かりました。

さらに、アルミニウムと化学的な挙動が関連している他の元素(※4)の同位体の比率も測定。
その結果、アルミニウム26の分布が不均一であったらしいという別の角度からの証拠も発見します。
※4.チタン50、クロム54、ストロンチウム84、および酸素の安定同位体。
このため、研究チームでは、アルミニウム26の不均一な分布はエイコンドライト隕石だけでなく、非常に始原的なコンドライト隕石でも同じような傾向にあると推定しています。

そう、今回の研究結果が示しているのは、初期の太陽系では場所によってアルミニウム26の濃度が相当不均一だった可能性が高いことです。

これまでに行われた古い年代測定は再検討が必要

この結果から、研究チームが提言しているのは、隕石を通じた初期太陽系の分析について、再検討が必要だということ。

初期の太陽系は時間の経過に応じて、どのように変化してきたのでしょうか?
このことを知るには、古い隕石を分析して年代順に並べる必要があります。

ただ、その年代は過去の研究で推定されたものを参照している場合が、しばしばあるんですねー

現在ほど分析技術が優れていなかった過去の研究では、アルミニウム26以外の方法で年代測定が行われていないことも珍しくありません。

そう、アルミニウム26のみで年代測定を行うには、「アルミニウム26の濃度が太陽系全体でほぼ均一だった」っという前提が必要になります。
でも、今回の研究結果はそれを否定し戯。

現在では、分析技術が進歩していて、わずかな濃度のウランや鉛の同位体比率を利用する、過去には不可能だった年代測定が行えるようになっています。
チェック砂砂漠002隕石を通じて、今回の研究が行えたのも、まさにその一例だと言えます。

このため、他の隕石でも最新の方法を適用すれば、より正しい年代が推定できるようになり、初期太陽系の詳細な理解がさらに進むはずですね。


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ディンキネシュは二重小惑星だった!? NASAの探査機“Lucy”が初のフライバイ観測を実施、データ送信は最大で1週間かかるそうです

2023年11月11日 | 太陽系・小惑星
2023年12月5日更新
12年間にわたるミッションで合計10個の小惑星を探査するNASAの小惑星探査機“Lucy(ルーシー)”が、小惑星ディンキネシュ(Dinkinesh)のフライバイ観測を実施しました。

“Lucy”がディンキネシュに最接近したのは日本時間2023年11月2日1時54分。
最接近時に撮影した画像からは、小惑星ディンキネシュが二重小惑星ということが判明しています。
さらに、今後10年間の探査で使用される装置やシステムのテストも行われたようです。
NASAの小惑星探査機“Lucy”が撮影した小惑星ディンキネシュ。二重小惑星だということが判明した。(Credit: NASA/Goddard/SwRI/Johns Hopkins APL/NOAO)
NASAの小惑星探査機“Lucy”が撮影した小惑星ディンキネシュ。二重小惑星だということが判明した。(Credit: NASA/Goddard/SwRI/Johns Hopkins APL/NOAO)

装置のテストを兼ねたフライバイ観測

“フライバイ”とは、探査機が惑星の近傍を通過するとき、その惑星の重力や公転運動量などを利用して、速度や方向を変える飛行方式です。
これにより、探査機は燃料を消費せずに軌道変更と加速や減速が行えます。
積極的に軌道や速度を変更する場合を“スイングバイ”、観測に重点が置かれる場合を“フライバイ”と言い、使い分けています。

今回のディンキネシュへのフライバイ観測は、今後10年間の探査で使用される観測装置やシステムのテストという位置付け。
“Lucy”に搭載されている高解像度カメラ“L’LORRI”や熱放射分光器“L’TES”、可視光カラーカメラ“MVIC”、赤外線撮像分光器“LEISA”で構成される“L’Ralph”による観測はもとより、フライバイ中に小惑星の位置を特定しながら観測装置の視野内に収め続けるための自立追尾システムのテストが行われました。

“Lucy”によるディンキネシュへの最接近予定時刻は、日本時間の2023年11月2日1時54分。
ディンキネシュから430キロ以内の最接近点を毎秒4.5キロの相対速度で通過したようです。

その前後で、高解像度カメラ“L’LORRI”や熱放射分光器“L’TES”などによる観測も行われています。

ディンキネシュは直径1キロに満たない小惑星だと考えられています。

小惑星帯にあるそれほど小さな小惑星が、間近から観測されたのは今回が初めてのこと。
ただ、最接近の前後では、“Lucy”の高利得アンテナが地球を向いていなかったので通信はできない状況だったんですねー

最接近後には、高利得アンテナが地球へ向けられて通信は再開。
これにより、“Lucy”の運用チームは探査機の状態が良好なことを確認、その後に再接近中に収集されたデータを送信するコマンドが送られています。
小惑星探査機“Lucy”による小惑星ディンキネシュへのフライバイ観測。最接近中の機体姿勢変化を示した図。探査機の飛行方向は赤色の矢印で示されている。(Credit: NASA/Goddard/SwRI)
小惑星探査機“Lucy”による小惑星ディンキネシュへのフライバイ観測。最接近中の機体姿勢変化を示した図。探査機の飛行方向は赤色の矢印で示されている。(Credit: NASA/Goddard/SwRI)

ディンキネシュは二重小惑星だった

“Lucy”が最接近時に撮影した画像から判明したのは、小惑星ディンキネシュが二重小惑星ということでした。

実は、再接近の数週間前には、ディンキネシュの明るさが時間と共に変化することから、二重小惑星の可能性が指摘されていました。

今回の“Lucy”による最接近時の観測で、二重小惑星ということが確かめられた訳です。

推定される小惑星のサイズは、大きい方の天体が最大幅およそ790メートル、小さい方の天体はおよそ220メートルになります。
二重小惑星ディンキネシュの動画。小惑星の追跡などを目的とするカメラ“T2CAM(terminal tracking cameras)”による13秒おきに撮影された一連の画像をアニメーションにしたもの。2つの天体の見かけの動きは、秒速4.5キロで移動する探査機の動きによるもの。(Credit: NASA/Goddard/SwRI/ASU)
二重小惑星ディンキネシュの動画。小惑星の追跡などを目的とするカメラ“T2CAM(terminal tracking cameras)”による13秒おきに撮影された一連の画像をアニメーションにしたもの。2つの天体の見かけの動きは、秒速4.5キロで移動する探査機の動きによるもの。(Credit: NASA/Goddard/SwRI/ASU)

ディンキネシュの衛星は接触二重小惑星だった

2023年11月7日付でNASAが公開した画像から新しいことが分かりました。

この画像は、“Lucy”に搭載されている高解像度カメラ“L’LORRI”で撮影されたディンキネシュとその衛星です。
ディンキネシュのフライバイ観測が行われた2023年11月2日2時頃(日本時間)、小惑星から約1630キロ離れた位置で撮影されたものです。
小惑星ディンキネシュとその衛星。NASAの小惑星探査機“Lucy”に搭載された高解像度カメラ“L’LORRI”で2023年11月2日2時頃に撮影された。(Credit: NASA/Goddard/SwRI/Johns Hopkins APL)
小惑星ディンキネシュとその衛星。NASAの小惑星探査機“Lucy”に搭載された高解像度カメラ“L’LORRI”で2023年11月2日2時頃に撮影された。(Credit: NASA/Goddard/SwRI/Johns Hopkins APL)
画像の左側にはディンキネシュが、右側には今回のフライバイ観測で存在が判明したディンキネシュの衛星が写ってるんですねー

この画像から分かる衛星の特徴は、2つの物体が接触したような形をしていること。
この画像が示しているのは、ディンキネシュの衛星それ自身が接触二重小惑星(Contact binary)、つまりお互いに接触した2つの小惑星で構成されていることです。

なぜ、ディンキネシュの衛星を構成する2つの部分が同じような大きさなのかは分かっていません。
今後、その理由の解明が進められるはずです。
小惑星探査機“Lucy”と小惑星ディンキネシュの位置関係を示した図(赤は探査機の移動経路)。Aは2023年11月2日1時55分頃、Bは同日2時頃に画像が撮影された時の探査機の位置を示している。(Credit: Overall graphic, NASA/Goddard/SwRI; Inset “A,” NASA/Goddard/SwRI/Johns Hopkins APL/NOIRLab; Inset “B,” NASA/Goddard/SwRI/Johns Hopkins APL)
小惑星探査機“Lucy”と小惑星ディンキネシュの位置関係を示した図(赤は探査機の移動経路)。Aは2023年11月2日1時55分頃、Bは同日2時頃に画像が撮影された時の探査機の位置を示している。(Credit: Overall graphic, NASA/Goddard/SwRI; Inset “A,” NASA/Goddard/SwRI/Johns Hopkins APL/NOIRLab; Inset “B,” NASA/Goddard/SwRI/Johns Hopkins APL)
ディンキネシュの衛星をとらえた画像は、2023年11月2日付ですでに公開されていました。
ただ、先に公開された画像は探査機との位置関係上、衛星が接触二重小惑星であることまでは分かりませんでした。

7日に公開された画像は、2日に公開された画像の約5分後に撮影されたもの。
探査機が約1500キロ移動したことで小惑星との位置関係が変化し、衛星の真の性質を伝えてくれる1枚となりました。
接近時に発見された小さな衛星の名称が、エチオピアのアムハラ語で“平和”を意味する“セラム(Selam)”に決まりました(2023年11月27日に国際天文学連合(IAU)が承認)。
ディンキネシュの探査を終えた“Lucy”は、2024年12月に地球フライバイを行って軌道を修正。
2025年には2つ目の探査対象である小惑星帯の小惑星ドナルドジョハンソン(Donaldjohanson)のフライバイ探査を行います。

その後は、2027年のエウリュバテス(Eurybates)とその衛星ケータ(Queta)をはじめ、ミッションの主目標である木星のトロヤ群の小惑星探査が行われる予定です。

運用チームは、再接近後に“Lucy”からの信号を受信、探査機の状態が良好なことを確認しています。
今回実施された初のフライバイ探査で“Lucy”はどのように動作していたのか?
このことを“Lucy”運用チームは楽しみにしているようですよ。

全てのデータが送られてくるまでには、最大で1週間かかるそうですよ。


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太陽系成り立ちの解明に向けてNASAの探査機“Lucy”が最初の探査対象に接近中! 小惑星ディンキネシュへの最接近は11月2日の未明

2023年11月03日 | 太陽系・小惑星
12年間にわたるミッションで合計10個の小惑星を探査するNASAの小惑星探査機“Lucy(ルーシー)”が、いよいよ最初の探査対象となる小惑星ディンキネシュ(Dinkinesh)に近づいています。

“Lucy”は日本時間2023年11月2日未明にディンキネシュに最接近し、今後10年間の探査で使用される装置やシステムのテストを行う予定です。
木星のトロヤ群に属する小惑星を探査するNASAの探査機“Lucy”のイメージ図。(Credit: Southwest Research Institute)
木星のトロヤ群に属する小惑星を探査するNASAの探査機“Lucy”のイメージ図。(Credit: Southwest Research Institute)

木星のトロヤ群に属する小惑星の探査

小惑星探査機“Lucy”は、2021年10月16日にユナイテッド・ローンチ・アライアンスの“アトラスV-401”ロケットに搭載され、ケープカナベラル空軍基地から打ち上げられました。

その後、幅7メートルの2つの太陽電池アレイのうち1つを完全に展開および固定することに失敗。
ミッションチームでは、この問題のトラブルシューティングを続けていました。

NASAでは、このまま太陽電池パネルを使用することは許容できるレベルのリスクで、これ以上の展開作業は有益でないと判断。
“Lucy”は太陽電池パネルの98%以上を展開していて、12年間の基本ミッションを完了するのに必要なエネルギーを十分供給できると判断しています。

“Lucy”ミッションの主な目的は、木星のトロヤ群に属する小惑星の探査を行うこと。
複数の小惑星を訪れることから、ミッションの期間は2021年から2033年までの12年間が予定されています。

木星のトロヤ群とは、木星の公転軌道を移動する小惑星のグループ。
太陽から見て、木星に対して60度前方あるいは60度後方の軌道に分布しています。
すなわち、太陽と木星の重力や小惑星のグループにかかる遠心力が均衡するラグランジュ点L4・L5付近を運動する小惑星のグループのことです。
最初に見つかった小惑星にトロイア戦争の英雄にちなんだ名前が付けられたことから“トロヤ群”と呼ばれています。
太陽(黄)を中心に、水星~木星までの惑星(白)と木星のトロヤ群に属する小惑星(緑)の位置を示したアニメーション。トロヤ群の小惑星は木星(Jupiter)に先行するL4点のグループと、後続するL5点のグループに分かれている。(Credit: Astronomical Institute of CAS/Petr Scheirich (used with permission))
太陽(黄)を中心に、水星~木星までの惑星(白)と木星のトロヤ群に属する小惑星(緑)の位置を示したアニメーション。トロヤ群の小惑星は木星(Jupiter)に先行するL4点のグループと、後続するL5点のグループに分かれている。(Credit: Astronomical Institute of CAS/Petr Scheirich (used with permission))

最初の探査対象は小惑星ディンキネシュ

木星のトロヤ群に属する小惑星は、初期の太陽系における惑星の形成・進化に関する情報が残された“化石”のような天体と考えられています。

これらの天体を間近で探査することから、ミッションと探査機の名前は、エチオピアで見つかった有名な化石人骨の“Lucy”にちなんで名付けられています。
ちなみに、ルーシーは約320万年前に生息していたアウストラロピテクス・アファレンシスの一体になります。

今回“Lucy”が初めて観測を行うディンキネシュは幅が約700メートルのS型小惑星ですが、打ち上げ時点での探査対象リストには含まれていませんでした。

打ち上げ後に小惑星帯で正確な軌道が判明している50万個の小惑星を調べてみると、“Lucy”がディンキネシュの近くを通過することが判明。
これにより、2023年1月の時点で探査対象として追加されるのですが、この時ディンキネシュはまだ仮符号の“1999 VD57”と呼ばれていました。

でも、運用チームが化石人骨であるルーシーのエチオピア名にちなんだ名前を提案したんですねー
この名前が国際天文学連合(IAU)に承認されたことで、正式にディンキネシュと命名されています。

周回軌道には入らず接近通過による観測

幾つもの小惑星を一度のミッションで探査するので、“Lucy”は小惑星を周回する軌道には入らずに通過しながら探査するフライバイ観測を行います。

ディンキネシュの探査は観測装置やシステムのテストと位置付けられていて、自律的に小惑星の位置を特定しながら観測装置の視野内に収め続けるための自動追尾システムがテストされます。

これは、地球からの電波が届くまでに約30分もかかるほど遠くを“Lucy”が飛行しているため。
この距離だと、小惑星との遭遇を対話的に指示することができないんですねー
そのため、科学観測を事前にプログラムしておくことになったわけです。
NASAが公開している“Lucy”によるディンキネシュのフライバイ観測を解説した動画(英語)。(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center)
NASAによると、“Lucy”は日本時間2023年11月2日1時54分に、ディンキネシュから430キロ以内の最接近点を通過します。

観測装置を搭載した架台は、最接近の2時間前に所定の位置へ移動。
その後、望遠カメラ“L’LORRI”と熱放射分光器“L’TES”による観測を開始します。

最接近の1時間前には“Lucy”の追跡システムによる小惑星の追跡が始まり、最接近の8分前からは可視光カラーカメラ“MVIC”と赤外線撮像分光器“LEISA”で構成される“L’Ralph”による観測も行われます。

最接近後も1時間にわたってディンキネシュの撮影が続けられ、その後も4日間は“L’ORRI”による撮影は定期的に行われます。

ディンキネシュのフライバイ探査を終えた“Lucy”は、2024年12月に地球フライバイを行って軌道を修正。
2025年には2つ目の探査対象である小惑星帯の小惑星ドナルドジョハンソン(Donaldjohanson)のフライバイ探査を行います。

その後は、2027年のエウリュバテス(Eurybates)とその衛星ケータ(Queta)をはじめ、ミッションの主目標である木星のトロヤ群の小惑星探査が行われる予定です。

ディスカバリー計画のミッションとして2017年に選定されたの“Lucy”。
このミッションは、NASAによる低コストで効率の良いミッションを目指したディスカバリー計画により、提案されていました。

ディスカバリーと言えば、1992年に当時のNASA長官が提唱した、「より速く、より良く、より安く」のスローガンを体現する計画。
過去のディスカバリー計画の探査ミッションには、小惑星“ベスタ”と準惑星“ケレス”を探査した“ドーン”、太陽系外惑星探査を行う“ケプラー”、彗星を探査した“メッセンジャー”などがあります。

そう、低コストのミッションなのに高パフォーマンス!
どれも素晴らしい結果を残しているんですねー

“Lucy”のミッションでも、太陽系の成り立ちやその経過の解明に役立つ発見があるはずです。

なお、探査を終えた“Lucy”は、地球近傍と木星のトロヤ群の間を往復するような軌道を、数十万年に渡り飛び続けることになります。

そんな“Lucy”には未来の人類に向けたメッセージとして、ノーベル文学賞受賞者、米国桂詩人、天文学者、ビートルズのメンバーらの言葉を刻んだメッセージプレート“Lucy Plaque”が搭載されているそうです。


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次の目標天体に到達するまで“クルージング サイエンス”を実施! 小惑星探査機“はやぶさ2”が約半世紀ぶりに黄道光を観測

2023年10月25日 | 太陽系・小惑星
2020年12月6日に地球帰還を果たした小惑星探査機“はやぶさ2”。
次の目標天体へ向かう拡張ミッション“はやぶさ2#(シャープ)”の航行中に、およそ半世紀ぶりに黄道光の観測を実施したそうです。

8月22日、内惑星領域における惑星間チリの分布を計測することに成功したことが、東京都市大学、関西学院大学、九州工業大学、JAXAの4者共同で発表されました。
今回の研究成果は、東京都市大学の津村耕司准教授、関西学院大学の松浦周二教授、九州工業大学の佐藤圭助教、同・瀧本幸司支援研究員、JAXA“はやぶさ2”ONCチームらの共同研究チームによるものです。
“はやぶさ2”での黄道光の観測イメージ。(イラスト:木下真一郎氏(出所:関西学院大・九工大共同プレスリリースPDF)
“はやぶさ2”での黄道光の観測イメージ。(イラスト:木下真一郎氏(出所:関西学院大・九工大共同プレスリリースPDF)

惑星間チリが太陽光を散乱することで生じる淡い光

共同研究チームでは、これまでに遠方銀河や初期宇宙から届く微弱な光“宇宙背景光”の観測を通して、初期宇宙での星形成史を探る研究を実施してきました。

でも、宇宙背景光の観測において最大の不定性要因になっていたのが、前景の明るい黄道光でした。

そこで、この不定性を低減させるため、黄道光の観測を行うことを目指します。

黄道光は、太陽系内に漂う惑星間チリが太陽光を散乱することで、天球上での太陽の平均的な通り道である黄道に沿った領域に生じる淡い光のこと。
黄道光は人間の目には淡い光ですが、宇宙背景光はさらに微弱な光になります。

黄道光を観測することで、太陽系内の最小天体である惑星間チリがどこで形成され、太陽系内をどのように移動しているのかを探ることができます。
惑星や小惑星などの探査とはまた別のアプローチで、太陽系のダイナミックな変化を知ることができるわけです。

黄道光は、惑星間チリによる太陽光の散乱光を視線方向に重ね合わせたもの。
これまでの観測は、主に地球の公転軌道から行われてきたので、手前と奥で散乱された光が重なってしまい、惑星間チリの空間分布を得ることができませんでした。

そのため、チリが太陽系内でどのように分布しているのかを理解するには、地球から離れた様々な場所から黄道光を調べる必要がありました。

目的地に到達するまで観測装置を活用する“クルージング サイエンス”

そこで、研究チームは効果的な観測方法を考えます。

それは、惑星間を航行する“はやぶさ2”を用いること。
“はやぶさ2”が小惑星“1998 KY26”へ向かう拡張ミッション“はやぶさ2#”(小惑星への到着は2031年を予定)において、目的地に到達するまで観測装置を温存するのではなく、積極的に活用する“クルージング サイエンス”でした。
黄道光の観測のイメージ。惑星間チリによる太陽光の散乱光を、視線方向の重ね合わせとして見えているのが黄道光。“はやぶさ2”は地球軌道の内側、0.7au~1.0auの範囲を航行している。(Credit: 出所:都市大Webサイト)
黄道光の観測のイメージ。惑星間チリによる太陽光の散乱光を、視線方向の重ね合わせとして見えているのが黄道光。“はやぶさ2”は地球軌道の内側、0.7au~1.0auの範囲を航行している。(Credit: 出所:都市大Webサイト)
この観測は、2021年~2022年にかけて光学航法望遠カメラ“ONC-T”を用いて、太陽からの距離(日心距離)0.7au~1.06auの範囲で実施。
そして、太陽系の内惑星領域で惑星間チリの分布情報を得ることに成功しています。
“はやぶさ2”が観測した画像の例(2022年8月29日、おうし座の方向)。“ONC-T”の視野サイズ(画角)は一辺6.27度と広く、この広い視野が空に大きく拡がった黄道光の観測に適している。このような観測がされた画像から、検出された星をマスクし、何も写っていない領域の明るさを導出することで黄道光が求められた。右図は明るい星を同定したもので、Tauはおうし座を表す。(出所:関西学院大・九工大共同プレスリリースPDF)
“はやぶさ2”が観測した画像の例(2022年8月29日、おうし座の方向)。“ONC-T”の視野サイズ(画角)は一辺6.27度と広く、この広い視野が空に大きく拡がった黄道光の観測に適している。このような観測がされた画像から、検出された星をマスクし、何も写っていない領域の明るさを導出することで黄道光が求められた。右図は明るい星を同定したもので、Tauはおうし座を表す。(出所:関西学院大・九工大共同プレスリリースPDF)
その結果、得られた観測データから、地球近傍での惑星間チリの濃度が“べき乗則”に従うことが明確に示されました。

べき乗則とは、ある観測量が別の観測量のべき乗に比例する関係のこと。
今回の場合は、惑星間チリの個数密度(n)が、太陽からの距離(r)のべき乗則に従う、つまり“n(r)∝r-α”の関係が成り立つことが示され、べき指数を正確に決めることができました(同式のべき指数はα)。
“はやぶさ2”が観測した黄道光の明るさの日心距離依存性。(出所:関西学院大・九工大共同プレスリリースPDF)
“はやぶさ2”が観測した黄道光の明るさの日心距離依存性。(出所:関西学院大・九工大共同プレスリリースPDF)
観測されたべき指数が示す惑星間チリの濃度は、惑星間チリの太陽への落下のみを考慮した標準的な理論と比べ、太陽に近付くほど予測より濃くなることを示していました。

この結果が示唆しているのは、惑星間チリの太陽への落下についての新たな物理があるか、地球近傍で惑星間チリが生成されるなどの知られていない天体現象があることでした。

これは、1970年代にNASAの探査機“パイオニア10号”、“パイオニア10号”、“ヘリオスA号”、“ヘリオスB号”が黄道光を観測して以来、約半世紀ぶりの成果。
地球近傍からの黄道光観測では得られない情報で、惑星間を航行する“はやぶさ2”を用いたからこそ達成できた成果といえます。

これを受け、“はやぶさ2”による黄道光観測(及びより発展的な観測)を今後も引き続き継続し、特に2028年に予定されている地球スイングバイ以降は、地球公転軌道の外側(1au~1.5auの範囲)での黄道光観測の実現を目指すそうです。

今回の研究成果は、惑星間チリの研究だけでなく、研究チームがもともと研究対象としていた、黄道光に埋もれた微弱な宇宙背景光を観測するためにも役立つはずです。
今回のメンバーを含む国際研究チームでは、2023年冬に打ち上げ予定のNASAのロケット実験“CIBER-2”や、将来の惑星探査機により、黄道光や宇宙背景光をさらに詳しく観測するそうですよ。


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