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なぜ、小さな小惑星カリクローでは安定して環が存在するのか? 羊飼い衛星が1つ存在し、環との軌道共鳴状態にあることが条件

2024年03月06日 | 太陽系・小惑星
カリクロー(Chariklo)は、環を持つことが知られている珍しい小惑星です。
ただ、直径約250キロと小さいカリクローに安定した環がどのようにして存在しているのか、その理由は分かっていません。

今回の研究では、シミュレーションを通じてカリクローの環が安定化する理由を探っています。
その結果、カリクローに直径約3キロの衛星が1つ存在すれば、観測結果と一致する細い環が形成されることが分かりました。

仮に衛星が存在するとしても、現在の観測技術では確認することは困難です。
それでも、本研究の成果は、他の環を持つ小さな天体の観測に、役立つものなのかもしれません。
この研究は、惑星科学研究所のAmanda A. Sickafooseさんとトリニティ大学のMark C. Lewisさんの研究チームが進めています。
図1、カリクローの環に接近して観察し、その近くに羊飼い衛星があった場合のイメージ図。(Credit: ESO, L. Calçada, M. Kornmesser & Nick Risinger)
図1、カリクローの環に接近して観察し、その近くに羊飼い衛星があった場合のイメージ図。(Credit: ESO, L. Calçada, M. Kornmesser & Nick Risinger)


惑星以外で環を持つことが確認された初の天体

太陽系の中で大きな4つの惑星“木星”、“土星”、“天王星”、“海王星”は、その周囲に環を持っています。

このような太陽系の惑星の存在から、巨大な天体であることが環を持つのに必要な条件だと考えられてきました。
でも、現在では、もっと小さな天体でも環を持つことが分かってきています。

その環を持つ小さな天体の一つが、10199番小惑星“カリクロー”です。

現在、カリクローには幅数キロの細い輪が2本見つかっています。
カリクローは惑星以外で環を持つことが確認された初の天体で、現在でも環を持つ天体としては最も小さなものになります。(※1)
※1.環を持つことが推定された最も小さな天体として、直径約170キロの小惑星“キロン”もあるが、発見から約10年が経過した現在でも、環が存在するかどうかは議論のある状態である。
これほど小さな天体が環を安定して持つことは予想外のことで、発見当時は驚きを持って迎えられました。


羊飼い衛星の存在が細い環を維持している

環を構成する小さな岩石や氷の粒子は、そのまま放置するとお互いに衝突・合体して、一塊の衛星になるはずです。

でも、天体からあまりにも近い距離にある場合には、天体の重力が働いて大きな塊は引き裂かれてバラバラになってしまいます。
このため、結果として衛星にはならず、環の材料として存在を続けることになります。
大きな衛星が存在できないこの限界は“ロシュ限界”と呼びます。

巨大惑星の主要な環はすべてロシュ限界の内側にあります。
ただ、小さな天体のロシュ限界は極めて狭いので、そのままでは天体自身に降り注いであっという間に消えてしまうことになります。
図2.土星のF環付近を公転する羊飼い衛星のプロメテウス(環の内側)とパンドラ(環の外側)。プロメテウスの重力でF環が影響を受けていることが分かる。(Credit: NASA, JPL & Space Science Institute)
図2.土星のF環付近を公転する羊飼い衛星のプロメテウス(環の内側)とパンドラ(環の外側)。プロメテウスの重力でF環が影響を受けていることが分かる。(Credit: NASA, JPL & Space Science Institute)
一方、カリクローが持つような細い環は巨大惑星にも見られていて、そのような環の維持には“羊飼い衛星”の関与が良く知られています。

ロシュ限界の中でも惑星から遠い場所の環は粒子同士の距離が広がって拡散し、やがて薄くなりすぎて見えなくなってしまいます。
でも、環のすぐ内側や外側を公転する小さな衛星が存在する場合には、衛星の重力が環の粒子の運動方向を変えて外に逃げ出さないようにするんですねー

その様子を“羊が逃げ出さないように見張っている羊飼い”に例えて、このような衛星を羊飼い衛星と呼んでいます。
さらに、羊飼い衛星は小さいので、ロシュ限界の中にあってもバラバラにならずに存在することができます。

カリクローの細い環の維持が、羊飼い衛星による影響だと考えるのは、実例を考えると合理的な判断だといえます。

ただ、カリクロー周辺の環境は、巨大惑星周辺とは全く異なっています。
また、どれくらいの大きさの羊飼い衛星が存在すればいいのか、その個数はいくつ必要なのかなど、環が安定して存在するための条件はほとんど分かっていません。


3本目の環が羊飼い衛星が存在することの間接的な証拠となる

今回の研究では、多体問題をシミュレーションすることで、カリクローが持つ細い環の疑問の解決を試みています。

これは、多数の天体がお互いに及ぼし合う重力の影響を数学的に解く手法です。
でも、簡単に解く方法が存在せず、計算能力の高いコンピュータを使わなければ解析できないことで知られていました。
研究チームでは、この困難な問題に取り組むことになります。

結果、明らかになったのは、羊飼い衛星の存在がカリクローの環の維持を最もよく説明できることでした。
衛星を持たない場合だと、カリクローの環はもっと薄く幅が広いものになり、これは観測結果とは合わないものになります。

一方、衛星のサイズがあまりに大きいと環が細くなりすぎてしまい、実際には観測できなくなってしまうことも分かりました。
図3.カリクローに羊飼い衛星が存在すると仮定した場合のシミュレーション結果(幅を強調)。環の内側にあっても(上側)外側にあっても(下側)、細い環が形成されている。興味深いことに、シミュレーションではもう一つのより薄い環が外側に形成されている。(Credit: Amanda A. Sickafoose & Mark C. Lewis.)
図3.カリクローに羊飼い衛星が存在すると仮定した場合のシミュレーション結果(幅を強調)。環の内側にあっても(上側)外側にあっても(下側)、細い環が形成されている。興味深いことに、シミュレーションではもう一つのより薄い環が外側に形成されている。(Credit: Amanda A. Sickafoose & Mark C. Lewis.)
研究チームでは、質量が300億トンの衛星が1つだけ存在し、環との軌道共鳴状態(※2)にあったとすれば、観測結果と一致する細い環が安定して存在できることを突き止めています。
※2.この場合の軌道共鳴状態とは、カリクローにおいて環の公転周期と衛星の公転周期が簡単な整数比となる関係。
衛星の推定直径は約3キロと小さいので、現在の観測技術では発見されることは無いはずです。

今回のシミュレーションでは、環と衛星の公転周期が整数比とならない場合には、衛星が存在していても環が薄くなってしまうことが分かっています。

興味深いことに、今回のシミュレーション結果によれば、カリクローの環はすでに発見されている2本に加え、より薄い環がもう1本存在する可能性が示されています。
しかも、その3本目の環の位置は、ロシュ限界の外側になると考えられます。

ロシュ限界の外側では、環は一塊の衛星となってしまうので安定して存在できないはずです。
このため、もしカリクローに外側の3本目の環が見つかると、羊飼い衛星が存在することの間接的な証拠となるかもしれません。

また、2023年には50000番小惑星の“クワオアー”にも環が発見され、この環はロシュ限界の外側で発見された初めてのものになりました。

クワオアーには衛星“ウェイウォット”があり、ロシュ限界の外側に環があるのは、衛星の影響だとする説もあります。
このため、今回のシミュレーション研究は、環を持つほかの天体にも影響するのかもしれません。

一方、研究チームでは、別のシナリオについても検討しています。

もし、カリクロー本体の質量の分布に偏りがあり、自転によって重力の強さが極端に変化する場合、羊飼い衛星が存在する場合と似たような環境が生まれることになります。

ただ、カリクローの形はある程度知られていて、重力に極端に変化するようないびつな形状をしていないことが分かっています。
なので、このシナリオが正しい場合には、カリクロー内部に高密度な芯が存在し、その位置が中心からズレていることになります。

このシナリオは、シミュレーションで検証されていないので、正しいかどうかは不明です。
研究チームでは、このシナリオについてもさらなるシミュレーションを行って検討を進めて行くそうです。


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木星へ向けて! NASAの小惑星探査機“Lucy”が地球スイングバイのためのエンジン燃焼に成功

2024年02月10日 | 太陽系・小惑星
NASAの小惑星探査機“Lucy(ルーシー)”は2月3日、地球への接近に向けて重要となるエンジン燃焼を成功させました。
図1.NASAの小惑星探査機“Lucy(ルーシー)”のイメージ図。(Credit: NASA)
図1.NASAの小惑星探査機“Lucy(ルーシー)”のイメージ図。(Credit: NASA)
“Lucy”は、2021年10月16日にユナイテッド・ローンチ・アライアンスの“アトラスV-401”ロケットに搭載され、ケープカナベラル空軍基地から打ち上げられた探査機です。

“Lucy”ミッションの主な目的は、木星のトロヤ群に属する小惑星の探査を行うこと。
複数の小惑星を訪れることから、ミッションの期間は2021年から2033年までの12年間が予定されています。

木星のトロヤ群とは、木星の公転軌道を移動する小惑星のグループ。
太陽から見て、木星に対して60度前方あるいは60度後方の軌道に分布しています。
すなわち、太陽と木星の重力や小惑星のグループにかかる遠心力が均衡するラグランジュ点L4・L5付近を運動する小惑星のグループのことです。
最初に見つかった小惑星にトロイア戦争の英雄にちなんだ名前が付けられたことから“トロヤ群”と呼ばれています。
図2.太陽(黄)を中心に、水星~木星までの惑星(白)と木星のトロヤ群に属する小惑星(緑)の位置を示したアニメーション。トロヤ群の小惑星は木星(Jupiter)に先行するL4点のグループと、後続するL5点のグループに分かれている。(Credit: Astronomical Institute of CAS/Petr Scheirich (used with permission))
図2.太陽(黄)を中心に、水星~木星までの惑星(白)と木星のトロヤ群に属する小惑星(緑)の位置を示したアニメーション。トロヤ群の小惑星は木星(Jupiter)に先行するL4点のグループと、後続するL5点のグループに分かれている。(Credit: Astronomical Institute of CAS/Petr Scheirich (used with permission))
探査機が惑星の近傍を通過するとき、その惑星の重力や公転運動量などを利用して、速度や方向を変える飛行方式があります。

この飛行方式の特徴は、燃料を消費せずに軌道変更と加速や減速が行えることにあります。
積極的に軌道や速度を変更する場合を“スイングバイ”、観測に重点が置かれる場合を“フライバイ”と言い、使い分けています。

2月3日、“Lucy”は2回目の地球スイングバイに向けて、36分間にわたりメインエンジンを噴射し地球に接近する軌道に入りました。
スイングバイが成功すれば、“Lucy”は現在の火星と木星の間の小惑星帯をかすめる軌道から、木星付近に探査機を移動させる軌道へ入ることになります。

推進剤の半分を使い果たした“Lucy”は、地球の重力を利用して史上初めてトロヤ群の小惑星へ向かうことになります。
図3.NASAの小惑星探査機“Lucy(ルーシー)”の予定軌道。(Credit: NASA/Goddard/SwRI)
図3.NASAの小惑星探査機“Lucy(ルーシー)”の予定軌道。(Credit: NASA/Goddard/SwRI)
地球スイングバイを行って軌道を修正した“Lucy”は、2025年には2つ目の探査対象である小惑星帯の小惑星ドナルドジョハンソン(Donaldjohanson)のフライバイ探査を行います。

幾つもの小惑星を一度のミッションで探査する“Lucy”は、小惑星を周回する軌道には入らず、通過しながら探査するフライバイ観測を行うんですねー

その後は、2027年のエウリュバテス(Eurybates)とその衛星ケータ(Queta)をはじめ、ミッションの主目標である木星のトロヤ群の小惑星探査が行われる予定です。

ディスカバリー計画のミッションとして2017年に選定された“Lucy”。
このミッションは、NASAによる低コストで効率の良いミッションを目指したディスカバリー計画により、提案されていました。

ディスカバリーと言えば、1992年に当時のNASA長官が提唱した、「より速く、より良く、より安く」のスローガンを体現する計画。
過去のディスカバリー計画の探査ミッションには、小惑星“ベスタ”と準惑星“ケレス”を探査した“ドーン”、太陽系外惑星探査を行う“ケプラー”、彗星を探査した“メッセンジャー”などがあります。

そう、低コストのミッションなのに高パフォーマンス!
どれも素晴らしい結果を残しているんですねー

“Lucy”のミッションでも、太陽系の成り立ちやその経過の解明に役立つ発見があるはずです。


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太陽系外縁天体の偏った軌道はダークマターが無くても修正ニュートン力学で説明できる!? 未発見の第9惑星の存在は不要かも

2023年12月19日 | 太陽系・小惑星
正体不明の“ダークマター”(※)を仮定せずに宇宙の重量の謎を説明できるとされる“修正ニュートン力学”は興味深い仮説ですが、あまり多くの支持を受けていません。
※.ダークマターは暗黒物質とも呼ばれ、光などの電磁波では観測することができず、重力を介してのみ間接的に存在を知ることができる物質。
特に、恒星や銀河程度のスケールと比べて距離が短い太陽系程度のスケールにおける修正ニュートン力学の効果は、これまでに説明されたことがありませんでした。

今回の研究では、修正ニュートン力学の下で、太陽系外縁天体の公転軌道のシミュレーションを実施し、軌道に偏りが生じたことを明らかにしています。

そう、太陽系外縁天体の偏った軌道を未発見の第9惑星“プラネットX”なしで説明できた訳です。

このことは、短い距離における修正ニュートン力学の効果を示した初めての事例。
さらに、太陽系外縁天体に未知の惑星が存在するとする“プラネットX”説を否定するものでもありました。

ただ、前提となるデータ量の限界から、この結果が偶然生じたものである可能性は削除できず…
容易に覆るかもしれないそうです。
この研究は、ハミルトン大学のKatherine Brownさんとケース・ウェスタン・リザーブ大学のHarsh Mathurさんの研究チームが進めています。
図1.プラネットXのイメージ図。(Credit: Caltech, R. Hurt (IPAC))
図1.プラネットXのイメージ図。(Credit: Caltech, R. Hurt (IPAC))

ダークマターは存在していない

宇宙は正体不明の“ダークマター(26.8%)”と“ダークエネルギー(68.3%)”で満たされていて、身近な物質である“バリオン(陽子や中性子などの粒子で構成された普通の物質)”は、宇宙の中にわずか4.9%しか存在しないことが分かってきています。

暗黒物質が発見されるきっかけになったのは、銀河の回転速度でした。

銀河内を公転している星々は、遠心力と重力が釣り合っているから飛び出すことなく公転できるはずです。

でも、実際の観測結果をもとに銀河の質量と回転速度を算出してみると、銀河を構成する星々やガスなどの総質量だけでは釣り合いが取れないほどの速度で回転していることが分かりました。

そこで、銀河を構成する星がバラバラにならず形をとどめている原因を、光をはじめとする電磁波と相互作用せず直接観測することができない物質の重力効果に求めたのが“ダークマター説”の始まりになっています。
図2.さんかく座銀河における理論的な回転速度(下側の曲線)と実際に観測された回転速度(上側の曲線)。主流な説では、このズレを光をはじめとする電磁波と相互作用せず直接観測することができない物質“ダークマター”の重力効果に求めているが、修正ニュートン力学で説明する試みもある。(Credit: Stefania.deluca)
図2.さんかく座銀河における理論的な回転速度(下側の曲線)と実際に観測された回転速度(上側の曲線)。主流な説では、このズレを光をはじめとする電磁波と相互作用せず直接観測することができない物質“ダークマター”の重力効果に求めているが、修正ニュートン力学で説明する試みもある。(Credit: Stefania.deluca)
でも、長年にわたって研究や観測実験が行われてきたのですが、ダークマターの正体は判明せず…
検出はおろか候補の絞り込みにも苦労しているのが実情です。
大多数の科学者は、ダークマターの正体が何であれ、現在広く認められている物理学の理論を大幅に修正しなければならないと考えています。

ただ、少数の科学者が考えているのは、「そもそもダークマターは存在しないのではないか?」ということ。
この場合だと修正すべきなのは重力理論ということになります。

提案されている修正重力理論の1つに“修正ニュートン力学”があります。

修正ニュートン力学では、物体の運動を記述するニュートンの運動方程式に修正を加えることで、“重力は距離の2乗に反比例して弱くなる”という逆2乗則は厳密には正しくなく、遠距離では1条の反比例に遷移していくと仮定しています。

修正ニュートン力学が正しい場合、ダークマターの存在を考慮する必要はなくなります。
でも、修正ニュートン力学は厳しい検証に耐えてきた一般相対性理論を否定するものなので、あまり多くの支持を集めているとは言えないんですねー

また、修正ニュートン力学は数百億キロ程度の距離…
つまり、太陽系の内部程度の範囲では逆2条則が成り立っているように見えるので、検証は困難を極めていました。

未発見の第9惑星“プラネットX”説と矛盾する修正ニュートン力学

今回の研究では、修正ニュートン力学が太陽系外縁部にまつわる別の謎である未発見の第9惑星“プラネットX”説と矛盾しているのではないかと考え、シミュレーションによる研究を行っています。

太陽系の8つの惑星のうち、最も外側を公転している海王星の公転軌道のさらに外側。
そこには“太陽系外縁天体”と呼ばれる天体が無数にあります。

これらの公転軌道を調べてみると、本来であれば全方向に等しく天体が分布しているはずなのに、実際には特定の方向に分布しているという偏りが生じていることが分かります。

この偏った軌道は、太陽系外縁部にまだ見つかっていない大きな質量を持つ天体が存在していて、太陽系外縁天体の公転軌道を重力を介して乱している っと考えれば説明できます。

指定される質量及び周囲の天体を一掃しているという性質は、2006年に決議された太陽系の惑星の定義を満たすため、この惑星は未知の第9惑星“プラネットX”と呼ばれています。

でも、今のところプラネットXは発見されておらず…
実際には存在していないと考える研究者もいます。

そこで、研究チームが考えたのは、この未発見の第9惑星“プラネットX”説が修正ニュートン力学と矛盾していることでした。
研究では、太陽系外縁天体の公転軌道の変化を、修正ニュートン力学による重力場の仮定の下でシミュレーションし、その結果を実際の観測結果と比較しています。
図3.6つの太陽系外縁天体の公転軌道(紫色の楕円)の長軸は、天の川銀河の中心方向(青色矢印)に向いている。今回の研究結果は、この偏りの原因がプラネットXの重力場の影響ではなく、修正ニュートン力学における天の川銀河の影響だと結論付けている。(Credit: Brown & Mathur)
図3.6つの太陽系外縁天体の公転軌道(紫色の楕円)の長軸は、天の川銀河の中心方向(青色矢印)に向いている。今回の研究結果は、この偏りの原因がプラネットXの重力場の影響ではなく、修正ニュートン力学における天の川銀河の影響だと結論付けている。(Credit: Brown & Mathur)
シミュレーションの結果示されたのは、太陽系外縁天体は天の川銀河の重力場の影響を受けて、楕円軌道の長軸(長い方の軸)が天の川銀河の中心方向に向くこと。
この結果は、90377番小惑星セドナのように、楕円形をしていることが高い精度で判明している6つの太陽系外縁天体の公転軌道とよく一致していました。

このことは、太陽系の内部という短距離でも修正ニュートン力学が働いていることを示した初めての研究結果になりました。
修正ニュートン力学に基づけば、プラネットXは存在しないという可能性を示すものになります。
ただ、この研究結果を持って修正ニュートン力学が正しい っということにはならないようです。

その理由は、今回の研究で用いられた公転軌道のデータが検証に使えるほどには精度が高くなく、単にシミュレーション結果が現実と偶然一致しただけの可能性が排除できないからです。

さらに、修正ニュートン力学自体も、他の方法での検証で厳しい立場に晒されているので、修正ニュートン力学そのものが否定される可能性も大いにあります。

このことから、今回の研究結果は容易に覆るかもしれないわけです。

また、プラネットXの存在は、修正ニュートン力学を仮定しなくても否定することができるかもしれません。

太陽系外縁天体は文字通り外縁部という遠方にあるので、観測が極めて困難です。

プラネットXの存在の根拠となっている公転軌道の偏りは、太陽系外縁天体の観測数が少ないことに起因する観測バイアスで生じていることも十分考えられます。

ダークマター、修正ニュートン力学、プラネットXといった各問題に答えを出すには、まだまだ観測や研究が必要なようですね。


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なぜ小惑星リュウグウの見え方は宇宙と実験室で違うのか? “現地観測”と“サンプルリターン後の分析”の組み合わせで得られた成果

2023年12月09日 | 太陽系・小惑星
JAXAの小惑星探査機“はやぶさ2”は、2020年12月に小惑星リュウグウ(162173 Ryugu)のサンプルを地球に持ち帰ってきました。

“はやぶさ2”が探査した“リュウグウ”は、NASAの“オシリス・レックス”が探査した小惑星“ベンヌ”と同じ有機物(炭素を含む化合物)や水を多く含む“C型小惑星”と呼ばれる天体に分類されます。

このような天体には、太陽系形成時の情報が残されていると考えられ、サンプルの分析から地球や生命の起源に迫る情報が得られると期待されています。

今回の研究では、“はやぶさ2”がリュウグウを観測した可視光線に含まれる近赤外線の反射スペクトルと、実験室で測定したリュウグウ粒子の反射スペクトルとを比較。
すると、小惑星リュウグウの反射スペクトルが、リュウグウで観測したデータと地球に持ち帰れたサンプルの分析とで違いが見られたんですねー

どうやら、この違いの原因は、リュウグウのようなタイプの小惑星では、宇宙風化が進みやすいことにあるようです。
この研究は、産総研地質調査総合センターの松岡萌さんたちの研究チームが進めています。

“C型小惑星”は太陽系形成時の情報を内包したタイムカプセル

太陽系に存在するほぼ全ての物質は、46億年前の太陽系創世の際に、その元になった星間分子雲に存在した物質から形成されたものになります。
中には、別の恒星系からやってきて太陽系に居ついた物質がある可能性もありますが…

でも、どのような化学物質がどのように変化したのかなど、宇宙における分子進化に関しては、まだ多くの謎が残されています。

星間分子雲に存在する水やアンモニア、メタノールなどの比較的単純な構造を持つ分子は、極低温(-263度)環境での光化学反応によって、より複雑な構造を持つアミノ酸や糖などの複雑な生体関連分子へと変化していきます。

そして、その一部は惑星系形成時に星の材料として取り込まれていくことになります。

それゆえ、有機分子を多く含むC型小惑星や、そのかけらである炭素質コンドライト隕石は、46億年前の太陽系形成時の情報を内包したタイムカプセルとして重要視されています。

地球へのサンプルリターンを成し遂げた“はやぶさ2”が探査した小惑星“リュウグウ”、NASAの“オシリス・レックス”が探査してた小惑星“ベンヌ”も“C型小惑星”と呼ばれる炭素質の小惑星になります。

そう、“はやぶさ2”や“オシリス・レックス”は、C型小惑星からのサンプルリターンのために、それぞれの小惑星に向かったわけです。

分析結果が小惑星と実験室で違う理由

今回の研究では、リュウグウで取得した粒子のうち大きさが1~8mmの比較的大きなものに対して、反射スペクトル測定など様々な分析を行っています。

反射スペクトル測定は、ターゲットを破壊せずに表面の物質情報を調べることができる分析手法として、実験室から宇宙空間まで広く利用されています。

“はやぶさ2”が、リュウグウを間近で直接探査し取得した反射スペクトルからは、リュウグウはC型小惑星(※1)のうち、特にCb型と呼ばれるタイプであることが示されています。
※1.C型小惑星は、さらにb型小惑星、f型小惑星、g型小惑星に分類され、NASAの小惑星探査機“オシリス・レックス”が探査を行った“ベンヌ”もC型の中ではb型小惑星に分類される。
Cb型は炭素質物質に加えて水和鉱物や粘土を含む小惑星で、CIコンドライトという始原的な炭素質隕石によく似た物質で構成されています。
(左下)採取されたリュウグウのサンプル。(右)“はやぶさ2”が撮影したリュウグウの表面。(提供:M. Matsuoka et al. 2023の図を引用・改変。JAXA, 東京大学, 高知大学, 立教大学, 名古屋大学, 千葉工業大学, 明治大学, 会津大学, 産業技術総合研究所)
(左下)採取されたリュウグウのサンプル。(右)“はやぶさ2”が撮影したリュウグウの表面。(提供:M. Matsuoka et al. 2023の図を引用・改変。JAXA, 東京大学, 高知大学, 立教大学, 名古屋大学, 千葉工業大学, 明治大学, 会津大学, 産業技術総合研究所)
研究では、“はやぶさ2”がリュウグウを観測した可視光線に含まれる近赤外線の反射スペクトルと、実験室で測定したリュウグウ粒子の反射スペクトルとを比較。
すると、明るさやスペクトルの傾きなどの特徴はよく似ている一方で、水を含む粘土鉱物である含水ケイ酸塩の存在を示すOH吸収の深さに2倍以上の違いが見られました。

研究チームは、観測データと測定データの不一致の要因として、宇宙風化度の強弱、粒子の大きさの違い、粒子間の隙間の程度という3つの可能性を挙げています。

次に、これらの要因を実験的に再現して反射スペクトルの変化の調査を実施。
すると、宇宙風化作用を受けてリュウグウの表面で結晶レベルの脱水が進んでいた影響が、最も大きいと考えられることが示されます。
リュウグウ表面とリュウグウ粒子の代表的な反射スペクトル。波長2.7μm付近のOH吸収の部分に大きな差が見られる。(提供:M. Matsuoka et al. 2023の図を引用・改変)
リュウグウ表面とリュウグウ粒子の代表的な反射スペクトル。波長2.7μm付近のOH吸収の部分に大きな差が見られる。(提供:M. Matsuoka et al. 2023の図を引用・改変)
また、S型小惑星イトカワとの比較から分かったのは、Cb型小惑星ではどこも均一に宇宙風化が進むのが、S型小惑星では一部が風化せずに残ること。
このことから、Cb型小惑星はS型小惑星よりも、宇宙風化が進みやすいのかもしれません。

今回の結果は、“探査機による小惑星での観測”と“地球でのサンプル分析”の組み合わせにより得られたもので、サンプルリターンの重要性を示す画期的な成果になります。

9月末にはNASAの小惑星探査機“オシリス・レックス”が、小惑星ベンヌのサンプルを地球に持ち帰ったばかりです。

Cb型の小惑星に分類されるベンヌのサンプル分析が進み、リュウグウやイトカワと比較研究されることで、新しい知見が得られるはず。
小惑星の形成や進化過程、さらには地球の水や生命の起源といった、太陽系科学に大きな進展がもたらされるといいですね。


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太陽系は今より1万光年先、銀河中心に近い場所で誕生した!? なぜ現在地に大移動できたかは今後の研究に期待

2023年11月25日 | 太陽系・小惑星
今回の研究では、独自の理論モデルを用いて、天の川銀河における主要な元素の循環過程を調査。
その結果、太陽系は約46億年前に現在の位置よりも1万光年ほど銀河中心に近い領域で誕生し、長い年月をかけて現在の位置まで移動しながら進化してきたことが示唆されました。

さらに、この研究では天の川銀河全体における惑星材料物質の分布の予測にも成功。
これにより、天の川銀河の内側では大型の惑星が形成されやすく、一方外側では水を豊富に含む小さな岩石惑星が多数できる可能性が示唆されたそうです。

この研究成果は、鹿児島大学 天の川銀河研究センターの馬場淳一特任準教授、神戸大学大学院 理学研究科の斎藤貴之準教授、国立天文台 科学研究部の辻本拓司助教たちの共同研究チームによるもの。
11月14日に鹿児島大学、神戸大学、国立天文台の3者が共同で発表し、詳細は英国王立天文学会が刊行する天文学術誌“Monthly Notices of the Royal Astronomical Society”に掲載されました。
図1.今回の研究の概念図。現在、太陽系は天の川銀河の中心から約2万7000光年先に位置しているが、誕生時には1万光年ほど銀河中心に近かった可能性が高い。現在の太陽系の位置に関しては、2万5000光年前後や2万6000光年弱など複数の説があるが、今回のリリースではこの値が採用されている。(Credit: NAOJ(出所:神戸大Webサイト))
図1.今回の研究の概念図。現在、太陽系は天の川銀河の中心から約2万7000光年先に位置しているが、誕生時には1万光年ほど銀河中心に近かった可能性が高い。現在の太陽系の位置に関しては、2万5000光年前後や2万6000光年弱など複数の説があるが、今回のリリースではこの値が採用されている。(Credit: NAOJ(出所:神戸大Webサイト))

太陽系は銀河中心近くで生まれていた

宇宙には最初、水素、ヘリウム、リチウムなどの軽い元素しか存在していませんでした。
そこから、恒星内の核融合や超新星爆発、中性子星同士の合体などのプロセスを経て、それぞれの銀河における重元素量(※)が増加する進化が起こっていきました。
※.天文学では、水素とヘリウムよりも重い元素のことを“重元素”と呼び、水素に対する重元素の割合は重元素量と呼ぶ。重元素は恒星内部の核融合反応により生成され、恒星の死に伴い星間空間へと放出される。なので、星の生と死のサイクルが十分に繰り返されていない初期の宇宙では、現在の宇宙に比べて重元素量が低かったと考えられている。
重元素は、星が生まれ変わるごとに増加していくことから、こうした銀河内での元素の循環は“銀河化学進化”と呼ばれます。

銀河中心領域の上下に膨らんだバルジ内では、余りにも星が密集しているので、夜でも昼間のように明るいと言われています。
そう、それだけ星が多いと超新星爆発などの発生頻度も高くなってくるので、中心部の方が“郊外”よりも重元素の量が早く増えることになります。

これまで、太陽系は天の川銀河において中心から2万4000光年~2万7000光年離れた郊外で誕生し、中心からの距離を大きく変えることなく公転してきたと考えられてきました。

でも、およそ46億年前に郊外で誕生した惑星系にしては、重元素の含まれる割合がとても多いことが分かってきたんですねー
その割合の高さから考えると、より中心部に近い星の過密地帯(棒状構造の回転範囲とされる)で生まれた可能性があると提唱する研究成果が報告されています。

銀河内の重元素の供給過程

今回の研究で目指しているのは、天の川銀河の化学進化の理論モデルを作り、太陽系が生まれた領域を解明すること。
それと同時に、天の川銀河の様々な場所で、どのような惑星系が誕生する可能性があるのかも推定しています。

太陽のような小質量星の場合、核融合反応は水素からヘリウムでほぼ終わり、最終盤にヘリウムの暴走的な核融合反応であるヘリウムフラッシュが起きて、炭素までは生成されると考えられています。

それに対して、質量が太陽の8倍以上の大質量星は、その先も核融合反応を続け、宇宙で最も安定した元素である鉄までが生成されます。

ただ、鉄より重い元素は恒星の中心部では生成されないんですねー
それは、鉄の核融合反応ではエネルギーが放出されないので、鉄を生成するようになった恒星は自重を支えきれずに超新星爆発を起こしてしまうからです。

このため、鉄よりも重い元素は超新星爆発などの激しい現象にともなって生成されると考えられています。

つまり、銀河内の重元素の供給過程は、どれだけの質量の星が、どの数だけ、そしてどれだけのペースで誕生したかで変わってくることになります。

星形成の歴史によって、宇宙空間に存在する元素の組成が異なることから、同じ銀河内でも領域によって元素の種類と量に差異が生じてきます。

特に、天の川銀河の中心部では重元素が多く、活発な星形成が行われているようです。

なぜ太陽系は大移動できたのか

今回の研究では、それぞれで異なる星の進化プロセスを考慮した銀河化学進化モデルを構築。
約46億年前の太陽系の重元素量に合う領域を探しています。

その結果、46億年前に太陽系と同じ重元素量に達しているのは、天の川銀河の中心から約1万6千光年の領域だと判明。
これにより、太陽系は現在よりも約1万光年ほど内側で形成された可能性が示唆されました。
図2.(左)今回の天の川銀河の化学進化の理論モデル。(右)天の川銀河中心からの様々な距離における重元素量(鉄と水素の割合)の時間変化の様子。天の川銀河は内側ほど早い時期に星形成活動が活発になり、重元素量が早い段階で増加した。重元素量の変化の様子を各距離ごとに計算して、誕生当時の太陽系の重元素量に到達する距離は、天の川銀河中心から1.3万光年~2万光年の間であることが見出された。現在、太陽系は中心から約2.7万光年の距離に位置しているので、誕生から46億年の間に約1万光年ほど外側に移動してきたと予測される。(出所:神戸大Webサイト)
図2.(左)今回の天の川銀河の化学進化の理論モデル。(右)天の川銀河中心からの様々な距離における重元素量(鉄と水素の割合)の時間変化の様子。天の川銀河は内側ほど早い時期に星形成活動が活発になり、重元素量が早い段階で増加した。重元素量の変化の様子を各距離ごとに計算して、誕生当時の太陽系の重元素量に到達する距離は、天の川銀河中心から1.3万光年~2万光年の間であることが見出された。現在、太陽系は中心から約2.7万光年の距離に位置しているので、誕生から46億年の間に約1万光年ほど外側に移動してきたと予測される。(出所:神戸大Webサイト)
天の川銀河の内側領域は星形成活動が活発で、超新星爆発も頻発し、巨大なガス雲も多く存在しています。

もし、太陽系が現在よりも天の川銀河の中心近くで生まれて留まり続けていた場合は、今よりも頻繁に巨大ガス雲と遭遇したり、近隣の超新星爆発からの強力な宇宙線に晒され、生命の誕生や進化に影響があった可能性があります。

このような、まるで地雷地帯のような危険領域を通り抜けて、外側へ向かい運よく郊外まで避難できたから、地球の生命は安全な環境で生存できるようになったとも考えられます。

さらに、今回の研究では、天の川銀河の化学進化から、銀河内で形成される惑星系の多様性の予測も得られています。

天の川銀河の内側ほど惑星の材料物質が豊富なことから、巨大ガス惑星を持つ惑星系が誕生しやすい可能性があります。
同じく内側ほど鉄の相対含有量も高いので、鉄コアの大きな岩石惑星が形成される可能性があり、外側では水の豊富な惑星系が誕生する可能性があるそうです。

もし、太陽系が全く異なる場所で誕生していた場合、含まれる重元素の組成も全く異なることが予想され、それに応じて惑星系の形成や生命の発生も異なっていたかもしれません。
図3.今回の天の川銀河の化学進化の理論モデルに基づく、惑星材料物質の空間分布を時間変化で表したもの。(左)天の川銀河の内側ほど惑星材料物質の総量が多く、巨大ガス惑星を持つ惑星系が誕生しやすい可能性がある。(中)同じく内側ほど鉄の相対含有量が高く、大きな鉄コアを持つ岩石惑星が誕生しやすい可能性がある。(右)外側ほど鉄に対する酸素の相対含有量が高く、水を豊富に含む惑星が形成されやすい可能性がある。(出所:神戸大Webサイト)
図3.今回の天の川銀河の化学進化の理論モデルに基づく、惑星材料物質の空間分布を時間変化で表したもの。(左)天の川銀河の内側ほど惑星材料物質の総量が多く、巨大ガス惑星を持つ惑星系が誕生しやすい可能性がある。(中)同じく内側ほど鉄の相対含有量が高く、大きな鉄コアを持つ岩石惑星が誕生しやすい可能性がある。(右)外側ほど鉄に対する酸素の相対含有量が高く、水を豊富に含む惑星が形成されやすい可能性がある。(出所:神戸大Webサイト)
研究チームが考えているのは、太陽系の大移動には、天の川銀河の渦状腕構造や棒状構造の性質が密接にか関わっているということ。
今後の研究により、天の川銀河の詳しい構造や成り立ちが解明されると、太陽系の大移動についての手掛かりや疑問に対する答えが得られるかもしれません。


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