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宇宙のはなしと、ときどきツーリング

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一番の理由は打ち上げ頻度の向上! ロケットラボ社が超小型ロケット“エレクトロン”の回収試験に成功。

2020年11月28日 | 宇宙へ!(民間企業の挑戦)
アメリカの宇宙企業ロケットラボ社が、打ち上げたロケットの第1段機体を回収する試験に成功しました。
回収された第1段機体を再使用できれば、打ち上げコストを下げることができます。
ただ、ロケットラボ社が目指しているのは、第1段機体の回収と再使用による打ち上げ頻度の向上なんですねー
これは、衛星の打ち上げ需要に対して、ロケットの製造が追いつかないということが理由でした。
今回の試験で第1段ロケットは太平洋上に着水するのですが、最終的なゴールはヘリコプターを用いた回収。
この成功により実現に一歩近づいたようです。

なぜロケットを再使用するのか

ロケットラボ社はアメリカの宇宙企業で、小型・超小型衛星を打ち上げることを目的とした超小型ロケット“エレクトロン”を開発・運用しています。

これまでに打ち上げられた“エレクトロン”は16機。
このうち15機が成功し、失敗は1号機のみで2号機以降は連続して打ち上げに成功しています。

これによりロケットラボ社は、小型・超小型の商業打ち上げ市場におけるリーダーとして確固たる地位を築いています。

でも、その一方で世界中で高まる小型・超小型衛星の打ち上げ需要に対して、ロケットの製造が追いつかないという課題を抱えることに…
さらに、アメリカを中心に複数の企業が近い性能のロケットの開発を進めていて、今後競争が激化することが予想されていました。

そこで、ロケットラボ社が2019年に発表したのは、“エレクトロン”の第1段機体を回収し再使用できるようにすることで、打ち上げ頻度を高める計画でした。

ロケットの回収と再使用というと、スペースX社のロケット“ファルコン9”がすでに実用化しています。

ただ、スペースX社の再使用は、打ち上げコストを低減するためのもの。
これに対してロケットラボ社は、あくまで打ち上げ頻度の向上が目的で、打ち上げコストの低減は副次的なものとされています。

ロケットの回収方法

ロケットの回収方法でも、スペースX社とロケットラボ社では大きく異なっています。

“ファルコン9”はロケット・エンジンを噴射しながら高度を下げていき着陸するのに対して、“エレクトロン”では翼の形をしたパラシュート“パラフォイル”を使って降下し、ヘリコプターにより空中で捕まえる方法をとっています。
ブルー・オリジン社が開発している“ニューシェパード”も、ブースターはロケット・エンジンを噴射しながら着陸する。

2019年12月と2020年1月に行った“エレクトロン”の打ち上げでは、第1段機体に誘導・航法システムやテレメトリー・システム、コンピュータ、そしてスラスターなど、回収に必要なハードウェアやシステムを搭載。
実際に打ち上げ後の第1段機体を大気圏に再突入させ、実証試験を行っています。

さらに、今年の4月には、ヘリコプターから“エレクトロン”の第1段機体を模した試験機を投下。
パラフォイルを展開し降下している試験機を、別のヘリコプターで捕まえるという試験を実施しています。

そして、今回は実際の打ち上げを利用し、想定している回収方法とほぼ同じ流れの試験を実施。
ただし、ヘリコプターでの回収は除かれていました。

この試験のミッション名は“Return to Sender(差出人に返送)”。
打ち上げに用いられた“エレクトロン 16号機”の第一段機体は、差出人の元に届くのでしょうか?
“エレクトロン 16号機”によるReturn to Senderミッションの打ち上げ。(Credit: Rocket Lab)
“エレクトロン 16号機”によるReturn to Senderミッションの打ち上げ。(Credit: Rocket Lab)
2020年11月20日12時20分(日本時間)、“エレクトロン 16号機”はニュージーランドのマヒア半島にあるロケットラボ社所有の発射場から離昇。
順調に飛行し、第1段と第2段の分離が行われたのは離昇から約2分半後、高度約80キロの地点でした。

その後、第1段機体は大気圏再突入に適した姿勢にするため、スラスターを噴射し機体を180度反転。
大気圏に再突入すると機体を安定させつつ、降下速度を落とすためのドローグ・シュートを展開しています。
人員の降下や物資の空中投下などに用いられるパラシュートとは違い、減速や姿勢制御に用いられるものをドローグ・シュートと呼ぶ。

高度1キロに差しかかると、メインのパラシュートを展開し発射場から数百キロ離れた太平洋上に着水。
船で回収された機体はロケットラボ社の施設へ運ばれ、今後検査やデータの分析などが予定されています。

ロケットラボ社では着水時の速度は秒速10メートルほどで、ロケットが海水で濡れる以外は大きなダメージが加わることはないとしています。
なので、着水した機体も海水の洗浄やメンテナンスを行い、問題が無ければ再使用するそうです。

もちろん、最終的なゴールはヘリコプターによるロケットの回収なので、洗浄などをすることなく再使用することを目指しています。
打ち上げ後に太平洋に着水した“エレクトロン 16号機”の第1段機体。(Credit: Rocket Lab/Peter Beck)
打ち上げ後に太平洋に着水した“エレクトロン 16号機”の第1段機体。(Credit: Rocket Lab/Peter Beck)

ノーム・チョンプスキーのフィギュアが宇宙へ

一方で第2段機体は、そのまま宇宙へ向けて飛行し、搭載していた約30基の衛星を所定の軌道に投入。
これにより、ロケットラボ社が打ち上げた衛星の総数は95機になったそうです。

打ち上げられた衛星に含まれていたのは、スペース・デブリを除去する技術の試験機“ドラッグレーサー”2機、海上監視システムの構築を目指した衛星“BRO(Breizh Reconnaissance Orbiter)”2機、宇宙からのインターネットの実現を目指した衛星“スペースBEE”23機など。

さらに、オークランド大学が開発したニュージーランド初の学生衛星“APSS-1”が搭載されていました。
この衛星の目的は、地球の上層大気を監視し、電離層の乱れが地震と関連しているかどうかを調べること。
ロケットラボ社では打ち上げを無償で提供することで、このプロジェクトを援助しています。

変わった搭載物としては、ビデオゲーム“ハーフライフ”などに登場するガーデン・ノームの“ノーム・チョンプスキー”のフィギュアがあります。

これは“ハーフ・ライフ”などを開発したValveの共同設立者であるゲイブ・ニューウェル氏の発案によるもの。
打ち上げ中継の視聴者一人につき1ドルを小児病院に寄付するというキャンペーンのために製作され打ち上げられています。

ロケットラボ社によって製作されたチタン製のフィギュアは、将来の宇宙機の部品に使用することを目指した新しい3Dプリント技術の試験という役割も果たしています。
衛星と共に打ち上げられた“ノーム・チョンプスキー”のフィギュア。小児病院への寄付以外に新しい3Dプリント技術の試験という役割も果たしている。(Credit: Rocket Lab)
衛星と共に打ち上げられた“ノーム・チョンプスキー”のフィギュア。小児病院への寄付以外に新しい3Dプリント技術の試験という役割も果たしている。(Credit: Rocket Lab)


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野口宇宙飛行士を乗せた民間宇宙船“クルー・ドラゴン” トラブルを解決して国際宇宙ステーンに無事到着!

2020年11月18日 | 宇宙へ!(民間企業の挑戦)
スペースX社の有人宇宙船“クルー・ドラゴン”が、打ち上げと国際宇宙ステーションへのドッキングに成功しました。
打ち上げ後、トラブルが発生しミッションの継続が危ぶまれた場面もありましたが、問題は解決され日本の宇宙飛行士 野口さんらクルーは無事に国際宇宙ステーションに到着。
野口宇宙飛行士らは、すでに国際宇宙ステーションに滞在していた3人の宇宙飛行士とともに7人体制で、約半年間の長期滞在ミッションに挑むことになります。
“クルー・ドラゴン(レジリエンス)”を載せたファルコン9ロケットの打ち上げ。(Credit: SpaceX)
“クルー・ドラゴン(レジリエンス)”を載せたファルコン9ロケットの打ち上げ。(Credit: SpaceX)

スペースX社の有人宇宙船“クルー・ドラゴン”

“クルー・ドラゴン”はスペースX社が開発した有人宇宙船で、国際宇宙ステーションへの宇宙飛行士の輸送や、地球低軌道へ民間の観光客を運ぶことを目指しています。

NASAが2006年から進めてきた、国際宇宙ステーションへの物資補給と宇宙飛行士の輸送を民間企業に委託する計画。
スペースX社は、その最初期から計画にかかわり、無人の補給船“ドラゴン”による物資補給のミッションを担い続けてきました。

そして、無人補給線“ドラゴン”のノウハウをもとに開発されたのが有人宇宙船“クルー・ドラゴン”でした。

船内には通常4人(最大7人)が搭乗でき、国際宇宙ステーションへの飛行や単独での飛行、月軌道までの飛行能力を持っています。

船内はタッチパネルなどを多用した先進的なもので、カプセル部分は再使用が可能なためコストの低減が図られるなど、21世紀の宇宙船に相応しい性能を多数兼ね備えています。

無人試験飛行“Demo-1”から有人試験飛行“Demo-2”へ

昨年3月2日、スペースX社のファルコン9ロケットによって、無人試験機“クルー・ドラゴン Demo-1”の打ち上げに成功。
宇宙飛行を経て国際宇宙ステーションへのランデブー、ドッキング技術を実証したのち、3月8日に地球に帰還しています。

スペースX社では、その後もパラシュートの試験や、飛行中のロケットから宇宙船を緊急脱出させる試験などを実施。
そして、“Demo-1”に続き、今年5月31日に行われたのが初の有人試験飛行“Demo-2”でした。

この飛行で搭乗したのは、NASAのダグラス・ハーリー宇宙飛行士とロバート・ベンケン宇宙飛行士。
両宇宙飛行士によって“エンデバー”と名付けられたこの機体は、大きなトラブルも無く打ち上げから約19時間後に国際宇宙ステーションの“ハーモニー”モジュールへのドッキングに成功しています。

その後、“クルー・ドラゴン Demo-2”が国際宇宙ステーションから分離したのは8月2日のことでした。
3日3時頃には軌道離脱噴射を実施し大気圏へ再突入し、パラシュートを開き減速しながら降下。
フロリダ州ペンサコーラ沖のメキシコ湾に無事着水したのは、日本時間の8月3日3時48分でした。

“Demo-2”ミッションの成功は、スペースX社とNASAとの間の契約に基づく宇宙飛行士の商業輸送ミッションを行うために必要な、最後の大きなマイルストーンでした。

初の商業輸送ミッション“Crew-1”

今回の“Crew-1”ミッションは有人飛行として2回目ですが、試験ではなく初の宇宙飛行士の商業輸送ミッション。
地球と国際宇宙ステーション間の宇宙飛行士輸送のほか、国際宇宙ステーションでの係留中には、非常事態に備えた緊急脱出艇としての役割も果たすことになります。

“Crew-1”のミッション期間は約6か月の予定。
船長としてマイケル・ホプキンス宇宙飛行士(NASA)、パイロットとしてヴィクター・グローヴァー宇宙飛行士(NASA)、ミッション・スペシャリストとして野口聡一宇宙飛行士(JAXA)とジャノン・ウォーカー宇宙飛行士(NASA)の4人が搭乗しています。
“Crew-1”ミッションのクルー。左から、ミッション・スペシャリストのジャノン・ウォーカー宇宙飛行士(NASA)、パイロットのヴィクター・グローヴァー宇宙飛行士(NASA)、船長のマイケル・ホプキンス宇宙飛行士(NASA)、ミッション・スペシャリストの野口聡一宇宙飛行士(JAXA)。(Credit: SpaceX)
“Crew-1”ミッションのクルー。左から、ミッション・スペシャリストのジャノン・ウォーカー宇宙飛行士(NASA)、パイロットのヴィクター・グローヴァー宇宙飛行士(NASA)、船長のマイケル・ホプキンス宇宙飛行士(NASA)、ミッション・スペシャリストの野口聡一宇宙飛行士(JAXA)。(Credit: SpaceX)
“クルー・ドラゴン Crew-1”を搭載したファルコン9ロケットは、日本時間の11月16日9時27分にフロリダ州のNASAケネディ宇宙センターの大39A発射施設から離昇。

ロケットは順調に飛行し、打ち上げから約12分後に“クルー・ドラゴン”を分離。
“クルー・ドラゴン”を計画通りの軌道へ投入しています。

この後、“クルー・ドラゴン”では、いくつかの問題が発生。
通信系のトラブルは地上側が原因とされ、すぐに解決しています。

もう一つは、宇宙飛行士が乗っているクルー・カプセル部分の冷却システムに、圧力スパイク(急激な圧力上昇)が確認されるという問題。
この問題は、その後地上からの指令により機能を回復しています。

さらに問題は発生… 今度は姿勢制御や軌道変更に使うスラスターへ推進剤を送る配管部分でした。
この配管を保温するためのヒーターの4つのうち3つに、問題が発生していたんですねー

ヒーターの抵抗値が制限値を上回ったことで、コンピュータが自動的に機能を停止させていたためでした。

ただ、飛行規則で要求されているのは、4つのヒーターのうち少なくとも2つが正常に作動していること。
そう、このままではミッションは中断される可能性がありました。

その後、地上の運用チームの調査により原因を特定。
ソフトウェアに書き込まれていた制限値の設定が、過度に保守的過ぎたために起きた問題でした。

いったん3つのヒーターの電源を落とし、ソフトウェアを修正して抵抗値の制限を緩和した後、再起動を実施。
すると、4つのヒーターすべてが正常に作動するようになり、ミッション中断の危機を脱しています。

これらの問題が比較的早く解決したこと、“クルー・ドラゴン”が順調に飛行していたこともあり、ミッションに大きな影響はなかったようです。

その後、“クルー・ドラゴン”は国際宇宙ステーションに接近するため、2回に分けてスラスターを噴射。
徐々に接近を開始し、ドッキング直前には国際宇宙ステーションに相対速度を合わせて静止した状態になり、秒速10センチでポート“IDA-2”にドッキング。
接近からドッキングまでは、完全に自動制御で行われていました。
国際宇宙ステーションにドッキングした“クルー・ドラゴン(レジリエンス)”。(Credit: NASA)
国際宇宙ステーションにドッキングした“クルー・ドラゴン(レジリエンス)”。(Credit: NASA)
今回の“クルー・ドラゴン(カプセルのシリアル番号207)”に、クルーが名付けた名前は“レジリエンス(Resilience: 回復する力)”。
野口宇宙飛行士によると、「レジリエンスとは、困難な状況から立ち直ること、形が変わってしまったものを元通りにするといった意味。世界中がコロナ禍で困難な中、協力して社会を元に戻そう、元の生活を取り戻そうという願いを込めた。」そうです。

“クルー・ドラゴン”のカプセルは再使用されるので、今後もこのカプセルが飛行する際には“レジリエンス”と呼ばれ続けることになります。

今回、国際宇宙ステーションに到着した宇宙飛行士4人は、10月から滞在中の3人の宇宙飛行士とともに、第64次長期滞在クルーとして滞在。
各種宇宙実験や国際宇宙ステーションのメンテナンス作業などを行い、約6か月後には同じ“クルー・ドラゴン”で地球に帰還する計画になっています。

そして、来春以降に控えているのが2回目の運用ミッション“Crew-2”です。

“Crew-2”に選ばれているのは、船長にシェーン・キンブロー宇宙飛行士(NASA)、パイロットにメーガン・マッカーサー宇宙飛行士(NASA)、そしてミッション・スペシャリストに星出彰彦宇宙飛行士(JAXA)とトマ・ペスケ宇宙飛行士(ESA)の4人。

この“Crew-2”では、“Demo-2”で使用されたカプセルが再使用され、打ち上げに使用するファルコン9ロケットの1段目も再使用機体が用いられる予定です。

現在、ボーイング社とNASAでは、もう一つの有人宇宙船“スターライナー”の開発が進められています。
12月には無人で実施される2回目の軌道飛行試験“OFT-2”、そして2021年6月には有人飛行試験“CFT(Crew Flight Test)”を実施する予定です。

2年後には、地球と国際宇宙ステーションの間を往復する定期便として、“クルー・ドラゴン”と“スターライナー”の運用が始まっているかもしれませんよ。


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アマゾン創業者が設立したブルー・オリジン社が宇宙船“ニューシェパード”の飛行に成功! NASA開発の月面着陸技術も試験

2020年10月23日 | 宇宙へ!(民間企業の挑戦)
2020年10月13日、アメリカの民間宇宙企業ブルー・オリジン社が、サブオービタル機“ニューシェパード”の打ち上げに成功したんですねー
機体は宇宙空間に到達後、着陸にも成功。
今回の打ち上げでは、将来の月面や火星への着陸に使う新開発のセンサーの試験を含む、12個の実験も行われたそうです。
宇宙に到達した後に着陸する“ニューシェパード”のブースター(Credit: Blue Origin)
宇宙に到達した後に着陸する“ニューシェパード”のブースター(Credit: Blue Origin)

10か月ぶりのミッション“NS-13”

“ニューシェパード”が西テキサスにあるブルー・オリジン社の試験施設から離床したのは、日本時間の10月13日22時35分のことでした。

機体は計画通り飛行し、ブースターとクルー・カプセルを分離。
両機は高度約105キロに到達したのち、まずブースターが着陸し、その後カプセルもパラシュートで着陸しています。

“ニューシェパード”の飛行は今回が通算で13回目で、その中で成功は12回になるんですねー
また、今回飛行した3号機のブースターとクルー・モジュールを使った飛行は、今回で7回続けての成功になりました。

今回のミッション“NS-13”では、ブースター部分にNASAが開発した“軌道離脱・下降・着陸センサー”を搭載し、試験が行われています。

これらの装置は、月面の複雑な地形への精密着陸を行うために開発されたもの。
指定された地点に、100メートル以内の精度で自律的に着陸することを可能にしています。

この技術により、将来的にはクレーターの近くの複雑な地形など、アポロ計画では着陸できなかったような場所に宇宙飛行士や無人探査機を着陸させることが可能になるそうです。
さらに、その先の火星着陸への応用も可能としています。

ブルー・オリジン社は、NASAが進める有人月探査計画“アルテミス”で使用される、月着陸船を開発する民間企業の一つに選ばれています。
今回の試験はその開発の一環で、月面着陸を“ニューシェパード”を使ってシミュレートしたことになります。

この他、カプセル部分に搭載されたのは、宇宙で植物を自律的に育てるシステムや、小惑星や月の砂をその天体の地表に固定するためのシステム、宇宙船の電子機器を冷却する新技術など。
これらは11個の実験ペイロードに入れられ、微小重力環境を利用した実験が行われています。

当初打ち上げが9月に予定されていた“NS-13”ミッション。
天候不良や技術的な問題により延期を繰り返し、2019年12月に行われた“NS-12”ミッション以来、約10か月ぶりの飛行になりました。

軌道離脱・下降・着陸センサーの試験は晴れの日に行う必要があったので、天候条件は通常より厳しいものになったそうです。
これらセンサーの試験は、今回を含め計2回行われることになっています。
“ニューシェパード”のブースターに装着された軌道離脱・下降・着陸センサー。(Credit: Blue Origin)
“ニューシェパード”のブースターに装着された軌道離脱・下降・着陸センサー。(Credit: Blue Origin)

サブオービタル宇宙船“ニューシェパード”

ブルー・オリジン社は、インターネット小売り大手のアマゾン・ドット・コムの創業者ジェフ・ベゾス氏が設立したアメリカの民間宇宙企業です。

“ニューシェパード”はブルー・オリジン社が開発中の機体で、ソユーズやスペースX社のクルー・ドラゴン宇宙船などとは異なり、地球を回る軌道には乗りません。
宇宙空間(高度100キロ以上)に到達する“サブオービタル宇宙船”と呼ばれる種類の機体で、地球を1周する前に地上に帰還するサブオービタル軌道を飛ぶことになります。
“ニューシェパード”の打ち上げから着陸。(Credit: Blue Origin)
“ニューシェパード”の打ち上げから着陸。(Credit: Blue Origin)
機体を構成しているのはブースターと呼ばれるロケットとカプセル。
カプセルには最大6人の乗員・乗客や、実験・観測装置をのせることができます。

また、ブースターとカプセルは繰り返し再使用することができ、運用コストの低減が図られています。

“ニューシェパード”の1号機が初飛行を実施したのは2015年。
これまでに3機が建造され、今回までに13回の試験飛行を行っています。
今回は3号機の7回目の飛行でした。

これまでの飛行では、まず宇宙空間に到達できるかということから始まり、ブースターやカプセルを安全に着陸・回収できるのかという試験、機体を再使用できるかどうかという試験、そしてカプセルのパラシュートがすべて開かなかった場合でも安全に着陸できるのかという試験が行わてきました。

2016年には、飛行中にブースターが最も負荷がかかる段階でトラブルが起きたという想定で、カプセルを脱出させる試験にも成功。

さらに2018年には、ブースターのエンジンの燃焼が終わり、ほぼ宇宙まで達したところでトラブルが起きたという想定。
カプセルを脱出させ、そこから安全に帰還することができるかを調べる試験も行われました。

ブルー・オリジン社が将来的に目指しているのは、“ニューシェパード”に科学者や宇宙旅行者をのせて飛行すること。

過去には「数年以内」といった実現目標が語られたり、「1人当たりのチケット代は約2200~3300万円になる」という話が出回ったりもしました。
でも、その後開発・試験計画の見直しもあってトーンダウン…
現在は具体的なスケジュールや金額について、詳しいことを明らかにしていません。

一方、人をのせた飛行に向けた試験を進めるのと並行して提供されているのが、カプセルに実験機器を搭載するサービス。
こちらは、NASAや大学、民間企業などが顧客になり、今回のような様々な試験や実験が行われています。
宇宙から帰還した“ニューシェパード”のクルー・モジュールには、将来的には人が乗り込む予定。(Credit: Blue Origin)
宇宙から帰還した“ニューシェパード”のクルー・モジュールには、将来的には人が乗り込む予定。(Credit: Blue Origin)


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もうひとつのアメリカ有人宇宙船“スターライナー”、有人飛行試験の実施は2021年6月を予定!

2020年09月12日 | 宇宙へ!(民間企業の挑戦)
アメリカの有人宇宙船というと民間宇宙企業のスペースX社が開発した“クルードラゴン”注目されがちですが、実は開発されている宇宙船はもうひとつあります。

それが、ボーイング社の新型宇宙船“スターライナー”です。
機体はスペースシャトルのような翼は持たず、アポロ宇宙船やスペースX社の“クルードラゴン”と同じカプセル型の宇宙船 。

NASAとボーイングは8月下旬、この“スターライナー”の有人飛行試験“CFT(Crew Flight Test)”を2021年6月に実施する予定だと明らかにしました。

“スターライナー”と“クルードラゴン”は、どちらもNASAの「民間企業による有人宇宙船の実用化を支援」計画のもとで開発された有人宇宙船です。

スペースX社は“クルードラゴン”の有人飛行試験“Demo-2”を今年の8月3日に終えていて、早くて今年の10月23日に最初の実運用ミッション“Crew-1”の実施を予定しています。

一方でボーイング社は、2019年12月に“スターライナー”の無人での軌道飛行試験“OFT(Orbital Flight Test)”を実施。
でも、当初予定していた軌道に入ることができず、機体は国際宇宙ステーションへのドッキングを断念して地球に帰還しています。

現在、ボーイング社とNASAでは無人で実施される2回目の軌道飛行試験“OFT-2”に向けた準備が進められています。
2回目の軌道飛行試験“OFT-2”で使われる“スターライナー”のクルーモジュール。(Credit: Boeing)
2回目の軌道飛行試験“OFT-2”で使われる“スターライナー”のクルーモジュール。(Credit: Boeing)
“OTF-2”の実施は“OTF”から1年後になる今年の12月に予定されています。
現在、ボーイング社では“OTF”のトラブルを受けて作成された改善勧告への対処を実施中。
NASAとボーイング社が共同で調査を実施し作成された改善勧告は80項目、このうちおよそ75%がすでに対策を終えています。

“CFT”は、この“OFT-2”の成功を受けて実施される飛行試験で、ボーイング社(元NASA)のクリストファー・ファーガソン宇宙飛行士、NASAのマイケル・フィンク宇宙飛行士及びニコール・マン宇宙飛行士の3名が搭乗する予定です。
有人飛行試験“CFT”で“スターライナー”に登場する3名の宇宙飛行士。左からマン飛行士、フィンク飛行士、ファーガソン飛行士。(Credit: Boeing)
有人飛行試験“CFT”で“スターライナー”に登場する3名の宇宙飛行士。左からマン飛行士、フィンク飛行士、ファーガソン飛行士。(Credit: Boeing)
ファーガソン飛行士は、2011年に実施されたスペースシャトル最後のミッションSTS-135でのコマンダー(船長)。
フィンク飛行士は、ひとつ前のSTS-134でミッションスペシャリストを務めています。
そして、マン飛行士は“CFT”が初の宇宙飛行になります。

来年6月に実施予定の“CFT”が成功すれば、半年後の2021年12月には“スターライナー”による最初の運用ミッション“Starliner-1”が予定されているそうですよ。


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民間初の有人飛行に成功! スペースX社の宇宙船“クルー・ドラゴン”が地球に帰還

2020年08月04日 | 宇宙へ!(民間企業の挑戦)
2020年8月3日、アメリカの宇宙企業スペースX社の有人宇宙船“クルー・ドラゴン”が、地球に無事帰還しました。
民間企業が開発した宇宙船が、宇宙飛行士を載せて地球と宇宙を往復することに成功したのは史上初のこと。
この成功によりスペースX社とNASAは、今年10月23日から実運用を開始することになります。
今回、宇宙から帰還した機体は、来春の飛行でも使用されるようです。
地球に帰還した“クルー・ドラゴン Demo-2”。(Credit: NASA/Bill Ingalls)
地球に帰還した“クルー・ドラゴン Demo-2”。(Credit: NASA/Bill Ingalls)


無人の試験機“クルー・ドラゴン Demo-1”

“クルー・ドラゴン”はスペースX社が開発した有人宇宙船で、国際宇宙ステーションへの宇宙飛行士の輸送や、地球低軌道へ民間の観光客を運ぶことを目指しています。

NASAが2006年から進めてきたのは、国際宇宙ステーションへの物資補給と宇宙飛行士の輸送を民間企業に委託する計画。
スペースX社は、その最初期から計画にかかわり、無人の補給船“ドラゴン”による物資補給のミッションを担い続けてきました。

そして、無人補給線“ドラゴン”のノウハウをもとに開発されたのが有人宇宙船“クルー・ドラゴン”です。

“クルー・ドラゴン“の全長約8メートル、機体を構成するのは宇宙飛行士が乗り込む“カプセル”と、太陽電池などが搭載されている“トランク”。
“カプセル”は大部分が再使用できるほか、高い安全性を目指して設計されていて、さらにコクピットはタッチパネルが多用されているなど、新世代の宇宙船にふさわしい性能を兼ね備えているんですねー

現在、アメリカは宇宙飛行士の輸送をロシアに依存していて、国際宇宙ステーションへの往復はロシアの有人宇宙船“ソユーズ”が担っています。

ロシアに対して支払う運賃は宇宙飛行士1人につき9000万ドル。
“クルー・ドラゴン”の運用が始まると、1人当たり5500万ドルにまで下がるとNASAは考えています。

このような状況もあり、自前の有人宇宙船の復活はアメリカにとって悲願でもありました。
なので、“クルー・ドラゴン”が完成し運用が始まれば、2011年のスペースシャトル引退以来、約9年ぶりにアメリカの有人宇宙船が復活することになります。

“クルー・ドラゴン”の無人の試験機“Demo-1”は昨年3月2日、同社のファルコン9ロケットで打ち上げられ、宇宙飛行を経て国際宇宙ステーションへのランデブー、ドッキング技術を実証したのち、3月8日に地球に帰還しています。


有人試験飛行“Demo-2”ミッション

“Demo-1”に続き、今年5月31日に行われたのが初の有人試験飛行“Demo-2”です。
宇宙に飛び立った“クルー・ドラゴン”には、NASAのダグラス・ハーリー宇宙飛行士とロバート・ベンケン宇宙飛行士が搭乗していました。
“クルー・ドラゴン Demo-2”を搭載したファルコン9ロケットの打ち上げ。(Credit: SpaceX)
“クルー・ドラゴン Demo-2”を搭載したファルコン9ロケットの打ち上げ。(Credit: SpaceX)
両宇宙飛行士によって“エンデバー”と名付けられたこの機体は、大きなトラブルも無く打ち上げから約19時間後に国際宇宙ステーションの“ハーモニー”モジュールへのドッキングに成功しています。

2人の宇宙飛行士は、約2か月間、国際宇宙ステーションの滞在員として実験やメンテナンス活動に従事。ベンケン宇宙飛行士は船外活動も行っています。
国際宇宙ステーションにドッキングする“クルー・ドラゴン Demo-2”。(Credit: NASA)
国際宇宙ステーションにドッキングする“クルー・ドラゴン Demo-2”。(Credit: NASA)
そして、“クルー・ドラゴン Demo-2”が国際宇宙ステーションから分離したのが8月2日。
3日3時頃には軌道離脱噴射を実施し大気圏へ再突入し、パラシュートを開き減速しながら降下していきます。
フロリダ州ペンサコーラ沖のメキシコ湾に無事着水したのは、日本時間の8月3日3時48分でした。

宇宙船と搭乗していたベンケン、ハーリー両宇宙飛行士は、海上で待機していたスペースX社の船に回収され、2人の健康が確認されています。

民間企業が開発した宇宙船が、宇宙飛行士を乗せて地球と宇宙を往復することに成功したのは史上初のこと。
さらに、アメリカの地から有人宇宙船が打ち上げられたのは、2011年のスペースシャトルの引退以来となり、有人試験飛行“Demo-2”はアメリカの有人宇宙飛行への復帰を示すものになりました。

今回の“Demo-2”ミッションは、スペースX社とNASAとの間の契約に基づく宇宙飛行士の商業輸送ミッションを行うために必要な最後の大きなマイルストーンでした。
着水後に回収された“クルー・ドラゴン Demo-2”。(Credit: NASA/Bill Ingalls)
着水後に回収された“クルー・ドラゴン Demo-2”。(Credit: NASA/Bill Ingalls)


次は実運用“Crew-1”ミッションの実施へ、その先に控える民間人の宇宙旅行

今回の“Demo-2”が終了したことで、今後スペースX社とNASAが目指すのは、最初の実運用ミッションである“Crew-1”の実施。
“Crew-1”に向け、まずは“Demo-2”ミッションのデータ検証や安全性の確認を行うことになります。

作業が順調に進めば、早くて今年の10月23日に“Crew-1”は打ち上げられる予定です。

“Crew-1”のミッション期間は約6か月の予定。
船長としてマイケル・ホプキンス宇宙飛行士(NASA)、パイロットとしてヴィクター・グローヴァー宇宙飛行士(NASA)、ミッション・スペシャリストとして野口聡一宇宙飛行士(JAXA)とジャノン・ウォーカー宇宙飛行士(NASA)の4人が搭乗する予定です。

さらに、来春以降に打ち上げを予定している2回目の運用ミッション“Crew-2”も控えています。

“Crew-2”に選ばれているのは、船長にシェーン・キンブロー宇宙飛行士(NASA)、パイロットにメーガン・マッカーサー宇宙飛行士(NASA)、そしてミッション・スペシャリストに星出彰彦宇宙飛行士(JAXA)とトマ・ペスケ宇宙飛行士(ESA)の4人。

この“Crew-2”では、今回の“Demo-2”で使用されたカプセルが再使用され、打ち上げに使用するファルコン9ロケットの1段目も再使用機体が用いられる予定です。

NASAは当初、安全性への懸念などを理由に、有人ミッションにおけるロケットと宇宙船の再使用を認めていませんでした。
でも、今年6月に契約が更新され、一転してロケットと宇宙船の再使用が認められることになります。

スペースX社は2014年、NASAから6回分の宇宙飛行士輸送ミッションを計26億ドルで受注しています。
なので、“Crew-2”以降も定期的に国際宇宙ステーションへの宇宙飛行士輸送を続けることになり、将来的には契約の更新によるミッションの延長もあり得ます。

さらに、スペースX社には“クルー・ドラゴン”を民間人の宇宙旅行に使用する計画もあるんですねー
今年2月には、宇宙旅行会社“スペース・アドベンチャー”との間で宇宙旅行の実施に向けた契約も結んでいます。

最近では、ハリウッド俳優のトム・クルーズが“クルー・ドラゴン”で国際宇宙ステーションへ行き、映画を撮影するという噂も流れましたね。


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