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第2の地球を探すには? 大気中の二酸化炭素の少なさとオゾンの検出がカギになるようです

2024年01月18日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
地球のように生命に適した環境を持つ惑星を見つける方法はいくつも提案されていますが、そのほとんどが現状の技術では困難なものといえます。

そこで、今回の研究では、地球のような環境の惑星を見つける新たな指標として、大気中の“二酸化炭素の少なさ”と“オゾンの検出”を提案しています。

これらは惑星の表面に大量の液体の水、そして大気中に酸素が含まれていることを示す強力な証拠となるもの。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を駆使すれば観測可能だと、研究チームでは考えているようです。
この研究は、バーミンガム大学のAmaury H. M. J. Triaudさんたちの研究チームが進めています。
図1.“トラピスト1”惑星系のイラスト。惑星の表面に液体の水が存在するかどうかは、一般的に恒星からの距離に依存する。ただ、実際に液体の水が存在することを証明するのは困難になる。(Credit: NASA & JPL-Caltech)
図1.“トラピスト1”惑星系のイラスト。惑星の表面に液体の水が存在するかどうかは、一般的に恒星からの距離に依存する。ただ、実際に液体の水が存在することを証明するのは困難になる。(Credit: NASA & JPL-Caltech)


地球と似たような環境を持つ惑星の探査

地球以外の天体に独自の生命はいるのでしょうか?

私たちが今のところ知っている生命誕生の実例は地球のみです。
なので、科学者は主に地球と似たような環境を持つ惑星を見つけることに取り組んでいます。(※1)
※1.深海や地中に微生物が見つかっているので、地球とかけ離れた環境の惑星でも、微生物ならば地球外生命がいるのかもしれません。でも、微生物より大型な、そして究極的には知性を持つ生命が地球とかけ離れた環境にいるかどうかは、現時点では科学というよりもSFの範疇になってしまうので、地球と似た環境の惑星を探すことに比べて、あまり真剣には検討されていません。
地球と似たような惑星といっても様々な指標がありますが、多くの科学者が探しているのは“惑星の表面に大量の液体の水あること”および“酸素に富む大気を持つこと”という条件を満たす惑星です。

液体の水と酸素は、特に大型の生命にとって必須の物質になります。

では、このような“第2の地球”ともいえる環境を持つ惑星があるとしたら、現在の技術でそれを見つけることはできるのでしょうか?

例えば、表面に存在する大量の水は、湖や海として陸地の一部を覆います。
水面は日光を反射しやすいので、惑星の自転に伴って瞬間的な反射のフラッシュが発生するはずです。

実は、このような光は土星の衛星タイタンでは観測に成功しています。(※2)
でも、地球から遠く離れた惑星からの反射光を観測することは、技術的に極めて困難なことといえます。
同様に、大気中の豊富な酸素を観測することも、技術的には困難なことが分かっています。
※2.タイタンの表面に存在する液体は水ではなく低温で液化したメタンになる。


現在の技術でも観測可能な指標

今回の研究では、地球とよく似た惑星である金星や火星との違いを比較し、地球のような環境を持つ惑星について、現在の技術でも観測可能な指標を探しています。

まず、研究チームが注目したのは、大気中の二酸化炭素の少なさでした。
地球大気中の二酸化炭素は約0.04%に過ぎませんが、金星や火星はその9割以上が二酸化炭素で構成されています。

なぜ、これほどの違いがあるのでしょうか?
それは、地球には大量の二酸化炭素を吸収する活動があるからです。

地球で二酸化炭素を吸収するものと言えば、植物を思い浮かべますよね。
でも、海は全世界の植物よりもはるかに多くの二酸化炭素を吸収しています。

また、プレートテクトニクスによって海水が地下深くまで引き込まれるので、二酸化炭素は岩石の形で閉じ込められてしまいます。
このことも、死後の分解の過程で二酸化炭素を放出する植物とは異なる点です。

研究チームでは、地球の歴史を通じて海水が吸収してきた二酸化炭素の総量が、地球の90倍もの圧力がある現在の金星の二酸化炭素の総量に匹敵すると推定。
つまり、もし二酸化炭素が極端に少ない惑星が見つかった場合、その表面に膨大な液体の水が存在するだけでなく、地下から物質や熱を供給するプレートテクトニクスが存在する可能性もあるということになります。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いた観測では、すでにいくつかの惑星の大気で二酸化炭素を見つけています。
これは、裏を返せば、二酸化炭素が見当たらない惑星も発見可能なことになります。

このことに加え研究チームが考えているのは、大気中にオゾンが検出されれば、惑星が地球に似た環境であることを示す別の証拠になるということ。
オゾンは酸素と紫外線の作用で生じる物質で、生命にとって有害な紫外線を遮断する能力があります。
加えて、オゾン分子は酸素分子と比べて、望遠鏡での観測によって発見しやすい特徴的なシグナルを示します。

つまり、オゾンは酸素に富んだ大気の間接的な証拠になる訳です。


ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いた観測に期待

研究チームでは、二酸化炭素が少ない一方でオゾンを含む大気を持つ惑星が、地球と似たような環境を持つ惑星だと考えています。

特に両方が揃っている場合は、もしかすると光合成による二酸化炭素の吸収と酸素の放出があり、植物が存在することを示しているのかもしれません。

このため、以下の3段階に分けた太陽系外惑星の観測スケジュールがあれば、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測で、地球と似たような惑星を発見することが可能だと考えています。

1.約10回のトランジット(※3)の観測。
二酸化炭素はジェームズウェッブ宇宙望遠鏡にとって検出しやすいので、二酸化炭素が豊富な大気ならこの観測回数で検出が可能です。
※3.地球から見て系外惑星が主星(恒星)の手前を通過(トランジット)する現象。

2.二酸化炭素が少ない大気を持つ惑星を中心とした約40回のトランジットの観測。
無いことの証明は、有ることの証明よりも難しいので、より多くの観測データが必要になります。

3.オゾンの検出を目的とした約100回のトランジットの観測。
検出しやすいとはいえ、オゾンの濃度ははるかに低いので、この程度の観測回数が必要になります。

さらに、研究チームは“トラピスト1”の観測実績が、この検出方法のロードマップになると考えています。

“トラピスト1”は約40光年彼方に位置する惑星系で、いくつかの惑星で二酸化炭素が検出されています。
“トラピスト1”自体には地球と似た惑星はないのかもしれません。
でも、他の惑星と観測データを比較するためのちょうどよい指標になるはずです。

この観測スケジュールを用いれば、パラダイムシフトになるような何か大きな発見が、数年以内にあるのかもしれませんね。


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地球外文明からの信号は星の光のように“またたく”ので1回限りの受信でも見分けることが可能! ただし1万光年彼方からの信号に限る…

2023年10月01日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
私たち人類は、この宇宙で唯一の文明を持つ知的生命体なのでしょうか?
それとも、他にも文明を持つに至った知的生命体は存在するのでしょうか?

この疑問を解決するために行われている取り組みの1つが、宇宙から届く様々な電波を分析して、その中から地球外文明に由来すると思われる信号を見つけ出す“SETI(地球外知的生命体探査)”です。

SETIは、1960年代以降興味深い信号を何度も検出しています。
でも、地球外文明に由来すると特定された信号は、今のところ1つもありませんでした。
地球外文明に由来する信号の捜索に使用された施設の1つ、パークス天文台の64メートル電波望遠鏡。(Credit: S.Amy, CSIRO)
地球外文明に由来する信号の捜索に使用された施設の1つ、パークス天文台の64メートル電波望遠鏡。(Credit: S.Amy, CSIRO)

地球外文明の非意図的に漏れ出た電波

電波で発信された人工的な信号は、自然由来の信号と比べて周波数の幅が狭い(狭帯域)と予測されているので、SETIではそのような特徴を持つ電波を探しています。

でも、人工衛星から電子レンジに至る人類が作り出した様々な発信源からも、地球外文明からの信号と誤認されやすい信号が発せられているんですねー

なので、捉えた信号が地球外文明のものだと推定する一つの根拠として、時間を空けて同じ方向から複数回検出されることが求められています。

でも、これまでにSETIで捉えられた興味深い信号は、全て1回だけの検出に留まっていました。
そして、おそらく将来的に本物の地球外文明の信号を受信したとしても、それは1回限りの検出に留まると予測されています。

地球外文明が、意図的に地球に向けて信号を送信するかどうかを知ることはできません。
なので、地球に届く地球外文明の信号は、非意図的に漏れ出た電波と予想することができます。

このような信号を私たちが捉えるには、電波の送信された方向に偶然地球があるという、正確な位置条件を満たさないといけません。

星々は、それぞれ固有の方向・速度で動いているので、そのような位置条件がたまたま満たされるのは、あったとしても1回限りである確率がとても高いと言えるからです。
1977年に検出され当時地球外文明のものだと疑われた信号。走り書きのメモから“Wow! シグナル”と呼ばれるこの信号は、その後一度も再検出されておらず、現在では地球由来のものだと考えられている。(Credit: Big Ear Radio Observatory & NAAPO (Public Domain))
1977年に検出され当時地球外文明のものだと疑われた信号。走り書きのメモから“Wow! シグナル”と呼ばれるこの信号は、その後一度も再検出されておらず、現在では地球由来のものだと考えられている。(Credit: Big Ear Radio Observatory & NAAPO (Public Domain))

シンチレーションは電波でも起こる

では、1回限りの信号が何に由来するのかを区別することはできるのでしょうか?

この問いに対して、条件次第で可能だとする研究結果が発表されました。
この研究は、カリフォルニア大学バークレー校のBryan Brzyckiさんたちの研究チームが進めています。
この研究でカギになるのは、電波に対する“星間物質”の影響でした。

宇宙は真空の空間ですが、非常に希薄ながらも物質が存在していて、その中には電波に影響する自由電子も含まれています。

長い距離を移動する電波は星間物質の影響を受けることが電波天文学で確認されていて、現在ではその影響度を予測することができます。

そこで、今回の研究では“地球外文明の信号は周波数の幅が狭い”という前提で、星間物質の影響を調査。
すると、星間物質によって電波の屈折と干渉が起こり、1分未満の時間で電波の強度が変化する“シンチレーション(scintillation)”が起こることが分かります。

これは、ちょうど夜空の星が瞬く現象と似ています(シンチレーションのもともとの意味は“星のまたたき”)。

地上から見る星は、大気の揺らぎの影響を受けて光の進む向きが曲げられます。
すると、光の波が重なり合った場所で光を強め合う・弱め合う現象が起こるので、星の明るさが明るくなったり暗くなったりするように見える現象が起こるわけです。

研究チームが予測したのは、これと同じことが電波でも起こるということ。
重要なのは、シンチレーションによって電波源のおおよその距離が推定できる点にあります。

肉眼的な星のまたたきは、遠く離れた恒星では起こりますが、近くにある惑星では起こりません。
これは、惑星がある程度の大きさを持って見える光源なのに対して、恒星は余りにも遠く離れているので、点状の光源として見えるからです。

研究チームが予測した電波信号のシンチレーションも、遠く離れた1点の電波源から届くことで起こる現象です。
なので、この性質は電波望遠鏡などのすぐ近くで発せられた地球由来の電波信号と区別する上で重要なことになります。

また、地球外文明の信号を受信できる機会が1回限りだったとしても、シンチレーションは検出可能なので、この信号が地球外に由来するのかどうかを判断する上でも、やはり重要になります。

ただ、非常に薄く存在する恒星間物質の影響を受けて電波信号にシンチレーションが起こるには、長い距離を伝達する必要があるんですねー

研究チームが考えているのは、検出可能なシンチレーションが起こるのは、信号が1万光年以上の距離を伝搬した場合に限られていること。
つまり、宇宙のスケールでは“ご近所”と言えるほど近くにある地球外文明の検出には、今回の方法は使えないということですね。


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複雑な有機分子を成長させる役割を担う分子“メチルカチオン(CH3+)”を発見! 宇宙で生命体形成のカギになる分子です

2023年08月29日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
東京大学は6月27日、陽イオン“メチルカチオン(CH3+)”を宇宙で初めて発見したことを発表しました。

有機生命体の形成につながる複雑な有機分子の成長において、カギになる分子と考えられているのが“メチルカチオン(CH3+)”です。

その場所は、惑星系の形成が進行中のオリオン星雲にある天体“d203-506”。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いた国際的な観測による発見でした。
この研究成果は、フランス国立科学研究センターのオリヴィエ・ベルナさんを筆頭に、日本からは東京大学大学院 理学系研究科 天文学専攻の尾中敬名誉教授が参加した、ヨーロッパ宇宙機関/Webb、The Space Telescope Science Institute、NASAなどの50名以上の研究者が参加した国際共同研究チームによるものです。
(左)ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ“NIRCam”によるオリオン星雲の画像。(左上)ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の中間赤外線観測装置“MIRI”による観測天体“d203-506”の周囲の画像。(右下)“NIRCam”と“MIRI”による“d203-506”の拡大図。(Credit: ESA/Webb, NASA, CSA, M. Zamani (ESA/Webb), the PDRs4All ERS Team)
(左)ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ“NIRCam”によるオリオン星雲の画像。(左上)ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の中間赤外線観測装置“MIRI”による観測天体“d203-506”の周囲の画像。(右下)“NIRCam”と“MIRI”による“d203-506”の拡大図。(Credit: ESA/Webb, NASA, CSA, M. Zamani (ESA/Webb), the PDRs4All ERS Team)

有機生命体の形成にもつながる重要な分子

人類はまだ、人類自身を含めて地球で誕生した生命体しか知りません。
それらは、全て炭素ベースの有機生命体になります。

炭素はいわゆる“手”が多いことから、他の元素と結合しやすいことで知られています。

その結果、炭素を骨格とする複雑な有機分子が形成され、それらが地球で最初の生命体につながっていったと考えられています。

また、有機分子は宇宙の至る所で発見されているので、地球外生命の多くも、有機生命体の可能性があると考えられています。
SF作品に出てくるような非有機生命体が絶対に存在しないと断定することはできませんが…
有機生命体が誕生するのに必要になるのが、より複雑な有機分子です。
その複雑な有機分子を成長させる役割を担うのが“メチルカチオン(CH3+)”なんですねー

1個の炭素と3個の水素から成る同イオンは、多くの分子と容易に反応することを特徴としていて、1970年代頃から有機生命体の形成にもつながる重要な分子と考えられてきました。

紫外線が重要な役割を果たしているのかも

これまで多くの有機分子が、電波望遠鏡によって分子雲などから発見されてきました。

ただ、“メチルカチオン(CH3+)”は、その電波領域に特徴的な遷移線を持たないので、検出には赤外線での高精度観測が必要になり、これまで宇宙空間では発見されませんでした。

でも、その状況はジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の稼働開始で大きく変わることになります。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡は、近赤外線カメラ“NIRCam”や中間赤外線観測装置“MIRI”など、赤外線領域において高い検出能力を持っています。

今回の観測では、その赤外線の高い検出能力により、惑星が形成される可能性のある領域で、ついに“メチルカチオン(CH3+)”と考えられる信号を観測。
その後、量子化学、分子物理学、分子分光学、天体物理学など複数の分野の50名を超える研究者が連携して検証を行い、その正体が間違いなく“メチルカチオン(CH3+)”であることが確認されました。

今回の発見は、複数分野の研究者たちによる共同作業の結果、もたらされました。

今回、“メチルカチオン(CH3+)”が発見された“d203-506”は、オリオン星雲の中でも紫外線が強い領域です。
このことから、同イオンの生成には紫外線が重要な役割を果たしていると推測されています。

また、このような環境は、太陽系形成の初期段階にも当てはまるようです。


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地球生命に似た構成分子を持つ生命が期待できる? 土星の衛星エンケラドスの地下海に生命の必須元素リンが多量に存在

2023年07月17日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
厚い氷の層に覆われた海を持つ土星の小さな衛星“エンケラドス”。
エンケラドスには間欠泉があり、地表にある割れ目から宇宙空間に向けて海水を噴き上げているんですねー

興味深いことに海水に含まれているのは、水、塩、シリカ(二酸化ケイ素)、炭素を含む単純な化合物。
そう、これらは生命の材料になり得る物質なんですねー

そして今回の研究により、土星探査機“カッシーニ”の観測データから、地球の生命の必須元素になるリンが大量に存在する証拠が見つかりました。

この成果は、日欧米による探査データの分析と実験の綿密な連携によるもの。
これにより、エンケラドスの生命を構成する物質を、具体的に予見可能にしてくれました。
“カッシーニ”に続く次のエンケラドス探査が楽しみになってきますね。
土星探査機“カッシーニ”の挟角カメラで2005年7月14日に撮影されたエンケラドス。紫外線・可視光線・赤外線のフィルターを使用して取得したデータを元に作成されている。(Credit: NASA/JPL/Space Science Institute)
土星探査機“カッシーニ”の挟角カメラで2005年7月14日に撮影されたエンケラドス。紫外線・可視光線・赤外線のフィルターを使用して取得したデータを元に作成されている。(Credit: NASA/JPL/Space Science Institute)

地球生命にとっての最重要元素

今回の研究では、エンケラドスの地下海に地球生命の必須元素であるリンが、地球海水の数千から数万倍という高濃度で濃集していることが明らかになりました。

土星の衛星エンケラドスは、表面を覆う分厚い氷の下に液体の地下海を持ち、生命を育む熱水噴出孔や複雑な有機物も存在しています。

生命存在可能な条件を満たす天体として、注目を集めているんですねー

今回、欧米チームがNASAの土星探査機“カッシーニ”のデータから明らかにしたのは、地下から噴き出した海水中にリン酸を含む粒子が含まれること。
NASAの土星探査機“カッシーニ”は、2017年9月に土星大気に突入してミッションを終了。13年以上に及んだ探査で得られたデータの解析は、現在も続けられている。
日本チームは、エンケラドス内部を再現する実験を行い、リン濃集要因がアルカリ性かつ高炭酸濃度の海水と岩石との反応にあることを突き止めています。
日本は、東京工業大学 国際先駆研究機構 地球生命研究所の関根康人所長/教授、丹秀也研究員(現 海洋研究開発機構 超先鋭研究開発部門 ヤング・リサーチ・フェロー、海洋開発研究機構の渋谷岳造主任研究員らの研究チームです。
リンは、DNAや細胞膜などの材料になる地球生命にとっての最重要元素なんですが、天然での存在の量は極めて低い元素です。

そのため、リンの濃集を可能にする場所の存在が、地球生命の鍵になると考えられています。

この研究では、リンが濃集した水環境を地球外で初めて発見したもの。
エンケラドスでも地球と似た構成分子を持つ生命の存在が期待されると同時に、原始地球での生命誕生の場の特定にもつながる極めて大きな発見といえるんですねー

生命存在の期待が高まる地下海を持つ氷衛星

土星の2番衛星エンケラドスは直径約500キロで、水の氷を主成分とする氷衛星です。

なぜ、この小さな衛星が世界中の科学者のみならず、広く一般から熱い注目を集めてきたのでしょうか?

その理由は、エンケラドスが液体の水、有機物、エネルギーという生命存在の必要条件を満たす天体だからです。

探査機“カッシーニ”は、エンケラドスから噴き出したチリや氷で構成された土星のE環を通過したことがありました。
その時、“宇宙塵分析器(CDA)”により収集したデータからは、海水に塩分や二酸化炭素、アンモニアなどのガス成分、複雑な有機物が含まれることがが明らかなっています。
2009年に探査機“カッシーニ”が撮影したエンケラドスの間欠泉。この画像では30か所以上の噴出口が確認された。(Credit: NASA/JPL/Space Science Institute)
2009年に探査機“カッシーニ”が撮影したエンケラドスの間欠泉。この画像では30か所以上の噴出口が確認された。(Credit: NASA/JPL/Space Science Institute)
2015年に明らかになったのは、エンケラドスの地下海に海底熱水噴出孔が存在することでした。
熱水噴出孔は、地球生命誕生の場の有力候補で、現在も原始的な微生物が生息しています。

この発見は、生命を育みうる環境が地球外の太陽系に存在することを初めて実証したもので、各種メディアでも大きく報道されることに…
2015年の海底熱水噴出孔の発見以降、エンケラドスに関する知見が得られるたびに、生命存在の期待も高まっていきました。

でも、解決されていない重要な問題も残されていました。

それは、地下海に存在する生命の体を作る元素のこと。
どういった種類の元素が地下海に含まれているのか、どのくらいの量が存在するのかが、分かっていなかったんですねー

海水に含まれる元素の種類によって、そこで生まれる生命を作る構成分子が規定されます。

なので、具体的な生命の構成分子が予想できなければ、次の探査でどのような生命を想定したらよいのか、どのような物質を生命発見の指標としてよいのかが、分からないままになってしまいます。

例えば、地球生命は、DNAや細胞膜などの生命活動の根幹をなす生体分子に、リンを主要な構成元素として使っています。

つまり、エンケラドスに地球生命に似た構成分子を持つ生命が期待できるかは、ひとえにリンが存在するか存在しないかに依るわけです。

ただ、エンケラドスをはじめ、地球外の水環境にリンが高濃度で存在することを明らかにした例は、これまで皆無でした。
エンケラドスの内部(イメージ図)。水の氷でできた地殻と岩石質のコアの間に、深さ10キロ程度の液体の地下海があり、この海水がエンケラドスの南極域から噴出している。地下海の海底には熱水噴出孔があると推定されている。(Credit: NASA/JPL)
エンケラドスの内部(イメージ図)。水の氷でできた地殻と岩石質のコアの間に、深さ10キロ程度の液体の地下海があり、この海水がエンケラドスの南極域から噴出している。地下海の海底には熱水噴出孔があると推定されている。(Credit: NASA/JPL)

地下海から噴き出した海水の分析

そこで、今回の研究で注目したのは、エンケラドスの地下海から噴出されるプルーム微粒子の化学組成でした。

プルーム微粒子は地下海から噴き出した海水の飛沫で、この微粒子を調べることで海水の化学組成を直接的に明らかにすることができます。

探査機“カッシーニ”に搭載された“宇宙塵分析器(CDA)”は、探査機と衝突したプルーム微粒子の組成を調べる測定器です。
これまで数百個の微粒子一つ一つに対して、それぞれ組成データを得てきました。

ドイツのベルリン自由大学のFrank Postberg教授を中心とする欧米の研究チームは、ダスト分析器の詳細なデータ解析を数百個の微粒子に対して実施。
プルーム粒子にナトリウム塩のほか、リン酸に富む粒子が少量ですが含まれていることを明らかにしています。

さらに、研究チームが見積もったのは、プルーム粒子全体に対するリン酸を含む粒子の存在割合から、エンケラドスの地下海のリン酸濃度が1~20mmol/L(1リットルの水に1000分の1~20モル)であることでした。

地球の海水のリン酸濃度は500nmol/L程度(1リットルの水に1000万分の5モル)。
なので、エンケラドスの海水には、地球海水の数千倍から数万倍の高濃度でリン酸が含まれていることになります。

それでは、この異常農集はどのような要因で起きたのでしょうか?

この問いに答えたのは日本の研究チームでした。
関根所長を中心とする研究チームが行ったのは、プルームで観測される二酸化炭素やアンモニアを含む模擬エンケラドス海水と、海底を構成する岩石に似た炭素質隕石の粉末を用いた反応実験でした。

実験により突き止めたのは、リン濃集を引き起こした要因が、アルカリ性かつ高炭酸濃度のエンケラドスの水環境にあること。

アルカリ性かつ高炭酸濃度の水環境では、リン酸イオンと炭酸イオンの間でカルシウムイオンの奪い合いが起きます。

つまり、アルカリ性かつ高炭酸では、カルシウム炭酸塩鉱物がより安定になり、リン酸塩鉱物のカルシウムが奪われることでリン酸が溶けだし、海水中の高濃度を実現するわけです。

このような水環境は、エンケラドスのような太陽系外側の氷天体の地下海で達成される一般的なものといえます。

そこで予想されるのは、リン酸の濃集がエンケラドスだけでなく他の土星の衛星、天王星や海王星の衛星、冥王星の地下海、あるいは探査機“はやぶさ2”の訪れたリュウグウの母天体も含めて、ことごとく起きているということ。

この研究では、欧米チームによるリン酸の異常濃集の発見と、日本チームによるその濃集要因の解明を合わせて、一つの論文として報告しています。

リン酸の濃集した水環境が生命誕生のカギ

リンは地球生命にとって、DNAやRNA、細胞膜を成すリン脂質、エネルギー通貨と言われるATPといった生命活動を担う生体分子の根幹をなす重要な必須元素です。

一方で、現在の地球上の水環境にリンは極めて乏しく、生命の進化や活動を律速する最も枯渇した元素と言われています。

生命の起源論では、RNAやリン脂質を合成するため、リン酸の濃集した水環境の実現が生命誕生のカギになると考えられています。
でも、具体的にどのような環境が、それを実現するかは未だ意見が一致していません。

今回の発見は、リン酸の濃集の場が現実にあること。
しかも、地球外の海洋にあることを、初めて実証的に示した点において、極めて画期的なことになります。

これまで地球以外に液体の水が存在する天体が複数明らかになっていましたが、その水環境にリン酸が高濃度で存在することを示した例は他にありませんでした。

この研究が示しているのは、アルカリ性かつ高炭酸濃度という水環境があれば、普遍的にリン酸が海水に濃集することです。

厚い二酸化炭素大気を持つ原始地球で、そのような場所といえば“アルカリ熱水環境”になるんですねー
アルカリ熱水環境だとアルカリ性かつ高炭酸濃度という環境が実現するはずです。

アルカリ熱水環境で原始生命が誕生したという考えは、進化生物学が示唆する原始生命の生息環境とも一致します。

また、アルカリ熱水環境が、エンケラドスのような太陽系氷天体にも広く存在することを考えると、この研究は宇宙における生命の存在可能性、特に地球生命に物質的に類似した生命の可能性を広げるものになります。

“カッシーニ”に続く次のエンケラドス探査に期待

もし、エンケラドスに生命が存在するのであれば、この研究の成果はエンケラドスの生命も、地球に似たリンを使った生命を期待させます。

35億年前の火星表面には、液体の水が存在していたことが確実視されていて、火星探査車による地層の分析の結果、当時の水環境に存在していた有機物は極めて硫黄に富んだ組成をしていたことが明らかになっています。

もし、火星生命がこのような有機物からなるのだとしたら、リンを多く使う地球生命とは元素レベルで根本的に異なることになります。

エンケラドスは、物質的に地球生命に類似した生命を宿しているのかもしれない。
地下海の海水が宇宙空間に噴出し、探査機で捕獲回収可能。
この2つは、他の太陽系天体に類似例を見ません。

そこで期待されるのは、世界各国で計画されている“カッシーニ”に続く次のエンケラドス探査です。

今回の研究成果は、エンケラドスの生命を構成する物質を、具体的に予見可能にしてくれました。
太陽系生命探査、地球外生命の発見のための検証可能な指針を与えるという、今後の展開を持っているといえますね。


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太陽よりも表面温度が低い星“赤色矮星”を公転する惑星の3分の1は、表面に液体の水が存在できるようです

2023年07月05日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
表面温度がおよそ摂氏3500度以下の恒星を赤色矮星(M型矮星)と呼びます。

実は、宇宙に存在する恒星の8割近くは赤色矮星で、太陽系の近傍にある恒星の多くも赤色矮星なんですねー

今回は、太陽よりも直径や質量が小さく、表面温度も低い赤色矮星を公転する太陽系外惑星のはなし。
その3分の1には、表面には液体の水が存在できる可能性があるそうです。
この研究を進めているのは、フロリダ大学の博士課程学生Sheila Sagearさんと同大学の天文学者Sarah Ballardさんです。
このような系外惑星は、地球外生命を探索する上で最適なターゲットになることや、対象になる惑星は天の川銀河だけでも何億もあると推定されます。

このことから、今回の研究成果は今後10年間の系外惑星の研究にとって、非常に重要なものになりそうです。
赤色矮星を公転する系外惑星のイメージ図。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
赤色矮星を公転する系外惑星のイメージ図。(Credit: NASA/JPL-Caltech)

系外惑星が受ける潮汐力による加熱

人類は、これまでに5400個以上の系外惑星を発見しています。

その中でも赤色矮星の周囲では、地球に似た岩石質と推定される系外惑星がいくつも見つかっています。

ハビタブルゾーンを公転しているなどの条件次第では生命が存在する可能性もあることから、これらの系外惑星は研究者の注目を集めているんですねー
“ハビタブルゾーン”とは、主星(恒星)からの距離が程良く、惑星の表面に液体の水が安定的に存在できる領域。この領域にある惑星では生命が居住可能だと考えられている。太陽系の場合は地球から火星軌道が“ハビタブルゾーン”にあたる。
ただ、赤色矮星の表面温度は4000℃以下と太陽よりも低いので、太陽系に比べると主星に近い位置にハビタブルゾーンが広がっています。

このため、ハビタブルゾーンを公転する惑星は、主星である赤色矮星の重力がもたらす潮汐力の影響を強く受けることになります。
潮汐力は、重力によって起こる二次的効果の一種。天体の各部分に働く重力と天体の重心に働く重力とに差があるため起こる。
惑星の軌道が真円でなく楕円形に歪んでいる場合には、主星から遠いときはほぼ球体の惑星も、接近するにしたがって主星による潮汐力で引っ張られ、極端に言えば卵のような形になります。

そして、主星から遠ざかるとまた球体に戻っていく。

これを繰り返すことで発生した摩擦熱により惑星内部は熱せられていきます。
このような強い重力により、天体そのものが変形させられて熱を持つ現象を潮汐加熱といいます。

木星の衛星イオでは、木星や他の衛星の重力による潮汐加熱を熱源とした非常に活発な火山活動が知られていて、土星の衛星エンケラドスからプルーム(水柱、間欠泉)として噴出する水は潮汐加熱によって維持されている地下海が源だと考えられています。

系外惑星でも同様に潮汐加熱が起きている可能性があり、火山活動が起きていると指摘されているものもありますが、生命の居住可能性という観点では加熱の強さが問題になってきます。

それは、もし極端な潮汐加熱が起き場合、惑星は表面に液体の水が存在できないほど加熱されることも考えられるからです。
火山活動が起きている可能性がある太陽系外惑星“LP 791-18 d”のイメージ図。(Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center/Chris Smith (KRBwyle))
火山活動が起きている可能性がある太陽系外惑星“LP 791-18 d”のイメージ図。(Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center/Chris Smith (KRBwyle))

公転軌道の離心率が潮汐加熱の強さに影響している

今回の研究では、101個の赤色矮星を公転する合計163個の系外惑星について、潮汐加熱の強さに影響する公転軌道の離心率(軌道離心率)を調べています。
NASAの系外惑星探査衛星“ケプラー”とヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星“ガイア”の観測データが用いられました。

離心率とは軌道の形を示す数値のこと。
真円は0、楕円は0よりも大きくて1よりも小さく、放物線は1、双曲線は1より大きくなります。

たとえば、月の公転軌道は離心率0.0549の楕円形なので、地球に近づく時と遠ざかる時の距離の差は約4万キロ。
地球に近づいて大きく見えるタイミングの満月はスーパームーンと呼ばれています。

分析の結果示されたのは、調査対象のうち3分の2の惑星は離心率が大きく、極端な潮汐力がもたらす加熱によって表面で液体の水を保持できない可能性があること。

一方、残りの3分の1の惑星では、そこまで潮汐加熱が強くはなく、表面に液体の水を保持できる可能性、ひいては生命が存在する可能性もあることが示されています。

さらに、複数の惑星が見つかっている惑星系では公転軌道の離心率は小さくて真円に近い傾向にあり、主星を単独で公転する惑星では離心率が大きい傾向にあることも分かってきました。

なお、赤色矮星の周囲では、主星からの距離や公転軌道の離心率だけでなく、赤色矮星の活動性も生命の居住可能性を左右すると考えられています。

最近では約4.2光年先の赤色矮星“プロキシマ・ケンタウリ”の活動を分析した結果、そのハビタブルゾーンを公転している系外惑星“プロキシマ・ケンタウリb”の居住可能性は低いかもしれないとする研究成果が発表されています。

ただ、過去には赤色矮星の活動が惑星大気中のオゾン層の形成を促したり、赤色矮星の表面でフレアが発生する緯度によっては惑星への影響は限定的だとする研究成果も発表されています。

赤色矮星のハビタブルゾーンを公転する岩石惑星の環境については、まだまだ分かっていないことがたくさんあるはずです。

生命の居住性についても、肯定的なものから否定的なものまで色々と出てくるはずなので、これからの観測と研究に期待ですね。


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