問われて名乗るも

　悪代官を切り、本所築地奉行徳ノ山五兵衛に捕えられた。処刑されるときこの世に思い残すことはないかと問われ彼は只一つ日光を見たことがないと申したので五兵衛は不憫に思い、地内の戸崎氏に連行を命じ内々で日光見物の願いを叶えてやった。無事に戻り・・・・日本左衛門首洗い井戸跡之碑と相成った。

　彼とは、歌舞伎の稲瀬川勢揃いの場、弁天小僧菊之助で有名な「白浪五人男」の一番目「問われて名乗るもおこがましいが、生まれは炎暑緒浜松在・・・・」の日本駄衛門のことで実在の人物とされている。石川五右衛門が見え隠れする。

　震災記念堂のある墨田区石原１丁目交差点の近くに「徳之山稲荷神社」がある。神社の由来と首洗いの井戸と碑がある。

　５、６年前に立ち寄ったことがあり、「なまサンプー」のついでに思い出したので寄ってみた。

　捕らえた者を幕府の目を掠めて日光見物をさせてやった。逃げようとすれば出来たであろうに約束を守りこの恩義に報い潔く処刑されていった・・・・

　日光まで徒歩で往復一か月はかかっただろうか、待つ者、行く者の心の葛藤は・・・察するに余りある。

　将に義理人情の世界に嵌り込んでいくのである。
　　　　　　　　私も問われて名乗るほどの者ではない・・・・