減塩しすぎるとどうなる?やる気が失せて元気がなくなります。
(最新追記 2020.1.27)
文明から隔絶された民族の1日当たり食塩(NaCl)摂取量は1g程度で、これは、食糧とする野菜などに含まれているものの総量で、“塩”としては一切摂っていません。
そうした民族は、文明の利器に頼らず、人力でもって狩猟採集や焼畑農法を行って暮らしています。彼らは日頃いたって健康で、何十キロも“歩く”ことがあるのですが、そのスピードは“小走り”であって、文明人にはとても着いていけない早さです。
その彼らにも泣き所があります。大怪我をして出血したり、高熱で大汗をかいたときには脆いのです。ひどく衰弱するのですし、気力が失せ、元気がなくなるのです。
これは、食塩摂取量が少ないがために、体内の食塩量がギリギリのところにあって、体内食塩の損失により食塩欠乏症を引き起こすからと思われます。
食塩欠乏症の症状は文明世界でも知られており、その昔、牢に入っている罪人の気力を殺ぐために“塩”を与えなかった所もあったそうです。これで元気が失せ、暴れない。
その他の食塩欠乏症としては不眠症が知られており、悪玉コレステロールが増加したり、痛風を悪化させると言われています。
ところで、文明から隔絶された民族は、“塩”を摂らなくても健康で元気なのですが、文明世界の人にあっては、“塩”を摂らなくなると、なぜ気力が失せたりするのでしょうか。
これは、腎臓の食塩再吸収能力の違いによります。日頃から食塩の摂取量が少なければ再吸収能力が99.9%程度まで高まっているのですが、十分な食塩を毎日摂っていると、全部を再吸収する必要はなく、その能力は99%程度まで落ちるのでしょうね。
なお、汗による損失もありますが、食塩の摂取量が少なければ汗からの損失もぐんと少なくなり、摂取量が多ければ汗から食塩が排出されるとの実験結果があります。
さて、健康を維持し、がんを含めて生活習慣病を予防するために、「減塩」が声高に叫ばれて久しいです。今の日本人の1日当たり食塩摂取量は男12g程度、女10g程度ですが、これでは摂りすぎであり、男9g、女7.5g未満にしなさいと言われています。男女ともに25%削減せよというものです。世界的には、推奨6g、目標5gと、もっと厳しいです。
ところで、このグラム数ですが、調理や料理に“塩”を振る量ではなく、味噌・醤油やハムなどの加工食品に含まれる食塩を含めてですし、穀類や野菜に含まれる1g程度の食塩も含んでのことです。
となると、家庭で加える“塩”の量は、1g程度に抑えねばならないことになります。
薄味で我慢せよということになるのです。味噌汁や漬物もほどほどに、となります。
かような減塩食では、塩味に馴染んだ方…小生を含めて…には、牢に入れられた罪人とどれだけも違わず、やる気が失せて元気がなくなります。
なんせ、腎臓における食塩再吸収能力が低い体質になっていますからね。
その食塩ですが、体内でどのように働いているのか、それを説明しましょう。
食塩は、完全に溶けて、プラスのナトリウム(Na)イオンとマイナスの塩素(Cl)イオンに分かれ、電解質として存在します。ただし、ナトリウムの場合は一部が重曹(NaHCO3)などの形で存在し、水素イオン濃度を調整するための緩衝材の働きをしています。
様々なイオンが移動する度に神経細胞などに電気が流れて電気信号となり、生命エネルギーの渦が巻き、これが生き物の本質である、と考えて良いです。
どんな動物も、細胞外液にはナトリウムイオンと塩素イオンが海水の3分の1程度の濃さで存在しています。生命が誕生した頃の海水と同等の濃度です。
それに対して、細胞内液には、この2つのイオンはほとんど存在せず、プラスのカリウム(K)イオンとマイナスのリン酸(HPO4)イオンが、ナトリウムイオンや塩素イオンと概ね同量ずつ存在し、バランスを取っています。
なお、この2つのイオンは、逆に、細胞外液にはほとんど存在しません。
これ以外に、量は少なくなりますが、カルシウム(Ca)イオンは細胞外に、マグネシウム(Mg)イオンは細胞内に卓越して存在します。
こうして、それぞれの電解質は細胞外、細胞内で大きく違った濃度で存在し、ほぼ一定の濃度を保っています。よって、どれかのイオンが一つでも不足すると、電解質異常をきたし、基本的な生命活動そのものに支障をきたすことになります。
また、イオン間のバランスが求められ、ナトリウムイオンであれば、カリウムイオンと対になって働きますから、果物(カリウムが多い)を食べるときは“塩”を振るべしとなり、塩辛いものを食べるときは野菜(カリウムが多い)をたくさん食べるべしとなります。
両者がともに摂取過剰であれば、腎臓で再吸収されるときに両者とも容易に膀胱へ排出されますが、片方だけ摂取過剰の場合は、不足気味の方も一緒に排出され易いですから、摂取バランスが求められるのです。特に、ナトリウムイオン過剰の場合に、その傾向が強く、塩辛いものが好きな方は、果物や野菜を十分に食する必要があります。
次に、細胞は浸透圧を一定に保つことによって、その大きさが維持されています。
浸透圧を作り出す物質は、電解質の他に、ブドウ糖やアミノ酸などがあります。消化吸収されたブドウ糖やアミノ酸が欠乏してしまう、つまり長く空腹が続くと、細胞外液の浸透圧が弱まり、細胞が膨らんでしまいますから、骨の中に貯蔵されている食塩を放出したりして、浸透圧の調節を行います。
この浸透圧調節は食塩の重要な働きの一つで、食塩が欠乏すると、細胞が細胞外液の水を吸収して膨れ、それによって細胞外液が減り、併せて血液量も減って、脱水症状を引き起こします。すると、血圧は低下し、尿も出なくなります。
熱中症による脱水症状がそうで、こうした場合には、細胞外液と同じ濃度である生理食塩水を補給してやればよいです。水だけの補給では効果が出ないのは、浸透圧調節効果がないからです。
食塩の働きとして、これら以外に次のものがあります。
1 消化液=胃酸(HCl)づくりに不可欠ですし、脂肪の分解に必須の胆汁にも食塩は濃厚に含まれています。また、ブドウ糖やアミノ酸が吸収されるときには、ナトリウムイオンがそれらとの化合物になってから吸収されます。よって、食塩の摂取不足で食欲が落ちるのは、消化も吸収も阻害されるからです。
2 血液は弱アルカリ性に保たれており、酸性に傾けるのは二酸化炭素です。これの緩衝材になるのが重曹やナトリウム有機化合物で、弱アルカリ性を維持しています。
3 腎臓や副腎そして生殖器の働きを助けます。
4 体を温める作用、造血作用があり、新陳代謝を盛んにし、冷え症、貧血症、便秘症を軽減します。
なお、3と4は、中医学(漢方)の経験則でして、科学的には未だ解明されていないようですが、これは確かなことで、漢方養生法に“減塩”は、まず出てきません。
ただし、夏は食塩の摂りすぎは「心(=心臓)」に負担がかかるから摂りすぎに注意しなさい、となっています。(追記:2012.9.23「紀元前の中国は既に生活習慣病が蔓延していた」の記事を書く中で、高塩食の戒めとして次のものがあるのを知りました。古代中国の医学大百科事典「黄帝内経素問」第12編「異法方宜論」において、「東方の国は海岸が近い。魚や塩分の多い物を多食する。塩分が多いと血が粘り、皮膚が荒れ、顔色は黒くなる。」というものです。)
食塩の摂りすぎは別として、このように食塩は非常に重要な働きをしており、欠くことができない各種ミネラルの中で、その筆頭に掲げられるものです。
では、食塩を過剰に摂取すると、どうなるでしょうか。
まず、程度問題ですが、これは全てのミネラルに共通して言えることですが、あまりに摂取過剰であれば、電解質異常や浸透圧異常で死に至ります。でも、食塩の場合は、味覚で感知できますから、塩辛すぎれば口が拒否するでしょう。
そして、多少の過剰であれば、腎臓で再吸収されるときに、吸収率が落ちて、膀胱へと排出されます。ただし、膀胱に収まるまでのしばらくの間は、細胞外液が高濃度になりますから、喉の渇きを訴え、水を飲みたくなります。そこで水分補給すれば、細胞外液が薄められますし、排尿も促進されようというものです。
ところが、腎臓の働きが弱い場合には、濃度調節・排出機能が不完全となり、どれだけかの電解質異常や浸透圧異常を起こし、様々な生命活動に影響してきます。
そのシグナルは「むくみ」となって表れることが多いですし、また、「むくみ」は食塩欠乏によっても生じます。
最後に、文明から隔絶されていた民族も、今やほとんどが文明世界との接触を持つようになってしまい、かすかな接触であっても、“塩”が食生活に大きく入り込んでいるようです。なぜか塩味の嗜好が強いヒトです。
小生の経験では、スウェーデンを旅行したときに、“この国の人は、こうも塩っ辛い魚の塩漬けをよくも食べるものだなあ”とびっくりしましたが、一般に、我々日本人は、西欧人に比べて、より塩味の嗜好が強いと言われます。
これは、白米食が塩味を求めるとか、味噌・醤油文化によるとか言われていますが、古来より日本人は塩味に親しんできたのですし、それによって健康を害してきたとは思えません。食塩は、腎臓にもいいし、体が温まるし、元気にもなるのを実感してきたのですし、うまいと感じる濃さの塩味を皆が楽しんできたのです。
よって、減塩など全く気にする必要はないと、小生は考えるのですが、いかがなものでしょうか。食塩をある程度とっても胃ガンの心配はないですし、高血圧になることもないのですからね。胃ガンは前号で、高血圧は前々号でそれぞれ記事にしましたので、クリックしてご一読なさってください。
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