9月23日 NHK「おはよう日本」
多くのファンが心待ちにしていた新作映画である。
9月18日に公開された京都アニメーションの新作映画
「劇場版 ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン」。
戦争で生き別れた大切な人を思い続ける主人公の少女。
その心の機微を描いた物語である。
36人が犠牲となった去年7月の放火事件の前から
制作が進められていた今回の映画。
亡くなったアニメーターも数多く携わっていた。
(映画の観客)
「制作者の思いも
今まで以上に感じられる良い作品だった。」
「ぼくらは見ることしかできない。
これからも頑張ってもらいたい。」
この作品の製作スタッフのひとりとして作画を担当していたのが高橋博行さん。
放火事件に巻き込まれ48才で亡くなった。
機械や乗り物など
緻密な作画を手掛けてきた高橋さん。
高橋博行さんの父(77)は
亡くなった息子のために事件後 一日も欠かすことなく鶴を折り続けている。
「毎日1羽ずつ折って
博行をしのんで
思い出してやろうと思って。」
「私の命がある限りは博行を絶対忘れることはない。」
博行さんは長年キャラクターが使う道具などを描く「小物設定」を呼ばれる仕事を担当。
細部までこだわり抜かれた作画で数々の作品を支えてきた。
ヒット作「響け!ユーフォニアム」で手掛けたのは楽器の作画。
光の反射や
使い込まれた表面の凹みまで再現し
その技術が高く評価された。
京都アニメーションの作品に欠かせない存在となっていた博行さん。
今回の新作映画でもメインスタッフのひとりとして参加していた。
京アニを支えた名アニメーター。
しかし幼い頃はけっして何かに秀でた子どもではなかったという。
「これはお兄ちゃんと2人。
博行が中学 お兄ちゃんが高校。」
3才離れた兄は勉強もスポーツもできる優等生。
博行さんはいつも引け目を感じていたのではないかという。
「お兄ちゃんは毎回オール5なんです。
博行は4が1つ2つあったらあとはオール3。
お兄ちゃんに対する対抗心がある程度あったのではないか。」
自分が輝ける場所はどこか。
博行さんが選んだのはアニメーターの道だった。
大学進学を進める父の言葉を聞き入れず
博行さんはアニメの専門学校に進学。
そして京都アニメーションに入社する。
しかし才能がすぐに開花することはなかった。
「私ら夫婦の子やから特別な才能は持ってないやろうと。
『もっと堅実なサラリーマンになったら?』と何回も言ったんです。」
決して天才肌ではなかった博行さんを支えたのは並々ならぬ努力だったと
元同僚のアニメーターは言う。
博行さんが描く楽器などの緻密な作画。
参考になる資料や実物などを徹底的に研究し
その握り方にまでこだわっていた。
テレビシリーズの「ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン」に登場するバイク。
エンジンの仕組みを一から勉強し
内部の構造も克明に描き込まれている。
(京都アニメーション元社員)
「ディテールによって出来る表現をあえて描くことで存在感を出す。
リアリティーを持つことによって話に深みを出せた。
彼の存在意義というのがすごく出ている。」
これまでアニメーターの道を目指した息子を
素直に応援できなかったという父。
多くの人を魅了する作品を手掛けていたことを知ったのは
事件の後のことだった。
「私は博行の才能を認めていなかったので
よくこれだけ描けるようになったなと
びっくりするほうが先でしたね。
自分の子ながら
よう辛抱したな
よう努力したなと思いましたね。」
父は公開された新作映画を見るために劇場へ向かっていた。
カバンの中へ忍ばせていたのは家族4人の写真。
博行さんと一緒に映画を見ようと考えていた。
その裏には
毎日折り続けてきた鶴。
「博行の名前書いて
いつもの折り鶴。
映画の中に博行がやった痕跡が見つけられるかなと。」
息子の作品をもっと見ておけばよかった。
後悔の念を抱き続けてきた父。
この日 博行さんの最後の仕事と向き合った。
「ちょっと胸がいっぱいになって。
すばらしい映画を作れる仲間と一緒に
28年間 ずっと仕事をしてきたことが
本人は一番幸せだったのではないかと感じました。
ほめてあげたかったんですけど
もう届かない。
自分の息子で良かったなと思います。」