9月23日 読売新聞「編集手帳」
巨人の黄金期を指揮した故・川上哲治元監督は、
東京・多摩川のグラウンドで小石を拾うのが日課だった。
選手の練習中のけがを防ぐため、
監督が作業を始めると、
やがてコーチや選手が加わったという。
「O(王貞治さん)N(長嶋茂雄さん)以下の全選手が外野から内野へと小石やゴミを拾いながら動く。
『こんなことさせやがって』と思う選手もいたかもしれないが、
集団作業は全員に緊張や連帯感を生んだ」。
川上さんの著書「遺言」にそうある。
組織を重んじた管理野球は批判もされたが、
スター集団を統率できなければ、
「V9」は実現しなかっただろう。
川上さんの監督としての球団最多勝利記録を原辰徳監督が塗り替えた。
「実力至上主義」が奏功して、
ペナントレースは巨人が独走しつつある。
常勝軍団を築けるかどうか。
「V10」を逃した理由について、
川上さんは、自分が祭り上げられ、
選手のコンディション不良など細かな情報が入っていなかったことを挙げている。
「チームの掌握が本当のものになっていなかった。
気の緩みだ」。
昨今の政界にも通じる話か。
上手の手から水は漏れる。