今週と先週の2回とも精神科病棟で働いた。精神科病棟で働いたのは日本で看護学校に通っているときにした実習以来で本当に久しぶり。
この病院の精神科はつい数ヶ月立て直したばかりで、ホテルのようにきれいだ。重症と比較的軽症の2つのセクションに分かれており、両方ともしっかりと病棟の出入り口と処置用器具・薬品や患者の記録が保管されている部屋には鍵がかかっている。ここで働く職員は勤務の始めに、これらの鍵のかかった部屋に出入りするための共通のカードキーをもらう。
私の働いた病棟は軽症のセクションで、患者のリストを見ると、うつ病が多く、分裂病やその他老人ホームに入所するまでのつなぎのために入院している患者もいる。今週は、私はうつ病の患者で自殺のリスクがある患者のスペシャルという24時間付き添いのナースとして4時間働くことになった。
朝いきなり病院から電話がかかってきて、半日だけ働くことになり、珍しく車の渋滞にもまれながらいつもの倍以上の時間をかけて病院にたどり着いたら、これまたいきなり「あなたの患者さん、手術室でECT(精神科で使う電気ショック療法)を受けているところだから向こうに行って付き添って。」と言われた。ECTで具体的に何をするのか、患者の一般的な経過などは全く知らない…。
見慣れない手術室に行って、それまで付き添っていた精神科専門ナースと交代する。自動のO2Sat・心拍数・血圧測定機(日本ではバイタルサイン、こっちではOBS=Observationsという)を付けられている患者さんはまだ麻酔をかけられておらず、かなり緊張している。記録を見るともうすでに何回か同じ治療を受けており、経過は良好とのこと。スタッフは私を除いてナースが2人、麻酔医1人、精神科医師2人、電気療法専門ナース1人の合計6人。大所帯だ。何回目かの治療でも一応一通りの説明を各スタッフから受け、酸素をマスクで吸入されつつ麻酔医が短時間持続の麻酔をかけ、患者の意識が数秒でなくなる。その後、バイタルサインに異常が無かったら、割とすぐに頭にパッチとケーブルを付け電気ショックを行う。電気ショックの瞬間、患者さんはかなり苦痛そうな顔をするけど、意識が無いため後で全然覚えてない。全部でものの10分位。すぐに麻酔からさめた患者さんの状態を回復室のナースが観察しながら、処置後45分経過が良好であれば病棟に帰れる。経過を観察しながら、病棟でよく見かける迎えに来た「オーダリー」という職種の患者や物品運搬専門の人と世間話を回復室のナースと一緒にする。3人とも子持ちで、子供のことで話が盛り上がる。このオーダリーの彼は離婚しているとか。彼女募集中らしい。背丈は結構あり、顔はなかなか精悍な感じ、声は良く通るバリトン、身体はかつてボディビルをしていたというのも一発で分かるくらいマッチョで引き締まっている。すぐにでも出来そうなのに。日本にいる私の姉妹3人は皆結婚していないというのを聞いて、突然目が輝き始め、「えっ?独身?年はいくつ?」とか1人で盛り上がっている…。そして話は変わり、私の勤務はお昼前までという話を他のナースに話していると、「こんな話ってあるかい?働かなさ過ぎだよー。」とか文句を言っている…。「私は集中的に4時間しっかり働いているのさっ。濃密な半日勤務なのよ。」と言うと、「へー。ほー。そうなんだー。」と半目で答えてくる。
経過良好な患者さんを病棟に連れてきて、お茶とビスケットを用意して少し話をする。しばらくすると、かなり治療で疲れたらしく患者さんが眠ってしまったため、病室の目の前に椅子を持ってきて座って待つことにすると、今度はさっきのMrマッチョガイが「信じらんねーっ!!」とただ座っているだけに見える私を見て廊下で絶叫している…。ただ座っているだけで給料を貰えると思って、相当に悔しがっているらしい。「あらー、だったらナースになる?給料良いわよー。」と言うと、「ううんにゃ、やだね。人のおしっこやらウンチを始末するなんてごめんだね。」という暴言を吐きながら、退院した患者のベッドのシーツ交換をしている。この人たちの仕事って何から何がカバーされているんだろう…。いろんなことをしているのを見かける。余りにも暇だから、洗面所の手拭用の紙に、タイと台湾と東京にハネムーンに行くという知人のために‘バリバリ旅行者のための東京のお勧め観光スポット’なるものを書き始めた。そうすると、またマッチョガイが廊下の向こうで病棟用のゴム手袋を伸ばしたり引っ張ったりして遊んでいる。「その手袋で鶏の頭を作れるの知っているー?」と聞いたら、「鶏?そんなの必要ないよ。この頭が見えないかい?」と言いながら、ジェルでつんつんにおったてた自分の頭をカクカク前後に動かしながら、鶏の真似をして「コッコッコッ!!」とか言いながら行進している。なんだか座っているだけでだんだん疲れてきたような気がする。気のせいだけだろうか?それをさらっと流しながら、眠っている患者に目を走らせながら途中の作業に集中しようと勤める。そうすると、数分もしないうちに「ねえ、君の名前なんだっけ?」と聞いてくるので、ため息と共に教えると、「君の妹さんの名前は??オーストラリアには何時遊びにくるの?紹介してね。待っているからねーっ!」と病棟の廊下を大声で叫んでいる。「患者さんが眠っているんだから静かにしてよっ!」と声を控えめにしかりつける。この人、見かけは難なくても性格にはあるかも…。誰かこの人を何とかしておくれ。
お昼は皆食堂に出て食べるので、この患者さんについて行って同じテーブルにすわり、かなりすいたお腹を抱えて指をくわえながら、温野菜が添えられているローストチキンとポテトスープがきれいに消えていくのを見ながら待つ。じっと見つめられていても居心地が悪いだろうと思い、患者さんから目を離さないように(食事中ってナイフとかフォークとか持っているじゃない?)TVガイドを眺めたり、食堂でかかっているCDのジャケット(Bordersという、オーストラリアでもかなり有名なスコティッシュなバンド)を見たりする。それでも時間をもてあまして、患者さんのお膳に乗っている名前が書いてある黄色い紙を正方形に切って、折鶴を作る。随分前にさる東欧の国から移民してきたこの患者さん、かなり喜んで窓際にきちんと飾っていた。ECTで朝食を抜いていたせいか、かなりの量の食事をぜんぶぺろりを平らげ、すっかり満足した患者さんは食後の散歩を中庭でしたいといい、2人で中庭の菜園や花を眺めながら、それぞれのお国料理の話で盛り上がる。なんでもこの人のお国では、チリ・パウダーをたっぷり入れたシチューがよく食べられるとか…。
そうこうしている間に、先ほどの男性の精神科専門ナースがやってきて私と交代する。まだ午後の1時なのになんだかもう1日が経ったような気がする…。どうしてだろう。カジュアル・プールナースってこんな風に、色々な病棟で色々な看護ができるから楽しい。でも、精神科は余りにもナースとして実際にすることが少ないので面白味に欠けるかも…。
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