植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、メダカと野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

古筆から伝わる 人生と思い 

2020年05月06日 | 書道
性懲りもなくヤフオクで古い筆をまとめて落札しました。32本で約3万円。
ガラクタで、遺品整理でまとめてゴミに出すようなものでも、中には価値の高いもの、実用品として十分な道具があると思います。ヤフオクは、そうした無数に捨て去られていく物品から、残していくべきものを救う価値ある仕組みだと思います。

 書道用具は、ワタシはほとんどが遺品整理物だと勝手に断定しています。お金に困って換金する書家さんや、若い人のコレクターがそんなに居るとも思えず、書道年齢は相当に高齢化していると推察できます。今時分、ステイホームで片付けする人が増えていると聞きますが、書道道具などは邪魔になるものでもなし、やはり書道愛好者のお年寄りが亡くなった時に、身内がまとめて処分すると考えるのが自然でしょう。

 その、何割かがオークションに出品されるのだと思います。一本だけ出品されるのは未使用か、さもなくば何万円以上かの有名な高級筆ですが。そんなものには目もくれません。まとめてどうぞ、というものから入札するのです。大半が使いようのない傷んだもの、子供の習字入門レベルの安物、中国産の質の悪い筆であります。しかし、よーく出品されたものを観察すると、そう10~20件に一回くらいの割合で、非常に高級・高価な筆が混じった出品があるのです。
 高ければいいというものではありませんが、こだわりのある書道家さんたちが大正昭和と書道界全体が活況な時代に、これよ、とばかりに手にした良筆が悪かろうはずもありません。

 昔から筆の名産地と言えば広島県の熊野町と川尻町が有名です。他にも奈良筆・豊橋筆(愛知県)が4大産地とされています。豊橋筆は生産量では少ないものの、書道家さん向けの高級筆としては7~80%のシェアとか(*_*;。、知らんかった。

 そうした産地で、老舗の筆メーカーのものがどの位含まれるかが目安になります。また、筆軸や穂先の長さなどで大体元の値段の見当がつきますな。中には価格ラベルがそのまま残っていることもありますから、よーく掲載写真を拡大して調べます。千円程度の筆が混じっていたら大概はやめです。
 中に数万円するものや「細微光鋒」の表示がある筆が一本でも発見出来たら有望です。細微光鋒とは中国の山羊の特定部位の毛を使った甚だ希少な最高級品で、長鋒(穂先が長い)ものは数十万円もするものがあります。
 
 これらを、画面から判断し、元の持ち主がどういうレベルの書道家だったかを想像するのが楽しいのですね。オークションを通じてワタシも、目が肥えてまいりました。どういう筆が珍重され高価なものか。
 
 という訳で、オークションで届くのは数十本、手入れの行き届いたものから、筆の根元に墨が固まってカチカチのものまで大小さまざま、毛の種類も高級羊毛からナイロン筆まであります。中には「ほろほろ鳥」やリス、金鳥、マングースなども。こういう特殊な筆が入っているのは、相当なレベルの書道家さんです。

 最初の作業は、ナイロン毛・管(軸)がプラスチックなどの安物・毛先が切れて痩せたものをゴミ箱へ。カナ用の小筆で根元までほどけたのも捨てます。穂先まで墨で固まっているなど状態の悪いものは手入れしてもしょうがないのでこれらも捨てます。
 次に軸の文字(製造元・毛質・銘柄等)も拡大鏡で点検します。高級筆を扱う熊野筆の有名どころの銘筆は大体が当たりです。長鋒筆がいくつも入っていれば熟練の書道家所有と思って間違いありません。細身の斑竹の軸も高級品が多いです。 自称中級者のワタシは、この穂先が長いくねくねした羊毛の長鋒筆を上手に使いこなすには至りません。何本も所有していますが、いわば持ち腐れでありますな。
 初心者から中級者にとっては、腰が強く穂先がコントロールしやすい鼬筆(狼毛とも書かれます)や、羊毛に馬・イタチ・タヌキなどを混ぜた「兼毫筆」がはるかに書きやすいのです。
 
 そうして、ある程度選別した筆は、一度ぬるま湯に付け、シャンプーリンスをいたします。綺麗になったら試し書きいたします。そこで、書きやすければ、あるいは綺麗な線が出たら合格、細いテープを軸に巻いて練習用に使う「お気に入り」登録するわけですね。
 こんなことをやってると、たまに珍しい文字や筆を発見します。書道団体が配った記念筆だったり、著名な筆作家の手による筆だったり。また、誰かに贈ったとの文字も。先だっても〇〇用筆と書かれてました。恐らく注文した時にネームを入れてもらったのでしょう。
 そして今回のヤフオク落札分の中に興味深い筆を見つけました。
 これです


 「翡翠鳴」と銘名された中鋒筆です。翡翠はカワセミのことをいいます。杜甫の茶詩の一節にこの言葉が出てきます。恐らくは、この漢詩から命名したのでしょう。かけひもは金糸、その留め具に当たるコツ(肋骨)は大きくすじ模様入りの水牛の角、短めの筆菅は素材不明ながら硬質の木材で表面がわずかにざらつきがあります。軸先のダルマ軸と呼ばれる部分も恐らく水牛の角でしょう。穂に使われる毛は、「浄豹狼」と書かれ、鼬と思われますが、通常の毛よりも硬めでしなやかな手ごたえです。「いい仕事してますねぇー」
これは、明らかに特注・オーダーメイドに相違ありません。

 銘名や製筆元などが彫られた裏側に、「白木〇△執」と名前が刻まれ、発注主(所有者)と思われます。これだけのこだわりを持って作られた筆はそうはありません。

 早速試し書きしました。持ち手の軸が滑らず、穂先がキュッと立って、非常に先鋭的な文字になりました。墨の保持が少ないため、墨継をしないと少し筆先が広がりカスレに特徴が出ます。細部に神経を配った文字を書く人であったに違いありません。

 いやーこれはなかなか得難い、ワタシにはもったいないようないい筆でした。プライスレスで、どこにも売ってない貴重な筆であります。どなたかは存じ上げませんが「白木先生」の書と筆に向けた思い入れを感じつつ、大事に気持ちを込めて使いたいと思います。
 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 下手な鉄砲ではありますが | トップ | ボカシ肥料は今年3回目(非... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

書道」カテゴリの最新記事