植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、メダカと野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

金山馬にまたがって

2020年06月16日 | 書道
例によって、ヤフオクで古い筆を落札してしまいました。

 もはや書道筆に関しては100本以上保有しているので、新たに求める必要はないのです。しかしながら、書道という伝統文化の、ある意味象徴と言える筆、とりわけ現在ほとんど製造されていない珍しい古筆を後世に残していくという使命感が、ワタシを入札させてしまうのです。(笑)

 書道筆のメーカーさんは、恐らく今まで以上に減っていくでしょう。インターネットやSNS,パソコン、スマホと文明の利器が進化し、便利になるにつれ、字を書くという習慣や必要性はどんどん薄れてまいります。日本でも自分の名前すら書く必要がない時代がそこまで来ているのです。
 書道人口が減り、筆の需要が減りますから段々書道店も廃業します。古い筆に刻まれた「◯◯堂」という名前をネットで検索しても、製筆業者としてはヒットしないことが多くなりました。
 
 更に、筆の穂に使う毛も種類によって入手困難になりつつあると聞きます。流通する書道筆の半数が「羊毛筆」(実際は山羊)であります。高級筆(高額品)の代名詞として扱われる山羊の首周りの毛も、採れる量が少なく飼育される頭数が限られるのでしょうか非常に高値だと聞きます。次いでよく使われるのが「狼毛筆」(鼬毛)です。その中でも品質がいい高級品は「コリンスキー」といわれるイタチの毛です。

 これに加えて一般的に使われるのが「馬、タヌキ、リス、ウサギ」と言ったところでしょうか。単用ではなく、羊毛にいろいろな毛を混ぜて仕上げる兼毫筆というのが多いようです。

 それで、今回のオークション、見つけたのは5本まとめての古い筆の出品でした。
写真の筆の管や穂先の状態から、恐らくは昭和40年代頃のものと見えました。
古い筆でも案外値札シールが付いたものが多いのですが、それが3本、14万円、4万円、4千円とついておりました。これが消費税導入前で、光沢あるシールの文字のカスレ具合からみて3、40年前のものとふんだわけであります。

 書道に関していえば、古いほど高くなる骨董品としての価値が出るものは一に「書」そのもの、二に硯となりましょう。三は由緒ある田黄石などに彫刻がある篆刻印になりますか。
 実用のもの、墨にせよ和紙(半紙、半切)にせよ古ければ劣化しますから段々価値が下がります。恐らく実用品である古筆も消耗品として骨董価値は少ないと思いますね。穂先はだんだん切れ傷みます。管(軸)は竹ならばひびが入り、割れてきます。昔の偉い書道家や、歴史上の人物が使ったというような筆の話は聞いたことがありません。筆には使う人の名前が入るのは稀ですから由来が判明することが少ないのでしょう。
 
 そうして首尾よく五本を16千円で落札出来ました。実用になるかもわからぬ古い筆に高い!と思うか、定価で少なくとも19万円ほどの珍しい高級筆が9割以上安く買えたと思うのか、まぁそれぞれでしょう。ワタシが気に入って、欲しくなったその理由は、その中に含まれた2本「金山馬」の筆にあります。

 山馬と言うのは中国やインドの山岳地に生息している「水鹿」だそうです。珍しい動物ですでにワシントン条約で保護されています。ですから、高級かどうか、あるいは書筆として優れているかは別にして、何しろほとんど筆屋さんでも売られていない高額な筆になっているのです。金は、恐らく毛の色を表したものでしょう。

 調べてみると、鹿毛というのは、中空で弾力性が強く書筆に使われる動物の毛の中では最も固いのだそうです。太いわりに、折れやすく、墨持ちがいいとも。通常は兼毫筆の弾力性・強度を補うために用いられるのですが、単用筆は、固い独特の書き味と線質があり、味わいのある字が書けると解説がありました。
この4本は、上から順番にイタチ、金山馬、馬、羊毛の長鋒筆であります。届いたのは2番目のものです。もう一つの金山馬筆(定価14万円)は、条幅用の大筆でした。
 
 早速試しに書いてみました。「駄目だこりゃ」
結果は明らかで、初めて手にする特殊な毛の筆ですから、準中級者のワタシがいきなり書いても、使いこなすのは無理なのは仕方がありませんね。


これも修行です。せっかく16千円を投資しましたから、練習を重ねて、この荒馬(水鹿)に慣れ、その風合いを出せるよう努力・研究する鹿(しか)ありません。
 問題は、この鹿毛の筆は毛が折れやすいのであります。
 こいつが無事なうちに、ワタシが乗りこなせるまでの腕前に辿り着けるかどうか。
コメント
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