風そよぐ部屋

ウォーキングと映画の無味感想ノート

夕凪の街桜の国・ヒロシマナガサキ

2008年03月26日 | 映画
夕凪の街桜の国・ヒロシマナガサキ 2008/3/24 池袋文芸座


主演・トップ女優は、田中麗奈だが、この映画を傑作にしているのは、
麻生久美子と藤村志保の二人の女優だ。
 

西日本の優しい言葉と言葉遣い、ゆっくりしたセリフが心を静かに、本当に和ませてくれる。
皆実[麻生久美子]とその母[藤村志保]は、被爆後、川のほとりのバラックで、
つつましく、明るく生きていた。
だが、皆実は「生きていてはいけなかった」と思っている。
そんな皆実は職場の同僚にひそかに思いを馳せる。
観客は、皆実の恋の行方・幸せを願うが、悲劇を予感する。
彼女が原爆症なのを知って彼が去るのでは、と想像する。
だが、彼はそんな彼女を受け止める。
だが、26歳の若さで彼女はあっけなく死んでいく。
ドラマはこの先どのように展開するのか、と思っている内に、前編が終わる。
瀬戸内海は夕方、それまで海から吹いていた風が止み、夕凪の街となる。
しばらくして今度は海に向かって風が吹く。
瀬戸内の夕方は、風がなく、夕凪で暑い。

桜の国は平成の現代。
皆実の弟・旭[堺正章]は、家族に黙って皆実の50回忌で、広島に赴く。
それに気付いた旭の娘・七波[田中麗奈]とその弟・凪生の恋人・東子[中越典子]は、
その後を追う。
七波、凪生の母親は被爆者で、それが原因で死んでいた。
原爆について意識してこなかった姉・弟二人だが、原爆が顕在化してくる。


原作は、こうの史代さんの漫画。
登場人物の名前が現代風で、柴門ふみの作品みたいなのが私にはちょっと気にくわなかった。
後半の開始もちょっとおかしい。
いくら説明が面倒だからとしても、自分の姉の50回忌を子に黙って出かけるなんてことはおかしい。
この映画には、悪い人、意地悪な人、変人、皮肉れた人は全く出てこない。
全ての人がいい人、優しい人である。
普通だと、こんなのあり得ない、と薄っぺらに感じ、癖々するのだが、
この映画では、なぜか心地よく感じる。
第一にそれは、原作の良さと、
前半の二人の女優の好演に、あまりある。
人の思いは、言葉を通じてだけでなく、家族・友人・他人を通してつながっていく、
そんな気がした。
佳作である。

~~~~~~~~~~


2007年アカデミー賞ドキュメンタリー映画賞を受賞した。
監督は日系三世のスティーヴン・オカザキ。
14人の被爆者、原爆投下に関与した4人のアメリカ人の証言する。
登場する証言者の多くは被爆当時の写真を撮られていた。
それは、彼らが即死しなかったこと、軽微ではない重症原爆被害者としての価値があったこと、
そして、有効な治療を受けることが出来たことを意味している。
その多くが、生死の苦しみを、「化け物」とののしられ自死の苦しみを、
そして死にたくても死が来ない苦しみを、経験している。
彼らは傷やプライバシーをも公開している。
しかし、彼らの語りは穏やかで、静かだ。
彼らの出演を実現し、証言を得たスティーヴン・オカザキの力は並みではない。
制作実現までに25年かかったというが多くの時間が必要とされたのだろう。
証言はいずれも、衝撃的だ。
私は次の女性の言葉が特に印象に残った。

支え合って生きてきた彼女と彼女の妹、妹は生き延びることが出来たが自死した。
彼女はいう、「人は死ぬ勇気、生きる勇気を持つ。妹は死ぬ勇気を持っていた。私は生きる勇気を持っていた。」

今日、地球上にヒロシマ型40万発を持つという。
広島に原爆を落としたかつての米兵は、いう。
「イラクに原爆を落としてしまえと言う人がいるがそれはとんでもないことだ」と。

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