
■製作年:1979年
■監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
■出演:ハンナ・シグラ、クラウス・レーヴィッチュ、イヴァン・デニ、他
今年といってももう残り僅かなのですが、2012年はドイツのニュー・ジャーマン・シネマの旗手とされたライナー・ヴェルナー・ファスビンター監督の没後30年にあたるようで、渋谷の映画館イメージ・フォーラムでファスビンター監督の特集を組んでおり、それを見に行きました。作品は1979年に製作された「マリア・ブラウンの結婚」です。この映画は日本公開当時に見ており、ファスビンターという名前と主演の女優ハンナ・シグラという名前を強烈に印象づけた映画でした。特にハンナ・シグラという女優のイメージは強くあって、まだ20代も前半だった私には、映画における強くたくましい女性という役柄よりも、妖艶さも漂うエロチックな大人の女性という印象を残しました。
映画は第二次対戦後のドイツ史に一人の女性がたくましく生きた物語を合わせていくもので、冒頭のヒットラーの写真が爆風で吹っ飛ぶとそこには、爆撃を受けている中で戸籍登録所で結婚しようとしているカップルがいる。彼と彼女は親族や関係者が逃げ惑うなか何とか地べたにはいつくばり婚姻届に印鑑を押そうとします。マリア・ブラウン(=ハンナ・シグラ)は、この爆撃の中であげた結婚の翌日には夫が兵役に取られてしまい、そのまま生存が不明となってしまう運命を引き受けてしまいます。物資はなく貧しい生活の中で母と暮らしながら復員してくる兵士らの中で夫を待ち、探す日々。やがて、マリアは生きていくためにキャバレーに働きにでます。客はアメリカ兵、黒人の兵士が彼女に見初め関係を持つようになります。やがて子供を身ごり堕胎。この黒人兵士とまさに関係を持とうと抱擁しているときに、夫は帰還してきます。夫と黒人兵士は言い争いますが、その時の黒人は丸裸でなんとも情けない格好。結果、ビール瓶でマリアが兵士を殴り殺してしまいますが、夫が身代わりとなって投獄されます。
マリアは生きていくために繊維関係の実業家に接近し肉体関係を持ち、彼を恋の虜にさせてしまいます。自信もビジネスの才があったのか、それなりに裕福になっていきます。彼女は恋と愛は違うと夫に対して終生の愛を誓っており、獄中の夫との面会をとても大切にしますが、それに相反して実業家の方は彼女への思いはつのるばかり。今回この映画を見直して印象に残るのは、マリアという女性の敗戦後の瓦礫の中から生きていくという覚悟とあっぱれな行動です。そして、最後に出獄してカナダへ去って行った夫が再びマリアのもとに戻って着たときの、彼女のうれしそうな姿です。黒いガーターの下着姿なのですが、色っぽいというより女性のうれしさ、無邪気さが出ていて可愛いのでした。この「マリア・ブラウンの結婚」は30年くらい前に見ているわけで、同じ女性でも20代と50代ではその受ける印象も違うのは当然です。若いときはセクシーに、現在は可愛いと感じるのはそれだけ私も歳をとり気持ちの上で少しだけ余裕ができたのかもしれません。ファスビンター監督は短い生涯のなかで相当な本数を撮っているので、その演出は練り込んでいるというより即興的な感じさえを私は抱きます。はたして、そのセンスがファスビンターの真骨頂か?かつての日活ロマンポルノと同じような映像的なセンス、においを感じるのです。そしてそれが心地好いと。
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