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■製作年:1996年
■監督:ラース・フォン・トリアー
■出演:エミリー・ワトソン、ステラン・スカルスゲールド、カトリン・カートリッジ、他
公開中の映画「メランコリア」の監督であるラース・フォン・トリアーの「アンチクリスト」や「ダンサー・イン・ザ・ダーク」はとても衝撃的な作品でした。こんな風に描いてしまう映画監督がいたんだと、俄然この人の作品に興味をおぼえてきました。知らなかった自分を迂闊に思いました。20代の学生の頃は名画座をはしごしたりと映画をよくみていたのですが社会人になってほとんど?映画を見なくなってしまったので、知らなかったということについていたしかたがないのですが……。で、ラース・フォン・トリアー監督のもうひとつのカンヌ受賞作品である「奇跡の海」を見たのです。この映画も別の側面から前2作以上に見応えたっぷりのいい作品でした。
まず魅力的なのは主人公のベスという女性です。笑った顔がとてもお茶目な感じがして可愛いのです。特に目の表情が豊かでとても演技とは思えないようなリアリティを醸し出していました。そのベスを演じたのはエミリー・ワトソンという女優、舞台女優でこの映画が初出演らしい。当時、この演技によりアカデミー賞主演女優にノミネートされたというが、それも充分頷ける熱演を見せています。その彼女が演じたベスは、精神的な障害を持っている(感情をコントロールできない)という設定、とははいいながら、この映画においては一番人間的でありかつ一番誠実な存在でありました。たとえるなら、まるで天使のような存在でした。
この映画には<信仰>というテーマもあるのですが、ベスは売春をしている、ふしだらである、教会を冒涜した発言をしたとして教会への出入りを禁じられてしまいます。しかし、彼女こそは最も信仰心の篤いのであり、神が憑依したかのように自問自答し自分が信じる道に向かって行動するのです。その姿勢があまりにも健気で一途、一抹の疑問も持たないのです。石油発掘場における事故で半身不随となって生死をさ迷う夫の言い付けを素直に守り他の男とセックスを試みようとします。それが売春婦と世間から誤解されてしまうわけなのですが。実際は彼女が他の男と寝ている時は精神的に魂のレベルにおいて夫と交流しているのであり、それを果たせば彼の病状が良くなるのだ、そう信じているのです。そして事実、彼女が他の男と寝る度に夫は医者から見放されていようとも奇跡を起こしながら回復に向かっていくのです。その展開がすごいと感じさせるのです。
ベスはまるでマグダラのマリアのような描きかたであったと思います。誤解、嘲笑の中でヤン一筋に愛を誓います。それもみようによっては尋常ではないほどに。彼女ほどに揺るぎなく信じれば、いや信じるという言葉はあてはまらないかもしれません、確信、それ以外はありえないという心の有様、その凄まじいまでの姿に、私たちは昇天するようなラストのエンディングで奇跡は起こったのだと実感するのです。一歩描きかたを変えれば「ダンサー・イン・ザ・ダーク」並の暗い展開になるところを監督は、天空に鐘を鳴らすことによって最期の一瞬自分の行為に疑いを持ったベスを、ヤンをその愛する思いと命を引き換えに蘇らせたことを天空で知り彼女は幸せであったと観客に訴えたのです。
画面は地味です、俳優も地味です。しかし、深く深く心に染み込んでくる名作でした。
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