■製作年:1991年
■監督:ラース・フォン・トリアー
■出演ジャン・マルク・バール、バーバラ・スコヴァ、ウド・キアー、他
私は今、ラース・フォン・トリアー監督の映画に注目して作品を見ています。今回の作品は1991年のカンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞しているもの。第二次世界大戦終了後間もないドイツを舞台に、アメリカ人の見習いの鉄道車掌がナチスの地下組織「人狼」のテロに巻き込まれていく様子を描いていますが、それはリアルな物語が展開するでなくむしろ観念的な色彩を帯びているようでした。その観念とは政治的なメッセージというより人間の存在を問いかけてくるようなペシミックでどんよりとした気が晴れない何かなのです。
冒頭が思いきっています。突然線路の映像とともに始まるヨーロッパへあなたは入るのだというカウントダウンのナレーション。こんな始まりかたは初めてです。そして画面はモノクロなのですが、これはもうトリアー監督の特徴なのでしょうか、色のないモノク映像でありながらも、全編暗くよどんだ陰鬱な空気に包まれているのがわかります。そして突然画面がくすんだカラー映像に変わったり、背景に別の情景が映ったりする二重写しの映像になったりと映像は独特の様相をみせていき、列車の中と窓から映る風景、それと電車以外の場所のどれもがそれにより不安定な印象を与えどこか不条理感の漂う雰囲気を醸し出していきます。そもそも戦勝国のアメリカの青年が敗戦国のドイツの列車の車掌になるため見習いになるという設定とそこにナチスの残党が接近してくるというのもそもそも不条理な設定であると私は思ってしまうのですが。
アメリカの青年が自分の置かれた状況にブチ切れ、最後は列車がテロの餌食になって、彼も川に沈んでしまう。その間、映像に先立ちナレーションが次に彼はこうなるなどと逐一少しだけ未来の行為の説明をしてしまうのです……。冒頭のナレーションといい、ラスト近くのこのナレーションといい、こんな解説が入ってしまう映画は初めてでありました。それはある意味で全体を見通す神の視線であり、演出家の冷めた視線なのです。私はそうした展開をどう解釈していけばいいのか正直わからず悩んでしまいました。
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