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飾釦(かざりぼたん)とは意匠を施されたお洒落な釦。生活に飾釦をと、もがきつつも綴るブログです。

映画「イゴールの約束」(監督:リュック&ジャン=ピエール・ダルデンヌ)

2012-05-20 | Weblog

■製作年:1996年
■監督:リュック&ジャン=ピエール・ダルデンヌ 
■出演:ジェレミー・レニエ、オリヴィエ・グルメ、アシタ・ウエドラオゴ、他

 

このところ連続して見ているダルデンヌ兄弟が有名になった出世作「イゴールの約束」を見ました。この作品の後に作られたのがこれまで見てきた「ロゼッタ」であり「息子のまなざし」でありました。なぜ、この2作品のタイトルを書いたかというと、それらは一人の人間にスポットをあて、執拗にそして徹底してこれでもかといった風にカメラで追っかけていく手法であったからです。しかし、今回の「イゴールの約束」はその2作品よりは前に作られたもので、基本的なリュック&ジャン=ピエール・ダルデンヌ監督の姿勢は変わっていないものの、前2作のような極端なカメラワークをしていません。もちろんドキュメンタリータッチの突き放したような感じはそのままなのですが。私は、なじみやすいという点においてはこの「イゴールの約束」が一番作品世界に入りやすかったと感じました。それは先の2作品と比べるとドラマチックな展開が盛り込まれておりストーリーを楽しむという要素が盛り込まれていたからです。

 

 

生きていくために危ない橋を渡りながら生きている親子(父と子)、そこには壊れかかったモラルが微かに存在しながら成り立っている世界でもあり、しかしそれはいつしか悪とか犯罪とかに容易に染まり得る世界でもあります。世間的にはよくないこと、法的に違反しているとわかりながらも、貧しさという厳しい現実がそうはいっても仕方がないだろ、どうすればいいんだ、どうやって変わればいいんだという個人の微力では超えることも困難と思えてしまえる大きな、とても大きな壁が存在している世界でもあります。そこはある種社会の裏の側面でもあり、さらに厳しい現実を抱えた人がなだれ込んでくる世界。主人公のイゴールはそんな世界に生きている少年です。まだまだ幼い面を残しながらも、環境ゆえに社会にも擦れてしまっている部分もあります。そこに、突然襲った、一人の男の死という小さな事件。死にゆく男の残した言葉「妻と子供をたのむ」。「わかった」と返答するイゴール、一人の人間の死が、少年にとって大きな変化となってきます。夫は生きていると信じている


妻の言葉や行動に、イゴールは大きく心が揺れます。そこに父という存在から一歩踏み出していく要因が生まれてきます。良心の呵責、嘘をつらぬき通すのかといった葛藤、そのモヤモヤ感が画面から伝わってきます。ラストはこれまで見てきた作品と同じように唐突に終わる感もあるのですが、その後どうなるのだろう?と余韻を持たせた部分も少しだけ描いています。それがまたこの映画を味わい深いものにしているのでした。

 

イゴールの約束 [DVD]
ジェレミー・レニエ,オリヴィエ・グルメ,アシタ・ウエドラオゴ,フレデリック・ボドソン
角川書店
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