飾釦

飾釦(かざりぼたん)とは意匠を施されたお洒落な釦。生活に飾釦をと、もがきつつも綴るブログです。

発禁本「四畳半襖の下張」(伝・永井荷風)を読む

2010-10-25 | Weblog

「新潮45」の10月号に「発禁本の研究」と題した特集記事があり永井荷風の作とされる「四畳半襖の下張」と芥川龍之介の作とされる「赤い帽子の女」が掲載されている。この両作品ともに「わいせつな文書」として当局から摘発を受けたもの。特に女性アナウンサーの朗読を収録したCDが付録としてついている「四畳半襖の下張」は、1972年、小説家の野坂昭如が当時雑誌の編集長(「面白半分」)をしていてその作品を掲載したのが、刑法175条の「わいせつな文書の販売」にあたるとして起訴された。結果、8年の歳月を経て有罪判決が確定し、野坂昭如は10万円、出版社社長に15万円の罰金がかせられた小説でる。

 

その付録CDには、「四畳半襖の下張」の朗読の他、発禁処分を受けた野坂昭如のインタビューも収録されている。野坂はこの本を初めて読んだときは文学的価値が云々よりも想像力を書き立てられ、それをネタに自慰をしたという。その後、出版の編集に携わりそれを出し発禁処分を受けた時、当時は大学出の人も国語教育の変化によりこの手の文章は読めなくなっていたし、言い回しや使っている言葉がわからないものが多くなっていた。野坂は社会的通年も含めて、それを猥褻とは考えていなかった。しかしこの「四畳半襖の下張」は、過去に猥褻と挙げられた実績(1948年のこと)がある。裁判官は過去の判例に基づいて判断するだけで、これのどこが猥褻かについて問わなかった。弁護側として小説家や国語学者が立ったが検察は何も言わなかったそうだ。ところで、野坂曰く、実際はエロ本を書くのはホントに難しいこと。だから表現がアブノーマルの方に行きがち。普通の愛の過程の後の性描写はとても難しいのである。今の日本は国語力が下がってしまっていて、この手の文体の本は、読めないし、書けない。だからこうした作品に価値があるとも言える。そんなことを語っている。

 

ところで肝心の作品について、目で追っていくと野坂昭如も言っていたように、今のボク達に馴染みがない言い回しなので難しい。ただ、付録CDに収録されている女性の朗読にのって読んでいくと、スッと入ってきてこれが歯切れもよく面白い。その情景が浮かんでくる。内容は情交のためのテクニックがほとんどを締めていおり、女を快楽でよがらせる方法について書かれてある。が、それがその道の達人の技を書いているわけではないので、ある意味でのリアル感があるように思えた。大なり小なり程度の差こそあれ、概ねやっていることは今も昔も同じだし、それの感じ方も大差ないということがわかってくる。こうした文章で書かれているほうがボクも歳をとったのか粋な感じがする。寧ろ今は情報や映像が氾濫しせちがない、即物的である。一冊の書物が秘密裏に回し読みされ、そこに書かれていることに興奮し、それを習得しようと思い巡らせる当時の青年の方が、精神世界的にみて、よっぽど豊かな時間を過ごしていたのではないかと思う。なぜなら昔は数少ない文字情報からイメージを作るわけだから、どうしたって責めの姿勢で脳を使っているのである。そして現代はとなると、こちらが情報を受け取る用意さえすれば、洪水のように浴びせかけられるわけだから受け身の姿勢で脳を使うということになる。もちろん刺激の度合いは今の方が比較にならぬほど強い。脳は刺激によって受け身的に活性化させられている。ただボクはせっかくなら、やはり責め姿勢で脳を使った方が楽しいんじゃないかと思うのだ。




“口説かれて是非なきやうにするは芸者の見得なり。初めての床入に取乱すまじと心掛くるも女の意地なれば、その辺の呼吸よく呑込んだお客が神出鬼没臨機応変の術にかゝりて、知らず知らず少しよくなり出したと気がついた時は、いくら我慢しようとしてももう手おくれなり。元来淫情強きは女の常、一ツよくなり出したとなつたら、男のよしあし、好嫌ひにかかはらず、恥しさ打忘れて無上にかぢりつき、鼻息火のやうにして、もう少しだからモットモットと泣声出すも珍しからず。さうなれば肌襦袢も腰巻も男の取るにまかせ、曲取のふらふらにしてやればやる程嬉しがりて、結立の髪も物かは、骨身のぐたぐたになるまでよがり盡さねば止まざる熱すさまじく、腰弱き客は、却つてよしなき事仕掛けたりと後悔先に立たず、アレいきますヨウといふ刹那、口すつて舌を噛まれしドチもありとか。” 「四畳半襖の下張」より


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高橋 俊夫
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大鶴義丹,村上あつ子,ホリケン
ブロードウェイ
なぜ「四畳半襖の下張」は名作か
矢切 隆之
三一書房




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1 コメント

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どちらが正しいかわからなくなった (別府有光)
2017-05-11 20:45:01
責めの姿勢、責め姿勢、受け身の姿勢の反対なら攻めだろうね
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