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【cinema】『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(試写会)

2015-04-10 01:57:07 | cinema

'15.03.23 『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(試写会)@20世紀FOX試写室

 

 

cocoで当選! いつもありがとうございます┏○ペコ スゴイ見たかったので大喜びで行ってきたー


ネタバレありです! 結末にも触れています!


「かつてヒーロー映画『バードマン』シリーズで人気を博したリーガン・トムソン。降板から20年、ヒット作に恵まれず、結婚生活は破たんし、娘も薬物中毒に。彼はレイモンド・カーヴァーの短編小説を舞台化し、起死回生を狙っていたが・・・」という話で、これはかなり独特な作品。実験的っていうとなんとなく陳腐な感じがしちゃうけど、まぁ実験的だと思う(笑) 好き嫌いは分かれるかもしれないけど、自分は好きだった。


アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督作品。共同で脚本も担当。イニャリトゥ監督は「以前から、40歳を過ぎたら、自分が怖いと思わないことはやる価値がないという意見だ。」と語ったそうで、ご本人にとっても挑戦的な作品だったらしい。まぁ、そうだよね(笑) かなり変わっている作品だと思う。第71回ヴェネツィア国際映画祭オープニング作品。その後、ゴールデン・グローブ賞などの、主だった賞にノミネート。そして、アカデミー賞作品賞、監督賞、脚本賞、撮影賞を受賞 Rotten Tomatoesで支持率93%、平均8.5点を獲得。特にマイケル・キートンの演技を絶賛する声が多かったとのこと。でも、このエマニュエル・ルベツキ撮影の映像はスゴイと思った! 多分この映像がなければ、この作品の魅力は伝わらないと思う。


これ感想書くの難しいな・・・ というのも、これ実際は30日以上かけて撮影された映像を、ワンカットの長回しのように編集してある。もちろん、それぞれのシーンに区切ることは出来るのだけど、カメラは回り続けているように演出されている。基本はBraodwayの劇場とその周辺。おそらく日にちは変わっているようだけれど、この映像のままだとリーガンが家に帰っている様子はない。一言で言ってしまえば、舞台初日を控えた楽屋裏を、開幕まで映したという感じ。そこには様々な問題が起こり、様々な人間ドラマが見える。でも、ドキュメンタリー風作品というだけではない。もちろん、そういう意図で作られているのだけど、そこにヒーローモノなどの映画的要素を加えたことで、"ドキュメンタリー風作品"でさえなくなっている。その部分を楽しめるかどうかに、この作品を好きになれるかがかかっているかも?

 

なので普段あまり映画を見ないけど、アカデミー賞作品賞受賞作品だからってことで見に行くと混乱するかも? もちろん、自分は映画をよく見るから、この作品の全てを理解できたわ!などという、上から目線で言っているわけでもないし、映画好きな方々の中にも合わないと感じる方もいると思う。ただ、必要なことはセリフの中に出ては来るけど、分かりやすく説明はしてくれないので、こういうことか?とそれぞれ推測していく形の作品だったりするので・・・ チラシなどにも出ているとおり、バードマンがあの姿で登場するのだけど、その登場の仕方がダメだと感じてしまう人もいるかもしれないし・・・(´ェ`)ン-

 

冒頭、リーガンの楽屋。パンイチ姿で座禅を組み宙に浮いている。瞑想して浮いているってこと? このオープニングからビックリ! 元『バードマン』というヒーロー映画の主役だった役者が主人公なのは知っていたけど、これは一体? 彼はその後、手も触れずに物を動かしたり、テレビを点けたりする。え 主人公は超能力者なの? テレビには『アイアンマン』シリーズのロバート・ダウニー.Jrの姿(笑) これはカメオ出演? するとリーガンの頭の中の声が囁く。「お前より才能のない男がもてはやされている」この声は一体? 特に何の説明もなく楽屋で悶々とするリーガンの姿を映した後、彼を呼び出す声が掛り、リーガンは舞台へ。その途中、弁護士で友人のジェイクが声をかけてくる。リーガンは彼に共演の俳優の演技が最悪であることを告げる。では、降板してもらおうと請け負うジェイク。カメラは楽屋からリーガンの背中越しに着いて来る感じ。狭い楽屋裏がリアル。

 

舞台ではリーガンを待って役者たちがスタンバイ中。前述の役者が演技をするけれど、リーガンは納得がいかない。ダメ出しをするとオーバーな演技をして、さらにリーガンをイラ立たせてしまう。すると彼の上にセットの一部(?)が直撃して気を失ってしまう。舞台そでに引き上げると、ジェイクがこれで解決だと言う。えまさかわざと落としたの? この時点では映画のスタンス(?)がつかめていなかったので、てっきりリーガンは超能力を持っている設定なんだと思っていた。だって、そういう描写があったし! だから実はバードマンを演じていた時にも、その能力を使って演出を加えていて、それで人気が出てしまったので、自分の中で折り合いがつかなくなり、3本目で降板したのか?とか脳内展開していた。だから、てっきりこれもリーガンがやったことだと思っていた。力のセーブを失敗して思いのほか重症になってしまったのかと・・・ でも、どうやらそういうことではなかったらしく、これはむしろジェイクが手をまわしたことだったらしい。なるほど・・・ 酷いな(笑) でも、後にツケを払うことになるけど、まぁこれはゴタゴタ要素の1つという感じで、それ自体が大打撃を与えるというものでもない。

 

さて、首尾よく(?)大根共演者を追い出したものの、代役はどうする?となるわけだけど、ここのジェイクとのやり取りも面白い。マイケル・ファスベンダーは?『X-Men』の撮影中!とか(笑) そんな中共演者のレスリーから、マイク・シャイナーが空いているはずと提案が。実は2人は恋人というか、腐れ縁というかという関係なのだけど、そんなことは関係なし。リーガンが色めき立った様子から、マイク・シャイナーは実力と知名度のある役者だということが分かる。こういう、説明的ではないセリフや役者の演技で、状況を説明するのが上手い。クドクド説明的な描写は入れなくても伝わるものは伝わる。でも、それは自身が映画を見慣れているせいもあるかも? 映画、特にサスペンス系映画をたくさん見ていると、どうしても伏線を拾いながら見るクセがついているので・・・ なので、セリフでキッチリ「マイク・シャイナーならばブロードウェイでの経験も豊富で、人気実力とも申し分ない役者だ!」と説明して欲しいタイプの人には合わないかも? 別に自身が映画の見方を心得ていると言いたいわけでも、きちんと説明して欲しいタイプの人をバカにしているわけでもないです! 映画の楽しみ方や好みは人それぞれなので、単純にそういうタイプの人には合わないかも?と思っただけ。

 

ちょっと脱線したけど、このマイク・シャイナーがまたとんでもない人物 レスリーの稽古相手をしていたたため、リーガンのセリフまできっちり頭に入っているし、経験豊富なので直ぐに場に適応。演技も上手い。ただし、実力も自信もあるだけに自己主張も激しい。もちろん仕事だからリーガンに従う部分もあるけれど、別にリーガンを助けるために出演しているわけじゃない。当然ながら、リーガンを差し置いて自身の売り込みをすることもある。リーガンのアシスタントで娘のサムにも手を出すわ、プレビュー公演ではレスリーとのベッドシーンでまさかの本気モードに突入! セリフ無視して喋り出すわ、セットは壊すわでやりたい放題。何コイツ(*`д´)とか思ったりもするけれど、サムの件は彼女の方から迫った部分もあったし、「その若い目で見てみたい」という一言で全て言い尽くされている気がする。レスリーとの件にしても、それが実際見たいかってことや、倫理に反するかどうかは置いておいて、役者ってそいういうものなんじゃないかと思ったりもする。上手く言えないけど・・・ もし、本当にそうなったとして、人知れず彼が激しく自己嫌悪に陥っていたりしていたとしても、舞台の上でその人物の人生を生きていると、そんな瞬間があったりするのかもしれない。もちろん、全て計算しつくして、冷静な自分が"役者"である自分をコントロールするタイプの役者もいるとは思うけれど・・・ まぁ、マイクは役に入り込んでしまうタイプとも違う気がするし、冷静にコントロールするタイプとも違うけれど、後にサムに「舞台の上なら何でも出来る」と言うけれど、そういうことなんだろうと思う。この言葉を聞いた時、なるほどと思ってしまったので、もう納得するしかない(笑)  


やっと念願かなってブロードウェイの舞台に立てたレスリーも、この舞台にかけている。まさかのマイクの本気モードで女性としては気の毒なんてものじゃないけど、それでもやっぱり女優としては落ち込んでいたりする気持ちも分かったりする。イヤ、もちろん受けて立つべきだったかどうかってことではなくて、自分の女優としての覚悟というか、どこまで自分を捨てられるかってことの出来てなさに残念な気持ちだったんだろうなと・・・ どこまでするべきか、どこまでやらないべきかは別として。同じく共演の女優ローラはリーガンの恋人。でも、多分リーガンは彼女のこと本気で愛しているわけではないのでしょう。それはローラも分かっている様子。もちろん、彼女のこと好きだとは思うけど、彼女が妊娠したって言った時、明らかに狼狽したし。まぁ、今はそれどころじゃないってことはあるだろうけれど、何となくズルズルとって感じなのかなと。離婚はしたものの初日に駆けつける元妻の落ち着きや、包容力のようなものと比べてしまうとね・・・ まぁ、元妻は今は一歩引いたところにいるわけで、だから余裕があるというのもあるとは思うけれど。と、リーガンも共演者も、そして舞台も様々な問題を含み、それらが絡み合って、なかなか上手く進まない。それを、ずっと追いかけていくカメラワークがスゴイ。


娘のサムが一番一緒にいて欲しかった頃、リーガンはバードマンだった。その後、両親は離婚。サムは薬物中毒になってしまった。リハビリセンターに入院し克服しつつあるものの、いろいろ不安定。リーガンのアシスタントをしているけれど、残念ながら役に立っているとは言えない。それどころか、マイクと急接近してリーガンをヤキモキさせたりする。でも、マイクと2人きりで話していることの内容は、ちょっと危ない部分もあったりするけど、彼女は本来真面目で頭のいい人なんだろうと思わせる。ただ、寂しくて傷ついて道を誤ったため、自分をダメな人間だと思い込んでいるだけ。父親が有名俳優だといろいろ大変なんだろうと思うけれど、何も"普通じゃない"ことをすることが人生の成功者ってわけじゃない。普通の人の普通の人生だって、その人が幸せなのであれば立派な人生。まぁ、まだ若い彼女にとっては、受け入れがたいところもあるのかもしれないけれど・・・


さて、肝心のリーガンへ! チラリと書いたけれど、リーガンは1992年にハリウッドスターとしてキャリアのピークを迎えた。『バードマン』シリーズのヒットによるもの。街を歩いていれば、今でも「バードマンだ!」と言われているので、世間ではリーガン=バードマンとい認識らしい。まぁ、それはシリーズ3作目で降板し、それ以降ヒット作に恵まれていないせいもあるかもしれないけれど  実際の役者さんたちが、どこでどうモチベーションを保って、どこで自分のやりたいことと、やれることの折り合いをつけていくのかは、もちろん人それぞれでしょうし、計り知れないけれど、リーガンの経歴が主演のマイケル・キートンと被っているのは間違いなく狙いだと思うので、これはそういう部分のメッセージも含んでいるのでしょう。実際のマイケル・キートンが『バットマン』シリーズを降板したのは、3作目の脚本が気に入らなかったからだと、後にご本人が答えていたけれど、リーガンが降板したのはザックリ言うとイメージの固定を嫌ったから。最近ではどうなのか分からないけれど、アメリカでもやっぱりアメコミ作品に出演した役者を下に見る傾向があったらしい。だからこそ、リーガンは演劇の本場ブロードウェイで、"演技"で認められたいと思っているのでしょう。その気持ちは分からないでもない。事実、読売新聞に掲載された監督インタビュー記事によると、今作はエゴについて描いた作品であり、今のブロードウェイは俳優が自分が偉大であるかどうかをテストする場として扱われていると感じているため、ブロードウェイに挑む俳優を題材にしたと語っている。


この問題についてもう少し書きたいのだけど、例えばアメコミ・ヒーロー役者ということだけじゃなくても、世界的に大ヒットした映画のキャラクターが、その役者について回るってことはある。例えば以前、レオナルド・ディカプリオが『タイタニック』に出たことを後悔していると語ったことがあった。彼の本意は分からないけれど、やっぱりあの映画の後、イメージで見られてしまうことは多かったのかなと・・・ レオナルド・ディカプリオは演技派子役として登場した。その後、そのルックスの良さからアイドル的な存在になって行ったけれど、『タイタニック』でそれが決定的になった。日本でも"レオ様"と呼ばれて、そのルックスだけがもてはやされた感があった。もちろん、彼の実力を認めているファンも多かったと思うけれど・・・ 古くはマリリン・モンローもセックス・シンボルとしてしか自分を見てもらえず、演劇学校に通って演技の勉強をしたりと、かなり苦悩したと聞く。その辺りのことは『マリリン7日間の恋』(感想はコチラ)にも描かれていた。オードリー・ヘプバーンみたいに、何をやってもオードリー役という役者さんもありだと思う。ただ、自分は役によってガラリと変わってしまうタイプの役者さんが好き。だから逆に本人なのか、以前演じた役なのか、イメージが固定してしまうのは見ている側にとっても、あまりプラスではない気がする。でも、俳優として認知されなければ、どんな役も演じる機会が与えられないわけだから、ヒット作が出るのは喜ばしいことなのだと思うけれど、反面その役のイメージに縛られるということも・・・ でも、イメージを勝手につけるなと言われても、それは無理だしねぇ・・・ 


と、何やら熱く語ってしまったけれど、要するにこの辺りのことや、映画と演劇についてのことについて、いろいろ語りたかったのかなと思ったので・・・ 映画と演劇のことについては、ある人物が象徴している。ニューヨーク・タイムズに演劇評論を書いているタビサ・ディキンソン。おそらくモデルとなる人物がいるだろうと思われるけど、彼女の批評がその演目の運命を決めると言われている評論家。要するに彼女にダメだと言われれば、即打ち切りなんてこともあるということ。まぁ、それだけ彼女の批評に信頼がおけるということでもあるのかもしれないけれど、好みは人それぞれだと思うけどなぁ(´ェ`) ただ、立地的な問題や、金銭面などで頻繁に劇場に通うことが出来ない人や、普段はあまり興味がないけど話題になっているから見に行こうという感じの人にとって、劇評っていうのは作品選びの参考になる側面もあるわけで・・・ でもやっぱり、演劇も興行だから、採算が取れないものを延々と続けることは出来ないというのは理解できるけれど、それがたった1人の意見で左右されちゃうっていうのは、ある意味怖いなと思ったりする。


そのタビサが原稿を書いているシーンが2度登場する。リーガンの公演が行われる劇場の並びにはバーがある設定で、最初はマイクと共にバーに出かけ、彼にレイモンド・カーヴァーとの思い出を語るシーン。学生時代、カーヴァーの作品を上演した際、たまたま見て感動したカーヴァーが紙ナプキンにメッセージを書いてくれた。リーガンはそれを宝物として持っていたのだった。それをマイクに見せると、カーヴァーはどうせ酔ってたんだろうと、そっけない反応。この会話がされてた時に、マイクがカウンターで原稿を書くタビサを指して、彼女の劇評が公演の運命を左右するとリーガンに教える。彼女のことを説明すると共に、リーガンが"演劇界"には疎いということも表す脚本が見事。2度目は、いよいよ明日が初日という日。この頃、リーガンはプレビュー公演でのマイクのやりたい放題や、ローラの妊娠問題、マイクとサムの急接近とサムとの溝、負傷した俳優が弁護士を連れて乗り込んで来るなど、様々なゴタゴタを抱え、さらに自らの再起をかけたプレッシャーとの戦いで、見ている側も疲弊するほどの大混乱。そんな中、タビサを見かけた彼が、彼女にお酒を驕り、少しでもいい記事を書いてもらおうとしても、彼を責めることは出来ない。でも、タビサは最初からリーガンなど認めないという態度。多分、彼女に取り入ろうとする役者や、演出家など関係者が多いのでしょう。彼女のその態度には、ある意味自衛のようなものもあるのかなと思うけれど、それにしてもかなり辛辣。売り言葉に買い言葉的な部分があったとしても、そもそも映画俳優など役者として認めないというのは、聞いてて気持ちのいい言葉ではない。映画好きとして反論させてもらえば、バカにされがちなアメコミ・ヒーローものだって、役者の素晴らしい演技があってこそ楽しめるのでは? 


この後、リーガンは激怒。彼が言った言葉には概ね同意。全然、作品の舞台もトーンも違うけれど『シェフ 三ツ星フードレストラン始めました』(感想はコチラ)で、キャスパーがグルメライターにキレてた事に通じるものがある。あの作品も、主演・監督・脚本を務めたジョン・ファブロー自身の体験や思いが反映したものだったけど、この作品にも作り手側の思いがこもっているのだろうと感じた。前述したとおり、リーガンはそのままマイケル・キートンに重なるし、マイク役のエドワード・ノートンも演技派と言われているけれど、かつて『インクレディブル・ハルク』に主演している。サム役エマ・ストーンもアカデミー賞ノミネート経験があるけれど、賛否を巻き起こした『アメイジング・スパイダーマン』(感想はコチラ)シリーズに出演している。レスリーのナオミ・ワッツも実力はあるのに、認められるまでに時間がかかった。このキャスティングからしても、いろいろ物申したいのかなと。


そして、この後に続くシーンが最高に面白かった! 度々、リーガンの頭の中に囁きかけていたバードマンがついに姿を現す。リーガンの後ろにピッタリとついてきて、彼にまたバードマンに戻れと囁きかける。すると、『トランスフォーマー』のようなロボットが現れ、建物を破壊していく。このシーンは映画好きとしては( ̄ー ̄)ニヤリ ミュージカル好きだし、舞台のお芝居も好きだから、演劇界に対抗心を燃やしているわけではないけれど、タビサ(本心かどうかは別として)に代表される"演劇界"が見下しているハリウッド大作の魅力は、まさにこういう部分だから! 街の中にロボットを登場させることが"演技"なのかということではなくて、それを見せられたら楽しいでしょうってことなのかなと個人的には解釈した。アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督は、いわゆるハリウッド大作的な作品を撮ってきた監督ではない。むしろ『バベル』(感想はコチラ)など、重いテーマの人間ドラマを撮ってきた。それが、ここでこれを入れてくる意味は、ハリウッド大作擁護なのか、大作ばかりがもてはやされることへの皮肉なのか?  個人的にはそれも含めて映画愛だと感じたのだけど、どうかな?


このシーンの後、リーガンはビルの屋上から飛び降りる。え、まさかの自殺 とか思っていると、空中を自由に飛び回るリーガン。そのまま飛び続けて劇場へ戻る。何食わぬ顔で中に入って行くリーガンに、タクシーの運転手が料金を払えと文句を言う。なるほど、当然妄想だよね(笑) その後、リーガンがイライラして楽屋を破壊するのは、この後だったよね? 画面では超能力で物を飛ばしたりしているように映しているけれど、娘のサムが訪ねて来ると、リーガンが自分で投げ飛ばしたりしていることが判明。やっぱり、これもリーガンの妄想だったのね まぁ、そうだと思っていたけれど。このリーガンの狂気みたいなものが、コメディ的に描かれている。悲惨な感じはしないけれど、ある意味心配になる。この場面の楽屋の荒れっぷりが、リーガンの妄想シーンでは、破壊的ではあるものの、美しい破壊っぷり。スパッと割れたり画的にキレイ。でも、現実部分は埃っぽくて汚らしくてリアル。現実は映画のように美しくないってことだろうし、映画ならそういうことが出来るってことでもあるのかな?


リーガンはサムとやっときちんと向き合って話すことが出来た。それは、サムがマイクと関わりを持ったことも影響しているかもしれない。マイクを通してリーガンのことが理解できたのかも。俳優の業っていうか・・・ 娘なのだから父親を求めるのは当然で、家にいて欲しいのにいてくれなかったり、自分以外の人々のものであったりするのは、複雑だったろうと思う。それを、幼い少女に理解しろというのは酷で、彼女が傷ついてしまったことを、今さら埋めることもできないと思うけれど、彼女も身近でリーガンの苦悩する姿を見て、さらに演劇界ではリーガンより成功しているマイクでも、常に闘っているのだということが分かって、思うところがあったのかも。


初日、本番前に元妻が楽屋を訪れる。元妻はプレビュー公演も見ていて、あのドタバタの中、心配して楽屋を訪ねてくれた。その時には、マイクの出演料を払うため、サムに残す予定だった家を抵当に入れると話、激怒させてしまったけれど・・・ でも、この奥さん素敵な人だと思う。夫として、娘の父親としてのリーガンを認めることはできないけれど、やっぱりリーガンのことは好きなのでしょう。彼女と昔の話をして、いい感じで別れた後、リーガンは芝居に使う銃を取り出す。それは小道具の銃ではなくて、本物の銃。


この日のリーガンの演技は冴えわたり、マイクですら称賛の目を向けるほど。彼の熱演に引っ張られ、共演者たちの演技にも力が入る。観客も惹きつけられている様子。そして、クライマックス。妻の浮気現場に銃を持って乗り込んだ夫。妻からもう愛していないと言われ、絶望して自らの頭を撃ち抜くシーン。まさかの実弾! 騒然とする客席。しかし、割れんばかりの大喝采。これって、まさか本当に負傷しているって分かっててやっているの この時点で見ている側はリーガンの生死は分かっていないので、この客席の興奮にはビックリした。これは強烈な皮肉なのかな? ここまでしないと認めないってこと? "芸術"だと評すれば、どんなショッキングなことでも見たいってこと? まぁ、でも多分笑うシーンなのだと思う。ブラック・ジョーク的に。ただ、初日も見に行かずに酷評してやると言っていたタビサ・ディキンソンが、この熱狂の中席を立つ姿が印象的。ああは言ってもプロならちゃんと見て批判しなきゃね!


シーン変わって病室。鼻を中心に顔に包帯を巻かれベッドで寝ているリーガン。弁護士のジェイクがやって来て、初日の大成功を告げる。どの新聞も大絶賛。あのタビサ・ディキンソンも「超現実主義の新時代を開いた」と絶賛。自分の頭を撃ち抜こうとすることを、超現実主義としてしまわれては命がいくつあっても足りないと思うけれど、いいと思ったものは認める姿は彼女もプロだと思わせる。ジェイクが去った後、サムがやって来る。鼻が飛んだのよ!と言われるリーガン。サムともいい関係が築けている様子。花を生けるためにサムが病室を出た後、鏡に向かい包帯を取る。鼻が飛んだというからには、どんな悲惨な姿が?!と思ったけど、鼻はあった。これは整形したのかな? それとも・・・ その後、リーガンは笑い出す。1人でいる時は常に聞こえていたバードマンの声が聞こえない。これは彼がバードマンを払拭できたってことを表しているのかな? 


その後、リーガンは窓から身を躍らせる。その後のリーガンの姿は映さない。サムが病室に戻って来る。父親の姿がないことに驚き、慌てて窓に向かう。窓の下を覗いた後、何故か上を見るサム。そして笑顔。で終了。これは リーガンがバードマンを自分の中に完全に取り込んだっていうことの象徴なのかな? 自分はそう感じた。なかなか夢のあるラスト。もしも、リーガンが死んでしまっていたとしても、俳優としてやり切ったと思って死ねたのなら、それはそれで幸せなんだと思うし。まぁ、そう考えるのも無粋と思わせるようなラストだったと思う。とっても映画的。


キャストは全員素晴らしかった! かなりの豪華キャストで演技派ばかりだから、見る前から楽しみにしていたけれど、期待を裏切らない演技合戦。サムのエマ・ストーンは薬物中毒の治療中で不安定、自分に自信が持てないからイライラしているし、マイクに興味を持ってもらおうと必死になったりする感じも良く分かる。生意気でワガママな娘にはなっていないのはエマ・ストーンの演技のおかげ。ちょっと痩せ過ぎなのは役作りかな? ちょっと心配だったので(笑) ナオミ・ワッツも自身を投影したかのような売れない女優役を好演。BWデビューとなる彼女としても、この作品にかける思いは同じ。だからこそマイクを推薦したのだし。でも、彼の存在に自分も追い込まれてしまったり、自分の覚悟のなさを思い知らされたり。その辺りが伝わって切ない。ジェイクのザック・ガリフィナーキスがさすがのコメディアンぶりを発揮! 彼が出てくるシーンは全て笑える感じになっている。それが、緩急にもなっていた。マイクのエドワード・ノートンが素晴らしい! 登場時から嫌なヤツ臭プンプンさせて、プレビュー公演ではやりたい放題。しかも、主演、脚本、演出を手掛けた、まさに"リーガンの芝居"を利用して自分を売り込むとか、最低なヤツとか思うけれど、「自分は舞台の上なら何でも出来る」というセリフ1つで、彼のことが理解できてしまうのはさすが。それが上手く言葉に出来ないのは自分の稚拙さで悔しいけれど、この言葉で彼がしてきたこと全てが納得できたというか・・・ あとはサムに言った「その若い目で見てみたい」っていうセリフかなぁ・・・ 意外にサラリと言うのがグッと来る。若い目で見ても見えてない人には見えていない。でも、そういうことじゃなくて、"今"見てみたいってことなのかなと。エドワード・ノートンはもともと好きな役者で、『25時』とか素晴らしい演技もあったけど、自分が見た作品の中では1、2を争う演技だったかも。


そして、やっぱりマイケル・キートンが素晴らしい! 前述したとおり自身の経歴と被る部分が大きい。『バットマン』シリーズ以降も、映画に出演し続けているし、主演ではなくてもヒット作にも出演している。『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事』(感想はコチラ)の演技も良かったと思ったし。でも、いわゆる大御所俳優たちが脇で出演するのとは、扱いが違っていたとは思うけれど・・・自分自身に近い役というのは、演じやすいのか演じにくいのか分からないけど、この狂気一歩手前なほど追い込まれているリーガンを、ちょっとクスッと笑いながら見れたのは、マイケル・キートンのおかげ。不注意からパンイチ姿で夜の劇場街を歩く姿とか、コミカルでありながらも切なかったりするのは素晴らしい。離婚の原因が浮気とか、現恋人の妊娠を喜べないとか、リーガンは良い人とは言い切れない部分もあるし、上手く行かなくてイライラしているシーンも多いけど、とにかくこの状況を何とかしたいと思っている感じが伝わって来る。そのダメさ加減も含めて素晴らしかった! 『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』(感想はコチラ)の記事にも書いたけど、この演技でアカデミー賞主演男優賞取れないって、どれだけスゴイのエディ・レッドメイン と思うのでした(笑)


これは映画好き、演劇好きな人は絶対好きだと思う。そもそも、この作品ワンカットかのように編集されていて、病室のシーンまで全く途切れない"長回し風"作品となっている。前述したように長回しなどムリなシーンも多いので、当然別々に撮影したシーンを繋ぎ合わせて"長回し風"の映像に編集している。その編集技術もスゴイけれど、それらを計算して撮影したエマニュエル・ルベツキは神の領域! 大変な技術と作業だったそうだけれど、もう本当に素晴らしい。舞台上の臨場感もそうだけれど、常にリーガンと一緒に行動している、もしくは時々リーガン自身の目線になったりする。例えば、舞台裏をカメラが移動している。すると、カメラを越えるようにリーガンが現れ、そして彼の後ろ姿を追う形になったりする。舞台から降りてきたリーガンが、ヅラを取るシーンが2回くらい出てくるけど、ヅラを着けているシーンがない上に、あまりに自然だったので、2回ともヅラだったんだとビックリしたり、そういう視覚効果みたいなのも長回し風ならでわ。リーガンがイライラしていると、画も落ち着かなくなり、アントニオ・サンチェスのドラムがそれをさらに煽る。この手法が合わない人もいるとは思うけど、自身はとってもおもしろかった。こういうのも映画の醍醐味。


撮影は2013年3月にNew Yorkで始まり、4~5月に30日以上かけてBroadwayでストーリー順に撮影されたとのこと。舞台となったのはセント・ジェームズ劇場。劇場の名前は知ってたから、有名な作品を上映したのかな? 稼働している劇場を1ヶ月空けてくれるってなかなかスゴイかも! うれしかったのは楽屋裏や舞台裏を見れたこと。そして、サムがよくタバコ(?)を吸いに出ていくバルコニー的な部分から、向かいのマジェスティック劇場が見えていること! そう「オペラ座の怪人」が30年近く上演されて続けている劇場! 映っていた看板は青ベースの25周年の看板になってたし、時期的にSierraが出演してた頃かも? 違ったかな? 2013年は1月から3月くらいまでだったかも? でも、とにかくうれしかった 


映画好きで演劇好きな方は絶対好きだと思う! とにかく映像とドラム効果がスゴイ! そして役者たちの演技がスゴイ! エドワード・ノートン、エマ・ストーン、ナオミ・ワッツ好きな方是非! マイケル・キートン好きな方必見です


 『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』Official site

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8 コメント

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長文な解説 (iina)
2015-04-30 09:36:49
ブログ上の赤い文字を読みはじめたものの”予期せぬ”ほど長文なので、途中で読むのをやめてしまいました。(^^ゞ

なにしろ、拙宅は此方とは真逆で、言葉を詰め映画の物語りは伏せるスタイルですから、疲れてしまった次第です。

役者を起用するにも、適材適所なのだということが理解できました。 ^^

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> iina サマ (maru♪)
2015-04-30 19:34:10
うーん、TB頂いたので、TBお返しに行ったのですが、
かえってご迷惑かけて申し訳ありません

お互いスタイルが違うようですので、
今後はこちらからのTBは控えさせて頂きますね
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舞台的な作品 (rose_chocolat)
2015-05-02 16:59:58
私も舞台よく観に行くんで、これはかなりツボでしたね。
いい作品だし気に入っちゃいました。

ところで・・・ 他人さまのブログにTBしに来て、
しかも他人の記事にわざわざ文句付けて帰ってくブロガーさんっているのねえ(爆)
ある意味超すごくない? 笑
返信する
maru♪ちゃん☆ (mig)
2015-05-02 22:33:44
早速の京都記事ありがとー嬉しいよ♪
この例の人。↑

うちにも3個もTB同じのきて(セッション)
解除してないよ なんだろね。失礼ね。

ウィルのもいまかくところー
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こんばんは♪ (yukarin)
2015-05-02 23:48:23
音楽?がドラムだけだったり、劇中劇が見応えあって良かったんですが全体的には私はちょっと合わなかったようです..とほほ。

↑の方...コメントをいただいたことがありますがこれは失礼だわ。
それでもちゃんとお返事をしててえらい!!
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>rose_chocolat サマ (maru♪)
2015-05-03 01:19:37
映画好きというより、舞台好きの方の方がハマるかもですね
私はBWの裏側が見れたのがうれしかったです!
向いが「オペラ座の怪人」でしたし

↑の方は、かなりビックリしました
わざわざ書いてくれなくても…
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>migサマ (maru♪)
2015-05-03 01:22:53
夜中TL見てたら更新ツイ見かけて早速おじゃましちゃった
大原行きたいわ~

↑の方、TB3個ってどうしたんだろ?
とりあえずTBは欲しいってことなのかしらね?

お、ウィルのガンバレ~
返信する
>yukarin サマ (maru♪)
2015-05-03 01:26:14
これだけ個性が強いと合う合わないありますよね
私はブロードウェイの裏側が見れたので加点増した部分がありました(笑)

↑の方、気づくといろいろな方のところで見かけますね(笑)
返事はちょっとイヤミだったり
返信する

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