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【cinema / DVD】『オリヲン座からの招待状』

2008-10-13 00:52:30 | cinema / DVD
これは公開時気になっていた。加瀬亮は好き。

「17歳の留吉は松蔵とトヨが経営するオリヲン座へやって来る。映画が大好きだから働かせてくれという留吉に、初めは断るものの、あまりに必死な姿に住み込みとして雇うことにする。映写室に寝起きし、夫婦を立て仕事熱心な留吉に感心した2人は温かく接する。しかし、3人の幸せな日々は長くは続かず松蔵が亡くなってしまう。トヨと留吉はオリヲン座を再開するが・・・」という話。これは良かった。そしてこれは大人のお伽話。映写技師の師弟関係や、人々の憶測が人を追い詰める感じは、ジュゼッペ・トルナトーレ監督の『ニュー・シネマ・パラダイス』や『マレーナ』を思わせる。まぁ、後者はわりと普遍的なテーマではなるけれど。ストーリーとしては特に新しくはないけれど、多分昔の映画みたいな雰囲気の作品を作りたかったんだろうなと思った。

冒頭、年老いた留吉がオリヲン座閉館の案内状を書いているシーンから始まる。最終上映会への招待状に一言ずつ手描きでメッセージを添える留吉。その実直な人柄がうかがえる。招待状を書き終えた留吉は病院に向かう。病院内ですれ違う人にいちいち頭を下げて挨拶する姿が印象的。人柄を表すとともに長い間客商売をしてきた事が伝わる。ちょっとやり過ぎな気もしたけれど、若い頃の留吉に繋がった時自然だったのはこのシーンの効果もあったと思う。留吉から招待状を受け取った人の中には裕次と良枝の夫婦がいる。幼なじみの2人。夫婦関係は終わろうとしている。一緒にオリヲン座に行って欲しいと頼む妻に、夫は行けないと答える。妻は最近見た夢の話をする。子供だった自分がオリヲン座に行こうと急いでいるけど、どうしても辿り着けなかったという。夫の心は揺れる。話は松蔵とトヨ、留吉とトヨ、裕次と良枝を軸にして描かれる。もちろん本筋は留吉とトヨだけど、それぞれの関係が”夫婦”を描いている。

昭和32~39年の京都の小さな街が舞台。未見だけど大ヒットした映画『Always三丁目の夕日』などでも昭和30年代が舞台となっていて、貧しかったけれど人情があって、元気だった日本の風景が懐かしいと評判だった。生まれる前の事なので、懐かしいという感じはしないけれど、オリヲン座の感じとか、小さな街の感じとかはレトロでかわいらしい。正直、セット感がいなめないけれど・・・(笑) でも、オリヲン座の座席に白いカバーが掛けてあったり、柿の種(だと思われる)を量り売りしていたり、ガラスケースであんパンが売られていたり、暑い中うちわで扇ぎながら映画を見ている感じは何ともおおらか。まぁ、隣りで柿の種をポリポリ食べられたらちょっとイヤだけど(笑) 今とは映画を見るという意味合いも違っていたのだろうし・・・。その感じは『ニュー・シネマ・パラダイス』でも描かれていたけど、映画は庶民の娯楽の主役だった。それだけに少ないフィルムを別の映画館と交代でかけたり、それを留吉が自転車で運ぶのもおもしろい。道々会う人と挨拶を交わす。留吉がこの街の人になったことが微笑ましい。そういうほのぼのとした日常が松蔵の死で一変してしまう。

松蔵を亡くし途方に暮れる2人。オリヲン座を再開する決心をする。街の人も応援してくれるが、テレビ放送開始にともない客足は鈍る。仮装をしてのチラシ配りも効果はなく、ついに観客は0に・・・。ある日、留吉はその本当の理由を知る。人のこういう事ってホントにどうしょうもない。本来、松蔵は亡くなっているわけで、若い2人の間に愛情が芽生えたとしても決して悪いことじゃないハズ。法律上では。でも、人はある事ない事想像する生き物。人間だけ(かは知らないけど・・・)に与えられた想像力は芸術や文学を生み出し、他人を思いやれる気持ちを生むけれど、悪意に向かってしまうとタチが悪い。そして、こういう場合悪いのは「不倫している2人」であり、「裏切られた松蔵さん」という被害者を生み出すことで、2人を無視するのは当然で、むしろ正義であるという事になる。そして、そういう人の言葉に惑わされ噂を鵜呑みにし、自分も正義に加わろうとする人も出てくる。もちろん噂など信じない、もしくは真実だとしても問題ないじゃないかと思う人もいるだろうけど、そういう人達も人の目を気にして避けたりすることもある。そうやって意識のない悪意は広がってゆく。でも、その渦中にいると気づかないものなのかもしれないし、単純に大半の人にとって映画は娯楽の中心でなくなってしまっただけかも。その辺りは少し作り過ぎな気がしないでもないけれど、確かに若く美しい2人に対する妬みなんかはあるかも。そして全く的外れではないし。

松蔵が死んでしまう事と、2人が孤立していく事以外に特に大きな出来事はない。ストーリー的にも特に目新しくはないし、偶然自分達の事を話しているのを立ち聞きした留吉が、相手にトヨの事を悪く言うなとくってかかるシーンなどは少し古臭くもある。だからこれは俳優の演技で見せる映画。松蔵のぶっきらぼうな優しさも、トヨのたおやかな風情の中にある芯の強さも、そして留吉の純情もノスタルジア(笑) それらが適度にリアルで適度に作り物っぽい。それがいい。

宮沢りえはいい女優になったと思う。ハーフだけどこういうレトロな"日本の女性"がすごく合う。トヨは松蔵を愛していたと思うし、いつの頃からか留吉も愛したと思う。それは松蔵が生きていた頃にはすでに芽生えていた想いかもしれない。でも、きっと松蔵に対する気持ちとは少し違う。その感じがすごくいい。噂を気にして出て行くという留吉に、オリヲン座の客席でトヨが語るセリフがいい。このシーンの宮沢りえはすごくいい。トヨのいろんな想いが伝わってきた。初老となった留吉は原田芳雄。正直、加瀬亮が原田芳雄にはならないだろうと思っていた(笑) だけど、この原田芳雄がまた良くて、大人になった裕次と良枝に「よく来た」と何度も言うシーンやスピーチのシーンは、シャイでいつも一歩も二歩も引いていた加瀬亮の留吉のイメージとは少しギャップがあるものの、泣かされてしまい、いつの間にか留吉になっていた。

加瀬亮がいい。今まで見た出演作の中で一番いいと思う。こういう感じの役はピッタリだと思う。オリヲン座にやって来た時の設定は17歳。実年齢は30歳超。だけど17歳に見える。夜遅く映写機を回す練習をしている時のキラキラした感じが17歳に見える! 何なのこのキラキラ感という感じ(笑) この映画の中であのシーンが一番好き。留吉は常にトヨを立てている。その感じが切ない。内に秘めた想いが伝わってくる。だけど、それは身勝手な思いではない。だから切ない。そういう静かに燃えているみたいな人はすごく合ってる。そしてすごく好き(笑)

オリヲン座最後の上映作品は松蔵がかけたがっていた『無法松の一生』 検閲でズタズタにされても感動したという作品。この作品だろうなと思ったらやっぱり(笑) 上映前に留吉がスピーチする。その中で留吉はトヨのことを"つれあい"と表現する。2人が法律上夫婦になったのかは語られない。でも、この”つれあい”っていい言葉だと思った。不遇な時代を乗り越えて、好きな映画の仕事しか知らず、お互いを想い合ってつれ添った2人は、夫婦というより"つれあい"なんだと思う。そんな事を考えていたらボロボロ泣いていた(笑)

『無法松の一生』は見た事がないけれど、多分この映画はその頃の古き良き日本映画の感じをやりたいんだろうと思う。それは成功していると思う。そして、とってもノスタルジー。懐古的とかいうんじゃなくてノスタルジー。そういう作品。2人が初めて手をつなぐシーンが美しく感動的。


『オリヲン座からの招待状』Official site

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4 コメント

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Unknown (rose_chocolat)
2008-10-13 06:39:20
昨年観た映画でしたよね。1年って早いと思いながら読ませていただきました。

>加瀬亮が原田芳雄にはならないだろうと
↑ ちょっと笑いましたw
つっこもうと思ったらこれほどつっこめる作品もないのかもしれませんが(!)、私はこの映画のまとめ方は好きですね。
りえちゃんはあの時本当におかみさんにならなくて正解でした(笑) これからもっといい女優さんになってほしいと思います。
Unknown (kimion20002000)
2008-10-13 19:45:03
こんにちは。
宮沢リエさんは、よかったですね。
こうした少し儚げな演技をさせたら、邦画では彼女がもっとも光ると思います。
Unknown (maru♪)
2008-10-15 23:11:57
>rose_chocolat サマ

1年はホントに早いですよねぇ・・・ 年をとるはずです(涙)

加瀬亮と原田芳雄はちょっと違いますよねぇ(笑)
確かにちょっとツメや掘り下げが甘いところは多かったですね。
留吉とトヨの感じもキレイ過ぎるかもしれません。
でも、加瀬亮の留吉と宮沢りえのトヨならありうる気もします。

ホントにおかみさんにならなくてよかったですよねぇ{YES}
辛い思いをした分いい女優さんになりました。
これからも頑張って欲しいです!
Unknown (maru♪)
2008-10-15 23:25:59
>kimion20002000 サマ

宮沢りえは今一番注目している女優さんの1人です。
儚げな中にも凛とした強さがあって色気がある人は少ないと思います。
これからもどんどんいい女優さんになってほしいです。

実はりえちゃんも私が好きだったバンドのファンで、
よくライブを見に来ていたので親近感があったりします。
もちろん全く話したことなんてないですけど・・・(笑)

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