

『僕が星になるまえに』見た。バッチさん目当てで見たけど、よかった!重いテーマで、ほぼ4人芝居。それぞれ、思い通りにならない現実への不満、焦り、そして諦めを抱え、友の最後の願いを叶える話。その願いを受け止めるのは、かなり辛い… 小さな作品だけど、好きな映画! Posted at 10:36 AM

見たいと思っていたけど、時間が合わなかったり、レイトになっちゃったりで見逃してた。TSUTAYA寄ったら準新作になっていたので半額クーポンでレンタル! バッチさんことベネディクト・カンバーバッチ目当てで見たのだけど、これなかなか良かった!

「29歳の誕生日を迎えたジェームズは、デイヴィー、ビル、マイルズの親友3人を誘い、世界で一番好きな場所を目指して旅立つ。皆それぞれ悩みや、満たされない思いを抱えていたが、しばし童心に返って楽しむ。でも、末期ガン患者であるジェームズには、ある思いがあった・・・」という話。ジェームズが末期ガンであることは知っていたので、軽いテーマだとは思っていたわけではないけど、意外に重い内容だった。でも、軽いタッチで見せていく感じは好き。
ジェームズは作家になりたかったのかな? たしか小説を書いたと語っていたような? マイルズの父親は有名な小説家。マイルズ自身も作家を目指したこともあったようだけれど、現在は会社を経営しているらしく、どうも上手く行っていない様子。デイヴィーは失業中で、現在はジェームズを介護をしている。ビルはテレビ関係者なのかな? 自分のやりたい番組はなかなかできず、しかも既に愛情のない彼女が妊娠してしまったらしい。と、全員が何か問題を抱えていたり、理想と現実に悩んでいたり・・・ 悩んでいないまでも、思い描いていた未来を生きてはいない。うーん・・・ まぁ、後で書くか(笑)
ジェームズの29歳の誕生日パーティーのシーンから始まる。家族は両親と姉。姉はジェームズが長くはないことを悲しんでいる。彼が今一番辛いのは哀れみの目で見られること。周囲の目が耐えられず外に出てしまう。そこにやって来たのはマイルズ。もう死んだかと思ったと軽口を叩く彼のスタンスが居心地がいいのかもしれないけれど、彼がこんなスタンスなのは、実は誰よりもジェームズと向き合うのが怖かったからであることが後に分かる。それには理由があるのだけど、その理由がなくてもマイルズのようなタイプは実は、人一倍繊細で気が小さい部分があるのかも。でも、だからこそ彼が重要な役割を担うことになる。作家の息子で、イケメン、大胆に振舞う彼を皆一目置いている感じ。でも、大胆さは繊細さの裏返し。
旅立ちの朝、両親はジェームズを抱きしめ、無理はしないようにと言う。無茶しないわけがないけど、言わずにはいられないのはジェームズが末期ガンでなくても同じ。親ってきっとそういうもの。ただし、友達と旅立つジェームズを両親が見送るのは、おそらくこれが最後だろうと考えると切ない・・・

4人が目指すのはジェームズが世界で一番好きな場所ウェールズ地方のパラファンドル湾。ジェームズの家がどこで、目的地までの距離感が分からないので、どのくらい時間がかかるものなのか不明だけど、当初の予定では2泊3日くらいの感じだったのかな? 車で出発したけど、途中からは歩きで森の中を進む。イギリスの美しいけど少し寂しい風景がいい。その中を少年のようにはしゃぎながら進む4人の姿に思わず微笑んでしまう。ジェームズは基本専用のカートに乗っているけれど、石が飛び出たようなボコボコした道を行くのは大変そう。調子が良ければ杖をついて歩くこともあるけれど、既にモルヒネを常用し身体は自由に動かない・・・
最初こそ、村の祭りに参加してケンカに巻き込まれてみたり、テントを張って眠ったりと楽しかった旅。テントが燃えてしまったり、ジェームズのカートと荷物を崖から落としてしまったりと、アクシデントが続き、全員疲弊して来る。日程も延びている。会社をそんなに空けられないし、ジェームズの体力も限界だから諦めて帰ろうと諭すマイルズ。それでも、先を目指したいというジェームズ。ジェームズは薬の影響で時に攻撃的になり、仲間が抱える傷をえぐるようなことを言ってしまう。お前たちは何も成し遂げていないじゃないか! では、お前は何か成し遂げたのかと逆に聞かれてしまう。そう、それこそがジェームズがこの旅に来た理由だった。そして、それは仲間が思っていたような結末ではなかった・・・
この、友達同士で集まって、誰か1人が辛辣なことを言ったばかりに、それぞれの悩みや傷が暴かれて行くという構図は、映画にはありがちだけれど、それが余命いくばくもないジェームズによってなされることで、単純に彼がイライラして突っ掛かっているだけにはなっていない。ジェームズも何も成し遂げてはこなかった。だからこそ、残された時間のある友に対して苛立ちもあっただろうけれど、もっと頑張れという励ましの思いもあったのだと思う。まぁ、何かを成し遂げるというと、なんだか壮大なものを成し遂げなきゃいけない気になってしまうけれど、例えばオリンピックで金メダルを取るなどということは、ほんの一握りの人にしか達成できないわけで、そう考えると何かを成し遂げたのか?と聞かれて、胸を張って答えられる人はなかなかいないんじゃないかと思うけれど、目の前の目標、例えばこの仕事を16:00までに終らせるということだって、成し遂げたと言えるんだけどねぇ・・・ やっぱり大きなことを成し遂げたと思いたいし、言えない部分はあるかも。
ジェームズが発作を起こすなど、その後も苦労をしながら4人はパラファンドル湾にたどり着く。美しい場所ではあるけれど、少し寂しい場所。ジェームズはここで仲間にある決意を話す。自分はこれからどんどん身体の自由が利かなくなり、辛い発作を起こしながら死んでいく。それは嫌だ。だから、明日朝自分は海に向かって泳ぐ、そして2度と戻らない。それは安易な道を選んだように見えるかもしれないけれど、最後まで自分の力であがいて死んでいきたいのだと告白する。もちろん、そんなことは認められるわけがない。3人は止めるけれど、翌朝ジェームズは海に入っていく。3人も後を追うけれど、デイヴィーは泳げない。彼を助けたビルとデイヴィーが見守る中、ジェームズは進みマイルズが後を追う。ジェームズは沈み始める。もがく・・・ それを見ていたマイルズがジェームズの身体を押さえる。ジェームズは意識を失い、マイルズだけが浮かびあがってくる。ここは切なかった・・・
ジェームズの行動の是非もあるだろうし、マイルズは間違いなく自殺幇助になると思う。でも、映画としてはこれでいいのかなと思う。自分らしく死にたいと願う友のために、マイルズのような行動を取れるかどうかは分からない。そして、それが正しいことかどうかも分からない。でも、少なくともこの映画の中のジェームズという人物は、これでよかったと思っているのではないか? マイルズがこんな行動を取ったのは、彼がジェームズの姉を愛していたからでもあると思うけれど・・・ ジェームズの姉が結婚する前から10年間、彼女を思い続けていたマイルズは、姉の離婚後愛し合うようになった。だから彼にとって、ジェームズは親友というだけではなく、弟という思いもあったのかも? 家族として彼の思いを、罪を背負っても引き受けるというか・・・ あの一瞬マイルズがどこまで意識していたのかは分からないけれど・・・
ほぼ4人芝居。若手俳優たちは全員良かったと思う。4人の中でも主役のジェームズは当然ながら、次にマイルズの比重が高く、ジェームズ>>>>>>マイルズ>>>>デイヴィー>>>ビルという感じかなぁ・・・ マイルズのJJ.フィールドはどこかで見たことあった気がしたけど、出演作品を見ると見たことなかった。 同情されることを嫌ったジェームズが、居心地が良いと感じたマイルズの距離感というか、突き放した感じは、実は彼が一番臆病だったから。その辺りがきちんと伝わってきた。ビルは愛していない彼女が妊娠していまい、自分の人生がこんな形で決まってしまうことを嘆く。女性からしてみたら最低な男なのに、なぜか彼の気持ちが分かってしまう・・・ その辺りは、この作品のアソシエイト・プロデューサーも兼ねたアダム・ロバートソンのおかげかも。実業中のデイヴィーは、実は一番真面目。親友のジェームズの体を気遣っているのはもちろんなのだけど、発作で苦しむジェームズを必死で介護するのは、やっぱりそれが仕事だからであり、失業している現在の自分の存在意義でもあるからだと思う。トム・バークの演技からはその辺りのことも感じられた。『リバティーン』(感想は


そして、なんと言ってもバッチさん! バッチさん目当てで見たのだから、当然贔屓目も入っているとは思うけれど、やっぱり上手い! 人間はみな死んでいくのだけど、29歳ではまだ死ぬことなど考えていなかったはず。ジェームズがどれくらい闘病していたのかは不明だけど、29歳で死んでいかなければならない。ジェームズが友人たちに「お前は何も成し遂げていないじゃないか!」と苛立っているのは、マイルズに指摘されていたとおり、自分が何も成し遂げることなく死んでいくから。何かを成し遂げるどころか、何も初めていなかったことに気づく。でも、もう自分には時間がない・・・ その絶望感、そして死への恐怖。ジェームズが下した結論を、支持したくなってしまうのは、やっぱりベネディクト・カンバーバッチのおかげ!
イギリスの自然がいい。すっきり晴れた空ではなく、どこかどんよりとした空の色。ジェームズが世界で一番美しい場所と言うパラファンドル湾も、寂しげでキラキラした感じはない。この感じがまた、4人のもやもや感や、最後でそして最期であるこの旅を象徴している気がする。
ジェームズがこの旅で亡くなってしまうだろうと予想はしていたけれど、まさかそんな展開になるとは思っていなかった。よく考えると、ズッシリと重い。自分がマイルズの立場だったら、同じ行動がとれるか分からない。マイルズの行動が正しかったのかどうかも・・・ ハッティ・ダルトン監督は今作が初長編監督作品だそう。女性ならでわの繊細さのある作品だったと思う。役者たちのほんの少しの表情の変化で気持ちを伝えるような・・・
小さな作品だけど、なかなか良かった! 今、少し行き詰まりを感じている人は、とっても共感できるかも? オススメ! バッチさんファンは是非!
そうそう! 原題は『Third Star』 3番目の星というこのタイトルは、作品中でジェームズが「ピーターパン」のネバーランドへの道しるべ、2番目の星と勘違いしたことに由来。なるほど( ̄ー ̄)ニヤリ
