囲碁にもテレビも飽きるとまた、長椅子に寝そべる。時刻は10時少し前
"今うたた寝すると夜寝られんぞ"と自分に言い聞かせるものの、眠くて
堪らん。
10時をだいぶ過ぎた頃に弁当が届く。
近くの老人ホームの自家製弁当だ。献立も味つけも何となく老人食っぽい。
煮物は形が崩れているし、卵が多すぎる、私は卵がどうも 苦手だ。
昼を食べ終わると眠気が不思議に消えて外出したくなる。
娘を筆頭に、訪問看護師さん、ヘルパーさん、「私の守り人達」は揃って私の車の運転に反対する「危ないから
乗るな、乗るなら近くの買い物だけ、高速道路絶対反対」と声を揃える。
私の運転歴60年の輝かしい経歴も彼女達の前ではまるで見えないらしい。
彼女達にとって私は病弱な後期高齢者の一人にしか見えないのだ。
娘は私の周りをドリンクや食糧で囲み「足りない物はないはずだから」と食糧
による「格子なき牢獄」を築で私を閉じ込めようとしているかのようだ。
〈お茶と菓子パン冷蔵庫にも美味しいものがあるよ〉
また、平日の午後はヘルパーさんや看護師さんが日替わりで私を観察に訪れる。
しかも、2時という絶好のゴールデンタイムにお出でになるから、実質、外出は
ふさがれているようなもの。4時には又しても弁当が届くからである。
彼女達、私の守り人がお帰りになる頃には私の外出への意欲はしぼみ、ようやく
昼寝の時を向かえるのである。
お わ り