今朝も背中が痛くて暗いうちに目が覚めた。寝返りを繰り返しているうちに
外が明るくなったので起床。餅を焼いて食べた。
今日は訪問看護師もホームヘルパーも来ない日、ヘルパーのB子さんが「今日は
和尚さんの花金ですネ」と言って笑った。当たってる。
午前中は録画しておいた小津安二郎監督の映画「お茶漬けの味」を見て過ごす。
昭和27年の作品、小生がまだ小学生の頃の映画だ。
映画は戦後復興期の都会の中流家庭の暮らしを淡々と描いた佳作である。
その頃、市井の人は食べるのが大変だった。我が家も母が大勢の子供を
抱えて借家を転々と転々とし、食うや食わずだったことをふと思い出した。
寝そべって昼が来るのを待つ。テーブルの上のボトルの数がまた増えている。
ちょっと壮観だ。娘は私に寝ているだけでも脱水症になるとかいって私に
水分補給をペットボトルで促しているのだ。ボトルは20本を越えたが、
まだまだ増えそうだ。
午後は待望の花金である。身だしなみを整えてスタバに向かう。
私の意中の女性は32才の店長さんだ。彼女の宝石のように輝く黒い瞳が
美しい。あのハリー王子のメーガン妃の瞳の美しさに似ているのだ。
彼女は私を見かけると軽く手を振ってくれるのだが・・・残念、
今日はお休みだった。
この頃は水だしコーヒーにレモンライムを浮かべたドリンクを愛飲
している。口を近づけるとほんのりレモンライムの香りがして
お洒落である。
お わり
わが家に来るヘルパーさんは40代の女盛りのお母さんという感じだ。
どちらも細身のスラリした姿が若々しい。きっとダイエットで身体を
作って居られるのだろう。
お世話になりもう半年になる。今はお互いに角が取れて友達同士のよう、
私のくだらない話にも声を出して笑ってくれる。
彼女達は「今日は顔色がいいですね」とか「今日は息づかいが静かです」
「和尚の膝頭は艶があってまだお若いですよ」とか変な世辞を交えて私を
苦笑させておいて連絡帳に私の健康状態をメモしている。当然ながら彼女
達は笑ってばかりではないのである。彼女達は老人を励まし元気づける術を
何処か身につけておられるようだ。
折角来てくれたのだ、茶の一杯でも差し上げようと思うのだが、彼女達は
処女の如く私の申し出を固辞する。彼女達はテイッシュペーパー1枚も受け
取らないと言うから見事である。
今日は火曜日、どなたがお見えになるか楽しみー
囲碁にもテレビも飽きるとまた、長椅子に寝そべる。時刻は10時少し前
"今うたた寝すると夜寝られんぞ"と自分に言い聞かせるものの、眠くて
堪らん。
10時をだいぶ過ぎた頃に弁当が届く。
近くの老人ホームの自家製弁当だ。献立も味つけも何となく老人食っぽい。
煮物は形が崩れているし、卵が多すぎる、私は卵がどうも 苦手だ。
昼を食べ終わると眠気が不思議に消えて外出したくなる。
娘を筆頭に、訪問看護師さん、ヘルパーさん、「私の守り人達」は揃って私の車の運転に反対する「危ないから
乗るな、乗るなら近くの買い物だけ、高速道路絶対反対」と声を揃える。
私の運転歴60年の輝かしい経歴も彼女達の前ではまるで見えないらしい。
彼女達にとって私は病弱な後期高齢者の一人にしか見えないのだ。
娘は私の周りをドリンクや食糧で囲み「足りない物はないはずだから」と食糧
による「格子なき牢獄」を築で私を閉じ込めようとしているかのようだ。
〈お茶と菓子パン冷蔵庫にも美味しいものがあるよ〉
また、平日の午後はヘルパーさんや看護師さんが日替わりで私を観察に訪れる。
しかも、2時という絶好のゴールデンタイムにお出でになるから、実質、外出は
ふさがれているようなもの。4時には又しても弁当が届くからである。
彼女達、私の守り人がお帰りになる頃には私の外出への意欲はしぼみ、ようやく
昼寝の時を向かえるのである。
お わ り
最近は体の調子が良いせいか何を食べても美味しいのが嬉しい。昨日食べた
鰹のたたきの旨さは当分忘れないだろう。
私の朝のお目覚めは7時頃、眠りにつくのは1時頃である。昼間のうたた寝の
多少で寝起きはバラバラである。
起き出してトイレを済ませたら長椅子に場所を変えて何物かを腹に詰めて
食べ終わった後は静かに身体を長く伸ばす。退屈な長い一日の始まりだ。
天井を仰ぎ見る。煙草のヤニで煤けた壁と天井に囲まれた部屋に掛け時計
とクーラー、セザンヌの複製画が目につく。薄汚れた部屋であるが。
ヘルパーさんも「何処のお宅もこんなものですよ」と言ってくれるから
まあいいか。
同じ姿勢でじっとしていると背中の何処かが「痛い痛い」と言い出したら
起き上がりテレビかパソコンだ。体調の良い今日は囲碁をする。
ご存知のように囲碁は始めると次第に頭に血が上るから関脇「栃の心」まで
はいかぬまでも顔は上気し頭は熱くなるばかり。
無い知恵を絞り出しての盤上の戦いは一時間に及ぶこともあるが、この間、
周囲の音は聞こえないし、玄関のチャイムが鳴っても耳に入らない事もある
程に盤面に夢中である。
終わるとぐたったりする。若いときのように「もう一番」と連戦する元気は
ない。それだけ勝負に対する拘りが少なくなったのかも。
この年になっても囲碁対局で盤面に没頭できる自分は内心小さな誇りである。
囲碁で疲れた頭を長椅子にもたせかけていると自然に眠気に誘われる。
再び目が覚めた時は30分程居眠りしたあとである。
後日 後半を書きます。
「お父さんどうしたの」の声に目が覚めた。気がつくとベッドの上で頭を足の方に
して寝ているのだ。また娘に醜態を見せてしまった。娘は「散歩に出ているのだと
思った」といって笑った。
私は前夜から背中の激痛で七転八倒したらしく、のたうち回っているうちに安眠
出きる位置を身体が探し当てたのだろう。まあベッド落ちなくて良かった。
娘は当然のように整形に行こうと言うが私は気が進まない。初めて此処で診察
受けた日、医者は「肩甲骨の捻挫を治す方法は無いよ」と素っ気なく言い痛み
止め注射を打った。
注射の効果でその日は痛まなかったが、翌日になると痛みは激痛となってぶり
返したのだ。堪らずまた再診を受けたら「頑張って直しましょうね」に変わった。
頼ないのである。それを言うと娘から「お父さんは文句が多い」と叱られるのだが。
そして昨日である。昨晩は良く眠れた。医者が飲み薬を変えた効果であろうか。
しかし、痛みは「寝た振り」をしているがやがて起き出して私の背中で暴れだす
に違いないのである。
お わ り