小田部家正著『カローラ物語--ベストセラーカー2000万台の軌跡』(光人社、1997年)を買った。
著者および出版社には申し訳ないが、アマゾンの古書で(中途半端な値付けだが)なんと203円だった! 送料の方が高い(一律340円だが、実費は200円程度だろう)。
幸福堂だか幸運堂という古本屋で(包装紙に書店名がないので分からなくなってしまった)、品質は「良い」とされていたが、届いた本は「非常に良い」といってよいレベルだった。
さっそく、ぼくにはまったく理解できないエンジンの話などはすっ飛ばして、わが家のマイカーの歴史と重なりあう個所を中心に一気に読んだ。
2つの点で面白かった。1つは、ぼくの過去を思い出したこと、もう1つは、いまだにカローラに乗っている理由らしきものが分かったことである。
1950年に生まれた自分のこれまでの「歴史」をふり返るときは、標題に「戦後史」とか「同時代」とかいった言葉が含まれている本を読んできたが、これまでのところ、そんな標題の本はいずれも自分をふり返る契機にはならないことが多かった。
ところが、以前にもふれた徳大寺有恒『ぼくの日本自動車史』や、小関和夫『国産二輪車物語』、そして今回の『カローラ物語』などは、これまで忘れかけていた日々を甦らせてくれるのである。
わが家の最初のマイカーであるスバル360のあの2気筒のエンジン音や振動、前開きのドアの閉まり音の安っぽさ、スバル1000が納車されたときの室内空間の広さやエンジンン音の静粛さへの驚き、ドアの閉まり音の心地よさ、などなど。
その後わが家のマイカーは、スバル1100、スバル・レオーネを経て、いつの間にかカローラに代わったのだが、それがいつだったのかまったく記憶にない。
スバル時代とは違って、車の買い替えがそれほどの事件ではなくなっていたのだろう。
何度も書くが、ぼくは現在乗っているカローラ・ランクスにほぼ満足している。しょっちゅう、フィアット・グランデ・プントがいいだの、シトロエンC3プリュリエル・チャールストンがいいだの、ゴルフⅥが気になる、ホンダのインサイトが気になるだのと書くのではあるが、ランクスから乗り換えようと決断するには至らない。
『カローラ物語』を読んで、ぼくこそ真の“カローラ・マインド”を持った人間だと確信した。
この本のなかに、昭和54年の第4代カローラの新聞広告が掲載されているが、そのキャッチ・コピーの1行目は、“長くつき合える人をいい友と呼ぶ”とある(189ページ)。
カローラのセダンが数代、ランクスになって2代、まさにカローラの“いい友”の資格はあるだろう。
きのう12か月点検を済ませて4年目に入ったわが2代目ランクスに乗って、神田に出かけた。土曜日でガラガラの新目白通りをランクスは新車に戻ったように快適に走った。
「心配するな、そう簡単には乗り換えないから・・・」と“いい友”に話しかけてやりたい気分だった。
「エコ替え」などと嘯いて買い替え需要を煽っている連中は、この本でも読んで少し自社の歴史をふり返ったほうがいいのではないだろうか。
自分の作った物を4年や5年で買い替えさせようというのは、技術者という人たちにとって恥ずかしいことではないのだろうか。文科系の人間としては理解できないことである。
* 写真は、小田部家正『カローラ物語』の表紙。古本なのに帯も破れずにしっかり巻かれていた。