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僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

田舎の写真

2006年08月29日 | SF小説ハートマン
日曜日、公開テストから帰ると家の前で星見ちゃんに会った。おじさんと一緒だ。
「あーっ宇宙君、どこ行ってたの?」
「星見ちゃん。」
「ほら、こんにちはでしょ。」
今言おうと思ってたのにお母さんに言われた。僕は不満だったけどご挨拶はきちんとした。

「どうしたの?どこ行くの?」
「今ね宇宙君の家行ってきたの、丁度良かったここで会えて。」
「あらすみません、ちょっと午前中にこの子のテストがあったものですから、」
「いや別に用事でも何でもないんですが、昨日まで休暇で田舎に帰ってたんですよ。」
「そう、それでお土産もってきたんだ。」
おじさんの言葉を星見ちゃんが嬉しそうに繋いだ。

「まぁわざわざありがとうございます。田舎って北海道の焼尻でしたよね。いいわねぇ。」
「今度本当においでよ、海も鳥もすごいわよぅ。」
「本当にいらしてください。何にもありませんけど、そこがまたいいですから。」
今度はおじさんが星見ちゃんの言葉を嬉しそうに繋いだ。

「宇宙君って、行く行くって言ってて一度も来たことないんだから。」
「ホントね星見ちゃん、来年こそきっとおじゃましましょうねぇ。」
ママは僕をのぞき込んでにっこりした。学校に合格したらねって言いたかったのかな。

「後でうちに来て、写真見せてあげるから。」
「うん、ご飯食べたら行く。」

お昼の後、約束通り星見ちゃんの家に行った。お土産のお返しに冷蔵庫で冷やしたゼリーを持って行った。ママの作ったゼリーはフルーツが沢山入っていて本当に美味しいんだ。
見せて貰った焼尻島の写真はとてもきれいで、絶対行ってみたくなった。

何冊目かのアルバムを見ている時、あれ?っと思う一枚の写真があった。
この写真って… つづく
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ミリンダ…運命

2006年08月21日 | SF小説ハートマン
こいつらの獲物を戴いちまおうと待ち伏せてたが、ハンターの奴も来てるとは思わなかったぜ。それにしてもあっけなくやられやがって、情けねえ奴らだ。ところでこいつは何者だ、セクションのハンターかい?いい腕してやがるけど…

FOXの奴隷狩りにルールはない。仲間の仁義や取引という言葉も通用したためしがない。ただ強いもの、運がいい者だけがご馳走を手にすることができるという訳だ。
今回運良く宝くじを当てたのは、強化アラミド繊維をしなやかに織り上げた鞭を武器にしスネークと呼ばれる無頼のFOXだった。スネークの狙いは2匹のFOXが狩ろうとしている奴隷だけだ。
うまく拉致したところでいつものように横取りする手はずだった。

ミリンダの存在は全く感知していなかった。それが幸いして奴もまたミリンダから感知されることがなかったのだ。運命とはそんな風に転がっているものだ。

締め付けた鞭状の武器をはずすとミリンダの体をブッシュブーツの先で裏返す。
携帯ライトを当てのぞき込んだFOXが一瞬後ずさる。
こ、こいつは「トラバサミ」だぜ。こりゃたまげた。てめぇのおかげでおまんま食い損なった事が何度もあったぜ。この野郎、いやこのアマか。

鋼の入ったブッシュブーツで何発か蹴りあげる。
口と鼻から粘った血を滴らせミリンダの体がよじれた。

おっ、まだ生きてやがったか。ちきしょう一発ヤッてやろうか、えぇ、おいトラバサミさんよぅ。とはいえ、てめえは地球人のなれの果てだよな。俺様とはサイズが違わあ。
今日は本当についてるぜ。奴隷なんざぁいつでも手に入れられるさ。トラバサミとっ捕まえたんだぜ、いい金になるぜこいつぁ。一発どころが何十発も楽しめるって事だ・・・。

スネークはミリンダに応急処置を施し大切な戦利品にこれ以上傷が付かないようストレッチャーに固定した。奴にしてはとびきり丁寧に扱ったつもりだが…ミリンダに意識がないのが幸いと言って良かった。
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ミリンダ…捕獲

2006年08月17日 | SF小説ハートマン
ターゲットが接近する。ミリンダは腰から麻酔液のたっぷりとついた吹き矢を取り出した。およそ10メートルのテリトリーに入ったその時がFOXの最後だ。
ゆっくりと腹式呼吸を繰り返す。ハンターの厳しい訓練の中で特にミリンダを可愛がりヨーガの奥義を授けてくれた老師を思い出す。

この仕事を片付けたら会いに行こう。もう何年も会っていない気がする。現役を退いてからサナトリウムにいると聞いているけど、私を覚えているかしら。

藪草をかき分けるかすかな葉音を立ててFOXが現れた。確か2匹だったはずだ。そのまましばらく待つ。すぐにもう1匹もテリトリーに入った。
ミリンダの腹式呼吸が一瞬止まり。高圧で無音の矢を飛ばした。
FOXは首筋に突き刺さった矢をうめきながら引き抜き、銃を乱射しながら倒れた。慌てた仲間が木陰に逃げ込むより一瞬早く第2の矢がのど元に深々と突き刺さった。

終わったわ。

すっかり弛緩した2匹を確認し、安堵したミリンダが木から飛び降りたその時、蜘蛛の巣状の捕獲ロープが襲ってきた。動物的なカンで地面に這い、絡め取られるのは何とか逃れたがバックパックが引っかかっている。
シュッと音がして矢が突き刺さる。左右にもがきながら足下のサバイバルナイフを引き抜いたミリンダは躊躇なくバックパックのショルダーを切り裂いた。

ちっもう一匹いたのか。

敵の位置は?と振り向いた時、ミリンダの首に何かぬるぬるとした物が巻き付き抗しきれない力で締め付けてきた。ナイフを突き立てるがゆるむ気配がない。のどの奥で何かが潰れる嫌な音が聞こえた。食いしばった口元に血がにじみやがて脱力感が襲ってきた。老師の顔が脳裏をよぎる。

ごめんなさい…何となくそんな言葉が思い浮かんだ。       つづく


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ミリンダ

2006年08月15日 | SF小説ハートマン
ザザッ、動物が移動する音に耳を澄ました。いる!赤外線スコープで確認する。
移動している。2匹か。

ミリンダは神経を研ぎ澄まし目標を追う。この先に小さながある筈だ。そこを襲うつもりね。ならば先回りするわよ。 そっと水面に浮かぶと水をしたたらせたまま川岸の大木によじ登っていった。バックパックから携帯用ウイング(ムササビ)を取り出し装着する。素早く暗視ゴーグルをの方向に向け、音もなく飛び出した。

大型の武器を搭載した奴隷狩り集団とは別に、単独あるいは数人のチームで 奴隷を狩るFOXと呼ばれる一味がいた。クライアントからの依頼に極力適合した住民を拉致し売る。神出鬼没、ゲリラのように行動し大型の電子機器やエンジン等の発熱機関を使用しないのでセクションとしても把握しにくいやっかいな敵だ。
それに対しいつも単独で行動し、捕獲もしくは駆除を任務とする隊員達(FOXハンター)がいた。隊員達の中でも、こいつに狙われたら決して逃れられない(蔑称トラバサミ)と恐れられている凄腕FOXハンター、それがミリンダだった。

熱帯雨林を思わせる大木と沼、それらを縦横に繋いでいる河川。セクションの目の届かない小さな惑星で今、狩りが始まろうとしていた。  つづく
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救急ブース

2006年08月08日 | SF小説ハートマン
もうひとつのメッセージ、この種はサイバークラブからかろうじて脱出したハートマンだった。ちょっと怖いけどもう一度見てみるね。
かさぶたの下に種を収めた時、カチッと音がして僕はセクションの救急ブースに跳んだ。


メディカルプールに浮かぶハートマンがいる。それは羊水に満たされた子宮を思わせる柔らかで温かい医療用ドックだった。
レーザーで焼かれた上半身と足の再生手術が行われていた。クモの糸のように細い神経繊維が数百本ハートマンの体を水中で固定し、しなやかなファイバーの先に設置された医療用ナノマシーンが破壊された組織を再生すべく働いていた。
時々不規則なパルスを発生するモニターがハートマンの状態を医療チームに伝えている。

傷は思ったより深刻な状態だったが、スペースギアは敵の攻撃を振り切り意識を失った主人を最短コースでセクションの救急ブースに運び込んだ。
アラームを受信し待ち構えていた医療チームは直ちに治療を開始し、バイオリストコンピュータに残された情報から敵の分析を開始した。

モニターを監視している医師の一人が同僚に大きくうなずいて言った。応えた同僚に微笑みが広がる。

「もう大丈夫、その調子で頑張れハートマン。」

無言で作業を続けていた医療チームの緊張の糸が穏やかにゆるんでいった。  つづく


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種…②

2006年08月05日 | SF小説ハートマン
ほら、この種を腕のインターフェースに収めるともうひとつ未来が見える。

風船はワープする宇宙船ではなくて、未来からのメッセージを受け取るアンテナだった。フウセンカズラは土の力を借りて成長し、時空の「1/fゆらぎ」を媒体に未来から沢山のメッセージを受け取りメモリーする。

地球ではエサキモンツキノカメムシの姿をした特使が、未来のハートマンに的確にメッセージを配達する。もちろん地球以外の知的生命体がいる惑星では「フウセンカズラ」ではない何かがそれを受信し、普段目立たない何かの生き物がトントの役割を担っているのだろう。

宇宙は膨張を続けているように見える。ブラックホールやホワイトホールが「1/fゆらぎ」を作り出している。その研究は僕にも少し理解できるようになった。でも明快な理論はメモリーの中に見つけることが出来ない。そんな仕組みがあることを知っただけだ。
宇宙の膨張と共に進んでいる最深淵の未来研究セクションでも未だ解明されていないのかも知れない、とトントは言った。僕がハートマンになったら、その時こそ宇宙の仕組みを本当に理解する事が出来るかも知れない。

ベランダから見上げる星空がとても近く感じる。手を精一杯伸ばして言った。

「おーい、僕はここにいるよーっ」    つづく
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種はメモリー

2006年08月05日 | SF小説ハートマン
僕の頭の中は昨日の出来事がまだグルグル回っていた。

トントは全てを話してくれた。
バイオリストコンピュータのおかげで整理されたボクの頭は、それをきちんと理解する事ができた。それでもグルグル回っちゃうくらいの興奮が残った。

フウセンカズラの種はテラバイトに匹敵する情報のメモリーだった。その中に未来からのメッセージが思考回路に直接語りかけるプログラムと共に詰めこまれていた。

僕が毎日見た、と言うより体験した夢は一粒一粒の種に収まっていたものだ。
トントは必要な種を慎重に選んで僕に与えた。

ある種は、世界が地球だけではない事を教えてくれた。無量大数の星が輝く宇宙に、今もハートマンの仲間が活躍している。
僕はもうすぐその世界へ行くだろう。種がそう告げている  つづく
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大きくなったら

2006年08月02日 | SF小説ハートマン
幼児教室のお勉強は、吉田先生との面接練習だった。
「もうすぐ試験だからね、今日は面接の練習をしましょう。お名前を呼ばれたら一人ずつ来てください。」
 
「宇宙君ですね。それでは質問します。最近お母様に誉められたことはありますか?」
「はい、あります。」

「どうして誉められたのですか?」
「テストの成績が良かったからです。」

「うーん、それもいいけど、他にも何かないかな?」
「はい。お手伝いをよくしてくれるねって、誉められます。」

「そうですか、それはいいことだね。・・・宇宙君なかなか調子いいぞ。」

先生にも誉められてボクはちょっといい気持になった。ハートマンの微笑みが目に浮かんだ。「ボク、絶対頑張るよ。いつか必ず仲間になる。」そう心に誓った。

「それでは次の質問をします。大きくなったら何になりたいですか?大きな声でね…。」
「はい、大きくなったらハートマンになります!」
「なにーー!?ちょいとひ、ろ、し、くん。」

吉田先生は天井を見上げて頭をふらふらさせた。
「だめだこりゃ。」  つづく
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種のメッセージ

2006年07月29日 | SF小説ハートマン
「ねえ、ボクはハートマンになるんでしょう?大人になったら。」

「ひろし君…」
トントは一言一言確認するように話し始めた。

「貴方は選ばれた。やはり私たちの選択は間違っていなかったと、今確信しています。おっしゃるとおり宇宙君はハートマンになります。」

「でも、ちょっとだけ怖いよボク。ホントになれるの?」
「なってもらうために私たちは貴方を選びました。ですからきっとなります。」

「またいつかハートマンに会えるかなぁ。」
「さっき宇宙君は、この夢はボクだっておっしゃいましたね?」

「うん。何か変なんだけど」
「いいえ、変ではありませんよ。宇宙君の感じたことはみんな本当です。あれは宇宙君、貴方なんです。見るだけの夢とは違うのです。」

「よく分かんないよ、どうゆうこと?」
「夢でハートマンがしたことは、宇宙君がこれから自分で経験することなのです。実際に起こることなのです。」
 
「えーっ本当に?、じゃあ初めの夢の時、ボクが会ったハートマンは誰?」
「あれは貴方です、宇宙君。未来の宇宙君が自分で貴方に会いに来たのです。貴方にメッセージを伝えるためにね。ここにメッセージがあります。」
そう言ってトントは一粒の種を僕に見せた。

「何これ?フーセンカズラの種じゃないの。」
「そうです。これを宇宙君のバイオリストコンピュータのインターフェースにこうしてっと・・・」

トントは種を、もう治りかけてかさぶたになっている腕の傷に押しつけた。プチッと音がして種はかさぶたの下に収まった。あっという間のことだった。


ハートマンが目の前に現れ、僕に話しかけた。

「トントがこれを君に見せたということは、全てうまくいっているということだね。宇宙君、君がここに来ることを信じているよ。大丈夫きっとうまくいく。私が保証する。何てったってこの私は宇宙君、きみ自身なんだから。」  つづく

コメント (14)
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ハーマンは僕なんだ

2006年07月26日 | SF小説ハートマン
僕はもう大丈夫だ。夢の中で体がどんな傷ついても、化け物のような敵に囲まれても、どうすればいいのか分かるような気がする。
隠れるのか戦うのか、説得するのか。相手の心を読んで先を推理し、自分ならこうするだろうと思うことをハートマンもしているような気がするんだ。

朝、目が覚めてから息苦しいこともなくなった。何だかいい気持だ。
言われる前にお手伝いをして、ママに「ありがとう。助かったわー。」って言われた時のようなくすぐったい気持だ。

「ねえトント、僕少し分かってきた。」
「そうですか、宇宙君。貴方はとても頑張りました。この何日かでめざましい進歩です。私がしてあげられることはもう残り少なくなりました。」

「それって僕のこの腕のコンピュータが完成したってこと?」
「はい。バイオリストコンピュータは組織作りを終了しました。細胞からの拒否反応もありません。全ての神経細胞がシナプスを全開にしてネットワークで結ばれました。脳はフル稼働に入ります。全てがスタンバイ、OKです。」

それを聞いて僕は少しうれしかった。でも少し不安もあった。


「この夢は僕なんだね?トント。」

僕は感じたことをそのままトントに尋ねた。

「ねぇトント、ハートマンは本当は僕なんでしょう?」

何度も夢を見て経験するうちに、僕はハートマンを見ているんじゃなくて、僕自身がハートマンなんだ、と思うようになっていた。


トントはしばらく何も言わずに僕を見ていた。   つづく
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脱出

2006年07月23日 | SF小説ハートマン
コールサインを受け取ったスペースギアは環境色のまま発進し、サイバークラブ屋上で待ち受けるハートマンにフルスピードで近づいた。

使い慣れたハンディウエポンを拾っている余裕はなかった。接近戦を予測して身につけていた旧式のレーザーガンだけがかろうじて敵の攻撃を防いでいる。

熱交換機の影に主人を発見したハイブリッド合金製の忠実なるしもべは、彼の待つ建物の直前で船体の飛行角度を90度傾け敵とハートマンの間に割って入った。
コックピットウインドウを開く。
船底にビームバリアーを集中し、反対側からハートマンを迎え入れた。

コックピットに飛び込んだハートマンはコンソールを素早く操作し、バイオリストコンピュータに同調させる。その間にも船底に受ける攻撃ビームの衝撃が次第に大きくなっていく。

この程度の攻撃ならバリアーはしばらく持ちこたえるだろう、だが敵が破壊力のある大型兵器を持ち出す前に脱出しなければ。

叫びたくなるような苦痛が断続的に襲ってくる。ハートマンは、全てのモニターがAUTOに変わり安全なワープ空間へと飛び込んでいく強烈なGを、薄れゆく意識の中で感じていた。   つづく
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潜入失敗

2006年07月22日 | SF小説ハートマン
スペースギアに戻ると街から少し離れた農場の納屋らしき建物の裏にそっと移動した。もう一度調べてみる必要がある。
スペースギアはいつでも呼び出せるようにコールオプションをオールタイムにセットする。

コックピットを出るとプシュッとエアロックが閉まり、ハイブリッド合金の小部屋は自分で探知した環境の色に変装を始めた。1分もすればどこにそんな物があるのか分からなくなってしまう。装備されたばかりの外殻迷彩装置(NINJYA)が稼働したのだ。

クラブの建物に屋上から潜入を試みた。いくつかのドアを通り抜けた時、いきなりレーザービームがハートマンの右肩を貫いた。オートセキュリティシステムの赤外線に見つかってしまたのだ。

「しまった、発見された。」

戻ろうとしたハートマンの左足をまたもやビームが貫通する。肉の焼ける臭いがした。
「脱出しなければ…」
走り出した瞬間に襲ってきた激しい痛みに思わず転倒する。衝撃でハンディウエポンがホルダーから外れ通路に転がった。

異常な物音を感知し、各所に配置されていた外来者監視用防犯カメラが一斉に向きを換え彼を追う。すぐに戦闘用ガードマンが駆けつけるだろう。

バイオリストコンピュータは痛みの感覚だけを断続的にに遮断しながらスペースギアに(エスケープモード)を指示した。   つづく
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サイバークラブ

2006年07月20日 | SF小説ハートマン
サイバークラブに人影はまばらだった。

支配人を呼び、いくつかの質問をした。
支配人は曖昧な返答を繰り返し、2人のガードマンを呼び寄せた。明らかに戦闘用のアンドロイドだ。このテのやつは軍隊にしか配属されていないはずだが、何か裏のルートがあるに違いない。

「ちょっと借りるよ。」

ハートマンはそう言って、支配人のデスクにあるコンピュータに素早くバイオリストコンピュータを接続した。
モニターにセクションのロゴマークが浮かび上がり、すぐにCPA(中央警察)のそれに変わった。
支配人の顔が一瞬引きつり急に愛想笑いに変わる。

「へへっだんな、それならそうと初めからおっしゃって下さいよぅ。私は何も知ってなんかいませんよ。いや、本当ですよ。うちはいつだってまっとうな商売してるんですから。なんならその辺の従業員つかまえて聞いて下さったっていいですよぅ。何ですかそのGS何とかってぇの?」
 
「いや、知らなければいいんだ。また来る。」

急に口数が多くなった支配人の肩をポンとたたき、店を出た。  つづく
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宇宙(ひろし)の夢 11日目(草原のクンクー)

2006年07月17日 | SF小説ハートマン
熱いシャワーを浴び、やや遅い朝食をゆっくりと楽しんだ。
ホットのハッシーミルクと、程良い塩味をつけた鶏肉をふわふわーっと半熟の甘辛卵でからめシリアルにのせたメニューはハートマンのお気に入りだ。
ハッシーミルクは大型のほ乳類(クンクー)の乳を加工したもので、温めても冷やしてもおいしい。

クンクーはC-3惑星に生息し、その星独特の植物ハッシーだけを食べる。ハッシーはとても良い香りの植物だがアルカロイドに似た毒性があり、人間の食用には向かない。
クンクーはグリーンの濃淡まだらの体色、全身がキラキラと輝く半透明の体毛で覆われている。体長は5メートル位だろう。地球にいる牛とカバを合わせたような体型だ。堅い表皮とその色は恐竜をイメージさせる。
だが全くおとなしい。天敵がいないせいかも知れない。体の大きさとは不釣り合いに大きい乳房。そのミルクは栄養豊富で、子供のいないクンクーからも搾乳できる。冷凍加工されたものは周辺の惑星群にも輸出されている。12-3頭の群で生活し「クンクー」と甘えるように鳴くのでそう呼ばれている。酪農も試されたことがあるが、天然のハッシーでしか育たず、C-3惑星以外では生きられないようだ。

セクションとの交信を終えるといつものように駐機場のスペースギアに向かった。コックピットに座り、アイドリングスイッチをONにする。チェックはオートでいいだろう。
エイムサイトはバイオリストコンピュータから昨日調べておいたクラブをインプットする。

ハートマンのスペースギアは。ブーンという低い音と青白いアフターバーナーの光を残して離陸した。   つづく
(画像と本文は、ほとんどいつも関係ありません)
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老婆…②

2006年07月14日 | SF小説ハートマン
数時間後、老婆は洞窟に座っていた。
どこにそんな力が残っていたのだろうか。手に錫杖を握りしめ鉱泉のしみ出る岩肌に向かってなにやら意味不明の言葉ともうめきとも判別できない声を発している。

洞窟には数百本のろうそくがあった。老婆が震える指でそのひとつを指し示すとジジッと音がして火がともった。指が左右に揺れ動くと全てのろうそくに火がともり、彼女の顔を、その深いしわまでくっきりと照らし出した。

「ナーマンサーマンハートマン、ターバンカビサンイソワカ、サラナンセンダンマーカロシャーナスワ、タヤウンタラミリンダン・・・」

ひからびた口には泡になった唾液がへばりつく。体全体を震わせ肉眼ではっきりと見えるほどのオーラを発している老婆。うめきにも似た呪文がしだいに熱を帯びてくる。
数百のろうそくが一斉に揺れ動き、瞬くと、洞窟の岩肌から岩盤が数枚剥がれ落ち激しい音をたてた。

GS-DSの大型スペースシップ内、貨物ブロックのICUポッドに横たわるハートマンのうめき声と老婆の呪文が重なり共鳴を始めた。なおも熱く呪文をはき続ける老婆。

震える両手が一瞬空を彷徨い落ちた。

口から泡を吹き硬直した体をのけぞらせた後、ぼろ布のように崩れ落ちた。同時に数百のろうそくが吸い取られたかのように消え、白い煙が数百の揺らめく筋を描いた。

死斑の浮いた老婆の顔には深くしわが刻まれていたが、ひび割れた口元には優しい微笑みが浮かんでいた。錫杖を取り落とした後握りしめている筋張ったその左手首に、ほくろのように見えるハート形の傷があった。

数百万パーセク離れた空間に浮かぶ大型スペースシップの中、ICUポッドに横たわるハートマンの体にフル充電されたプロトン電池のような凄烈な力がわき上がっていった。   つづく
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