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僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

そして光

2006年11月03日 | SF小説ハートマン
「ところがそうじゃないものがあるんだ。」
「そうじゃないものって?」

「時速100㎞で走っている車の中から、となりを時速120㎞で追い越す白バイを見てもゆっくりじゃなくて120㎞に見えるんだ。」
「そんなのないよ、それじゃあ」
僕は電卓に100+120と打ち込んだ。
「ほら、時速220㎞だよ。」

「うん、そうだね。白バイならそうなるんだけど、違うものがあるんだ。いつ見てもどこから見ても同じ速さ。」
「なんだろ、本当なの?」

「光だ。」

「光に速さなんてあるの?」
「秒速30万㎞って言われている。」
「えぇ~!時速じゃなくて?」
「星の距離を何光年とか言うのは聞いたことがあるね。その光が1年間かかって届く距離ってことだ。」

「1秒で30万㎞、1分で×60、1時間で×60、一日で×24…電卓があふれちゃった。」

「宇宙(ひろし)君、これは分からなくてもいいよ。今大切なのは宇宙はとても広いってことと、光はいつでもどこでも同じスピードだってことを覚えていてね。」
「うん。分かった。分かんないけど…」

「それがワープの原理なんだ。それじゃあ宇宙君ハートマンのスペースギアの話をするよ。」
おじさんは黒島の写真を取りだして僕の前に置いた。
そうそう、僕はその話が聞きたかったんだ。手をぎゅっと握っておじさんの顔を見た。    つづく
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車と白バイ

2006年10月29日 | SF小説ハートマン
「そうだね、でも飛んでるって感じはしないけどね。」
「ねえおじさん、宇宙にはもっと早く飛んでるものもあるの?」
「まだまだある。この太陽にしても銀河の端っこの方にあるから、銀河の渦巻きを他の星と一緒に回ってるんだよ。」

「銀河って知ってるけど、銀河も回ってるの?」
「そうなんだ、計算すると、秒速220キロメートル位になる。」
「秒速って1秒間でしょう?1時間じゃなくて。」
「いろいろ速いものはあるんだけど、もう少し違うものも考えてみるよ。」
おじさんはそう言って車の絵を描き出した。

「この車の後ろから白バイがサイレンを鳴らして走っているんだ。」
「スピード違反を捕まえるんだね。」
「そう、だから車を追い越して前に出る。ハイ左に寄って止まりなさい!」

「白バイに捕まってるの見たことあるよ。」
「そうかぁそれじゃあ宇宙(ひろし)君がここで見ていたことにしよう。」
おじさんは紙の端に僕の絵を描いた。

「宇宙君はここから見ていました。その時、車は時速100㎞でした。この道の制限時速は80㎞です」
「じゃぁ20㎞オーバーです。」
「その通り。それでは今度は宇宙君は車に乗って白バイを見ています。車の横を白バイが追い越していきました。」

「車じゃなくて白バイに乗りたいなぁ。」
「今はそうゆうことじゃなくてさ…」

「白バイは何㎞で走ってるように見えるでしょうか?」
「120㎞位です。」
「宇宙君は100㎞で走ってる車に乗ってるんだよ。」
「あっそうか、えーっとじゃぁ、ただの20㎞。」

「そう、ゆっくり追い越しているように見えるはずだよね。」  つづく
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地球も飛んでいる

2006年10月25日 | SF小説ハートマン
「なんだかゆっくりしてるみたい」
「でも時速だったら、さっき出た数字、1666㎞だよ。」
「うわ、そうか。すごいんだ。地球って凄く速く動いてるんだ。」

「宇宙(ひろし)君、驚くのはまだ早いよ。」
「えっ何で?」
「地球は太陽の回りを回ってるって知ってるかい。」
「うん、吉田先生がいつか言ってた。それが1年なんでしょう。」
「そうだ、吉田先生っていいこと教えてくれるなぁ。でもそんな難しいこと宇宙君も良く覚えたたね。」

「ここから急に宇宙になるから良く聞いてね、宇宙ってすっごく大きいんだ。まずね、地球が太陽を中心に丸く回ってるとして、地球から太陽までどの位距離があると思うかな。」

おじさんは太陽の絵を描いて、それを囲む大きな○を描いた。数字を書き込みながら片手で電卓をたたく。

「地球から太陽までの距離は1億5000万キロメートル、太陽を通り越して向こうまでの距離はその2倍、これが回っている○の直径だ。」
「うん、何だかすごい。」

「回りの距離を出すには、この直径にπ、3.14にしておこうか、これをかけ算して…ほら」
「うわぁ電卓が一杯だ。」
「それを365日で回るから、割り算して、それを24時間でまた割って、はい出ました」

時速10万8千キロメートル。秒速にすると30キロメートルだった。

「1秒間に30キロメートル進んでるってことなんだ。」
「すごい!ロケットより速く飛んでるんだ。」
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1メートル

2006年10月18日 | SF小説ハートマン
「いつかテレビでやってたメートル何とかって言う基本の定規がそれ?」
「はいはい、メートル原器のことかな。面白いこと知ってるんだね。」
「それそれ、すごい金属でできていて金庫みたいなところに入れてあるって言ってた。」

「それも確かにあるんだけど、今はナノテクノロジーなんかがあるから、もっともっと誤差の少ない正確な基本が必要なので違う方法で決めてるんだ。」
「もっとすごいものって、何なの?」

「ものではないんだけれどね、今1メートルの基準になっているのは光なんだ」
「光って?」
「真空中を光が299,792,458分の1秒の間に進む距離を1メートルに決めているんだけど、えーっと。」

「全然分かんない。」
「そうだよね、じゃあその前にさっきの続きだ。」

「地球の速さだよね。」
「割り算するよ。ほら宇宙君、電卓で計算してみて。」
「1日で40000㎞、一日は24時間だから÷24」
「これでいいですか?1666.666666」
「そうそう、1時間は60分だから÷60」
「1分は60秒だから、もう一回÷60で0.462962962だって」
「そうだね、でもそれは㎞だから、メートルにすると…」

「1秒間に進むのは、どの位?」
「四捨五入して、約463メートルだ。」
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地球の大きさ

2006年10月15日 | SF小説ハートマン
つまらないどころかすごく面白いと思った。
ずっと前、フウセンカズラの種を数えた時や、夜流星群を見た時に、星見ちゃんが数の話をしてたけど全然分からなかったのに、今は意味がよく分かるような気がする。バイオリストコンピュータのせいなのかも知れない。

「地球が回ってるって事は知ってるよね。」
「うん、だから昼と夜があるんでしょう?」
「それでは本題だ。宇宙君、地球はどの位の速さで動いてると思う?」
「えっ地球って動いてるの?」
「そうだよ、回ってるって言ったでしょう。」
「あっそうか。」
「一日で一回転だ。」
「んーじゃあ結構ゆっくりだよね。でも地球は大きいから、時速100㎞くらいかなぁ。」

「地球は回りが4万㎞あるんだ。」
「ふーん、じゃあおじさん、4万㎞を一日の時間で割ればいいんだよね。一日は24時間だから」
「宇宙(ひろし)君すごいぞ、その通りだ。」

いつか星見ちゃんが言っていた割り算の意味が何となく分かって嬉しかった。

「でも誰が4万㎞って計ったの?地球の回りってぴったり4万㎞なの?」
「本当はちょっと誤差もあるんだけど、4万㎞なんだ。それはね、昔の人が1メートルの長さを決める時、地球の子午線の北極から赤道までの長さの1000万分の1を1メートルと決めたからなんだ。」   つづく
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もっと速いもの

2006年10月13日 | SF小説ハートマン
「これを見てごらん、宇宙君。面白いよ。」
おじさんは大きな図鑑を広げて僕に見せた。いろんな乗り物のスピード競争が絵になっている表だった。初めて見たけどすごく面白い。僕が見ている間におじさんは
「電卓、電卓っと。」
と言いながら計算器とメモ帳を出してきて僕の横に座った。

「ほら、ジャンボジェット機が時速900㎞、車の10倍くらいの速さだね。時速って言うのは1時間走り続けるとどの位先まで行くかって事なんだけど、宇宙君は知ってるよね。」
「うん大体。じゃあロケットは?」
「それは次のページだ。ほらこれ、ロケットは時速じゃなくて秒速だ。1時間も計ってられない位速いから、1秒間にどれ位進むかで比べるんだ。」
「8㎞って書いてあるね。」
「そう、正確には秒速7.9㎞以上で地球を回る軌道に乗る。ということは、」

おじさんは電卓をたたいた。答えの数字を僕に見せながらつづける。
「ほら、時速に直すよ。1時間は60分。だから×60。1分は60秒だから×60。時速28440㎞だ。」

「やっぱりロケットが一番速いんだね、おじさん。」
「そうだね、乗り物だったらね。」

「え?じゃあ、まだ速いものってあるの?」
「それが今日の話の始まりなんだ。」

「ハートマンの話じゃないの?」
「宇宙君、ハートマンの大事な話だ。こんな話、つまんないかい?」    つづく
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速いもの

2006年10月07日 | SF小説ハートマン
「ところで宇宙君さ、世界で一番早いものってなんだと思う?」

突然おじさんがそんなことを質問した。写真のことかと思ったけど違う話なのかな。
「うーん、パウエル?」
「えっ、何だそれ?」

「だって9秒77で世界一だよ。」
「あぁそうか100メートルスプリントか、宇宙君はすごいこと知ってるんだなぁ。パウエルってジャマイカの選手だっけ?おじさんはカールルイスしか知らないんだけどね。」

僕も全然知らなかったけど、昨日吉田先生と中国のオリンピックの話をした時に教えてもらったことなんだ。

「それは人間の走る速さだよね。人間じゃなかったら?」
「知ってる!チーター。」
「うーん、そうか。じゃぁ、生き物じゃなくてもいいって言ったら?」

僕はいろいろ考えてみた。新幹線、F1マシン、リニアモーターカー、ジャンボジェット、ロケット。

「いいぞ宇宙(ひろし)君、近づいてきた。宇宙(うちゅう)の話だ。」   つづく
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星見ちゃんの家…①

2006年10月05日 | SF小説ハートマン
「それのことだよ。」
おじさんは2杯目のコーヒーにミルクを入れながらアルバムを示した。

お父さんの方をチラッと見ると、後ろ向きでパソコンを操作している。
「ネットで地震のこと調べてみるよ。何だかすごいらしから。」

「お父さんなら大丈夫だよ。宇宙君のことはみんな知っているから。」
「知ってるって、えっ僕のことって。これのことですか?」
僕はおじさんに手首を見せた。おじさんはにっこり笑って大きくうなずいた。

「これ、ハートマンの…」
「そうだよ。バイオリストコンピュータだね。」
「それじゃぁトントのことも?」
「そうだ、みんな知ってる。そのことで宇宙君に教えておきたいことがある。」
「星見ちゃんも知ってるの?」
「いいや、星見はまだ知らない。でもいずれ知ることになるだろうとは思うよ。」

僕はまず驚いた。それからトントのことを思い出して涙がにじんできた。

「死んじゃったんです、トント。」
「知ってる。だから今日宇宙君を呼んだんだ。」
「・・・・・」
「悲しいことだったけど、トントの役割は終わったんだ。トントは本当に良くやった。宇宙君ももちろんよく頑張った。誰にも言わずに一人でやり遂げたんだ。これはうそじゃない。おじさんも、それから宇宙君のお父さんも、もっと他の人も、宇宙君がまだ知らない沢山の人が宇宙君を見守っていたんだ。これからもそうだ。トントがいなくなっても宇宙君は一人じゃない。それを今日伝えたかった。ちょっとこっちに来てごらん。」

おじさんはアルバムを持ってソファーに僕を誘った。   つづく
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朝食

2006年10月01日 | SF小説ハートマン
「おはようございまーす。おじさん、星見ちゃんは?」
「あぁ、星見はピアノの先生のコンサートだって、さっきママと出掛けたよ。」
「ふうーん。」
「何だ?星見に用があったの?お昼過ぎにならないと帰ってこないよ。」

「ううん。おじさんが僕に来てって言ったの?」
「はいそうですよ。宇宙君に特別の用事です。」
「えぇーっ何?何ですか?」
「うーん、そうだな。でもその前にご飯食べようか。まだ食べてないだろ?」

おじさんがにっこりしたところへお父さんが割り込む
「そうそう、お願いします。美味しいブルーマウンテンのコーヒーもよろしく。」
やっぱり今日もずうずうしいお父さんだ。

「ママがいないから何にもできないけどね、サラダと卵と、えーっと宇宙君はシリアルとパンとどっちがいいかな。」
「宇宙、パンにしといた方がいいぞ、ここんちのパンは手作りだ。ポンパドールのクルミパンも美味いけど、星見ちゃんのママが作ったのは最高だからな。」
お父さんが嬉しそうに説明する。何度も食べてるに違いない。

「うん、じゃぁパン。パンも作っちゃうの、おばさんすごいね。」
「いやぁパン焼き器が作るんだけどね、出来たては美味しいよ。宇宙君のママのデザートも最高だよね。」
「うん、サイコーサイコー!パン、サイコー。デザート、サイコー。ブルマンサイコー。」
何だか妙に明るいお父さんだ。

楽しくて美味しい朝ご飯だった。おじさん達はコーヒー、僕は牛乳を飲みながらテレビのニュースを見た。外国ですごく大きな地震があったらしい。

「宇宙君、そろそろ始めようか。」
おじさんはテレビのリモコンを置くと真面目な顔で僕の肩をたたいた。   つづく
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日曜日の朝

2006年09月29日 | SF小説ハートマン
日曜日の朝早くお父さんの呼ぶ声で目が覚めた。
「おい宇宙、これから星見ちゃん家に行くから一緒においで。」
「えーっこんな朝から、何しに行くの?」
「おじさんが宇宙君も一緒に来てくれって言ってるんだ。今日はテストじゃないだろ?」
「うん、でもご飯まだだよ。」
「大丈夫、星見ちゃん家で何か食べよう。お母さんにもそう言っといたから。」

お父さんはいつもそうだけど、人の家に行っても遠慮とかしないんだ。子どもの僕が恥ずかしくなっちゃうこともある。美味しいお菓子をいただいた時なんか
「こりゃぁ美味いですね。」
なんて言いながら一人で全部ぱくぱく食べちゃって
「すみません、あんまり美味いんで気がついたらみんな食べちゃいましたね」
とか笑っている。もぅほんとにやめて欲しいよ。
ちょっと帰りが遅くなって、家の人にご飯食べていかない?なんて誘われると、いいえ結構ですなんて言ったことがない。
特に星見ちゃん家だとまるで自分の家のようにしている。

「何か僕に用事があるのかなぁ」
「こないだの写真のことだって言ってたぞ、写真がどうかしたのか?」
お父さんはそう言って僕を意味ありげに見た。
「あと、これも持ってくるように言われたんだけどな。」
と、黒島の写真アルバムを持ち上げて見せた。

焼尻島と黒島。僕が不思議に思っているあの写真のことだろうか?ハートマンのこと知ってるのかな?スペースギアの駐機場、セクションの入り口。そのことをおじさんは何か知ってるのかも知れない。ちょっとドキドキしてきた。
僕は急いで顔を洗い身支度をした。    つづく
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ママ

2006年09月13日 | SF小説ハートマン
「宇宙、いらっしゃい。」
気がつくとママがそばに立っていた。
「餃子作るの手伝って。」
僕の肩を抱いて台所へ連れて行った。

丸い餃子の皮に具をスプーンで取り、指で水をつけながら包んでいく。ヒダを上手に作れるようになって僕の大好きなお手伝いになった。いつもママと楽しい会話をしながら競争で作る。
上手になる前は、僕の作った餃子はすぐに分かってお父さんにも笑われたものだった。
「これは爆発したのか?それともワンタンなのか?」

今はママとほとんど変わらない形に包める。
「うーむ、お前は料理の鉄人になれるかも知れない…」
なんてお父さんに言われたこともある。

そんな楽しいはずのお手伝いにも今日は手が動かなかった。ママが5個作る間に僕は何とか1つ、しかも形になっていない。ただ涙が落ちるのを必死にこらえていた。

ママは一人でしゃべっていた。
「餃子はねキャベツだけじゃなくて白菜も入れるのよ、中国人のお友達が教えてくれたの。その人今度ね小龍包も肉まんも教えてくれるって。ママ習ってきたら宇宙にも教えてあげるからね。宇宙は鉄人だからすぐに上手になるわよ。ショウロンポウっていうのはね、小さい肉まんみたいな物だけど、中にスープの煮こごりみたいのを入れてね、煮こごりって知ってる?…」

僕が黙っているのにママは一人でしゃべり続けていた。どうしたの?って聞かないで、いつも通りどんどん餃子を作り続けた。

僕はこらえきれなくなってママに抱きついた。わぁーんと大声を上げて泣いた。ママは僕の背中を何度も何度もそっとなでながら抱いていてくれた。   つづく
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動かないトント

2006年09月09日 | SF小説ハートマン
トントが応えなくなった。
最近元気の無くなったのが心配で、朝起きたら必ず声をかけた。

「はい大丈夫ですよ宇宙(ひろし)君」
って返事は必ずしてくれた。でも今日はそれがなかった。
足を縮めて丸くなって、そして動かなかった。

元気の無いトントに僕はあまり質問をしなかった。そっとしておいた方がいいと思ったからだ。今思えばもっともっと話しかければよかった。
トントは虫だけどずぅっと一緒だと思っていた。大人になってハートマンになってもずぅっとずっと一緒だと思っていた。僕の先生で、友達で、セクションの仲間で…僕をママ以上に知っている理解者だった。だからそれが当たり前だと思っていた。

「トント、これじゃただの虫じゃないか。」

動かないトントを手のひらに乗せ僕はつぶやいた。
「何で何も言わないで逝っちゃったの…。さよならくらい言ったっていいじゃないか。
そうなる運命だったのならきちんとそう説明してくれればいいのに。何時だってトントは冷静だったじゃないか。僕がパニックになりそうな時も、なだめるだけじゃなくきちんと説明してくれたのに。どうして自分のことは言わなかったんだ。そんなの変じゃないか。僕はこれからどうしたらいいの?どうしても聞きたいことがまだまだ沢山あるのに…。」

手のひらのトントをじっと見た。
目に光が無くなったトントをじっと見た。少し揺すってみた。
「大丈夫ですか宇宙君。」
そう言って突然起き上がるんじゃないかと思いながらしばらくそうしていた。

鼻の奥から何かが急に熱く溶け出してきて僕の全身を包んだ。包んだものは一瞬のうちに凍りつき僕の心をぎゅーっと締め付けた。手も足も冷たく鳥肌が立っているのに、目から火傷しそうに熱い滴が大量にこぼれ落ちた。    つづく
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黒島

2006年09月05日 | SF小説ハートマン
黒島は沖縄の石垣島からフェリーで30分程の所にある。周囲12kmほどの珊瑚礁に囲まれた小さな島だ。
すぐ隣の竹富島は星砂で有名で、新婚のカップルがいつも沢山集まるが、黒島は人口も少なくほとんどが牛の放牧場で目立った観光もない。荒れていないきれいな珊瑚礁を求めてくるダイバー達の穴場になっている。

僕が思い出したのは、この黒島の形が「ハート」だったことだ。
アルバムの写真にはなかったけれど、挟んであったパンフレットに載っていた航空写真にはっきりとそのハート型が写っていた。

「やっぱりそうだ!」

去年の夏はお父さんだけが黒島に行った。僕も行く予定だったけど出発の2日前になって体にポツポツと腫れ物ができた。プールの友達がみんななったのでママが心配していた水疱瘡だった。

「こりゃダメだなぁ。しょうがないから宇宙達は留守番だ。飛行機はキャンセルだな。」
ママもすごくがっかりしてた。
「海がとってもきれいなのよう、宇宙もきっと驚くわよ。行きたかったわぁ。」
ってお父さんが行ってしまってからも、何度も何度も言っていた。

「ほら、お土産のマンゴーとシークワァーサー、美味いぞ。」
お父さんが帰ってきた日、お土産と一緒に受け取ったパンフレットがそれだ。初めはそんなデザインかと思ったけど、本当にハート型の島だって分かったときは驚いた。面白い島があるんだなって思ったことをよく覚えていた。

アルバムの写真を一枚一枚ゆっくりと見ていった。思った通りやっぱり不思議な写真はあった。
石垣にはめ込まれたハート石…

それはセクションの入り口だ!   つづく
(写真はネットからお借りしました)http://www.kuroshima.net/

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お父さんの島

2006年09月04日 | SF小説ハートマン
星見ちゃん家で焼尻島の写真をたくさん見せてもらったけれど、おじさんに聞こうとしたあの写真のことは、曖昧になってしまった。おやつをご馳走になりながら星見ちゃんが始めたフラダンスにみんなで大笑い。涙を流して盛り上がってしまったんだ。
この事は今度おじさんにしっかりと聞いてみなければいけないと思っている。

家に帰る途中一つの可能性を思いついて僕は走り出した。

「ただいまー。」
玄関で大きな声を出し、そのままお父さんの書棚に向かった。
「なーに、宇宙(ひろし)なの?ドタバタしないで、靴ちゃんと片付けてねぇ」
リビングで掃除機をかけていたママが応えた。

写真のアルバムを何冊か持ち出してトントの所へ持って行った。
「ねえトント…。」
床にアルバムを広げ、トントに話しかけた。最近トントはあまり話をしたがらない。向こうから僕に話しかけてくることもほとんどない。僕が話しかけても、ハイ、とか、分かりません、とかしか言わない。普段もじっとして動かないことが多い。病気なのかちょっと心配だ。

僕が見たかったのは、お父さんの田舎だという黒島の写真だ。
お父さんと星見ちゃんのおじさんは同じ「島育ち」なので話が合うと言っていた。お父さんは北海道の焼尻島ではなくて、沖縄の島だ。僕は赤ちゃんの時一回行っただけで、どんなところかまだ知らない。

何枚か見ていくうちに可能性は確信に変わっていった。

「やっぱりそうだ!」     つづく

写真はネットからお借りしましたhttp://www.kuroshima.net/
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焼尻島

2006年09月01日 | SF小説ハートマン
焼尻は「やぎしり」と読むなぜ尻を焼くのだろう。すぐ隣の島は天売「てうり」島。北海道留萌の北、羽幌の港からフェリーで1時間弱の海に浮かぶ。周囲12km程。自転車で2時間もあれば一周できてしまうほどの小さな島だ。
もう少し北に位置する利尻島、礼文島が有名で観光も盛んであるのに対し、焼尻島は地味で観光客も少ない。

僕は海が見える丘のような牧草地がとても好きだ。以前にも写真を見せて貰ったことがあるけど、広々とした草原に遊ぶ真っ黒い顔の羊がとってもかわいいんだ。サフォークっていう食用の羊らしい。食べられちゃうのか…

牧草地の写真の中にあった一枚に見覚えのあるものが写っていた。

羊たちの水飲み場や柵に混じってどうと言うことのない小さな小屋が一軒ある。その屋根に独特の形をしたアンテナが立っている。普通のテレビのアンテナではない。パラボラ型でもない。似ているといえば街で見かける携帯電話の中継用アンテナのようでもある。

僕の記憶ではそれはただ一つ。ハートマンのスペースギアの駐機場入り口だ。

パソコンに向かっていたおじさんに聞いてみた。
「ねえおじさん、このアンテナみたいの何?」
おじさんは、うん?どれどれ。と言って僕の脇に来た。

僕が指さす写真を見た。それから僕の顔を見て唇をぎゅっと結んだ。いつもとちょっと違った顔だった。何か言おうとした時、

「お茶入れたからねぇ~」
と星見ちゃんが両手にお盆を持って入ってきた。お菓子の箱とママのゼリーと紅茶をまとめて乗せている。
「はいはいはい、テーブルの上空けてねぇ」
「おいおい、いちどにそんなに持っちゃ危ないよ。」
おじさんは立ち上がってお盆を受け取った。   つづく(写真はネットからお借りしました)http://www.yo.rim.or.jp/~yanapy/hokkaido/dohoku/yagisiri.html
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