ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

ヴェロニカ・ゲリン:ジャーナリストを駆り立てるもの

2005年08月06日 | 映画♪
日本ではすっかり「ジャーナリスト」という言葉と「正義」という言葉が結びつかなくなったけれど、こういうドラマを見ると、やはりジャーナリストというのは「正義」と不可分なのだなと思う。アイルランドの伝説の女性記者 ヴェロニカ・ゲリンの物語。

1994年、アイルランドの麻薬による犯罪発生率は史上最高に達し、1万5千人が麻薬を常用、14才の中毒者たちもいた。そんな中、ダブリンの低所得者住宅の一角で、サンデー・インディペンテント紙の記者ヴェロニカ・ゲリンは麻薬犯罪の実態を取材していた。路上に転がる注射器で遊ぶ子供たち。麻薬中毒者独特のうつろな目つきでぼんやりと佇む10代。ヴェロニカ・ゲリン(ケイト・ブランシェット)は彼らに麻薬汚染の現状について問い掛ける。だが彼らはそんな彼女を無表情に見つめるだけだった。
麻薬犯罪の実態について取材することを決意したヴェロニカは、ダブリンの裏組織に詳しいトレーナー(シアラン・ハインズ)やダブリン警察の刑事から情報を聞き出し、自らの会計知識を活かしながら調査を進めていく。やがて彼女の調査は、麻薬売買組織の首謀者ジョン・ギリガン(ジェラルド・マクソーレイ)へとたどり着く。ギリガンはヴェロニカを何とかするようにトレーナーに命じるのだった…。



ジャーナリストを駆り立てるものとは何なのだろう。正義感なのか、社会的な名声への欲求なのか、はたまた同僚たちへの負けん気なのか。「正義感」だけでジャーナリストが頑張っているとは思えないが、しかし不可分の条件であることは間違いがない。しかし現実の日本の記者たちとこのヴェロニカのような伝説の記者との隔たりは大きい。何故か?それは単純に「正義感」の大小という問題ではない。

ヴェロニカ・ゲリンがこの麻薬問題に取り組む以前の仕事に納得できていなかったように、今の日本の記者と伝説的なジャーナリストを分け隔てるものは、彼らがとり組む問題の大きさとその本質的な部分にどこまで迫ることができたか、というところにあるのではないだろうか。記者クラブでの発表される記事を垂れ流したり、日々のルーチン的な業務に追われる記者はもちろん、「ほりえもんvsフジテレビ」騒動に見られたように、その事象の些細な部分を追いかけることに苦慮し、その問題の本質的な部分には全く触れない。あるいはそのことが社会にとってどれだけ意味のあることなのかを省みることなく、視聴率や発行部数、話題性、競合とのつばぜり合いに終始するようでは、そこにはジャーナリストへの信頼など生まれない。

ヴェロニカ・ゲリンを支えたものが単純な正義感だけとは思わないが、彼女がジャーナリストとして「社会的正義」を追求していたことは間違いがない。「麻薬犯罪の撲滅」という大義と、その核心へと迫る取材によって作り出した流れはは、やがて彼女の死をもって大きな大河となって、アイルランドの麻薬犯罪撲滅への様々な社会制度改革へと結びつく。まさにジャーナリストとしては本望だろう。

しかし彼女はただの正義感の塊ではない。妻として、母として、サッカー好きな1人の女性として、今の生活を大切にしたいと思っている。あるいは脅しに怯える弱さも持った人間でもある。この映画はヴェロニカ・ゲリンを完全無欠の英雄ではなく、ジャーナリストであり同時に普通の女性として描いている。また彼女の死後、アイルランドに行われた制度改革を引き合いに出すために、麻薬犯罪に関わる者を警察が検挙しても、わずか600ポンドの所持金を押収するにとどまる現状などを描いてはいるものの、何故、ダブリンがこのようになったのか、あるいは麻薬犯罪を成立させている利権構造といった深部は描かれていない。ヴェロニカ・ゲリンの物語ではあるが、社会派ドラマとしてはものたりないものとなっている。

しかし役者陣はリアリティの高いいい演技をしているし、またバックで使われているアイルランド音楽がいい味を出している。「インサイダー」などに比べると深みはないかもしれないが、誰もが楽しめる作品だ。


【評価】
総合:★★★☆☆
役者:★★★★★
日本にもジャーナリストを!:★★★★★

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1 コメント

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ヴェロニカ・ゲリン (ETCマンツーマン英会話)
2013-11-11 20:08:11
『ヴェロニカ・ゲリン』を調べていてこちらに辿りつきました。

>その事象の些細な部分を追いかけることに苦慮し、その問題の本質的な部分には全く触れない。あるいはそのことが社会にとってどれだけ意味のあることなのかを省みることなく、視聴率や発行部数、話題性、競合とのつばぜり合いに終始するようでは、そこにはジャーナリストへの信頼など生まれない。

同感です。映画を観ながら日本の状況を省みるシーンが何度もありました。

>「麻薬犯罪の撲滅」という大義と、その核心へと迫る取材によって作り出した流れはは、やがて彼女の死をもって大きな大河となって、アイルランドの麻薬犯罪撲滅への様々な社会制度改革へと結びつく。

映画では、懲役28年の刑を言い渡されたジョン・ギリガンですが、実際は17年に減刑されて2013年の10月15日に釈放されたそうです。

複雑な思いです。ヴェロニカの遺族に思いを馳せています。
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