Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

Sirius: AIDA (Fri, Oct 2, 2009)

2009-10-02 | メト on Sirius
いよいよ『アイーダ』初日です。
今年のメトの『アイーダ』Aキャストは、ボータ、ウルマナ、ザジック、ガッティという、
ミラノスカラ座日本公演組が4人(前二人は『アイーダ』、後ろ二人は『ドン・カルロ』に出演・指揮)も!!

ザジックはもう何度も言うように、かつての勢いはないですが、
しかし、だからこそ、彼女のシグネチャー・ロール(アムネリス、エボリ、アズチェーナ、ウルリカなど、
ヴェルディ・メゾの役)は、歌ってくれる間に、本当、全部観ておきたいくらいです。
というわけで、メトにかけつけたい気持ちはやまやまなんですが、
生鑑賞は今のところ10/24(ライブ・イン・HDの収録の日でもあります)までおあずけ。
こういう時に頼りになるのはシリウスの放送!というわけで、今日はシリウスでの鑑賞、行きます。
もし、今日の公演がすごかったら、24日まで待てずに、間にある公演にも行ってしまうかもしれません。

ザジックを除いたキャストについても、私のこれまでの鑑賞歴からして、
ものすごい歌を披露することはなくても、手堅い歌を歌うメンバーなので、
あまり心配はしていないのですが、はっきり言って一番心配な人、それは指揮者です。

そう、ダニエーレ・ガッティです!!!
はっきり言うと、私はこの人が嫌いなんだと思います。
なんか、スカラ座のHD(『ドン・カルロ』)を観た時から、この人が振りまくネガティブなエネルギー、
鬱陶しい感じが本当に嫌です。
あなたと友達になるわけでもないんだから、そんなことどうでもいいのでは?
という方がいらっしゃるかもしれませんが、それは違います!
オペラは関わる人間全員で作り上げていくもの。
ネガティブな空気を放出する人が混じっているのは良くないのです。



それだけでも十分に嫌いな理由になりえるんですが、あたかもそれだけでは足りないかのように、
私は彼のセンスが嫌です。

スカラの『ドン・カルロ』の時は、それが主にテンポという側面に集中していましたが、
今日、彼の指揮する『アイーダ』を聴いて、テンポだけじゃないことを思い知り、眩暈がしました。

テンポに関しては、もう案の定、というか、スカラの『ドン・カルロ』の時と全く同じ。
歌手の生理を無視した、誇張したテンポの遅さ、早さ、とギアの切り替わり。

もうそれは一幕一場から全開。あまりの音楽の遅さに自分の位置を失いかけた
ランフィス役を歌うスカンディウッツィが思わず歌の途中で立ち止まって、
”今、オケはどこを演奏しているの?”と問いかけそうな雰囲気になっているのが、
ラジオですらわかるんですから、これはひどすぎます。

かと思えば、アムネリスとアイーダが一騎打ちになる場面(同じく第一場)では、
異様なハイテンポで煽りたて、ザジックが歌いにくそうにしていることといったら!

そのくせ、第二場の神殿の場面では、これまた音楽が止まってしまうかと思うくらい、
超スローテンポで、思わず弦が待ちきれずに飛び出してしまう場面まで。
もちろん、巫女役を歌うチェックがこれまた苦労していることは言うまでもありません。
というか、彼女は何度もこの役を歌っていますが、こんなにつらそうに歌っているのは、
今まで一度も聴いたことがありません。
また、男性合唱もランフィスと同じ状況に陥ったと思われ、パート毎で歌っている個所が違う、という有様でした。

聞くところでは、リハーサルでザジックとガッティが険悪な雰囲気になったとか、ならないとか。
まあ、あのスカラ座のHDを観れば、彼女がガッティの指揮では歌いにくそうにしているのは明白で、
その頃、つまり、去年の12月あたりから、10ヶ月越し
(それも、地理的には、イタリアから日本を経由してアメリカまで!)のもやもやがここで爆発したのかもしれません。
声のコンディションが良くなかったため、今日はセーブして歌いたい、
と言っているザジックを、ガッティが”Sing! Sing!"と言って
無理矢理に歌わせようとしたのが直接の引き金だったようですが、
彼女みたいに、自分の力やコンディションをよくわかっている歌手に対して、それは余計なお世話ってもんです。

大きな問題は、彼が音を早めれば緊張度が高まってドラマティックになり、
ゆったりとすれば威厳が出る、というような、至極単純な公式でテンポを設定しているように思えることで、
ゆっくりなのだけれどそこからにじみでるような緊張を感じるとか、
逆に早いんだけど堂々としている、というような
多面的で立体的で複雑な音というのをまるっきり感じることが出来ません。

その上テンポの切り替えが本当に独りよがりで、
どこで早くなるか、遅くなるかは、ガッティのみぞ知る。
ボータ、ウルマナ、ザジックといったベテランが一様に合わせて歌うのに苦労しているんですから、
その一人よがりっぷりはかなりのものです。
歌手は楽器よりも、よりトランジションに時間がかかるので
(歌手はある程度先を読みながらブレスを調節しているわけですから。
極端な例ですが、ゆったりと大らかに歌うつもりで思い切りブレスをしている間に
突然テンポが切り替わって猛烈に速まったりしたらどういうことになるか位は我々にも想像がつくことです。)
そんなに急にテンポを変えられても歌手が同時に切り替えるのは難しいということが、
本当にこの人は全くわかっていないか、わかっていてもどうでもいいと思っているのでしょう。

他にも、彼の表面的、いえ、はっきり言えば、底の浅い味付けは随所に感じられ、
一部の弦のセクションを強調したり、といったわざとらしい小技がしょっちゅうで、
実際に演奏している側にとってはそれなりに楽しかったり、
また、何度もこのオペラを聴いてあきているヘッズの中には、こういう味付けが新鮮で良い、
と言う人もいるのかもしれませんが、私は『アイーダ』の公演に、
この楽器がこんな旋律を演奏していた、とか、
あるセクションを強調するとこんな面白いバランスになった、とか、
そんな発見をするために行くのではないので、
それらが、全体としてドラマに貢献してなければ何の意味もないと思っています。

実際、彼の指揮で『アイーダ』の演奏を聴いていると、
このオペラから本来感じるはずの、お腹の底からわーっとあふれ出てくるような、
激しい感情が一切湧き出てこないのです。

ただし、彼にフェアであるために言うと、指揮だけではなくて、オケ自体の方も最悪でした。
というか、今日は金管にサブのメンバー、それもあまり上手じゃない人が多く加わっているんでしょうか?
凱旋の場のシーンでは、ABTオケが突然乱入して来たのか?とびっくりするほど、
金管が裏返る、音を外す、で、ずっこけさせられる個所が頻発でした。
ガッティが頭から蒸気を吹いていたであろうことは想像に難くありません。でも、因果応報です。
歌手たちを苦しめる人間がいれば(ガッティのことです)、指揮者を苦しめる人間がいたって不思議じゃないでしょう。

ただ、ABTオケ乱入!と思わされる個所を除き、ガッティの指揮だけの話に限定すると、
二幕二場(凱旋の場)のリードの仕方はまずまずです。
ここだけは、比較的、きちんと音楽が流れている感じがしました。

また、四幕一場(アムネリスの最大の見せ場である、裁判の場)の前半、ここもいいです。
でも、やっぱり、後半の僧達の合唱やラストでわざとらしくテンポを落としたりしてしまうんです。
不治の病ってやつです。

歌手陣については、ザジック以外は、残念ながら全体的に小粒です。
この演目に関しては、私がオペラを鑑賞し始めてからだけでも(なので、30年、40年といった長い時間ではない。)、
どんどん歌唱のスケールが小さくなっているような気がします。
といいますか、今シーズンすでに走っている『トスカ』や、この『アイーダ』のような、
パワーホース的作品で、観客を本当の意味で満足させられる歌手が近年本当に手薄になっているのは残念なことです。
実際、今回スカラ座の日本公演とメトの公演で歌手だけで3人もメンバーが重なっていること自体、
かろうじてこれらの役を歌える、というレベルですら、そうは数がいないということを物語っています。

ウルマナは、高音が最後まで神経が通らず、途中でぽとーんと投げ出してしまう感じに聴こえるのが残念。
”ああ、わが祖国 O patria mia” は音程の取り方が甘く、高音の問題もあいまって、
全く思わしくない出来でした。
大抵の指揮者は歌い終わった後に指揮をやめてソプラノに拍手を味わわせてあげるんですが、
ガッティはそのままどんどん振り続けます。
おそらくは音楽的緊張感を損なわないように、とのことだったんでしょうが、
これでは下手なアリアに拍手はいらん!と言っているかのように見えてしまいます。

一方のザジックは、四幕一場、ガッティと険悪になったことなど感じさせないほど、
あの彼女がもう少しで息切れして音が続かなくなるかと思うほどのゆっくりな演奏にも、
果敢についてゆく、、、
やっぱり彼女はガッツのあるプロフェッショナルな人です。
これまでなら、最後の音をもうちょっと長くひっぱれていたんですが、
それはたくさんを求めすぎというものでしょう。
彼女にしてはこれでも慎重に歌っている方なんですが、
エキサイティングな歌唱で、歌唱で観客もオケの音が鳴り終わる前から大喝采でした。

ボータは2007-8年シーズンの『オテロ』以来、久々に聴くのですが、
なんだかこの短い間に声のポジションがすごく下がったように思うのですが、
ラジオで聴いているゆえの錯覚でしょうか?それとも気のせいでしょうか?
以前はもっと澄んだ美しい声だった記憶があるのですが、
随分今日は野太い声になったように感じました。

では、この日の公演の音源から、その四幕一場の抜粋をご紹介。

私を愛してくれたら命を助けてあげる、という最大の切り札でもってしても、
ラダメスにばっさり振られてしまう場面。切ないなあ、アムネリス、、。
最後、ここで拍手が出るのはちょっと珍しいので
(おのぼりさんのフライング拍手に本当に感激したお客さんがのってしまった感じ?)残してみました。




続いて裁判の場面からの抜粋。頭ののっぺりした合唱の部分はこの際省略です。
終わりにも、のったらのったらと意味ありげに振る(でもそんなに深い意味はないに違いない)ガッティ、
またスカンディウィッツィのランフィスも??なんですが、
ザジックの歌はあいかわらずの迫力です。
HDの日にもこんな感じで歌ってくれると嬉しいです。




さて、『アイーダ』のフリゼルのプロダクションは、私の記憶がある限り、
ずっと同じ振付を凱旋の場で採用して来たため、メトの観客にもすっかり飽きられている感がありましたが
なんと、今年は、ボリショイ・バレエの出身で、
現在ABTでアーティスト・イン・レジデンスの職にあるアレクセイ・ラトマンスキーによる
新しい振付が見れるそうで、これは実際にオペラハウスで観るのがとっても楽しみです。
ABTとのこういうコラボは大歓迎!ただし、オケの方は無関係でお願いします。


Violeta Urmana (Aida)
Dolora Zajick (Amneris)
Johan Botha (Radames)
Carlo Guelfi (Amonasro)
Roberto Scandiuzzi (Ramfis)
Stefan Kocan (The King)
Jennifer Check (A Priestess)
Conductor: Daniele Gatti
Production: Sonja Frisell
Set design: Gianni Quaranta
Costume design: Dada Saligeri
Lighting design: Gil Wechsler
Choreography: Alexei Ratmansky
SB

*** ヴェルディ アイーダ Verdi Aida ***