Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

THE SONG CONTINUES DUO RECITAL (Wed, Jan 23, 2008)

2008-01-23 | 演奏会・リサイタル
今シーズン『マクベス』のマクダフ役を歌ったピッタスへの、私の盛り上がりぶりは、
すでにこのブログでご覧の通りですが、
その彼の歌をたった5ドルで聴けるという、犯罪のような企画を発見しました。
直接にカーネギー・ホールのウェブサイトでチケットをオーダーしたので、
"The Song Continues 2008 Duo Recital"というタイトルも深く考えず、
ただ、ただ、”5ドルぅ~?”という、ショック・プライスばかりに注意が向かっていました。すみません。

プログラムがオペラのアリアでないのは残念ですが、5時半スタートなので、
今日は会社の有給休暇を消化し、指定席なしの早い者勝ちで着席なので、
早めにヴァイル・リサイタル・ホールに向かう。
このホール、カーネギー・ホールの3階をリサイタル用のホールにあつらえたもので、
大変小規模ながら、高い天井から豪華なシャンデリアが下がり、
バルコニー席もあるし、床なんて非常に綺麗にメンテナンスされていて、
間違いなくうちのアパートの床よりも清潔そう。
こんな床にはこころおきなくバッグを直置きできる。気持ちいい。
私が現われた20分前には、まだお客さんの姿も少なく、余裕で好みの席に着席。

開演時間になる頃には、客席は満席。
一体5時半という時間に集まれるこの人たちって、一体何者?と、自分のことを棚にあげて思う。
しかし、聴こえ漏れてくる会話を聞いて、どうやらオペラに関わりのある方が多数いらっしゃっているようで、納得しました。
だから、この時間でも来れるのですね。

さて、いざ開演!と同時におもむろに客席の一席から立ち上がって、
リサイタルの説明を始めたおばさま。

どこかで見たことがあるな、と思ったら、マリリン・ホーンでした。
(60~70年代を中心に大活躍したほとんど男性のような深い声を持つ、歴史に残る名メゾ。
ジョーン・サザーランドと組んだ『ノルマ』などで、メトでも一世を風靡した。)



家に帰って調べてみたら、このThe Song Continuesという企画は、
マリリン・ホーン・ファンデーションが主催で例年1月に行われているリサイタルだそうで、
若手の歌手4名を、二名ずつ二回にわけて紹介するという方法で、
本来はどちらかというと、まだこれから世に出て行く歌手たちをサポートし、
歌う場を与える、というのが趣旨のため、それで5ドルという価格設定になっているようです。
また、業界の人が多かったのも、このファンデーションのコネクションのせいか。

そんな背景を知ると、今年のリサイタルは、
ソプラノのアマンダ・マイエスキこそ、名前を聞いたことがないですが、
ピッタスは、すでにメトの公演で注目されるような歌唱を披露していること、
また、このリサイタルの後半で彼が歌う予定の作品は、ワールド・プレミアもので、
彼のために書かれた作品、ということでややユニークではあります。

まず、マイエスキが歌うプーランクの作品でスタート。



「歌われた歌」から、”田園の歌”
「ルイ・アラゴンの二つの詩」から、”C”
「偽りの婚約」から”ヴァイオリン”と”花”の四曲。

芯のあるしっかりした声ですが、少しほっそりとした体型のせいか、
体から絞り出すような雰囲気があるのが、聴いていて辛い。
声量は十分あるのだから、そこまで振り絞らなくてもいいのでは、と思う。
曲を紹介したり、笑いながら礼をしているところなんかはとてもチャーミングなのに、
(写真よりも実物の方が素敵です。)
歌が始まると、突然青筋がたった悲壮な顔になってしまうのは、
歌というものが、何かを表現するための媒体であることを思うと、やや厳しいものがあるかも知れないです。
まじめな方なのか、歌の技巧面にエネルギーのベクトルが全て向かってしまっているようですが、
音程なんかは非常にしっかりしているので、
少し肩の力を抜いて、テクニックよりも、何を歌でもって表現したいか、
ということにもう少し注意が向かってもいいのかもしれません。
声自体は、オペラならR.シュトラウスものなんかに合いそうな、
少し硬質の声のように聴きうけました。

そんな彼女に比べると、やっぱり数段余裕があるピッタスの歌。
もう登場して伴奏のピアノの方がスタンバった瞬間から、顔の表情が歌の内容を物語っています。
レスピーギの歌曲で、
「六つの叙情詩 第I集」から”雨”、
「五つの古風な歌」から”雪”と”霧”を。
一曲目はわりとマイルドな歌い口で、あのメトの大きな劇場であんなにりんと聴こえる声が、
こんな小さな会場で、このくらいのサイズに聴こえるのか、と驚いていたら、
やはり、ややセーブしていたようで、
二曲目、三曲目とどんどん本領発揮。
しかも、声量が大きくなっても、決してうるさく聴こえないのが彼の歌のよいところ。
非常に端正な歌いぶりなのに、魂がこもっている。
その、くるくると変わる歌の表情に、つい、歌に込められた物語を読み取ろうと、
観客も身をのりだしてしまう。
しかし、このプライベートな感じはなんという贅沢か。
まるで、誰かのお家のホーム・パーティーに呼ばれて、みんなでピアノと彼を囲んでいるような、、
もしくは、ピッタスの歌の練習中にこっそり自宅に押しかけたような、、
決して大げさでなく、それくらい小さなホールなのに、聴こえてくる歌は超一級なのです。
しあわせ。
今日のお客さんは彼目当ての人が多かったようで、”霧”の後は割れんばかりの拍手と口笛でした。

再びマイエスキで、ヨーゼフ・マルクスの作品から、
”Bliss in the Woods (邦題がわかりません)"、”幸せな夜”、
”And yesterday He Brought Me Roses(やはり邦題不明)"、
”夜の祈り”、”夜想曲”の五曲。
マルクスの歌曲は初めて聴いたのですが、なかなか美しい曲でした。
特に、”夜の祈り”は、マイエスキの今日の歌の中では、最も上手く感情が織り込まれていたせいもあってか、
この曲のしっとりとした感触とよさが出ていたと思います。

さて、今日、注目の、しかし、ワールド・プレミアものがあまり好きではない私にはげんなりの、
ウィリアム・ブレイクの四つの詩、
”夜の歌(詩集「無垢の歌」より)”、”小さなヴァガボンド(詩集「経験の歌」より)”
”聖なる木曜日(詩集「無垢の歌」より)、”O for a Voice Like Thunder "に、スコット・ウィーラーが曲をつけた新作。
もともとセットの四詩かと思ったのですが、ばらばらの詩集から集めたもののようです。
音楽は、正直、うーん、という感じですが、ドラマティックではあります。
最後の "O for a Voice Like Thunder ”の詩には、どことなく、
中東情勢と、某国の大統領を思わせる一節があり、
マリリン・ホーン・ファンデーションが作曲依頼したというこの曲、
私は、ABTの『ファンシー・フリー』にも通じる(ただし、もっとこちらの方が濃厚ですが)
反戦歌であるという風に読みました。

アンコールは、マイエスキが、リストの”わが子よ、私がもし王だったら”。
ピッタスは、おそらく百万回聴いても聞き取り不能な作曲者名で、
曲調と言葉の感じから、おそらくイスラエルの曲ではないかと思うのですが、
オペラ警察の宿題として調べておきます。

POULENC "Air champêtre" from Airs chantes
POULENC "C" from 2 Poemes de Louis Aragon
POULENC "Violon" from Fiançailles pour rire, No. 5
POULENC "Fleurs" from Fiançailles pour rire, No. 6

RESPIGHI "Pioggia"
RESPIGHI "Nevicata"
RESPIGHI "Nebbie"

MARX "Waldseligkeit"
MARX "Selige Nacht"
MARX "Und gestern hat er mir Rosen gebracht"
MARX "Nachtgebet"
MARX "Nocturne"

SCOTT WHEELER Heaven and Earth
(Four Poems of William Blake)
·· Night
·· The Little Vagabond
·· Holy Thursday
·· O for a Voice Like Thunder

Encore
Majeski: LIZST Enfant, si j'etais roi, S283/R571
Pittas: unknown


Amanda Majeski, Soprano
Danielle Orlando, Piano

Dimitri Pittas, Tenor
Carrie-Ann Matheson, Piano

Carnegie Hall/Weill Recital Hall
GA Odd

***The Song Continues...Duo Recital Amanda Majeski Dimitri Pittas
ソング・コンティニューズ デュオ・リサイタル アマンダ・マイエスキ ディミトリ・ピッタス***