Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

Sirius: LA BOHEME (Mar 19, 1977/Sat Jan 19, 2008)

2008-01-19 | メト on Sirius
一月の中盤の一週間は、例年、メトの公演がお休みの週。
よって、1/19の土曜のマチネ公演はありませんでした。

全国ラジオ放送とシリウスの、土曜マチネのライブ放送番組では、
このマチネがない週に、HISTORIC BROADCASTと銘打って、
過去のメトからのライブ放送のアルカイブの中から、名演を一つ選んで放送してくれます。
去年は、マリア・カラスが出演した1956年12月8日の『ランメルモールのルチア』が放送されましたが、
今年は、昨夏に亡くなったパヴァロッティを偲んで、
1977年3月19日に放送された、『ラ・ボエーム』が選ばれました。
指揮は、若かりし頃のレヴァイン。
この音源の海賊盤CDが存在するかどうかはわかりませんが、
少なくともマーガレット嬢がいうには、今回正規には初出の音源だそうです。

まず、1977年の録音にしては、音がもこもこしていて、迫力がないのにちょっとがっかり。
特に最近のリアル・タイムでの『マクベス』の放送なんかと比べてしまうと、、。
まあ、そんなの比べるな、という話ですが。
正規がこの音だとしたらば、海賊盤が存在していたとしても、その音質はおして知るべし。。

そんな録音なので、とても、あの、パヴァロッティの声のすごさが
うまく捕らえられていないのが非常に残念であります。
亡くなったすぐ後に、アメリカでテレビ放送された、
『愛の妙薬』のライブからの映像を見たときにも感じたのですが、
あの太陽の輝きのような響きの60%くらいしか伝わっていない。
むしろ、こういった録画、録音では、彼の歌唱のキズの方が目立ってしまい、
この『ラ・ボエーム』の、”冷たい手を”でも、少しハイCが不安定になったように聴こえたのですが
(音程ではなく響きの方で。)、
その後の聴衆の熱狂的な反応からすると、オペラハウスでは、もしかすると、
それほど感じられなかったのかな、とも思え、考えてみるに、
私もそういえば、メトで”愛の妙薬”のネモリーノ役を歌うパヴァロッティを実演で聴いたとき、
その時は彼のキャリアの本当に終わりの方だったこともあって、
歌唱面での細かいキズはそこここにあったのですが、
彼の声にはやっぱり誰にも真似のできないものがあって、惹きこまれたのを昨日のように思い出します。
(しかし、そう考えると、細かいところでもキズを感じさせないような歌をまだ歌えるドミンゴは本当にすごい、と思ってしまいます。)
とにかく、パヴァロッティの歌というのは、何よりもあの声の響きに誰の追随も許さない美点があるのであって、
それを録音、録画の類は真の意味では捉えきれていないことを思うと、
彼の歌をこういった録音で云々議論するのは不毛に思えてきました。
というか、不毛なので、やめます。

で、そんなパヴァロッティにフェアでないこの録音なのですが、
なぜか、レナータ・スコットにはとんでもなくフェアというか、
いや、むしろ、それ以上といってもいい位。
彼女の正規の録音、海賊盤をあわせても、トップの出来を誇る歌唱に聴こえる。
彼女の声は、どの役を聴いてもどこかヒステリックに聴こえることが多く、
純粋な声の好みで言うと、私はあまり好きではなく、
そんなヒステリックさが、役に偶然マッチする場合(例えば蝶々さん)を除いては、
あまり好んでCDやらを聴いたりすることがないのですが、
この『ラ・ボエーム』の公演では、え?!こんなに可憐に歌えるの?というくらいに、
どの箇所も声の質が伸びやかで綺麗。
私は、この録音に関しては、パヴァロッティが歌う場面ではなく、
彼女が歌う場面で、仕事の手をやめて聴き込んでしまうことの方が断然多かったです。

さらには、ヴィクセル(マルチェロ役)とプリシュカ(コリーネ役)にもフェア。
二人ががっちりと脇を固めていたのが印象的。

叶わぬ願いと知りながら、もう一度、オペラハウスの中でパヴァロッティの声を聴きたかった、
と思わされたヒストリカル録音の放送でした。
録音なんかに収まりきらない大テノールを私たちは失いました。

(写真はその1977年の『ラ・ボエーム』の公演から、パヴァロッティとスコット)

original broadcast date: March 19, 1977

Renata Scotto (Mimi)
Luciano Pavarotti (Rodolfo)
Maralin Niska (Musetta)
Ingvar Wixell (Marcello)
Paul Plishka (Colline)
Allan Monk (Schaunard)
Italo Tajo (Benoit)
Andrea Velis (Alcindoro)
Conductor: James Levine
Production: Fabrizio Melano

***プッチーニ ラ・ボエーム Puccini La Boheme***