Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

METROPOLITAN OPERA GALA HONORING SIR RUDOLF BING

2007-11-27 | 家で聴くオペラ
久々の家聴くです。

日にちが前後しますが、インフルエンザの怪しい足音が忍び寄る頃
久しぶりにCDでも買おうかと立ち寄ったリンカーン・センター近くのバーンズ&ノーブル。
スターバックスの本屋さんバージョンともいえる書籍の巨大チェーンストアですが、
(映画 You've Got Mailで、トム・ハンクスが経営する本屋はこのバーンズ&ノーブルがモデルではないかと思われます。)
このリンカーン・センター近くの店舗、
向かいにあったタワー・レコードが最近ぶっつぶれたのを機に、
大きくCD・DVD部門にも手をひろげ、うまく商売をしているようです。
地下のCD・DVD売り場はさらに売り場が拡張され、私のような今でもどちらかというと
CDやDVDはネットではなく店舗買いが基本の人間としては嬉しい限り。
つぶれないでね、バーンズ&ノーブル。
今やあなたとメトのギフト・ショップだけが頼り。

私、オペラに関してはDVDも観るのは観るのですが、予習に使うのはCDが多いのです。
それというのは、DVDを観てしまうとどうしてもそのプロダクションのイメージが焼付いてしまうから。
CDで音だけ聴いて、舞台はこんな感じなのかな、あんな感じなのかな、と想像するのが好きなのです。
それからCDだけ聴いたほうが、歌と演奏に集中できる、というのもあります。

今シーズンのメトの『ヘンゼルとグレーテル』はやっぱり観ておきたい、という結論に達したこともあり、
その『ヘンゼルとグレーテル』のCDを見つけることが本日の課題 1。

それから、先日までNYにいたyol嬢が、レヴァイン・ガラのDVDをNY滞在中に購入したのですが、
それも良かったよ!というお墨つきで、
こちらはずっと以前にNHKの放送で観た事があったのですが、
もうはるか記憶の彼方に葬りさられつつあるので、その記憶を掘り起こすべく、
そのDVDを購入することが本日の課題 2。

DVDコーナーで課題2は軽くクリアし、課題1を果たすべくCDの棚へ。
一枚だけ残っていたカラヤン指揮、シュワルツコップらが歌う盤をキープし、
当然のことながらそれだけに終わらず、さらにあれこれと違う演目を物色していたところ、
店のおじさんが、
”いやー、君!ボクがこの階で一番好きな棚にいるね!”と、
オペラヘッドの香りをぷんぷんさせながら近寄って来た。
”何選んだの?”
普通なら、客が何買おうが勝手でしょうが!とおもしろがるところですが、
そこはオペラヘッドの考えが手に取るようにわかる私なので、素直に握っていた商品を見せる。
経験豊かなオペラヘッドほど役立つ情報をくれる人はいないのです。
カラヤンのヘンゼルを見て、おじさん、満面の笑み。
”これはいいよ。ボクが特別にオーダー入れといたのが今日、さっき、入って来たの。もう売れちゃうんだね。”
よっしゃ!と心の中でガッツポーズを決め、”そ。時間かかんなかったでしょ?”
と言うと、
”ホント、それはいい盤だよ。”

他にも、デッセイの『夢遊病の女』もおすすめだよ、といいながら、
私が握っていたレヴァイン・ガラのDVDにも抜け目なく目を向けたおじさん。
続けていろいろなCDを観ていたら、おじさんが、手招きをする。
そばに行くと、”レヴァイン・ガラもいいけどね、これなんてどうだ?”

何なに?
ルドルフ・ビングの偉業に敬意を表すガラ?
こんなCD、見たことなかったな、今まで。
ちなみに、ルドルフ・ビングとは、歴代のメトの総支配人のなかで、
最も有名といってもいいであろうお方です。いい意味でも、悪い意味でも。
ビングが支配人を務めたころといえば、もうそれは綺羅星のようなオペラ界のスターがわんさかいたころ。
そんなスターたちに負けない強烈なキャラクターと支配権を持っていたのが、このビング氏、
マリア・カラスですら、彼をひれ伏させることは不可能だったのです。
そのビング氏が総支配人を退くにあたって催されたのがこの1972年4月22日のガラだった、というわけです。

店員のおじさん、にわかにジャケットを裏返し、これでどうだ!といわんばかりの表情。

何なに?

アローヨの"穏やかな夜 Tacea la notte placida” (ヴェルディの『トロヴァトーレ』から)
いいねえ、好きなんですよ、トロヴァトーレ。それから?
んっ!!!???

カヴァリエとドミンゴでプッチーニの『マノン・レスコー』から、
マノンとデグリューの再会の二重唱、”あなたね、愛しい人 Tu, tu, amore, Tu?”
カバリエとドミンゴによる二重唱のライブ?すごく聴きたいんですけど。
次は何よ!

R.シュトラウスの『サロメ』から”ああ、お前は自分の口に接吻をさせようとはしなかった、ヨハナーン
Ah! Du wolltest mich nicht deinen Mund kussen lassen, Jochanaan”
by ビルギット・ニルソン??!!!
まじですか!!!

レオンタイン・プライス、モーツァルト『フィガロの結婚』から”楽しい思い出はどこへ Dove sono”。
へー。ヴェルディ・ソプラノの役のイメージが強いので、モーツァルトをどう歌うか興味あります。

レズニク、J.シュトラウス、『こうもり』からオルロフスキー公爵の”蓼食う虫も好き好き Chacun a son gout"の替え歌で、
"Chacun a Bing's gout"。

リチャード・タッカーとロバート・メリルで、
ヴェルディ『運命の力』から”アルヴァーロ、隠れても無駄だ Invano Alvaro"。
強力なコンビですね。ガラといえば、先日のタッカー・ガラはこのリチャード・タッカーがいなかったら、
存在しないわけだ。感無量。
で、最後のトラックは?

ジリス・ガラ(知らん)とフランコ・コレルリ(私のアイドル!)で、ヴェルディ『オテロ』から、
二重唱 "もう夜も更けた Gia nella notte densa”。

これ、買わない人いないでしょ!おじさん、もらったわ!!!
と、おじさんの手からひったくるようにしてCDを奪い取る。
おじさん、駄目押し。
”これね、もう人気なのか何なのか、オーダーしてもなかなか入ってこないんだよね。
今日もね、一枚だけ入ってきたの。”
それを私に?
おじさん、素敵。オペラヘッドにはオペラヘッドをかぎわける能力が備わってる。間違いない。

しかし、一日で聴くには濃すぎるとも思えるすごいメンツに、つい日付をもう一度確かめてしまいましたが、
やっぱり、4月22日、たった一日。
すごいわ、ビング氏。

早速家に帰って正座にて拝聴。
まずですね、驚くのがオケの音。全然今のメトのオケの音と違う。
これには考えさせられました。
まず、このガラ、指揮がいろんな指揮者が各曲持ち回りで、
アードラー、ボニング、モリナリ=プラデルリ、レヴァイン、ベームという面子。
(この頃のレヴァインなんて、まだ駆け出しの頃なんじゃ。。)

で、音が野太いんです。しかも、根性が座ってる。
失敗してもいいから堂々と演奏してやる!というような気概が感じられるのです。
細かいところは大雑把かも知れないけど、最近のオケからはあまり聴かれないように感じる、
歌手と一体となった大きなうねりというものが、この頃の(いやもしかしたらこの日だけだったのかもしれませんが)
オケにはある。
特に、ビルギット・ニルソンとのサロメ、これは必聴。
すごいです。ニルソンもオケも。どちらも一歩も引いていない。
(ちなみにサロメはベームの指揮。)

こういうのを聴くと、この他流試合というか、色んな名指揮者と組んで演奏する機会って
とても大事なんではないかと思います。
レヴァインが音楽監督に就任してからのメトは、目玉の演目はほとんど彼が指揮していて、
他の有名指揮者が来て振る回数はあっても非常に少ない。
彼がもたらした功績もあるとは思いますが、しかし、そのために失ったことも結構あったのかな、と、
このCDを聴いて感じずにはいられませんでした。

もう、歌は、、、ご想像できる通り、お腹いっぱい。
お腹いっぱいだけど、このままずっと食べていたい、と思わせる。
アマゾンなんかのサイトで、演目はこれだけじゃないはずだ!他はどうした!と、
怒りの声があがってますが、
確かに、他の演目も録音が残っているなら、全部放出していただきたい。

最近聴いたタッカー・ガラでは”素晴らしかった!”と感動し、
オペラ界もだいぶいい人がたくさん出てきて盛り上がってきたかも!と思っていましたが、
こういうのを聴くと、いやいや、まだまだ!と思わされます。

曲が少なくとも、これで定価11ドルは買い。

***Metropolitan Opera Gala Honoring Sir Rudolf Bing***