Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

MACBETH (Sat, Nov 3, 2007)

2007-11-03 | メトロポリタン・オペラ
我がブログにもしばしばコメントを残してくれている、
私の東京時代からのお友達かつバレエ鑑賞のメンター、yol嬢が休暇と出張半々でNYにやってきました。
今年は彼女の指導のおかげによってバレエに激しく目覚めた私。
オペラファンとしてここでできることはたった一つ!というわけで、
お礼(?)にオペラ教の布教を激しくすすめたところ、彼女もオペラ本格デビューとあいなったのでした。
私が何年もかかって辿り着いたワーグナーも、『トリスタンとイゾルデ』で軽くクリアし、
ものすごいスピードでオペラヘッドの道を邁進している彼女なのです。

ということで、お互いに実り多かった2007年。

ところが、布教に効果がありすぎたか、凝り性な彼女の性分のせいか、
なんと、多忙なスケジュールのなか、今年の休暇の行き先に彼女が選んだのはNY。
それも、半分はメトでのオペラ鑑賞のため(残りはABT鑑賞。)というのだから気合入ってます。
布教完遂!!

しかも、そればかりか、なんと、同じ時期にたまたま出張が重なった彼女の同僚
(そしてyol嬢の会社に私が以前働いていたので、私の元同僚にあたる)
Y嬢にまでyol嬢は布教を行い、一緒にオペラを観にいく気にさせた上に、
さらにはこの二人が、日本出国の際、たまたま航空会社のチェックインカウンターにてばったり遭遇、
やはり同時期にNY出張が重なった別部署のS嬢にまで飛行機の中にて布教活動を行う始末。

その彼女の布教活動というのが、
このOpera!Opera!Opera!の直近の記事をプリントアウトしたものに、
どこぞの出版社から発行されている、漫画にてオペラのあらすじを説明した書物がテキストになっているそうで、
そもそもの出張の目的である仕事でも相当切羽詰まっているyol嬢とY嬢、
”今回は、飛行機の中でもプロジェクトの話をしないと追いつかないくらい。”
とのY嬢の事前の言葉にもかかわらず、
なんと機中の3人は、仕事の話そっちのけで当ブログのコピーと漫画を回し読み。
この光景は、NYのホテルでチェックインを待つ間、スターバックスの中でも続いたそうです。
マンハッタンのスタバでオペラについての本(しかも漫画。)とコピーをまわし読みする日本女性3人。
スタバがマンガ喫茶に変身!!
しかし、この3人のあまりの模範的な信者ぶりに、私も感激の言葉しかありません!!!

そんな勉強熱心な3人に神様も微笑んだか、
なぜだか、その漫画に、たった数本しか入っていないヴェルディの作品の一つがマクベスだったそうなのであります。
なぜだか、より上演頻度の多い『オテロ』を蹴落として『マクベス』。
この漫画本を作った編集者のこだわりを感じさせます。きっとその編集者もすでに入信を済ませた頑固なオペラヘッドであるに違いない。


と、そんなわけで飛行機とスタバの中で予習ばっちりの3人とオペラハウスで待ち合わせ。
みんな今日到着したばかりとは思えぬほど元気なうえ、いい意味で全然変ってないので、
久しぶりに会うにも関わらず、まるで昨日も一緒に仕事をしていたような錯覚に陥りました。

『マクベス』初日の10/22に、前編後編にかけて、
あらん限りの記憶力を振り絞って演出のことなどについては書き留めたので、
今日は主にその22日との比較を。

夫人を歌ったグレギーナは、初日に比べると随分声も安定感があったし、
音程も定まっていました。
ただし、アジリタの部分が重くなるのはあいかわらず。
あと、彼女はピアニッシモで長く音を延ばす、というのがあまり得意ではないみたいなので、
(夢遊の場では、音に芯がなかったために延ばしながら一瞬声が消えてしまった箇所もあったし、
ラストではのばしきれずにすぐに次の低い音へと移行してしまった。)
もちろんそれを克服していただくことに越したことはないのですが、
応急処置として、歌い方やフレージングの配置に工夫をするということも必要になっているのかな、と感じました。
おそらく、彼女もそのあたりは自覚があって(か、なるがままにまかせているとしたら、すごい度胸だと思うのですが。。)
初日とはかなり歌い方を変えている(または、変っている)箇所があり、
結果として、今日はそれがうまく働いていたように思います。
また、もともと調子も良かったようで、特に高音には22日に聴かれなかった、以前の彼女を思わせる力強い響きがあったのが嬉しかった。
なかでも、第二幕の”日の光が薄らいで La luce langue”は出色の出来だったと思います。
ただ、改めて思ったのは、彼女のマクベス夫人は、まだ比較的優しいマクベス夫人というのか、
ところどころにマクベスへの思いやりすら感じられる。
例えば、王就任の式でバンクォーの幻影を見て我を失うシーンで、
”王よ、皆さんの前でなんて恥ずかしいことを。”という言葉の歌いまわしなどを聴くと、
この夫人は、きちんとマクベスを愛してはいるんだな、と感じさせられる。
私は以前ご紹介したアバド指揮のCDでの、シャーリー・ヴァーレットの、
王にすらなんの愛情もありませんの!という
徹底した自己チュー女としての夫人が結構好きですが、
これは観客の好み次第といえるでしょう。

マクベス役のLucic。あらためてこの人は地味ながらいい声してます。
観客を包み込む声というのか、父性を感じさせる声、というのか。。
マクベスは残念ながら子供がいない役なので、それゆえに、
ぜひ次回はリゴレットみたいな役を聴いてみたい!
最後のアリア、”憐れみも、誉れも、愛も Pieta, rispetto, amore"の頭の部分などもそうでしたが、
この人は、自分の歌いだす番が来ると、すーっと、歌に入れる能力に長けているのがすばらしい。
しばらくその役の歌う箇所が休みだったりしたときにありがちな、ギアが入ったり切れたり、
というような不自然さが一切ないのです。

バンクォー役のRelyea。
今日の歌唱は、22日、それからラジオ放送で聴いたときのものも含め、最もよかったのでは?
刺客に殺害される寸前のアリア、”天から闇が落ちてきたかのように”では、
豊かな低音を生かした素晴らしい歌唱で、観客からおもわず、ため息のような
Bravo!がもれた以外は、誰もがその場面に引き込まれて拍手をするのも億劫なほど。
こういう拍手のなさは歌手冥利につきるというものです。
彼に関しては、少しまだ年齢の若さも関係があるのか、
少し低音に豊かさが欠けるように感じる日もあるのですが、今日は全くそういう印象を受けませんでした。
それから、血が縫いこめられている、と思ったシャツが、
なんと今日は普通に血糊のついたシャツになってました。

マクダフ役のテノール、Pittas。この人は初日に続いて、すごい安定感かつ輝きのある魅力的な声をしてます。
まだ30そこらの若手にもかかわらず、地に足のついた感じが非常に好ましい。
先日、シリウスのインタビュー時間に登場したときにも、
”今手をつけている役はどれも少なくとも8年くらいは続けて歌っていきたい”とか、
”リゴレットの公爵役はいつも自分の声を軽めに保つために戻っていける役としてコンスタントに歌うつもり。”
などと話しており、まわりについている方たちに恵まれているのか、
きちんと自分のキャリアについて長期的なビジョンを持っているように見受けられます。
今日も、伸びやかな声で、”ああ、父の手は Ah, la paterna mano”を歌い、観客の拍手をかっさらっていました。
初演(メトでのではなく、ヴェルディがこの作品を書き上げた直後の本当の世界初演時)で
マクダフを歌ったテノール歌手が非力であったために、
マルコム役のテノールが彼をサポートしながら歌う、という形でかかれたという
合唱とのからみのシーンも、
Pittasのようなテノールが初演に歌っていたならきっとそんな必要もなかったであろうに、と思わされます。
しかも、そのうえに今日もマルコム役を歌っているトーマスがしっかり歌ってくれているので、
おそらくこのシーン、ヴェルディが意図した以上の、見ごたえ・聴きごたえのあるシーンになったはず。
私の友人たちもこのシーンについては、公演後まで興奮が残っていたようです。

歌唱面では、ほとんどこれ以上書くことがないほど、
つまり初日もこの日もどちらも、グレギーナを除いてはほとんど全員いい意味でむらがなく、
逆説的に、いかに全員が常に安定した歌唱を聴かせる歌手か、ということの証でもあると思います。

今日は、魔女から二度目の予言をマクベスが受けるシーンで、
なんと、天井に据え付けられたセットが故障。
八体おりてくるはずの金のわっかにはまった国王がたった二体に。
全部揃うと、さすがに舞台にぎっしり、という感じで見ごたえがあるのですが、
歌詞のほうが、”四人目”と歌う段階になっても、二体がヨーヨーのように上がったり下がったりするだけ。
寒い。八体と二体では全然印象が違うのでした。

オケの方は、初日に比べると、ややマクベスの死の直前の金管の部分がもつれた感がなきにしもあらずですが、
総じて集中力に富んだ良い演奏。

1月に、また違うキャストで戻ってくる『マクベス』、今から楽しみ。

Željko Lucic (Macbeth)
Maria Guleghina (Lady Macbeth)
John Relyea (Banquo)
Dimitri Pittas (Macduff)
Russell Thomas (Malcolm)
James Courtney (A doctor)
Elizabeth Blancke-Biggs (Lady-in-waiting to Lady Macbeth)
Conductor: James Levine
Production: Adrian Noble
ORCH J Odd
ON

***ヴェルディ マクベス Verdi Macbeth***