Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

2007 RICHARD TUCKER GALA 後編 (Sun, Nov 4, 2007)

2007-11-04 | 演奏会・リサイタル
前編から続く>

 グレギーナによる、『運命の力』から”神よ、平和を与えたまえ”。
昨日の『マクベス』でも調子があがっているように感じましたが、
そのままその調子を引き継いで、最近の彼女にしてはなかなかよい出来ばえ。
最初の、”Pace~”、時にうがいをしているような声になることがある彼女ですが、
今日は綺麗な音をだしてくれてました。
その後も、声の重さもこの曲にマッチしていて大変好感触だったのですが、
終盤近くのピアニッシモの高音がきつかった。ここが聴かせどころのひとつなのにな。。
最後はフルボリュームできめてくれましたが、彼女にはピアニッシモでの高音がずっと課題になっているような気がします。

 ルネ・フレミングとディドナートのペアで、『コジ・ファン・トゥッテ』から、
二重唱”ああ、妹よ、ご覧”。
以前申し上げたとおり、私のモーツァルト好きな作品リストでどんじりあたりをウロウロしているコジ。
しかし、きっとこういうコンビで観ると、コジもランクアップするんだろうな、と思わされました。
この二人、見た目の雰囲気も姉妹にぴったりで、ルネ・フレミングは私は必ずしも好きな声ではないのだけど、
モーツァルトを歌う彼女は許容範囲。
ディドナートは相変わらず素晴らしく、何を歌わせても達者。
メトが今度コジを上演するときは、この二人なら見てみたい。

ブリン・ターフェルが歌う予定だった『ファルスタッフ』からの”名誉だと!この泥棒めが!”に代わり、
なんとドバーによる『リゴレット』から”悪魔め、鬼め”。
急なキャストの変更があいついだせいで、配布されたプログラムでは、彼が何を歌うのか記述がなく、
歌いはじめるまで想像もつかなかったのですが、オケから短い導入部分が聴こえた途端、
私は軽いめまいをおこしそうになりました。
テ・デウムであんなことになったのに、まだ懲りないのか、この人は。
”悪魔め、鬼め”なんて、あなた、本当に歌えるの!?
しかし!!なんと、これが思ったよりも意外とよい。
というか、汗まみれになって一生懸命歌っていて、のろまなアモナズロとは雲泥の差の力の入りよう。
声もしっかり出ているし、Dobber、歌えるんじゃないの。
こんなやる気のある彼をはじめて見た。
しかも、宮廷のまわりの人間に懇願するところなんて、なかなか泣かせる。
もちろん超一級品かと言われると答えに躊躇するのだけど、これだけ気合のこもった歌を披露してくれればまず満足。
最後に意地を見せたDobberなのでした。

ダムローによるレナード・バーンスタインの作品『キャンディード』から、”着飾って、きらびやかに”。
この作品、オペレッタに分類されているようですが、ミュージカルといってもおかしくない曲。
彼女の英語の操作能力はたいへん優れていて、アメリカ人が歌っていると言われても(彼女はドイツ人)、
そうですか、と納得するほど。
しかも、私が彼女を今ひとつ好きになれない理由である、鋭い声の響きが、
このクネゴンデという役の、
神経症一歩手前ではないかと思われる人物像に非常にマッチしていて、
間違うと耳障りな響きになる彼女の声質が逆に長所になっている。
しかも、くるくると変わる表情、歌声のコマンドが素晴らしく、
この歌はまさに彼女のためにあると言ってよいくらい。
他愛無い歌詞でありながら、技巧を試される箇所も多く、ひとつ間違うと手に余る、ということにもなりかねませんが、
この役のキャラクターの特殊性、必要な技術をすべてクリアしたうえに、
何よりも観客を笑わせる間のとり方の上手さ、演技の上手さ。
こんなに歌える人が、なぜ先の二重唱ではあんな不本意な出来だったのか理解に苦しみますが、
彼女はもしかするとスタンダードなオペラのレパートリーよりも、
こういった作品での方が輝くタイプなのかもしれません。
この歌では観客をとことん魅了してくれました。
(冒頭の写真は、このアリアを歌うダムロー。)

 ルネ・フレミングによる、『アドリアーナ・ルクヴルール』より”あわれな花”。
先のダムローの『キャンディード』からのアリアへの観客の熱狂ぶりに、
”誰がこんな後に歌えると思います?”と冗談を言ってから歌いはじめたフレミング。
不幸なことに、選曲もいまいちだったかも知れません。
せっかく『キャンディード』で楽しく盛り上がったというのに、この陰鬱なアリア。盛り下げないでほしい。
しかも、特に彼女の声を生かしきった選曲とも思えず、
一体どういう理由でこのアリアを選んだのか疑問符が頭の中に20個くらい並びました。

 いよいよトリの『アイーダ』凱旋の場からの抜粋。
グレギーナのアイーダ、ディンティーノのアムネリス、ジョヴァノヴィッチのラダメス、ドバーのアモナズロ、
そして、この場面のためだけに参加のエジプト王役のカブラフコスという面々。
ニューヨークコーラルソサエティの合唱は少し響きが柔らかすぎる。
もう少し活気のある合唱の方が、このシーンに関しては私の好み。
もともとメトの『アイーダ』に出演が予定されていたグレギーナ(結局キャンセルになってしまいましたが)、
最後の石牢のシーンとか、ピアニッシモの高音が課題である彼女にはちょっときつそうだと思うので、
全幕はどうかな、と思いますが、こういう凱旋の場のようなシーンでは彼女の持ち味が存分に発揮できるのでいい。
今日もオケの上を突き抜ける声で大健闘。
一方ディンティーノは明日の『アイーダ』に備えてか、この場面、100%で歌ってはいないように見えました。
この場面で一人一人の歌唱をどうのこうの論じるのは野暮なので、このへんでやめておきます。
とにかく血湧き肉踊る気分にさせてくれれば充分。存分にその気分を味わわせてくれました。
ただし、アンコールでもう一度頭から最後まで通したのはださい。
一回で終わっておいてほしかった。
出来も一回目のほうがずっとよかった。蛇足、とはまさにこのこと。

しかし、今日のガラは非常に盛りだくさん、大変満足な思いで帰途につきました。
来年も行きます。


RICHARD WAGNER
"Entrance of the Guests" from Tannhauser
Members of the Metropolitan Opera Orchestra
NEW YORK CHORAL SOCIETY
ASHER FISCH, Conductor

RICHARD WAGNER
"Morgenlich leuchtend" from Die Meistersinger von Nurnberg
BRANDON JOVANOVICH, Tenor
NEW YORK CHORAL SOCIETY

RUGGERO LEONCAVALLO
"Prologue" from Pagliacci
SIMON KEENLYSIDE, Baritone

RICHARD STRAUSS
"Presentation of the Rose" from Der Rosenkavalier
DIANA DAMRAU, Soprano
JOYCE DIDONATO, Mezzo-soprano

CHARLES GOUNOD
"A leve-toi soleil" from Romeo et Juliette
ERIC CUTLER, Tenor

GIACOMO PUCCINI
"Te Deum" from Tosca
Andrzej Dobber, Bass-baritone
NEW YORK CHORAL SOCIETY

GIUSEPPE VERDI
"Ella mi fu rapita!...Parmi veder le lagrime" from Rigoletto
MATTHEW POLENZANI, Tenor

GIOACHINO ROSSINI
"Una voce poco fa" from Il Barbiere di Siviglia
JOYCE DIDONATO, Mezzo-soprano

GAETANO DONIZETTI
"Tornami a dir" from Don Pasquale
DIANA DAMRAU, Soprano
ERIC CUTLER, Tenor

GIUSEPPE VERDI
"O don fatale" from Don Carlo
LUCIANA D'INTINO, Mezzo-soprano

GEORGES BIZET
"Au fond du temple saint" from Les pecheures de perles
MATTHEW POLENZANI, Tenor
SIMON KEENLYSIDE, Baritone

GIUSEPPE VERDI
"Pace, pace, mio Dio" from La forza del destino
MARIA GULEGHINA, Soprano

WOLFGANG AMADEUS MOZART
"Ah, guarda, sorella" from Cosi fan tutte
RENEE FLEMING, Soprano
JOYCE DIDONATO, Mezzo-soprano

GIUSEPPE VERDI
"Cortigiani, vil razza dannata" from Rigoletto
ANDRZEJ DOBBER, Bass-baritone

LEONARD BERNSTEIN
"Glitter and be Gay" from Candide
DIANA DAMRAU, Soprano

FRANCESCO CILEA
"Poveri Fiori" from Adriana Lecouvreur
RENEE FLEMING, Soprano

GIUSEPPE VERDI
"Triumphal Scene" (excerpt) from Aida
MARIA GULEGHINA, Soprano
LUCIANA D'INTINO, Mezzo-soprano
BRANDON JOVANOVICH, Tenor
ANDRZEJ DOBBER, Bass-baritone
DIMITRI KAVRAKOS, Bass
NEW YORK CHORAL SOCIETY

Avery Fisher Hall
Right First Tier Box

***タッカー・ガラ Richard Tucker Gala***

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6 コメント

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うんうん (DHファン)
2007-11-10 22:23:59
あるかたから録音を聞かせていただくことができました。キーンリサイドの道化師のプロローグ、聞いてて辛くなるほどあってませんでしたね。聞く前から、何故これを選んだのかと驚きました。それに比べて、真珠とりの二重唱本当に素晴らしかったです。うっとりしました。ポレンザーニとの声の相性よかったもの。そうそう、ポレンザーニのマントヴァも良かったですね。ディドナートのウナ・ボーチェも。ターフェルの代役の人のテ・デウムは悲惨の一言。
道化師のプロローグもテ・デウムもDHのCDで毎日聞いていて、今やそれがスタンダードになっているので、私、かなりバイヤスかかってるかなぁと思ってましたが、やはり生で聞かれたMadokakipさんも同じような感想をもたれたんですね。
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アメリカと日本は近い! (Madokakip)
2007-11-11 11:29:30
DHファンさん、

ラジオで生放送があったとのことですので、きっとそれを録音されたものをお聴きになったかと思うのですが、
しかし、ついこの間の日曜日に演奏されたものがもう日本にいる方の耳に届くとは、
世界がどんどん小さくなっているような錯覚さえおきます。

そうですね、キーンリサイドは、今日フィガロの伯爵も聴いてきて(出来るだけ早くブログにもあげたいと思っています)、
ある音域ではものすごくきれいな声なのですが、そのレンジはやや限られていて、
低い音なんかはほとんど出ていないときもありました。
とにかく繊細な声なので、トニオを歌おうなどというわけのわからない思いつきは今回だけにしていただきたいて(笑)、
彼の美声、というかそれを可能にする声域にあったレパートリーに焦点をあててほしいですね。
ガラでの『真珠採り』からのポレンザーニとの二重唱は、
ずっと心に留まるであろう名唱でした。
あと、彼は舞台姿が本当に美しいですね。
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キーンリサイド (DHファン)
2007-11-11 12:23:53
の舞台姿って、オペラの役でのことですよね?
ええ、素晴らしいです。
というか、彼はオペラの中で見て、聞いて、魅力が発揮される人なんじゃないかしら?

私はウィーン国立来日のフィガロでの伯爵とモネ劇場来日でのドン・ジョヴァンニしか見てませんが、どちらも演技が素晴らしく、なりきってましたね。

キーンリサイドはDHとかなり歌う役がかぶってて(
バリトンですから当たり前ですが)、ヨーロッパの方ではDHに比べて、批評家とか通といわれる方々から高い評価を得ているような気がしていて、ちょっと癪に障ってたんですよね。
で、彼を初めて見るDHファンの私としては、ちょっと斜めに構えて見るところがあったのです。
し・か・し、彼の伯爵にすっかりめろめろになってしまいました。上品で、ウィットに富んでて、それでいてなんとなくコケにされる悲哀なども感じられて。

モネ劇場のマクヴィカー演出のドン・ジョヴァンニは、それこそキーンリサイドが縦横無尽に舞台を動き回って、それはそれは面白い舞台でしたが、ある人は「あれは、オペラじゃない、ミュージカルだ」と言ってました。そういえば、歌のほうはどうだったか、さっぱり印象に残ってないんですよね。身体を鍛えてるそうで、助走なしに高いところに飛び乗ったり、ピョンピョン飛び跳ねたり、楽しかったわ。でも歌がひどかったら、逆にすごく印象に残っていると思いますから、そんな演技でも歌には影響でなかったんじゃないかなぁ?

1回どこかでテノールパートを歌ったという話を聞いたことがありますから、バリトンにしては高い音域なんですかねぇ?あ、話す声もかなり高くて、これは魅力半減でした。
DHの話し声まで魅力的なのとは大違い(←すみません、ばかですね)

キーンリサイドがヴェルディ歌ったYou Tubeでも、どなたかが「モーツァルトだけにしておけ」というようなコメント残してましたっけ。

フィガロのレポ楽しみにしてますね!!
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キーンリサイド伯爵 (Madokakip)
2007-11-12 14:23:07
DHファンさん、

たった今、フィガロのレポ、あげました。
彼の舞台姿は本当にあでやかで、あんな美しい伯爵は、
ちょっと私のような人間は引いてしまうほどです。
本文にも書きましたが、ペルトゥージの伯爵は、
もう一つ輪をかけて、コケにされる雰囲気があふれていて、
私はペルトゥージの伯爵にやられたクチです。

yol嬢は、もうキーンリサイド伯爵にメロメロ。
もちろん、歌も素晴らしいのは素晴らしいので、
もうこの二人に関しては、ほとんど甲乙つけがたく、
個人の好みの問題になると思います。

なるほど、DH氏とはレパートリーが重なっている部分もあるんですね。
ただ、DH氏の方が男性っぽい気がします。
それに比べ、キーンリサイドはちょっと少女漫画風の男性というのか。。
なので、私から見るとかなりタイプが違うかなとも思います。
DH氏のヴェルディは容易に想像&納得できますが、キーンリサイドのヴェルディはちょっと想像するのが難しいかも。
ロッシーニの作品でスマートなバリトン・ロールがあれば(ないか、そんなの。。)、
声のタイプ的にも雰囲気かな、とも思うんですが。
そうですね、今はもっぱらモーツァルト作品にフォーカスしていただくのがよいかもしれませんね。

返信する
あの夜は忘れない! (yol)
2007-12-15 19:46:19
このタッカー・ガラは本当に素晴らしかった。
やはり一流と言われる歌手達がたったの数時間でこれだけの歌を披露してくれたとは、そしてその場所に居合わせたとは何という幸せ。

私は初めてのオペラのガラ公演だったので本当に感激もひとしおだったけれど、「真珠とり」はこんな私でも感激で目がウルってしまったのを思い出しました。

来年もまたご一緒したいわね。
今度こそガラ・ディナーに参加してNYの社交界にデビューしてきましょう。

そう言えば、うちの会社もメトのスポンサーになっていて安心しました、、、、、何も恩恵はないけれどね。
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それがけちなのよ。 (Madokakip)
2007-12-16 15:08:19
yol嬢、

社員に何も恩恵を与えないばかりか、結構けちで驚くわよ。
インターミッションなんかに、どこの会社がいくらくらい寄付しているのか
プログラムなんかで読んでるんだけど、
同業者でも他社の方がたくさん寄付してるわよ。
間違いなく、収益にしめる寄付率のがめつさでは一番。
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