変化を受け入れることと経緯を大切にすること。バランスとアンバランスの境界線。仕事と趣味と社会と個人。
あいつとおいらはジョージとレニー




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カテゴリの 『連載』 を選ぶと、古い記事から続きモノの物語になります。
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 <目次>      (今回の記事への掲載範囲)
 序 章         掲載済 (1、2)
 第1章 帰還     掲載済 (3、4、5、6、7)
 第2章 陰謀     掲載済 (8、9、10、11)
 第3章 出撃     掲載済 (12、13、14、15、16)
 第4章 錯綜     掲載済 (17、18、19、20)
 第5章 回帰     掲載済 (21、22、23、24)
 第6章 収束     掲載済 (25、26、27、28)
 第7章 決戦      ○  (31:3/6)
 終 章          未
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第7章 《決戦》  (続き 3/6)

 これまでのようである。そもそもこの密使は、王が彼の帰国を引き止めようとすることを想定していたのだろう。あるいは確認していたのか、その態度は毅然としたものであった。王は宰相に目配せし、密使の拘束を指示した。すぐに親衛隊が王室に乱入して密使に手錠をかけたが、それまでもが想定の範囲内だったのか、彼の表情に驚きの色は全く無かった。
「掲げる目標は同じなのだ。ただ、我々には我々のやり方がある。それに気付いただけのことだ。」
王が密使に掛けた最後の言葉だった。
「不忠者め、思い知るがいい。」
それだけ言い残すと、密使はその場に倒れ込んだ。何処かに自殺のカラクリを仕込んでいたのだろう。その死顔は大義に殉職した潔さと強固な意志を現していた。
「親衛隊、死体を片付けろ。」
王は王室に残った宰相に命令した。
「リメス・ジンの行先を変更する。二手に分けで、一方をローマに向かわせろ。」
「ローマを焼いてもよろしいので?」
「止むを得ん。皇帝の動きは思ったより早い。こちらが先手を打つ必要がある。」
「指揮官が足りなくなりますな。」
「予定通り、ケルトには余が行く。ローマ行の部隊は貴公が指揮を執ってくれ。」
「王室を空けると申されるか?」
「我々の不在中は、王国を軍に預ける。」
「ローマへの攻撃部隊こそ陛下が統率されるべきです。ケルト行きの部隊は軍の統帥に任せるのがよろしいでしょう。王室には私が残って国務を代行致します。」
「それも道理よな。しかし、だ。余の親征ではあるが、余が直接ローマに攻め込むよりも、後方で増援を仄めかす方が、より迫力が出せるのだ。そのためには、完全に余の代行が勤まる者がローマ行きの部隊を率いなければならん。」
王の真意を測ろうと宰相の目が鋭く輝いている。勿論、この狸に国政を任せるわけにはいかない、というのが王の本音である。軍の統帥は有能な政治家ではないが、分かり易い性格のため、コントロールもし易いのだ。
「親征は数世代に渡って無かったことです。我々の姿勢を内外に示すため、陛下にご出陣願うわけです。そして、軍の統帥が同行することで、全軍を上げての作戦であるという位置付けまでをも同時に示すのです。」
「貴公の言うことは一般論として理解できるが、実態を考えてみよ。あやつめに実戦部隊を任せることができるか?」
「軍には有能なスタッフがおります。充分に補佐してくれるでしょう。」
「古来より、重要な攻撃軍の総司令官は執政官(コンスル)が努めている。親征の時でさえ、皇帝が執政官をわざわざ兼務したこともある。我々の姿勢や作戦の位置付けを示すためにも、我が国の執政官とも言うべき、宰相の貴公に同行してもらいたいのだ。」
もともとは宰相と軍の統帥を両方とも王室に残して行くことになっていた。王は、統帥をコントロールして宰相を押さえようと考えていたのだ。しかし、部隊を分ける必要が生じた今、どちらかを同行させる必要がある。宰相を残してはならないと王の直感が強烈に訴えかけていた。
「余とともに歴史に名を残す者として、貴公こそが相応しいのだ。」
そこまで言われては宰相も引き下がれない。悪い気もしない。
「いいでしょう。お供させて頂きます。」
「貴公が来てくれることで、今度の作戦は一層磐石となった。」
「ご期待に添えますよう全力を尽くします。」
歴史には『世界都市ローマを焼き払った男』として貴公の悪名が残るのだよ、と心の中で呟いた王は、話題を切り替えた。
「宣戦布告の時間だ。布告後、ただちに出撃する。」

 宣戦布告は、帝国と近隣の国々の隅々にまで届いた。ブリテン国王が敵とするのは、ローマ帝国の正当な後継者であるブリテン王国を侮辱する国々、即ち、帝国を名乗ってローマを占有している国やその庇護の下に生きる全ての国々とそれらの為政者である。布告は全面的な無条件降伏を求めていた。その期限は本日の十七時ちょうど。例え降伏が検討されるとしても、数時間で結論が得られるような問題ではない。つまり、ブリテン王国は十七時に何らかの攻撃を仕掛けるということなのである。
 神聖同盟では同盟国全てが王国への臨戦体制を整えていたので、即座に徹底抗戦と帝国の防衛を担うことを宣言した。
 西ケルトからは、西ケルト国王名義でブリテン王国との同盟が申し出られた。勿論、ケルト公爵が同盟を申し出た相手は王室の連中はなくルナなのだが、未だ誰もそのことには気付きようがなかった。
 帝国の元老院では、主戦派の勢いが益々強まっていた。先方から宣戦布告が出された以上、穏健派と言えども開戦に躊躇しているわけにはいかない。皇帝からは全軍に臨戦体制を敷くべく勅令が下され、神聖同盟には体制整備までの帝国防衛が下知された。
 帝国全域が戦争状態に突入しようとしていた。人々は数千年来無かった事態に右往左往し、何もかもが混乱していった。
 この時皇帝は、ブリテン王室に裏切られたことに怒りを覚えていたが、なぜかその表情は満足そうでもあった。謀略を企てて事を成すのも良いが、直接的に戦争を指揮した皇帝は、歴史書を古代にまで遡らねば出て来ない。やはり自分は歴史に名を成す皇帝として生まれ出たのだという確信が、彼には芽生えていたのだ。
 戦争の被害者は一般の人々である。しかし、彼等の悲劇が歴史に記録されることは無く、記憶の糸が途絶えたところで忘れ去られてしまうのだ。千年来戦争を経験していない帝国の皇帝が、これから起こるであろう数多の悲劇よりも、戦いに勝って凱旋する自分を想像してしまうのは仕方のないことなのだろうか。それは人知の限界か、あるいは属人的な問題か。

 宣戦が布告されるとすぐに、王と宰相はリメス・ジンに搭乗すべく空軍基地に向かった。その道すがら、宰相が解決していない事態への配慮を見せた。
「ルナ殿は何処で何をされているのでしょうな。」
「リモーからの報告によると、ルナ隊に編入した仕官が我々の策略を鋭く見抜いたということだが……。」
「ルナ殿が我々の策略をどこまで知り得たのか、気になります。この作戦が終了したら解明せねばなりますまいな。」
「奴が我々への復讐に燃えているのは間違いない。しかし、一介の軍人に何ができる?」
「正直に申し上げますが、私は彼を恐れております。リモー艦隊に配属した時点で、彼が逃げ果せる可能性は無かったはずです。底知れない強運を感じます。」
「うまくいかないこともある。考え過ぎるでないぞ。」
あれだけ用心深かった王の余りに楽天的な物言いは、宰相に幾らかの猜疑心を植え付けたが、これから大陸侵攻作戦に赴くにあたり、これ以上そのことに彼の思考がとらわれることはなかった。その様子を横目で確認した王は満足げであった。
 王は、ルナをリモー艦隊に派遣する作戦を考えていたあの時には、未だ彼を守ろうと考えていたのだ。ルナを守るために、リモーが宰相派に属すことと、大陸侵攻作戦に何か裏がありそうだ、ということだけを含ませた情報士官を空母に潜り込ませたのは王なのであった。艦内にルナを助ける者が必要だろうと考えたのだ。敢えて女性を送り込んだのも、殺伐とした作戦稼働中にルナの心を癒すためでもあった。抹殺してしまうには、ルナは魅力的に過ぎた。今では、何とも余計なことをしたものだと思う。しかし、ルナが離反し、大陸侵攻作戦が失敗したが故に、皇帝の呪縛から逃れる術を見つけられた。あの作戦が予定通りに進んでしまったとすれば、自分はいつまでも皇帝の駒として使い尽くされたことだろう。あるいは、用済みになった時点で皇帝に消されたかもしれない。結果的にこれで良かったのだ。王はそう考えることにした。とは言え、あの仕官は何としても消し去る必要がある。真相を宰相派の耳に入れさせるわけにはいかないのだ。そのためには宰相が言う通り、ルナの行方を追って、ルナともども抹殺するしかないだろう。あるいはその仕官をルナ抹殺に利用するか。やり方は色々ありそうだ。女であれば尚更である。
「暫くは正念場ぞ。」
王は宰相にそう言い残して自らが座上するリメス・ジンに乗り込んで行った。その言葉を宰相は素直に受け止め、彼も自分の機体に搭乗したのだった。
間も無く、轟音とともに巨大な怪鳥は群れを成して飛び立って行った。

<未だ未だネタはあります。>

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