[書籍紹介]
安生正(あんじょう・ただし)による、ホラー兼パニック小説。
南極半島の氷河が海に滑落し、大津波が起き、
日本の調査船が巻き込まれる。
グリーンランドの炭鉱調査隊が消息を絶ち、
救助隊は、そこで惨殺された死体を見つける。
アフガニスタン北部ワハーン回廊で気象観測隊が
何者かの攻撃を受ける。
それだけではなく、
世界中で原因不明の大量遭難事故が発生する。
事件が起きているのは、
極地や標高の高い寒冷地ばかりだ。
グリーンランドの救援に向かったプロ登山家の甲斐浩一は、
救助を断念して帰国するが、
すぐにワハーン回廊に向かうことを政府に要請される。
同行するのは、地質学者の上条常雄と遺伝育種学者の丹羽香澄。
しかし、気象観測隊が遭難した場所に、
どうして生物や地質の学者が行かなければならないのか。
政府は甲斐たちに対して、
調査の真意を隠しているのを甲斐は感ずる。
やがて判明して来る驚愕の事実。
世界中で、氷河や雪原の内部から
なにかが現れ、人々を襲い始めているらしい。
なにかとは、古代に封印された生物。
人類にとっては新しい生物なので、「新生物」と呼ぶ。
そのクマムシに似た新生物は、
人の体内に卵を産みつけ、
孵化して成長した幼虫は、
人の腹を食いちぎって体外に出て来る。
ハワーン回廊から回収された観測隊の死体から
そのウジ虫のような幼虫が発見された。
しかも、繁殖力が異常に強く、
更に、クマムシと違い、空を飛ぶ。
クマムシの写真は、↓。
これ↓は違います。
上条によって指摘される、更なる驚愕の事実。
その生物は、氷雪地帯の下に埋もれていた石炭層に生息してきたもので、
嫌気性であったために、
酸素が多い今の地球では封印されていたが、
大気中の二酸化炭素が増加したことで大繁殖し、
雪や氷河の下から姿を現したという。
二酸化炭素の増加数値が
新生物の活動を活性化させる境界線を越えたのだ。
全ては人間による温室効果ガスの排出が招いた結果だ。
更に、更に。
かつて二十数億年前の地球は二酸化炭素と窒素が大気の主成分だったが、
バクテリアによる光合成が酸素を生み出し、
当時の生物にとっては酸素が毒で死滅したのだが、
今度は新生物が酸素を吸ってメタンを発生させ、
やがて、酸素からエネルギーを得ている現在の生物は
全て死に絶える、というのだ。
上条はかつて地球が何らかのタンパク質で覆われた時期があるという説を立てて、
学会を追われたが、
そのタンパク質とは、新生物のことだったのだ。
それは2億5千万年前のこと。
今、地球は2億5千年ぶりの変動を迎えている。
地球上の生物が全て絶滅する危機だ。
南極での氷河の滑落も、その生物の活性化による地層の変動によるもの。
ワハーン回廊の周辺では、
新生物の増殖により、
雪雲と見間違える新生物の群れが中国領に向かっているという。
バッタによる蝗害の比ではない。
襲われるのは植物ではなく人間。
しかも、生きたまま卵を植えつけられるのだ。
アイスランドやモンゴルが全滅し、
ロシア、カナダ、中国で被害が拡大している。
中国人民軍が全滅したという情報が入る。
難民が大移動を始める。
偏西風に乗って、新生物が日本に飛来するのは近い。
そのまま進めば、日本全土が新生物に覆われてしまう。
丹羽の研究により、
新生物の天敵に、ある地衣類がおり、
地衣類の持つブルピン酸が駆除に有効であると分かる。
しかし、生産に時間がかかる。
福岡に緊急事態宣言が出され、
人々が目張りをした家にこもる中、
東シナ海を越えて、
雲と化した新生物がやって来る。
自衛隊が派遣されても、
通常兵器は役に立たない。
どうなる福岡、どうなる日本、どうなる地球。
結果を知りたい方は、本書をどうぞ。
地球が誕生して以来46億年を縦断する壮大なストーリー。
そのメインのストーリーに限定すればよかったのに、
甲斐自身の家庭での問題、
遭難した妻を救助できなかったこと、
息子の離反、
妻の父親の内閣官房副長官の話などがからむ。
取って付けたような内容で、
しかもウェットで、うまくつながっているようには思えない。