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小説『がん消滅の罠』

2023年02月04日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

2016年に「このミステリーがすごい! 大賞」を受賞した医療ミステリー。

日本がんセンター呼吸器内科の医師・夏目典明は、
生命保険会社に勤務する森川雄一から、
不正受給の可能性があると指摘を受けた。
夏目から余命半年の宣告を受けた肺腺がん患者が、
リビングニーズ特約(医師から余命宣告を受けた場合、生前に給付金を受け取る制度)
で三千万円を受け取った後も生存しており、
それどころか、その後に病巣が綺麗に消え去っているというのだ。
その余命宣告をした医師が夏目で、
しかも、同様の保険支払いが4例立て続けに起きているという。

不審に感じた夏目は、古くからの友人で、
同じくがんセンター勤務の羽島悠馬とともに、調査を始める。
しかし、ガン保険加入の時も、問題はなく、
がん診断の時のスキャン写真には転移したがんが写っており、
それが今はがんが消え失せ、完全寛解に間違いない。

「がん寛解(かんかい)」とは──
がんの症状が軽減された状態。
がんが縮小し、症状が改善された状態を「部分寛解」、
がんが消失し、検査値も正常を示す状態を「完全寛解」と言う。

がんが治ったからといって、
リビングニーズ特約で受け取った死亡保険金は返す必要がないという。

新手の詐欺の疑いもあるが、
なにしろ余命宣告したのは夏目だ。
夏目が詐欺の片棒を担ぐ必要はない。

そうこうしているうちに、
事件に湾岸医療センターという病院がからんでいることが分かって来る。
その病院は、がんの早期発見・治療を得意とし、
もし再発した場合もがんを完全寛解に導くという病院で、評判だった。
そのセンターの理事長をつとめているのが
夏目の恩師の西條征士郎西條であったことに、
夏目は驚く。

というのは、10年ほど前、
夏目が東都大学医学部に在籍中、
指導教官の西條が突然教授を辞任し、
医学界から完全に姿を消していたからだ。
辞める時、西條は、
「医師にはできず、
医師でなければできず、
そしてどんな医師も成し遂げられなかったことをする」
という、謎の言葉を残していた。

そして、調べるにつれて、
湾岸医療センターでの治療対象者が、
日本の社会に影響力を発揮するような人物に偏っていることが分かる。
がんの治療を材料に、
何か西條が画策していることが伺える。
何か特別な治療法を確立したのか、
それとも、よほど効く抗がん剤が投与されているのか、
夏目と羽島、森川は、
様々な仮説を立てて真相に迫ろうとするが・・・

その過程で、湾岸医療センターの宇垣という女医に診察される
柳沢という厚生労働省官僚の話がからみ、
西條のやろうとしていることの一部が開示される。
また、西條の一人娘の死の謎も関わって来る。

がんの転移と治療について、
専門的知識を用いて書かれた小説。
確かに今までになかった医療ミステリーだ。
リビングニーズ特約、人為的転移の方法、
細胞の自殺装置、腫瘍崩壊症候群など、初めて聞く話が沢山あった。

筆者の岩木一麻(いわきかずま)氏は、
神戸大学大学院自然科学研究科修了。
国立がん研究センター、放射線医学総合研究所で研究に従事したという。

続編の「がん消滅の罠 暗殺腫瘍」は、2021年に刊行された。

また、TBSでドラマ化され、
2018年4月7日に放送された。


夏目を唐沢寿明、
羽島を渡部篤郎、
森川を及川光博
西條を北大路欣也が演じた。