月のmailbox

詩或いは雑記等/小林貞秋発信。

詩-Space 偏愛する

2008-03-02 22:41:29 | 
      偏愛する



         1

    どうしても
    眼はあちら側を向いて
    何故に総ては色をまとうのか
    不思議なほどに
    空白がそこを抜けて
    見えるもの
    総てを一気に
    呑みこんでしまおうというのである
    そんな危うい場所に
    置かれてみれば
    ああ消える
    消える
    色を奪われてしまう
    その切なさは強い思いと
    結びつかずにはいない


         2

    なぜならば
    根が曖昧でありながら
    不似合いな拳を
    突き出してくるからである
    天と地の分かれ目に
    確かな一線探るみたいに
    それはあるのだと
    青い声を上げる
    時は前にも斜めにも
    動いていない
    その根は天に浮いている
    かもしれないのです
    その声の哀愁


         3

    それは見えていながら
    見えないもののような
    永劫ひらいているもののよう
    でありながら
    既に閉じているもののような
    そうしてどこまでも
    薄ぼんやりとしたものなんだろうと
    まるで
    百万年前に逝った母みたいに
    どの階段に足かけて
    呼び覚ませば良いのか分からない
    あちらに見える
    温もりただよう記憶とどめ得るのは
    軽快さ何者にも負けない
    蟻でもなければ
    言葉話せぬ象というわけではない
    変種とも思われ
    傲慢極まりない蛙のごときもの
    とも思われ
    哀しいほどに美しすぎる
    とも思われ
    それは見えていながら
    見えないもののような


                        from Six Poems No.12 2007