月のmailbox

詩或いは雑記等/小林貞秋発信。

詩-Space 蝶遠のいて

2008-02-26 22:47:01 | 

     蝶遠のいて


    皮下の
    透明な層に抱かれて眠る
    大量の埋蔵物なるもののこと
    あそこの
    もの言いたげな光帯びる
    カラスなのか
    キャラスなのか
    クラウスなのかカイラスなのか
    人と同じに気づきもせずに
    その上方
    カタカタ首を鳴らし
    キアキアキアキア歌声上げて
    飛んでいるというわけだが
    それ哀しげなことなのか
    二回転飛行のできないことに
    問題ありと見るのか
    あれは宇宙の迷子だから
    いずれは元の場所に戻ることあろうと
    幸運を祈らせていただけばいいのか
    あちらの眼が
    あなたの眼というわけでもないから
    その不確かな高みから
    階段を下りるように
    地に触れるところまで戻れば
    この世のものとは思えぬ
    蝶の遠のくさまなど見えて
    何故に掘りおろそうなどとするのか
    あるべきところに
    事を進める腕などないのになどと
    あのカラスだか
    キャラスだか
    クラウスだかカイラスだか
    それとも姿見えぬ地平の向こうの
    自身の片割れみたいなのが
    生温かな空気にのせて
    伝えようとするのである
    眠るジャングルも見えるのである



                  from Six Poems No.11 2006    
    
    
    
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詩-Space 誕生日

2008-02-24 23:28:40 | 

     誕生日


数が増えて、一のうしろにゼロが99にもなる。意味のない数、というばかりのものでもないだろう。恐怖を覚えさせるものであるかもしれない。僅か20つくだけでも恐慌を引き起こすに足るものだろう、想像の中に。
われわれ、限りなく高齢に近づいても、数は三桁。辺りを見渡すに苦労のないはずの数だ。色とりどりのネオンサインは、途方もない夢の中にいることを思わせる。チカチカとまたたく世界、それに比べて月をはじめ、何と殺風景なことか。過ぎる夢の中でこちら、またひとつ年を重ねる。


                            September 1995
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詩-Space 朧な玉

2008-02-22 22:44:35 | 
    朧な玉


消えずにいる間に、気づいてみればまた生まれている。それも愉しみと言える、この地の上。昼の月は、まだそこに見えている。滅することがないかのように。だから輪を描いた指の中に入れて、そこまでの距離を乗り越えてしまおうかと思うのだ。あのような場所に浮いて見えるのは、錯覚をする眼を欺いてのもの。飛び上がって触れることのできるもの以外は認めない。鐘を鳴らすようにして、小気味良く主張してみたくなる。手の届かないもの、果てしのないもの、想像の中を渦巻き収拾できなくさせるもの、辺りに置きたくないのだと。この演者である、朧な玉。   
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詩-Space 14 June 2005 ─ 余韻

2008-02-20 22:59:00 | 

   14 June 2005 ─ 余韻


地平線あたりは白ずんでいて、それを目当てに向かっていく目玉の大きな何者かの姿が見えている。深緑をした重量のありそうな体。時速2キロで地下への入口でも模索するかのように黙々とのめりつつその縁に鈍い光を浮かせて。
夜の時間、こちらは窓のそばのテーブルでアップルパイ。甘さ吟味しながら、大きすぎもする金縁の置時計の長針が一時のひとつ手前にあるのを捉えている。四分。ふいとなにかしらの思いにとらわれて、眼をほんの少しだけ離しているともう六分になっている。どうして時間は前にしか進まないのか。そのせいで彼方には消えた人々の微かな足音の余韻。それは限りなく遠いとさえ思える未来のひとびとが、既にして過去へと消えていることをも思わせる余韻。だが次元が異なれば逆に進む時間もあるだろうと、このひとは考えたりもする。置時計の白い長針。その狭い空間の中で、それでも宙に浮いているイメージも思わせるその先端あたりを追いながら、生まれ浮遊しだす思いに従いつつ。    
        
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詩-Space ある国

2008-02-18 23:08:36 | 
      ある国


    その土台が
    崩れている最果ての国
    一見の価値あり
    とか
    緑だか黒の
    色紙の上に浮いている 
    臍曲がりな
    虫らしきもの
    とも映る専制主がいて
    見える
    見える
    見えると
    あたり飛ぶどこかの
    ヒコーキ
    恋に胸熱する女など
    乗せているのが
    その機体のアタマ
    光らせ
    確認をする
      こともある



                         October 2006       
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詩-Space あちらに行けばあちらのこと

2008-02-16 22:44:29 | 


     あちらに行けばあちらのこと


なにかとてもちがうひとびとがあちらにいて、まるで別の人種なのだとだれかが教えている。どういうだれかなのか、夜の電柱の影あたりを探る。あちらは海の向こうにあるあちらだったか、そのこちら側だったかも、そのだれかに確かめてみなければならない。それは、あちらに行けばあちらのことがある。こちらにはこちらのことがあり、それだけで最早先に進むことがないかのようである。だがあちらのちがうひとびとは、いつまでもあちらにいるひとびとであるわけでもなく、どこを探しても見つかることのない翳の世界へと、いずれは集団移行することはとうに知られている。結局のところ、どのような話になるというのか。にんげんのことというのは、まるで初めから出口だらけであるというのに、どこにも出ていけない家の中にいるような、奇妙さつきまとうもので。


                           September  2006
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詩-Space 名前を呼べば

2008-02-14 22:31:16 | 
         名前を呼んで


    リラ
    とライラックは
    同じ花
    なのであるが
    月には咲かない
    咲きたい
    と駄々をこねても
    咲けない
    それに
    合わせるわけではないが
    花のようなリラ
    という名の
    女の子
    ライラック
    と呼んで届くだろうか
    同じ色
    なびかせる
    その奥の
    奥に



                         April 2007
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詩-Space モーニング トレイン

2008-02-12 23:13:38 | 

      モーニング トレイン


  室内。カーテンに閉ざされたそのすぐ向こう側には窓。つめたく
  固い身に陽射しをじかに受けている。カーテンに軽く手を触れ
  窓の向こうに見える風景模様を思う。奇跡が起きるならそこは
  砂漠であるかもしれない。そして彼方にオアシスが見えるので
  ある。

  たのしいことが待ち受けている顔はあたりに見えない。満員の
  車内立ちつづけのまま見えない風景を思い描いている。
  線路向こうのプラットフォーム上の揺らめき動く針と砂粒。


                               1994  
      
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詩-Space 藍(4)

2008-02-06 22:40:51 | 





               4


密かに密かに申し上げたいことがここにここにひとつまだありましてそれはあちらには出掛けられずに終わるだろうということなのでありますなんということはないどうということはない誰しもが渡れる橋を通るだけのようなものではあるのですがどういうわけでか同じ空を別の角度から眺め眺めつづけるうちに歩く方向がずれにずれずれにずれてアワワワワもうあそこの橋を渡ろうにも渡れない位置を辿りつづけていてまるで一に一をプラスする答に窮してしまい白旗を掲げてなびかせることも定めと心得るようになるものらしいのです    



                        from Six Poems No.8 2004 
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詩-Space 藍(4)

2008-02-04 23:16:03 | Weblog







              3

手を尽くしても重ならない絵模様がひとつの境界の中で揺れ続けていますどこかどこかでしっかりと結びつき合う場面を追い求めずにはいられない時間が流れ流れるうちにそれがいよいよあり得ないことのように遠退いていくという憎たらしさむしろ幻覚であればいいいずれいずれは奇跡のように変化も生まれるという願いも渦のように立ち昇るのですが平行する線が交わるにはどれだけの距離が必要であるのかこの次元では叶わないことなのか神のような何者かに問うことは愚かというものなのでしょうか



                              以降次回

                        from Six Poems No.8 2004  
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詩-Space 藍(4)

2008-02-02 22:37:30 | Weblog






              2


始めると止まらないと言いはしてもいずれは止まるところに行くことになります走り出したら止まらないと言いはしても続けることに耐えられない脆く柔らかないのちは永久機械のように時の上を滑走することができないなどと回り道をせずに前方の景色に重ね合わせてみればあちらもまた経験が生きようもなく強いだの弱いだのを超えて地獄を見つづけることから止むことなく離れられずにいつもどこかで血がながされつづけているのですからそこにはあなただけではない逆らえない属性に哀れにもどこまでもどこまでもとり憑かれていくということではないでしょうか


                       
                                以降次回

                       from Six Poems No.8 2004
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