月のmailbox

詩或いは雑記等/小林貞秋発信。

詩=Space  1990年6月16日のながめ

2009-10-28 22:40:01 | 



     この脳の
     どこに宿っているのか
     考えられないフィクションの世界
     生きていた昨夜の夢には
     驚嘆する

     病んだ神経とつきあい
     煙草をつぎつぎと吸いました
     陽射しの強い今日
     急転訪れて感覚冴えはじめ
     無目的 無感覚に漂っていた船
     キリッと目覚めたみたい
     よろしい急変だ
     万端操作可能点に辿り着いた
     と貴殿に報告できそう

     深夜の時間奪われているうち
     夜と親しくつきあう術
     忘失してしまいました
     おかげで不様な過去もまた
     製造
     そのあたりは省略しましょう
     思えば本日は大安

     死して長く生きるよりも
     短くとも貪欲に生きよ
     とポスターに標語の見える
     白壁が目の前

                             1990
                            

さんぶん詩  扉   

2009-10-24 22:28:58 | 


部屋の入口に中年の恰幅良い紳士と若い綺麗な女が、手を取り合って向き合うように立っている。どうも様子からすると恋人同士のようだ。紳士が舌をだすと、女が自分の舌をそこに近づけようとするのである。
場所をまちがえて入り込んで来ていながら、こちらに遠慮する気配もない。
──あんまり待たせられたから、見境がつかなくなっているのだ。分かるだろう? ほうら。
男が体を押しつけるようにして、言う。
街はざわめき立っているにちがいないが、いまは遠く青黒く沈んだ背景として、まるで無関係のもののよう。忘れられている。
──どうぞ、ご自由に。
とも言わずに白い壁を見つめている。なにもかもがその白いひろがりの中に、形をもって現われ見えてくるようだ。交差点も、うろたえながら歩く人の姿も。
戸口に立っていたふたりはこちらに近づいてきて、ベッドに腰を下ろしていた私を、簡単に押しのけてしまう。香水だのポマードのにおいが、鼻をつく。
──なにか食べるものを運んでもらおうか? それとも近くに出かけて食べることにする?
ふたりをどこかで見たことがあるような気もするが、思い起こすのが面倒なので彼らのことなど構わずに、部屋を出ることにする。長い廊下を歩いて、女友達が来て絵を描いているアトリエに入る。どういうわけか、彼女は絵筆を持つとすぐに扉を描きはじめる。それも、いつも閉じた扉ばかり。その向こうで起きていることを思い巡らせながら、色を塗りつけていくのだという。そうしたあとで、扉の向こうに消えてしまうのだ。通り易いように、すつかり脱ぎ捨てて。他の者には、到底そのような真似はできない。だが、誰かがそのように仕立てているだけなのかもしれない。
──あのひとたち、あなたの部屋でお互いにかじり合ってるわ。灰皿から煙草が落ちて、シーツの端からけむりがあがってる。
こちらを向いて、彼女は舌を出した。いやな仕草をする。絵の中の黄色の扉の向こうから、おびえてやみくもに飛回っているような、小鳥の鳴き声が聞こえてくる。壁に当たって床に落ちる音がする。おどろいたような眼で歩きだすだろう。
──行って、連れてこなきゃ。
ドアーを開いたまま、自分をそっくり真似て進んでいる。

                       30 May 1990 

詩=Space  一度だけの

2009-10-21 22:21:50 | 
      

      わたし
      死なないような
      気がするの
      長命だった
      あるおんなの
      小説家が
      かつて
      言ったそうです
                        そのひとが
             死を迎えるとき
      なにを
      感じたのか
      死なないひとは
      にんげんではないのだが
      視界に入る
      あの空
      空のように
      時間のない世界の
      仲間のように
      今より
      先に進まない
                         夢もまた
              時の内側に
      ときには
      張りついて
      見え
      終わることが
      見えていて
      終わらない



                    from Six Poems No.5 2002    
 

詩=Space  思うこと

2009-10-17 22:24:38 | 


      教訓
      おそらく
      永遠に変わらぬ
      あちらからのプレゼント
      というその
      あちら
      抽斗のあるいは洞窟奥の
      あちらは誰にも
      見せない
      あちら

      時は過ぎ
      過ぎすぎるほどに過ぎ
      手で計れないほどひろがり
      あんなにも
      あれほどにも
      深いかなたまでも
      流されていくものだとは
      その時には
      思わない

      教訓
      などの
      登場する場はない
      何故なら
      最初の言葉からして
      そこにも
      ここにも
      置く場所は見当たらない
      けれども
      あちら
      あちらのことなら
      届けたいものは
      限りない


                    November 2006
   

詩=Space  運命

2009-10-13 22:17:31 | 


見たい景色が見えないというので、道を飽きるほど歩いて出掛けてみると、そこは団子状の巨山が前方覆う、なんとかなんとかという妖しい地。なるほど、それならば魔法かけて紙製の景色に造り変え、点火もしてみたくなろうというもの。土地の地霊に申し出ました。一度、空を赤く染めてみると致しましょうと。あちらの見たい景色が待っておりますので、と。
ややあって、うなりと共に、嵐到来。

あなたの演じるひとは、あなたというひとで、それはあなたそっくり。運命もそのまま。なのであそこに見える舞台の、頭の中、靄の世界潜むひと見てむふふふ、などと斜め後方におかしみ流さないで、天井から眺め下ろすほうがいい。


                           December 2005


詩=Space  場所

2009-10-09 22:00:53 | 


                             手のひらに
                 乗せることが
    できるような
    モノとはちがうのですが
    じいっと
    見つめているのです
    どのような場所に
    置きたいものなのか
    考えたりもするのです
                             なにが
                 奥深い理由めいて
    絡んでいるのか
    もう遠い
    あの頃の
    あの場所
    地の上から消えている
    あの壁
    あの窓
    あのドアー
    故郷のように
    幾度となく
    夜の夢の中の
                              舞台に
                 なったりもした
    その
    場所


                        from Six Poems No.6 2003