月のmailbox

詩或いは雑記等/小林貞秋発信。

詩-Space  追われない

2010-09-08 23:11:11 | 


         貯蔵場に
         無いものなのに光る玉
         かつて
         持ち込んだから
         消えずにあるものと思いこむ
         願いびと

         玉の輝き
         消し去りたいもの
         覆い尽くして無きものにする
         力秘めていると
         見る心

               *

         過去には
         追われない


                   5 September 2010    
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詩Space  九月

2010-09-05 21:49:55 | 


         虹が見える
         とか見えないという予報と
         外出が重なる
         九月
         この年
         という印つきの九月である
         と思う時には
         再び
         この年がやってくること
         どれほどに年をくりかえそうと
         再びは無い
         もう無い
         根拠は不明のような
         縁に浮かぶ謎
         動き出して見上げている
         というワタシなる
         誰かは
         いつの世にいたひとであるのか
         遠く読んでいる
         なにも見せない神はじつに
         ずるい
         と持ち出しはするが
         ここは神などいない場所で
         時のながれ
         途絶えないものか
         それ
         先にしか進まないものか
         消防署前
         赤の並列

                          from Six Poems No.12 2007 

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詩-Space  風船

2010-09-01 19:41:27 | 文学


        壁にかけられた紅の帯
        よじれている
        ジャングルの枝にかかった
        枯れた蔓
        電線に垂れた凧の糸
        天井から吊り下げられた艶めかしい
        オブジェ
        見えることもあるだろうね
        壁の向こうに遠くの窓のあかりが
        見えるみたいに

        それから
        床の上に置かれた
        赤らみを帯びた肉のかたまりなど
        彫刻の首みたいに
        ある方向を向いた不動の首がある
        全体に金属のようなつやを帯びている
        月の光が屋根を抜けてふりかかる
        思い出の中にひっそりとどまる

        隠しものは転がった風船の中
        近づけると恐れて逃げる生きものがいて
        キッキとあたりに声を放つのである
        愛人なのでございます
        正体をつかまえることはできないので
        至るところに眼を光らせる
        泳いだ距離が問題なのではありません
        やわらかな莟をこじあけている

        閉じられている部屋
        鍵が故障しているので電話をして下さい
        もう三十年になります
        人膚のにおいが壁にしみついて
        跡形もなく消すことなど許さない
        今日のおでかけ
        手品のように姿を晦ます
        どこかしらで激しい雨に打たれている


                 東京出版刊 「現代詩華集'91」 1991 
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