goo blog サービス終了のお知らせ 

ウロコのつぶやき

昭和生まれの深海魚が海の底からお送りします。

リンクの外のものがたり・2

2013-09-16 15:51:00 | 日記
フィギュアスケートを取り巻く話題としては、今年恐らく最大のものだった安藤美姫選手の出産をめぐるメディアの動きは、個人的には色々と考えされられるものがありました。

1.“ものがたり”を消費する人々
まず第一は、前回のエントリーで書いたような事。
フィギュアスケートを語りながら、スケートを見ていない人々。リンクの中の演技ではなく、それを取り巻く“ものがたり”にしか興味のない人々がいる、という事にはっきり気づけたのは、ある意味一番の収穫かも知れません。

私がこれに気づいたのは、女子選手のファンの一部の、「安藤選手は、“注目を集めるために”こんな騒ぎを起こしている」という主旨の発言を目にしたのがきっかけでした(しかもこれ、一人の人じゃなくて、あちこちで見かけました)。

だってこれ、「スケート」そのものを見ていたら、まず出てこない発想じゃないですか。

普通に考えれば、粛々と先シーズンの試合に出ていた方が、選手としては圧倒的に有利です。

仮にも2回世界チャンピオンになった選手が、スケート連盟の強化指定も、GPSの出場資格も、全日本選手権へのシード権も全て失い、トヨタからの援助は自らけじめとして辞退し、まさに裸一貫からのやり直し。
妊娠・出産で体は大きく変化するし、長期に渡って氷の上に乗れない時期が続き、フィジカル面でも技術の面でもどこまで戻せるかは未知数です。
ソチオリンピックに向けて、大きく後退してしまった事は、本人も承知の上でしょう。
ちょっと「マスコミの注目を集める」だけのために失うには大きすぎると思いませんか?

逆に言えば、だからこそ大きな騒ぎになる訳です。自分を不利にする事を敢えてわざわざやる人はそうそういないし、そうそうないようなことだからこそ話題性もある訳ですから。
「ソチは神様からの贈り物」という本人の発言もどこかで目にしたんですが(どうもこの人は妙に誤解を受けるようなわかりにくい言い回しをする事が多い気がするんですが)、要は「ソチオリンピックは出られたら“奇跡”」と言いたいのかなと思いました。極めて困難な状況を自覚した上で、それでも試合に出るからにはそこを目指しますという事が言いたかったのかなと思います。
そして“出られたら奇跡”レベルの困難さだからこそ実現すればドラマティックな訳で、故にその“奇跡”を見たいと思うのも人の情というものだと思うのです。

が、「リンクの外」を見てる人の発想は全然違うんだなと。
今回の件で、安藤選手の一連の言動を「目立ちたいから」と思うような人に取っては、きっと自分の目に付くところがすべて。一般人の目に触れる場所=メディアの領分であるテレビや新聞や雑誌で取り上げられる事こそ「勝ち」って価値観(シャレではない)なんだろうな。

普段からよっぽどテレビや新聞や雑誌やCMでたくさん取り上げられている選手のファンなんでしょうね。
そういう人なら、ご贔屓がメディアに取り上げられる事で勝った気分になり、他選手が目立つと敗北感を感じたりしそう。
ホントはそんな事、「リンクの中」では何の意味もないのに。

中には安藤選手が、メディアで騒がれる事でソチへの出場権を勝ち取ろうとしてるとまで言い出す人まで目にして、その発想には、ある意味目からウロコでした。
上にも書いたように、どう考えても子供を産んでメディアで騒がれるより、子供を産まずに先シーズン試合に出ていた方が余程ソチへの近道だったはず。

なのに、「メディアが騒ぐ」事で選考がどうにかなると思ってる人たちは、きっとトリノオリンピックの頃には、みんなで騒げば、年齢制限にひっかかっていた当時15歳の選手が「特例で」オリンピックに出られると思ってた人たちなのかなと思います。
そう言えば何故か、当時は安藤選手が、まるで当時15歳から出場枠を奪ったかのようなバッシングを受けてましたっけ。
実際には、安藤選手の選考と年齢制限の間には何の因果関係も無かったはずなんですが。


2.B層ってこういうこと?
しかし、メディアというのはしばしばこういう事をやります。
視聴率が稼げて、スポンサーを呼べる有名な選手がオリンピックに出てくれた方が自分たちの儲けになる訳で、そういう自分たちの都合の良い選考になるように、競技連盟にプレッシャーをかける(ようにしか見えない時がある)。

アテネの女子マラソンのQちゃん出せ出せ騒動もすごかったし、トリノの時には、「ちょっと連盟が働きかければすぐにでも特例で年齢制限を免除して貰えるんじゃないか」と錯覚するような報道がなされていました。
そして同時に、まるで安藤選手の選出が不正だったかのような報道も…。

思えばあの頃から、安藤選手に対しては何を言っても許される的な妙な空気がメディアの間に蔓延していたと思います。

そんな中出てきた文藝春秋の例のアンケート。
トリノシーズン以来の空気感の中で、安藤選手に批判的な意見が多数を占める事を予想し、その結果をタテに「安藤批判は世間の総意」と錦の御旗を掲げて、「正義」の側に立って心おきなくバッシングできる。
そんな意図が透けて見えるような、そんなアンケートでした。

それが予定通りいかなかったのは、事が「フィギュアスケート」という狭い世界の一選手の事情に止まらず、女性全般に関わる内容だったからだと思います。

日頃フィギュアスケートには興味ない、一人の選手が持ち上げられようが叩かれようがどうぞ御勝手に、と思っている人でも、一人の女性の妊娠・出産を赤の他人の興味本位な意見でジャッジされるという異常な事態には異論を唱えたくなって当然でしょう。日頃から、女性を取り巻く諸問題に関心を寄せている人なら尚更です。

非常識だったのは、そのような、女性全体に関わるデリケートな問題だと気づかず、いつものような選手バッシングを始め(ようとし)たメディアと、それに乗った人々でしょう。

個人的には、このアンケートには、最近よく聞く「B層」と呼ばれる人たちの特質がよく現れているなと思いました。
元々フィギュアが好きだった訳でも、スケート靴を履いて滑っている訳でもない、ニュースやワイドショーを見てフィギュアを分かったような気になっている人々。
そんな自分の、(メディアによってコントロールされた、極めて限定的な情報に基づく)意見や見解が正しいものだと一片の疑いもなく思い込み、その意見に従うべし、という思考。
「みんながそう言っている」と思えばより一層強気になり、自分の意見=世間の総意だからその通りにならなければならない、と押しつけて来る人々。

ネットの海は限りなく広い、でもその内一人の人間が触れられる場所は極一部。
だからネットでは、似たような主義主張・嗜好の人たちが集まってきて、そしてそれが「世間の総意」だと錯覚する。そして、広く世間に伝えるはずのマスメディアまでが、そんな偏った一部の人たちの意見を「世間の総意」として報道する事さえ珍しくなくなって来ました。

そんな中で生まれた、「自分の意見は正しいから従え」という思考の人たちの事をB層というのかなと思いました。
実際には、対象とする物事に対する知識もない(最初に偏見ありきで、自分に都合の良い知識しか学ばない)し、客観的に判断を下せる程の思考力も持ってなさそうな人たち。

そしてそれ以前に、仮にどんな立派な見識を持っていようが、そもそも自分が口を差し挟むような立場にない、という事に気づいていない人たちが、世の中には大勢いるんだな…と思いました。

一人の女性が子供を産むか産まないかなんて、本人以外の誰に決定権があると言うのか。本人に意見できるのだって、家族やごく親しい一部の人たちくらいなもんです。
それで本人が幸せになろうが不幸になろうが、私の人生には何の関係もありません。

今回の件でマスコミが騒ぐのを、安藤選手の批判につなげるのもお門違いだと思います。
悪いのは騒ぐマスコミです。
そしてその根っこを辿れば、マスコミに「この報道には需要がある」と思わせている読者や視聴者、つまり私たちに原因があると言えるかも知れません。
国民には知る権利があるというけれど、それは、「国民の利益に関わる情報」を知る権利があるという事だと私は解釈しています。
有名人のスキャンダルなんて、知らなくて困った事なんてありません。
考えて見て下さい。安藤美姫の子供の父親を知る事で、あなたに何の得があるのか。下世話な好奇心を満たすこと以外に、その情報に何か価値がありますか?


3.女のキャリア
上にも書いたように、今回の件は、安藤選手個人を越えて、女性のキャリアと妊娠・出産について考えさせられる出来事ではあったな、と思いました。
前々から思ってたけど、妊娠・出産の適齢期って、キャリア形成に重要な時期に重なるんですよね。
フィジカルの影響を大きく受けるアスリートほど顕著ではないにしても、産休・育休のブランクは働く女性に取って結構、痛い気がします。

一昔前みたいに、結婚即寿退社、っていうのが主流の時代なら、誰もそんな事は気にせずに済むんだろうけど。
男性のように一生のものとして仕事をしたい、責任ある立場でやりがいのある仕事をしたいと思ったら、学校出て就職して数年、ようやく「仕事」を覚えて一人前になりつつあるという時期に、一旦仕事を中断して空白期間を作るのって結構怖い。
(一旦仕事をやめた後で、家計の足しにパート勤めに出るっていうのは、「ワーク」であって「キャリア」ではないですしね)

雇う企業の側にとっても、数ヶ月もの間不在になる人の仕事をカバーしつつ、復帰した後に同じポジションを保証するのって簡単な事ではないと思いますしね。会社は業務の為に人を雇っているのであって、社員のために業務を行っている訳ではありません。いくら手厚い福利厚生があっても、会社そのものがなくなってしまったら意味がない(経験済み/涙)。

後、昔「負け犬の遠吠え」って本があったのを思い出しました。結婚して、子供を産んだ女が勝ち犬で、結婚してないor子供のいない女は負け犬っていう本。あのヒエラルキーって、今でも健在な気がします。
そして今回気づいたのは、「子供のいる女=夫と幸せな家庭を築いている女」って前提があっての「子供のいる女は勝ち犬」ってヒエラルキーなんだなと。
故に、「夫と幸せになってない」女が子供を産むのはこのヒエラルキー意識の中での異分子である、みたいな感覚の存在を、ちょっと感じました。

海外にはこういう感覚はないみたいで、シングルマザーも、事実婚も、養子縁組みも日本人が思う程特殊なイメージではなさそう。
というか、日本みたいに簡単に離婚したり中絶したりできない国も多い訳で、その辺で日本と同じ感覚を当てはめてはいけないらしいので、安藤選手の事に関しても、向こうの人は特に気にしてなさそうですよね。

その他色々、結構根深い問題だなと思います。
あ、でも安藤選手に関しては、個人的には実は結構楽しみです。言っても女子に関しては対岸の火事な所があるので、結構気楽に演技を楽しめる私(笑)。

***

■拍手コメントのお返事。
ちょっと順番が前後して、ものすごく今更な方もいますごめんなさい。

□2013/3/27 21:17
こんにちは。医療関係の方なんですね。今年(昨シーズン)の世界選手権での、某若手選手の「満身創痍」報道はスゴかったですね(笑)。
素人が見ても「何か変じゃないか?」な感じでしたが、専門家の方から見てもアレでしたか…。
私はあれは、スポンサー(候補として当時売り込みをかけてた企業)に対するエクスキューズだと思って見てました。
「今回ダメだったのはたまたま!たまたま運が悪かっただけなんですよ!本当はもっとスゴいんですよ!」って必死だなと(笑)。
もちろん、スポンサー(候補)企業のエンドユーザーたる一般視聴者へのエクスキューズも兼ねていたとは思いますが。
いずれにしても連盟の目線はファンではなくスポンサー(候補)の方を向いている訳で、そうなるとファンに見捨てられるのも自然な流れかと思います。

□2013/4/8 23:11
こんにちは。「ロックンロール」に対する拒絶反応は今もって不思議です。
昨シーズン上手くいかなかった理由は、エッジの変更が上手くいかなかった事が一番大きく、他にも色々と間の悪い事が重なっていたように思いますが。
あのSPに関しても、最初に出来たものの延長でマイナーチェンジしながら滑り込めば、きっと面白いものになっただろうにと思うと残念です。
最初に拒絶反応があって大幅な手直し→作り直しと、落ち着いて滑り込む時間が中々取れなかったのは返す返すももったいない。
(ついでに月光も、もっと時間をかけて作り込めばもっと素敵なものが見れただろうなと思いますが)
結果的にファンが選手の足を引っ張ったような…ていうかあれは本当に「ファン」だったのか。
ともかく今シーズンは、大ちゃん自身の「これに決めた」という明確な意志表示もあり、ああいう変な流れが出て来ていない事にまずひと安心です。

□2013/8/6 17:42
こんにちは。今回は業界あんまり関係ない駄話寄りな感じでしたが(笑)。
大ちゃん以外の男子選手は応援したくても、何故かちょっと結果が出てマスコミに取り上げられると、途端に全力で「如何にスケーターとして己を磨くか」じゃなくて、「如何にマスコミにスターとして持ち上げられるか」みたいな方向に進むんですよね。そして私はそういう間違った方向に努力する人が生理的に苦手(笑)。
あと、「ジャンプの天才」もマスコミによって作られたイメージだと思いますよ。年の割には「早熟」なのかも知れませんが、他のトップ選手と並べてそれほど突出した難易度のジャンプを成功させている訳ではないと思います。

□2013/8/7 2:30
なおみさん。こちらこそ、いつも読んで頂いてありがとうございます。

□2013/8/9 1:12
むつきさんお久しぶりです。ご心配おかけしてすみません。要は単にサボってただけです(汗)。
大ちゃんは怪我で変わった、という人もいますが、私は私が彼の存在を知ったトリノの頃から、根本は変わっていないと思います。
このブログの昔の記事がまだ残ってると思いますが、あの頃から自分を客観視できていて、妙に謙虚で冷静でした(口調はフニャフニャしてたけど)。
トリノの頃は、マスコミがチャラいイメージの報道をしていた。それに乗せられてた人が、認めたくなくて「高橋は変わった」と言ってるだけなんじゃないかと私は思っています。
もちろん、色々な経験を経てどんどん強くなって行くなと思いますが。
(個人的には、トリノ→東京世界選手権の間ですごく大人になったと思いました。トリノで手応えを掴んで、自覚と共に自信がつき始めたのがあの頃なのかなと)
あと、前十字靭帯断裂って男性のファンや競技者が多いメジャースポーツでよく耳にするので、あれをきっかけに「見る目が変わった」人は男性を中心に多いと思います。

□2013/9/1 3:20
こんにちは。今回はあんまり業界関係ない話かもですが、いつも読んで頂き、ありがとうございます。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。