サイゴンの旧アメリカ大使館前では、
コカコーラの空き缶で作ったヒューイ・ヘリコプターが売られていた。
1975年4月、アメリカ大使館の屋上は阿鼻叫喚と化していた。
解放戦線が、サイゴンの目の前まで迫っていた。
ヒューイに乗って脱出できる人数には限りがある。
屋上のヒューイにしがみつくベトナム人。
そのベトナム人の顔面をヒューイの中から殴りつけるアメリカ人。
確かその写真は、ピュリッツア賞を獲ったと記憶している。
ヒューイ・ヘリコプターは、ある意味、ベトナム戦争を象徴する存在だ。
映画の中でも、たいていは準主役あつかいだ。
『地獄の黙示録』のベストショットは、
ワーグナーのワルキューレの騎行をバックに編隊飛行するヒューイだろう。
当時、携帯式対空ミサイルはなく、
編隊飛行でも撃ち落される危険は少なかった。
ヒューイはベトナムの空を縦横無尽に飛び回り、
好きなだけ銃弾やロケット弾を地上に撃ち込むことができた。
旧アメリカ大使館前で売られているコカコーラのヒューイ・ヘリコプターは、
最初はブラックユーモアかと思った。
ベトナム戦争終結から30年。
ベトナムの若者はもはや戦争を知らない。