報道写真家から

我々が信じてきた世界の姿は、本当の世界の実像なのか

補足: チャベスとIMF

2007年05月25日 00時48分05秒 | ■中南米カリブ
前回の記事で、ひとつ書き忘れをした。
一行ですむのだが、それではなんなんので少しだけ付け足しておきたい。


2002年4月にチャベス大統領に対してクーデターが行なわれたが、このとき暫定政権の大統領に就いたのは、ペドロ・カルモナという人物だった。カルモナはベネズエラ経営者連盟会長で、ベネズエラの財界や富裕階級を代表する人物のひとりだ。

クーデターで誕生したこのカルモナの暫定政権を支持した国はごくわずかだった。たったの二日天下だったので、支持や承認をするヒマがなかったと言える。また別の見方をすれば、支持を表明した人たちは異様に判断が素早かったと言える。普通、二日程度の時間では、まともな情報収集も分析も判断もできない。いち早くクーデターを支持した人たちは、そもそも情報収集も分析も最初から必要なかったのだろう。

その人たちとは、
まず、ジョージ・W・ブッシュ・アメリカ大統領。
これは当然すぎるほど当然だろう。公式にチャベス大統領を非難し続け、チャベス大統領を国際的な孤立に追い込み、クーデターを企む勢力に動機と勢いを与えた。また実際的な支援を反チャベス派に行なっていたことも明らかになっている。
それから、アスナール・スペイン首相(当時)も暫定政権を支持した。
アスナール首相は、翌年のブッシュによるイラク攻撃を支持し、1300名の戦闘部隊を派兵するなどブッシュの良き同盟者だった。

そして、アメリカとスペインとともに、ペドロ・カルモナの暫定政権を驚くほど素早く支持した組織があった。
そう、IMFだ。
前回、書き忘れたのはこれだ。

(暫定政権に対して)国際通貨基金(IMF)や米国大統領、それに欧州連合(EU)の現議長国スペインのアスナール首相が熱烈な支持を示した。
http://www.diplo.jp/articles02/0206.html
     
ベネズエラの民主的な選挙で選ばれた政府が軍事クーデターによって転覆させられたわずか数時間後、IMFは「ふさわしいと彼らが考える如何なる方法でも[ペドロ・カルモナの]新政権を喜んで手助けする」と公然と言明した。

新たに据えられた独裁政権――国の憲法、議会や最高裁判所を直ちに解消したそれ――に金融援助をするというこの即座の表明はIMFの歴史において前例のないことであった。通常IMFは、選出された政府に対してすらこれほど迅速に反応することはない。
http://agrotous.seesaa.net/article/41544884.html#more

クーデターの首謀者のひとりペドロ・カルモナが暫定大統領に就いたのが、4月12日の午前6時。IMFがこの新政権を「喜んで援助する」と声明を発表したのが午前9時30分。新政権発足から、たったの4時間半(-1時間の時差により)しかたっていない。それだけの時間で、クーデター首謀者や実行者の人定(クーデターに加担した将軍は14人もいる)から、クーデターの動機・性格、今後の成り行きまでを分析し、ステイトメントを準備し、記者会見を行うというのは神業に近い。要するに、IMFは明らかにそうした情報収集や分析の必要などなかったということだ。

このクーデターには、アメリカ政府が関わっていたということはいまでは疑いの余地はない。ワシントンに本部を置く、アメリカの付属機関であるIMFが事前に計画を知らされていたとしても不思議はない。不自然なほど素早い声明が行なえた説明がほかにあるだろうか。このときのトマス・ドーソン報道官の記者会見の模様(ビデオとトランススクリプト)はIMFのサイトで閲覧できる。
http://imf.org/external/mmedia/view.asp?eventID=93

アメリカ政府やIMFによる不自然なほど素早い支持発表は、国際社会に向けたメッセージだったと言える。”我々に続け”ということだ。アメリカの顔色を伺わなければ、国際社会で何も発言できない政権は多い。また、アメリカの意向にあえて反対する政権もすくない。そして、IMFの管理下にある、あるいは影響下にある国々にとっては、IMFが公式に支持表明した暫定政権に対して取れる選択肢はひとつしかない。つまり、アメリカとIMFがカルモナの暫定政権をいち早く支持することによって、国際社会のほとんどの国が自動的に支持することになるという仕組みだ。

しかし幸い、クーデターは二日で幕を閉じた。アメリカ政府もIMFも、まさかたった二日後にチャベス大統領が生きたままミラフローレス(大統領宮殿)に戻ってくるとは夢にも思っていなかったに違いない。だから、不自然なほど素早い支持表明を臆面もなくできたのだ。自分たちの力を過信しすぎていたのかもしれない。あるいは、ベネズエラ国民やチャベス大統領、政府スタッフの力をみくびっていたと言えるかもしれない。


[スペイン前政権、クーデターを支援]

アメリカ、IMFとともに、2002年のカルモナの二日政権を支持した、スペインのアスナール首相(当時)についても若干のべておきたい。

アスナール政権は、イラク戦争に1300名の実戦部隊を送るなど、アメリカのよき同盟者だった言える。しかし、スペイン国民は、そのようなアスナール政権を拒絶した。2004年3月の選挙で社会労働党のホセ・ルイス・サパテロにあえなく敗れた。

そして、アスナール政権が倒れると、チャベス大統領はスペインを訪れた(2004年11月)。このとき、スペイン新政権の外務大臣モラティノスはチャベスの訪問に合わせて重大な発言をした。
「前政府の下で、(カラカス)のスペイン大使は、クーデターを支援せよ、というスペインの外交上前代未聞の命令を受け取った」
とモラティノス外相は国営テレビのインタビューで語った(04年11月23日)。
チャベス大統領は、
「それが行なわれたことに疑問の余地はない。スペイン大使は唯一、アメリカ大使とともに反乱者を承認した」
と答えた。
http://www.indymedia.org.uk/en/2004/11/301754.html

対米重視政策を採っていたアスナール前政権は、アメリカの反チャベス策略にかかわっていた可能性が高い。
結局のところ、2002年の反チャベス・クーデターを不自然なほど素早く支持したのは、すべて直接間接の当事者だったから、ということなのだろう。


今日に至るまで、チャベス大統領に対する再クーデターや暗殺の危険は消えていない。
また、IMFは2003年からベネズエラの経済成長率を故意に低く見積もり続けているという報告もある。
http://www.cepr.net/documents/publications/imf_forecasting_2007_04.pdf





IMF・世銀、ベネズエラが脱退表明するなか、衰える権威に直面
http://agrotous.seesaa.net/article/41544884.html#more

ベネズエラ再クーデタの危険(ル・モンド・ディプロマティーク2002年6月号)
http://www.diplo.jp/articles02/0206.html

IMF's Support for Coup Government in 2002 May Have Influenced Venezuela's Decision to Withdraw from the Fund
http://www.cepr.net/index.php?option=com_content&task=view&id=1159&Itemid=77

IMF:Press Briefing by Thomas C. Dawson, (video)
Friday, April 12, 2002 9:30 AM
http://imf.org/external/mmedia/view.asp?eventID=93

IMF:Press Briefing by Thomas C. Dawson,(Transcript)
http://imf.org/external/np/tr/2002/tr020412.htm

Political Forecasting?
The IMF's flawed growth projections for argentina and venezuela
http://www.cepr.net/documents/publications/imf_forecasting_2007_04.pdf

Spain says former government backed Venezuela coup
http://www.indymedia.org.uk/en/2004/11/301754.html

Moratinos defends coup comments
http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/europe/4059555.stm

What A Difference Three Years Can Make: Bush Rebuffed in Venezuela (Again)
http://www.venezuelanalysis.com/articles.php?artno=1416

THE REVOLUTION WILL NOT BE TELEVISED (グーグル・ビデオ)
(ドキュメンタリー:アイルランド)
http://video.google.com/videoplay?docid=5832390545689805144

チャベス大統領、IMF・世界銀行から脱退へ

2007年05月03日 00時07分37秒 | ■中南米カリブ
4月30日、ベネズエラのチャベス大統領は、IMFと世界銀行から脱退すると表明した。

過去半世紀あまり、IMFと世界銀行はアメリカの覇権拡大の便利な道具として力を発揮してきた。その結果、世界中に飢餓、貧困、低賃金労働など様々な問題が撒き散らされた。

アメリカの覇権政策を真っ向から批判し、南米地域内での独自の政治経済的結束を進めているチャベス大統領にとって、IMFと世界銀行からの脱退は当然の成り行きと言える。ベネズエラは1999年にIMFへ債務を完済し、2007年4月に世界銀行へ債務を完済した。

IMFや世界銀行から脱退しようとは思わないまでも、事実上縁を切りたいと思っている国は多い。近年、IMFからの借入金を返済期限を待たず、数年前倒しして返済する傾向が強まっている。カザフスタン('00年)、韓国('01年)、タイ('03年)、ブラジル、ロシア('05年)、アルゼンチン('06年)など。

借入金が存在するあいだは借入れ国はIMFに対して絶対的な服従を強いられる。それは「占領」政策というにふさわしい。当該国の主権は著しく侵される。IMFはお決まりの「規制緩和、自由化、民営化」を振り回し、金融政策とは関係のない政治や社会分野での法改革や制度改革まで強要する。IMFの目的は政治経済社会を欧米流に「構造改革」することだ。そして、いつも同じ結果が生じる。倒産と失業の増加。税金や公共料金、物価の上昇。教育や福祉政策の縮小。衛生医療環境の悪化などだ。当該国の国民は多大な苦痛と犠牲を強いられる。そして、外国企業や外国資本が利益を享受する。

IMFの「占領」政策の結果、社会不安や不満が増大し、暴動が生じることもある。これは「IMF暴動」と呼ばれる。過酷な「占領」政策によって暴動が発生し、社会が混乱することまで、あらかじめ計算済みということだ。IMFは当該国の国民生活をそこまで平気で追い詰める。一度IMFの占領政策を受けた国は、IMFに対してぬぐいがたい憎悪をもつ。

1989年2月、ベネズエラでこのIMF暴動が発生した(カラカソ大暴動)。そのとき、ベネズエラ陸軍の青年将校ウーゴ・チャベスは、国民の困窮と怒りを目の当たりにした。そして、1992年に仲間とともにクーデターを決行する。が、失敗して2年2ヶ月投獄される。しかし、1998年、チャベスは大統領選挙に出馬。みごと当選する。翌99年大統領に就任。ところが2002年4月、アメリカにバックアップされたベネズエラ支配階級と軍の一部がクーデターを起こし、チャベス大統領をオルチラ島に監禁。しかし、ベネズエラ各地で市民が蜂起。首都カラカスでは百万とも言われる市民が大統領府を取り囲んだ。恐れをなした首謀者は国外へ逃亡。クーデターは二日天下に終わった。

IMFの占領政策とIMF暴動が、今日のチャベス政権を生んだとも言える。そして、チャベス大統領がIMFと世界銀行からの債務をとっとと返済し、両機関から脱退するというのも実に自然の成り行きだ。(ちなみに、タイの前首相のタクシン氏も、タイ国民の反IMF感情を巧みにつかんで選挙で第一党となり首相に就いたと言われている)

IMFは、過去何十年ものあいだ、100ヵ国あまりの国々に対して、常に同じ「処方箋」しか用いてこなかった。その結果、単なる風邪だった患者は次々と重態に陥っていった。債務が債務を呼ぶ末期的な中毒症状だ。いまでは、賢明な国はIMFや世界銀行の融資をきっぱり拒絶している。両機関がこの地上にもたらしてきたすさまじい災厄を考えれば当然の判断である。途上国の反乱はむしろ遅すぎたといえる。

チャベス大統領がIMF・世界銀行からの脱退を表明した同じ4月30日、偶然なのか、当のIMFもある発表をした。「22年ぶりに赤字決算」になる、と。貸付は前倒し返済され、新たな融資は拒絶されるため、IMFは金利収入が減少し財政難に陥っていた。それがついに、22年ぶりの赤字という形になって表れた。この赤字決算は、途上国の反乱に対するIMFの敗北宣言と見えなくもない。ベネズエラの脱退で、脱IMF・脱世界銀行という傾向は今後ますます加速されるだろう。アメリカ一国しか拒否権をもっていない、地上で最も非民主的な国際機関が消滅しても誰も困りはしない。

南米では相互協力の動きが活発化している。地域内の共同市場メルコスル(域内関税の原則撤廃と域外共通関税の実施)が結成されている。地域内で金融支援をおこなうメルコスル開発銀行案もある。また、チャベス大統領は、経済協力協定に参加する国に対し、石油供給を100%保証するとも発言している。まだ足並みが完全にそろっているとは言いがたいが、これからは域内のことは域内で協議し決定するという方針が強まることは間違いない。アメリカは、中南米カリブ地域がアメリカの「裏庭」だという認識を捨てることになるだろう。








ベネズエラ、IMF、世銀から脱退へ=チャベス大統領が発表
http://www.jiji.com/jc/a?g=afp_int&k=20070501012211a

IMF、22年ぶり赤字に 07年度、融資減で200億円
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2007050101000168.html

ベネズエラ債務完済
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2007-04-16/2007041606_01_0.html

IMF事務所の閉鎖 (在ベネズエラ日本国大使館 経済概要)
http://www.ve.emb-japan.go.jp/gaiko/keizai/keizai2007/keizai200701.htm

途上国はIMF・世銀・WTOから脱退し、新国際機関を創立せよ
http://www.jca.apc.org/~kitazawa/undercurrent/2006/
new_institution_for_developing_countries_2006.htm


ネオリベラリズムとネオコンの破綻
http://www.jca.apc.org/~kitazawa/undercurrent/2006/collapse_of_neo_liberalism_2006.htm

反米のチャベス大統領、友好国の石油「全面保証」
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20070430STXKB009430042007.html

南米銀設立など合意
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2007-02-23/2007022307_02_0.html