報道写真家から

我々が信じてきた世界の姿は、本当の世界の実像なのか

ドル支配の起源

2006年04月10日 13時33分23秒 | ■ドル・ユーロ・円
第二次大戦中、アメリカ政府はあることでひどく頭を痛めていた。
ゼロ戦やヒトラーの秘密兵器よりもこちらの方が大きな問題だった。

「完全雇用」だ。
戦後のアメリカでどのようにして「完全雇用」を確保するかについて、戦争中からアメリカの政府首脳は悩んでいた。

戦争が終われば、アメリカの生産規模は縮小せざるを得ない。そうなれば多量の失業者が出る。そこへ戦場から兵士も帰還してくる。アメリカ中に失業者があふれることになる。

たとえ戦争に勝っても、多量の失業者を出せば、アメリカ国内は社会不安におちいり、社会は左傾化に向う。アメリカ政府は、それをひどく恐れた。戦後も、生産規模や農業生産を縮小せず完全雇用を確保しなければならないと考えた。

つまり、戦後の世界を、アメリカの余剰生産物の市場としなければならなかったのだ。

戦前、ドル経済圏とポンド経済圏はしのぎを削っていた。戦争が終結し、イギリスが復興すれば、必然的にポンド経済圏は復活してしまう。このポンド経済圏を丸ごと奪う必要があった。アメリカはその方法を考えなければならなかった。

アメリカの結論は、戦後の貿易通貨をドルに限定すること、そして英ポンドから競争力を奪うことだった。

そのために考え出されたのが、IMF(国際通貨基金)と世界銀行の設立だった。(1944年ブレトンウッズで協議、1947年正式発足)

アメリカはIMFを使って、ドルを戦後の貿易通貨と決めた(ドル金本位制)。そして世界の通貨の為替レートを高めに固定し、他国の通貨の競争力をあらかじめ奪ってしまった(通貨の固定相場制)。

アメリカは、IMFによるドル金本位制と通貨の固定相場制を世界に承諾させるエサとして、世界銀行による経済援助を用意した。単純に言ってしまえば、たったこれだけのことで、アメリカはポンド経済圏を奪ってしまった。そして最終的にドルは世界を支配することになる。

「完全雇用」を国民に提供しなければならないというアメリカ政府の強迫観念が、今日のドル支配の構造の起源だ。1930年代のアメリカは大恐慌の影響で失業率が25%に達していた。しかし、第二次世界大戦が雇用状況を一気に改善した。アメリカ政府が、戦後もその雇用を維持したいと考えたのはごく自然なことかもしれない。

かたや戦争で廃墟と化したヨーロッパ諸国は、「完全雇用」どころの話しではなかった。アメリカの差し出したエサに見事に食らいついてしまった。ヨーロッパがほんの少し慎重であれば、戦後史は少し違ったものになっていただろう。

基軸通貨ドルの持つ破壊力

2006年04月07日 23時50分03秒 | ■ドル・ユーロ・円
一般的に、アメリカは軍国主義国家であるとみなされている。アメリカの軍事費は約4200億ドル、世界の軍事費の約40%にあたる。アメリカ国外に700を越えるアメリカ軍基地が存在し、ほぼ世界の隅々に基地が行き渡っている。そんな国はアメリカ以外にはない。アメリカがローマ帝国になぞらえられる所以である。したがって、アメリカは軍事力で世界を支配していると観る見方には一定の説得力がある。

もし、アメリカが軍事力によって世界を支配しているなら、強いてドルが基軸通貨である必要はないかもしれない。軍事力で世界の富を吸い上げることができるならそれで十分だ。しかし、軍事力で本当に世界が支配できるだろうか。

南米全体がアメリカに反旗を翻したら、南米の主要都市すべてを爆撃できるだろうか。そこにアフリカが加わったら、アフリカ中を爆撃できるだろうか。物理的には十分可能だが、廃墟の世界から何か得るものがあるとは思えない。世界を何度も破壊できる軍事力を保持していても、実際には局地戦以上の戦いは行えないというのが現実だ。

では、基軸通貨ドルはどうだろうか。
こちらのほうは、世界の都市インフラを温存したまま、世界を破壊できる。しかも、一瞬にしてだ。別に冗談を言っているわけではない。方法はとても簡単だ。アメリカはこう宣言しさえすればいいのだ。
「アメリカはいっさいの対外債務を償還する気はない」
これだけで十分だ。
国家がその借金を返す気がない、と宣言すれば、その国の通貨は一瞬にして信用を失う。ドル大暴落である。世界に流通している300兆ドルが一瞬にして紙切れになる。そして世界大恐慌がおこる。

世界に300兆ドルも流通しているドルというのは、すでに非常に不安定な状態なのだ。些細な事でも暴落する危険がある。10年以上前から、世界の学者やエコノミストが暴落すると言い続けている。そのくらいドルというのは不安定なのだ。

ドルというのは、血液のように毛細血管の隅々にまで行き渡っている。ドル大暴落とは、心臓停止に等しい。世界中の株式市場は、大暴落し経済が瞬時にして破壊される。国家や企業、民間のドル資産はただの紙切れとなる。世界中に失業者があふれ、エネルギー価格は大暴騰し、ほとんどの社会機能が停止するだろう。

エネルギー自給率、食糧自給率が共に100%の国はほとんどない。アメリカはエネルギー自給率が70%、食料自給率が120%だが、隣国のカナダはともに100%を軽く越えている。この両国をあわせれば世界恐慌を乗りきれるだろう。あとはオーストラリア、ロシア、中国くらいだ。

世界は一度、大恐慌を経験している。しかし、1929年に始まった大恐慌よりも、社会インフラが高度に発達した現代の方がはるかに被害は甚大なものとなるだろう。世界にとって大恐慌の再来ほど恐ろしいものはないのだ。だから、世界はグラグラのドルを必死になって支えざるを得ないのだ。


これは、あくまで基軸通貨ドルの持つ潜在的な破壊力の話しをしているだけで、アメリカがそれを本気で考えているかどうかは、まったく別の話しだ。核兵器の破壊力とそれの使用の可能性と同じだ。

アメリカはドルの持つ破壊力を十分理解したうえで世界戦略を組んでいる。世界は、アメリカの軍事力よりも、ドルの破壊力をこそ怖れていると言えるのだ。

世界にドルはどれだけあるのか?

2006年04月05日 23時22分22秒 | ■ドル・ユーロ・円
いま、世界はドルでジャブジャブになり、そのためにドルはグラグラになっている。しかし、ドルが不安定であることがかえってアメリカを有利にしている。

アメリカは毎年、巨額の財政赤字と国際収支赤字を出している。他国なら、とっくに国家破産だ。なぜ、アメリカは国家破産しないのかといえば、発行したアメリカ国債(アメリカ財務省証券)を他国がすべて買い続けるからだ。もし買い手がいなければ破産ということになる。

しかし、アメリカが破産すれば、アメリカの借金はすべて踏み倒される。そのうえ、世界のドル備蓄と市場に流通しているドルはすべて紙切れとなる。世界はすでにドルでジャブジャブにされているため、ドルを紙切れにするわけにはいかないのだ。

そもそも基軸通貨というのは、世界の貿易決済通貨という意味でしかなかった。いま、世界の貿易の総量というのは約8兆ドルらしい。ということは余裕をもって10兆ドルも流通すれば世界の貿易は支障なくおこなわれる。

しかし、実際に世界に流通しているドルの総量というのはどれくらいあるのか。

300兆ドルだ。 ( 300兆ドル=3京5282兆円)

これがどれだけ異常な数字かお分かりいただけるだろうか。世界のGDPの総計ですら30兆ドルなのだ。世界の総生産の10倍ものドルが世界に流通しているのだ。

では、貿易決済に使われていないドルはいったい何に使われているのか。

マネーゲームだ。

短期決済の為替取引や株式投機、デリバティブ(金融派生商品)などだ。マネーそのものが商品と化してしまっているのだ。実体経済とは何の関係もない膨大なマネーが世界中を日々かけ巡り、マネーがマネーを生むゲームに興じているのだ。

それのどこが悪いと思われるかもしれないが、数字をやり取りするだけで、莫大なマネーを手にしたり、あるいは損失を出したりするというのは、まともな経済の状態ではない。誰も彼もが、マネーゲームに興じればその国の実体経済は崩壊する。

国家にとって、マネーというのは決して富ではない。本当の富とは、生産手段だ。それによって富は再生産される。実体経済をおろそかにし、国家を挙げてマネーゲームに興じる国に未来はない。

アメリカはマネーゲームのエキスパートなのだ。アメリカ自身が編み出し、高度に発達させて来た。アメリカは世界中をドル漬けにし、はじめから勝ち目のないゲームに相手を引きずりこんでいるのだ。そしてまんまと世界の実体経済を手中に収めている。

ゲームに興じている間に、気がつけば自国の産業や公共事業が次々と国際金融資本に占領されているということになる。いま、日本も実体経済をおろそかにし、この勝ち目のないゲームに参加しようとしている。

ドルに支配される世界 ②

2006年04月04日 22時42分20秒 | ■ドル・ユーロ・円
<国際機関を使ったドルの注入>

いま日本や産油国、新興工業国はドルの買い支え地獄の中にあるが、途上国もまたドルによる地獄を味わわされ続けている。第二次大戦後のアメリカは二国間援助や戦争を通して、世界中にドルを注入していったが、それだけでなく、国際機関も使ってドルを世界中に浸透させていった。

その国際機関とは、IMF(国際通貨基金)と世界銀行だ。

IMFと世界銀行は、途上国の開発援助を行う機関として世界的に認識されているが、それは単に表の顔にすぎない。本当の目的は、ドルの注入と防衛にある。この両機関の援助と融資を受けた途上国はことごとく償還不能な債務をかかえ、ドルに支配されることになった。IMFと世界銀行の援助や融資を受けた途上国は、以前よりもさらに経済状態が悪化し、貧困の度合いを増した。

途上国の国内産業は崩壊し、外国企業に占領され、はては電気、給水などの公共事業も民営化され外国企業に売却された。農業、教育、医療の水準は最低レベルにあり、向上する見込みはない。農業の崩壊により、農村人口が都市に集中し、都市の治安は急速に悪化した。地方も都市も荒廃した。外国企業は、失業率の増加にともなう低賃金労働を利用し、安い製品を量産し、莫大な利益をあげてきた。

IMFと世界銀行は開発援助のエキスパートとして途上国に乗り込み、まんまと途上国の経済と社会を破壊し、途上国をドルの重債務の中に放り込むことに成功した。さらにIMFは、債務を返済させるための追加融資を押し付け、途上国の債務を増やし続けてきた。

途上国にどれだけの経済援助を行っても、飢餓や貧困、低賃金労働が軽減されないのは当然のことなのだ。IMFや世界銀行による経済援助とは、途上国をドルの呪縛の中に放り込むことが目的なのだから。世界の飢餓と貧困、低賃金労働の根源も、基軸通貨ドルにあるのだ。

アメリカは基軸通貨ドルを利用し、先進国から途上国に至るまで、世界を完全に支配してしまった。世界がドルに支配されている限り、飢餓や貧困、低賃金労働、そして戦争は決して解決できない。



IMFと世界銀行、ドルの支配についてはカテゴリー「IMF&世界銀行」の中で詳しく述べているのでそちらをご参照いただければ幸いです。
【IMF&世界銀行①~⑤】
http://blog.goo.ne.jp/leonlobo/c/a9cbe326ad861948839e438fab6ebb5b/1
【IMF&世界銀行⑥】
http://blog.goo.ne.jp/leonlobo/e/97cd7d79ccace934954c2823b2ed3d13
など。

ドルに支配される世界①

2006年04月03日 16時50分24秒 | ■ドル・ユーロ・円
ご質問:
前にコメントしたときにも言っておられましたがなんでアメリカは「脅威」が必要なんでしょうか??


お返事:

アメリカはかつて世界最大の債権国でしたが、いまや世界最大の債務国です。
そこにすべての答えがあります。

第二次世界大戦で世界は破壊されましたが、アメリカ一国だけは無傷で生き残り、世界の工場&農場として、世界中に工業製品と農産物を売り、貿易黒字を膨らませていきました。

戦後世界の基軸通貨は「ドル」です。戦前は、英ポンドが主流です。それから仏フランも。戦後は国際貿易にはドルしか使えなくなりました。しかし、戦争後の世界にはドルはまだ流通していません。アメリカは世界にドルを供給する必要がありました。そこでアメリカは、戦後復興援助としてヨーロッパをはじめ、世界にドルを供給しました。日本などは戦争賠償金を免除されたうえに、復興援助金までもらいました。

資源国には石油、ガス、鉱物などの資源を買うことによって、資源のない国には、復興援助という形でドルを供給したわけです。戦後、しばらくすると、当然のごとくアメリカは巨額の債権国になり、巨額の貿易黒字を経常しました。しかし、これは、たいへん困った事態なのです。

要するにばら撒いたドルが自分のところに戻ってきただけです。度を越した貿易黒字というのは、自分で自分の首を絞めるようなものです。おカネというのは、循環することによって経済を活性化します。まさに血液であり、隅々にまで行き渡らなければ意味がありません。巨額の貿易黒字は経済の貧血みたいなもので、ほっとけばぶっ倒れてしまいます。

アメリカは効率よく世界にドルをばら撒く必要がありました。しかし、必要以上に天然資源を買うわけにはいきません。援助としてばら撒くのにも限界があります。国民を納得させるだけの理由が必要だからです。過度の援助は納税者が納得しません。そこでアメリカは最も効率よく、かつ国民が反論できない形で世界にドルをばら撒く方法を考えました。

戦争です。

第二次大戦終結から、たった5年後の1950年に朝鮮戦争が起こったのはこのためです。
米国民と世界を納得させるために発明した理由こそが「共産主義の脅威」です。

アメリカ政府は、民主主義を脅かす共産主義を防ぐという名目で、世界に軍事援助をはじめます。これなら世界もアメリカ国内の納税者も納得せざるを得ない。「共産主義の脅威」「ソ連邦の脅威」が過度に演出され、アメリカは難なく世界にドルを供給することができました。またベトナム戦争などの局地戦を行うことによってもドルをばら撒き続けました。

アメリカにとって戦争とは、世界中にドルを供給するための手段です。ドルそのものは、輪転機を回すだけでいくらでも刷れます。基軸通貨ドルが世界の隅々にまで行き渡り、世界の中央銀行に備蓄されることによって、世界は急速にドルに支配されていきました。

世界がドルでジャブジャブになることによって、ドルはどんどん不安定になります。ドルが安くなれば、世界に備蓄されたドルの価値が下がります。もしドルが暴落すれば世界経済は崩壊します。世界は、ドルの価値を維持するために、アメリカに投資をし、かつアメリカ国債を買って、ドルを支えざるを得なくなりました。こうしてさらにドルが備蓄されていくわけです。いま世界は、ドルに支配されているのです。基軸通貨ドルこそが、アメリカの覇権と繁栄を生む源泉です。

たとえばいま日本が溜め込んでいるドルの何割かでも売ると、ドルの価値は急落します。そうなると世界で備蓄されているドルが目減りしてしまいます。世界中の経済が不安定になります。そんなマネをすると世界中から非難されます。世界はこれ以上ドルを抱え込みたくないのですが、アメリカが毎年出す、巨額の財政赤字と国際収支赤字を補填せざるを得ず、さらにドル備蓄を増やしています。抱え込んだドルの価値を維持するためです。もはや無限地獄です。

アメリカ国家の最大の命題とは、基軸通貨ドルを供給し続けることです。「戦争」はそのためのポンプです。戦争のためには理由が必要です。それが「脅威」です。かつては「共産主義の脅威」であり、いまは「テロの脅威」です。アメリカは戦争の理由を創造し続けます。

アメリカにとって、ドルに対する挑戦者などはもっての他です。
イラクが爆撃されてサダム・フセインが倒されたのは、彼が石油決済通貨をユーロにシフトし、ドルの権威に挑戦したからです。石油や軍需、再建ビジネスなどはオマケと言ってもいいでしょう。

アメリカの覇権の源泉とは「基軸通貨ドル」です。
決して軍事力ではありません。
アメリカの軍事力とは、「ドル」を防衛するためにこそあります。

いま世界は、世界最大の借金国に支配されています。

アメリカvsイラン=ドルvsユーロ

2006年03月30日 19時59分19秒 | ■ドル・ユーロ・円
アメリカによるイラク爆撃の最大の理由は、フセインが石油決済通貨をドルからユーロにシフトしたことだが、いま同じことがアメリカとイランの間で起こっている。

ドルが世界の基軸通貨であることによって、アメリカは世界経済に君臨している。アメリカが巨額の財政赤字と国際収支赤字を平気で垂れ流せるのも、ドルが基軸通貨だからだ。

世界がアメリカのふたごの赤字を放置すればアメリカ経済は崩壊する。すなわちドルの暴落をまねく。ドルが暴落すれば、世界の中央銀行や金融機関が溜め込んだドルやアメリカ国債は紙切れになる。すなわち世界経済が崩壊する。

世界は、アメリカの財政赤字と国際収支赤字を嫌でも補填しなければならないのだ。ドルが基軸通貨である限り、アメリカだけは永遠に赤字を垂れ流すことができる。逆に、世界は富を奪われ続ける。

この無限地獄から抜け出すためには、ドルの使用も備蓄もしないことだ。ヨーロッパが共通通貨ユーロを作ったのもこのためだ。産油国や貿易立国も貿易決済通貨や外貨準備をユーロにシフトすればドルの支配から抜けることができる。

それを実行したのがサダム・フセインだ。もし、アメリカがこれを放置すれば、遠からずすべての産油国の石油決済通貨はユーロにシフトする。そうなればドルとアメリカの地位が大きく揺らぐ。アメリカにとってフセインは倒さねばならなかったのだ。

そして、イランも石油決済通貨をユーロにシフトすると噂されてきた。今月にもシフトするということだったが、まだその動きはないようだ。いまアメリカとイランは、決して核開発で駆け引きしているのではない。ドルとユーロの駆け引きをしているのだ。

しかし、メディアはそうしたことは一切報じない。報じたらアメリカの逆鱗に触れるからだ。あくまでイランは強引に核開発をする悪者でなければならないのだ。アメリカがイランを爆撃しても誰もアメリカを非難しないように。

世界の実像を読み解くキーワードのひとつが「ドルとユーロ」だ。

通貨のもつ支配力③

2005年09月29日 18時50分10秒 | ■ドル・ユーロ・円
<居心地の悪い黒字>

ブレトンウッズ体制という万全の準備のもと、アメリカ経済は順風満帆の船出をした。しかし、あまりにも万全で、黒字が増えすぎた。増え続けるアメリカの国際収支の黒字により、ドルの流動性と貿易の拡大が阻害された。つまりアメリカの市場となるべきヨーロッパの復興が進まなかった。ドルをもっと世界に流通させなければならない。それには、アメリカの国際収支を自ら「赤字」にする必要があった。

戦後まもないころのアメリカでは、国際収支を赤字にするほどの一般消費は望めない。莫大な黒字を、短期間に赤字に転換するには、巨大な消費が必要になる。そのような巨大な消費はこの世でただひとつしかない。

戦争だ。

第二次大戦終結から、たった5年後の1960年に朝鮮戦争が勃発したのはこのためだ。「共産主義」は「脅威」ではなかった。アメリカは、単に戦争を必要としていた。「共産主義の脅威」は、アメリカ国民とアメリカ議会を納得させるために設けられた人為的な脅威にすぎない。アメリカ国民だけでなく、世界がこの幻想でしかない脅威にふりまわされることになる。

朝鮮戦争の出費によって、アメリカの国際収支は赤字になった。50年代から70年代を通じてアメリカの国際収支の赤字は、軍事支出による。アメリカは、後に金(Gold)ストックが枯渇するなどとは考えもせず、軍事支出を続けた。しかし、ベトナム戦争(1964~1973年)が泥沼化し、戦費は途方もなく拡大した。ドルは際限なく刷られ、それにともなってアメリカの金備蓄は減り続けた。ドル発行量は最大で、金準備の16倍になっていた。

1971年、ニクソン大統領は、ドルと金の交換を停止。「金ドル本位制」は崩壊する。同時に、ニクソンは、固定相場制であった世界の通貨の切り上げを要求した。変動相場制への以降である。各国の通貨は10~15%切り上げられた。これによって、戦後の通貨政策であるブレトンウッズ体制は完全に崩壊した。それは、ドルそのものの信用崩壊をも意味するはずだ。

しかし、アメリカは、これからは金の換わりにアメリカ財務省証券(アメリカ国債)と交換すると宣言した。ドルという紙切れは、いつでも金に交換できるからこそ基軸通貨と認められていたはずだ。それを、これからは、別の紙切れと交換しますと言われても、本来受け入れられるはずがない。しかし、ドル漬けになってしまった世界には選択の余地はなかった。拒否すれば、世界の通貨システムは崩壊する。

こうしてアメリカは国債の発行によって、ベトナム戦争の戦費を他国に払わせることに成功した。アメリカ国債の購入の拒否は、通貨危機につながるため、なんぴともこれを拒否できない。

かくして、世界は債務国に支配されることになった。

通貨のもつ支配力②

2005年09月28日 22時31分46秒 | ■ドル・ユーロ・円
この前、ドルの話を書いたので、もう少しドルについて述べておきたい。
今回の主役は、IMF:国際通貨基金である。IMFは日本人にはあまり馴染みのない国際機関だが、実はとても問題の多い危険な組織である。この機会に心に留めていただければと思う。


IMF:International Monetary Fund:国際通貨基金
「IMFの主な目的は、加盟国の為替政策の監視(サーベイランス)や、国際収支が著しく悪化した加盟国に対して融資を実施することなどを通じて、(1)国際貿易の促進、(2)加盟国の高水準の雇用と国民所得の増大、(3)為替の安定、などに寄与することとなっています。」(日本銀行ホームページより)
これは、あくまで建前にすぎない。

<基軸通貨ドル>

そもそも、アメリカ・ドルがいつ世界の基軸通貨となったのか。
これは、1944年まで遡る。第二次大戦中の1944年7月にアメリカのブレトンウッズに連合国45カ国の代表が参加し、IMFと世界銀行の設立が協議された。このブレトンウッズ会議で、二つの取り決めがなされた。

戦後の世界では各国通貨の切り下げ競争が起こってはならない。
貿易に利用される商用通貨は金(Gold)と結びつかなくてはならない。

つまり、「通貨の固定相場制」と「ドル金本位制」だ。
戦後、世界の金(Gold)の72%がアメリカに集中していたため、商用通貨としての用件を満たしているのはドルだけだった。つまりドルを世界の基軸通貨にすると世界が認めたわけだ。

戦後の1946年にIMFと世界銀行が正式に設立され、「ブレトンウッズ体制」がはじまる。そしてこのたった二つの規約が、今日にいたるアメリカの繁栄を約束した。第二次大戦末期の疲弊した世界は、アメリカ政府が二つの規約にこめた真の意図をまったく読めなかった。

●「ドル金本位制」の意味
「ドル金本位制」とは、簡単に言えば、イギリス・ポンドとフランス・フランを貿易から締め出し、戦前のポンド経済圏とフラン経済圏の復活を阻止することにあった。それによってヨーロッパの戦後復興を抑え、世界をアメリカ・ドルの一極経済圏にすることができる。

もし、この規約がなければ、復興をはじめたイギリスやフランスは、かつての植民地と貿易をはじめることになる。そうすると戦後の世界はドル、ポンド、フランの三つの経済圏に分かれてしまう。アメリカは戦後の世界経済を完全に支配したかったのだ。

●「通貨の固定相場制」の意味
これも、その意図は同じだ。世界の通貨を、実態よりも高く設定し固定してしまう。そのことによって、あらかじめ将来の貿易競争力を奪ってしまう。

こうして、アメリカは基軸通貨ドルを好きなだけ刷り、世界の燃料や原料を買い、アメリカの製品と農業品を世界中に売りさばき、世界の経済を独り占めしてしまった。また、世界中にドルを貸し与え、巨大な債権国となり、今日の礎を築いた。その後、まだまだ紆余曲折があるのだが、それはまたのちほど。

IMF(国際通貨基金)の設立目的とは、アメリカが戦後の世界経済を支配するため以外の何ものでもなかった。いまでも、当然IMFは存在する。戦後、世界の復興と経済状況に合わせて、IMFの役割も変化してきたが、その目的はいまも変わらない。すべては、アメリカのために。

つづく

通貨のもつ支配力①

2005年09月25日 20時37分59秒 | ■ドル・ユーロ・円
これは、あるお問い合わせにお答えして書いたものですが、せっかく書いたので、ここに掲載したいと思います。

<巨大借金国が、世界を支配する>

戦後、世界の基軸通貨がアメリカ・ドルと定められたことによって、アメリカ一国だけは好きなだけドルを刷り、モノを買えるようになりました。製品でも、原料でも、燃料でも。ここから、アメリカの超浪費文化が生まれたのだと思います。輪転機を回すだけで何でも買えるのですから。

1971年までは、ドルというのはいつでも金(ゴールド)と交換できる兌換紙幣でした(金1オンス=35ドル)。第二次大戦後、アメリカは世界の金の60%(後に72%)を保有していました。この金が、ドルに信用を与えたわけです。しかし、じゃんじゃんドルを刷りまくっているうちに、ドル発行量が金保有高を越えてしまいました。つまり、ドルに対する信用供与がなくなりはじめたわけです。世界は、急いでドルを金に換えはじめました。アメリカの金保有高は急激に減少し、あわてたニクソンは1971年、突然、金とドルの交換を停止してしまいました。世に言う、ニクソン・ショックです。

世界は大混乱しましたが、アメリカはこんな風に言いました。
”みなさん、心配はいりません。これからは、アメリカ財務省証券(アメリカ国債)とドルを交換します。これは、金と同じ価値があります”と。アメリカは、紙切れと紙切れを交換するという子供だましのような策に出たわけです。

でも、この子供だましを世界は受け入れざるを得ませんでした。なぜなら、これを受け入れなければ、いままで溜め込んだドルが、本当の「紙切れ」になるからです。

世界が、金(ゴールド)に裏打ちされたドルを信用して、貿易通貨としてどんどん溜め込んだために、ついにドルに支配されるということになったわけです。べつの言い方をすると、アメリカは世界中を、ドルでじゃぶじゃぶにすることによって、世界経済を支配してしまったということです。

アメリカがドルを刷りすぎたために、ドルというのは現在でも常に不安定な状態にあります。世界は、必死になってドルの価値を一定の水準に維持しなければなりません。日本や世界が、大量のアメリカ国債を溜め込んでいるのもそのためです。しかし、溜め込んだアメリカ国債を売るとドルがなおさら不安定になるので、売るに売れないのです。アメリカ国債というのは、すなわちアメリカの借金です。

世界一の大借金国が、世界経済を支配しているという実に奇妙なことが起こっているわけです。

<大恐慌 アメリカは怖くない?>

アメリカは世界中がドルでじゃぶじゃぶになり、ドルが不安定になることによって、たいへんな得をし続けているわけです。逆に言うと、ドルが安定するとかえって損をするということです。

このグラグラのドルが大暴落すると、世界経済は破綻します。恐怖のシナリオ、世界大恐慌です。大恐慌への恐怖によって、世界はグラグラのドルを支え続けていると言えます。

アメリカも世界大恐慌が怖くなくはないでしょうが、しかし、アメリカは決定的なダメージは受けないでしょう。アメリカというのは食料自給率が125%くらいあります。エネルギー自給率は約70%です。食料とエネルギーがあれば、持ちこたえられます。ひとまず自足的な経済を営めるわけです。大量の餓死者が出ることもないでしょう。

しかし、日本は、食料自給率40%。エネルギー自給率は4%です。日本の原油備蓄量は、170日分(国家備蓄90日、民間備蓄80日)です。世界恐慌になれば、日本は数ヶ月で都市部を中心に大量の餓死者を出すことになるでしょう。日本の政治・経済・社会は壊滅します。

ヨーロッパの食料自給率は、ヨーロッパ全体としてみるとほぼ100%だと思います。しかし、エネルギー自給率はイタリアは15%、フランス9%、ドイツ25%、とかなり厳しい。

アメリカのエネルギー自給率は70%ですが、同盟国のイギリスは102%、隣国のカナダは145%。この三国でエネルギー問題は解消されます。では、食料はというと、アメリカは125%、イギリス70%、カナダ159%。やはり、この三国で食料問題は解消できます。これにオーストラリアが加わるとさらに強力です(食料:約250%、エネルギー:217%)。

世界恐慌になっても、アメリカ・カナダ・イギリスのアングロ・サクソン同盟はしのいでいけます。ヨーロッパは、食料は問題ないにしても、エネルギーが乏しいので、食料輸送以外にエネルギーがまわせないかもしれません。中国は、いまのところ食料、エネルギーともに100%近いので、なんとかしのぐでしょう。あとロシア(食料:106%、エネルギー:160%)、インド(食料:107%、エネルギー:80%)といったところでしょうか。日本を含めたその他の国、地域は、食料があってもエネルギーがなければ輸送ができず、大量の餓死者を出し、将来的な復活能力を著しく失うことになるでしょう。食料自給率とエネルギー自給率だけで語るのは少々極端ですが、一定の目安にはなると思います。

こうした観点から見て、アメリカは余裕なのです。アメリカの放漫財政でいくらドルが不安定になっても、世界恐慌を恐れる世界が、放っておいてもドルを支えてくれる。つまり、アメリカの財政を支えてくれるということです。それに対して、ヨーロッパはドルの呪縛から逃れようと具体的に動いていると言えます。共通通貨ユーロを導入したのも、ドルの呪縛から逃れるためです。イギリスがユーロに参加しなかったのは、イギリスはヨーロッパの一員というよりも、アメリカの同盟国だからです。というより決定権のない従属国といった方が正確でしょうか。

最近、韓国や中国、ロシアは、保有外貨をドルとユーロに分けてリスクヘッジしはじめています。また、ロシアは石油決済通貨もユーロへシフトする動きがあります。我が国はというと、何にもしておりません。ただ、アメリカに従うのみです。かといって、世界恐慌になっても、助けてはもらえません。イギリスが同盟に入れるのは、エネルギー自給率102%という捧げモノを持っているからです。

ドル暴落による世界恐慌というのは、非常に現実的な脅威なのですが、これは、核戦争と同じ種類の脅威とも言えます。実際に勃発することはない、と。しかし、その現実味を帯びた「幻想的脅威」によって世界は振り回されていると言えます。

※イラクのサダム・フセインは石油決済通貨をドルからユーロにシフトしたのですが、そのこともアメリカのイラク爆撃のひとつの理由であることは、すでに世界の知るところです。イラクのユーロシフトを座視していると、他の産油国もユーロにシフトしてしまう。世界の石油決済通貨がユーロにシフトしてしまうと、当然ドルの支配力が極端に弱まります。それは、アメリカの支配力そのものが弱まることを意味します。

※食料自給率、エネルギー自給率は、統計によりかなりばらつきがあります。あくまで目安です。