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カブールに着いて4,5日は、取材許可や式典、ビザ延長手続きなどで、あまり写真に集中できなかった。
特にビザは15日間だったので、延長手続きが済まなければ落ち着かない。
そういう性分だ。
報道関係者の場合、ビザの延長には外務省の延長許可が必要になる。本来はビザが切れる2,3日前に行うべきものなのだが、もしカンダハールで不測の事態が発生すれば、その間にビザが切れてしまうかもしれない。そうなると面倒だ。お役所は一見して、前時代的で非効率的かつ官僚主義的な空気が流れている。いざというとき、まごつかないために、あらかじめ備えておくのが得策だ。
延長許可書をもらって、内務省のパスポート・オフィスへ。西部劇に出てくるメキシコの警察署といった感じだ。銀行振り込みの用紙を渡され、アフガニスタン銀行へ。10ドルを振り込む。銀行はあまりにも複雑怪奇なシステムのため、振込みに一時間ほどかかった。どのくらい時代を遡ったのかよくわからない。タイム・トラベルがお好きな方にはお薦めだ。振込み証明書をもらって、パスポート・オフィスへもどる。こうしてようやくビザ延長手続きは完了した。
しかし、パスポートの預かり書などはない。もし、パスポートをなくされても、こちらには延長のために預けたと証明するものはなにもない。オフィスにはよくわからない人が頻繁に出入りしていた。妙にそういうことが心配になる。そういう性分なのだ。
<犯罪集団を形成する「ヒーロー」>
ムジャヒディン勝利式典とビザ延長が終わり、ようやくカメラを下げ、気の向くままに街を歩いた。
僕はどこを歩いても、歓迎され、いたるところでチャイをいただき、長々と話を聞いた。僕が歓迎されていたというより、日本人が歓待されているわけだ。日本人は、非常に友好的にむかえられる。
カブールの街は、一見平穏に見えた。
伝え聞く感じとは、かなり違った。もっと緊張感があるかと思っいたのだが。しかし、街のいたるところに武装警官や武装警備員がいる。武装警備員を伴って食事をしたり、買い物をしているビジネスマンも見た。その必要がある街なのだとわかる。
しかし、カブール市民の歓待ぶりに、僕のガードは下がっていった。それでも、アフガニスタンの状況を侮っていたわけではない。人通りのない通りは避け、暗くなってからは絶対に出歩かなかった。
カブールには、職とチャンスを求めて、大勢の人々が流れ込んできている。いわゆる人口の都市集中がはじまっている。世界のどの都市でもこの場合、治安が悪化するのが常だ。
それを念頭においた上で、常に行動していた。それでも、のちにカブールの治安の悪さを身をもって体験することになった。撮影中、ピストル強盗に遭ったのだ。その地域の若者三人がついていてくれたにもかかわらずだ。さすがに予想を超えた事態だった。
この事件によって、いくつかのことを学んだ。
まず、こうした犯罪に携わるのは、たいてい「ヒーロー」であること。
そして、彼らは警察のことなど、現行犯逮捕以外はほとんど意に介していないこと。
したがって、機会があれば躊躇なく犯罪を行うこと。
といったところだ。
タリバーンが登場するまでの内戦の2年間、アフガニスタンの治安は最悪の状態が続いていた。カブールの街は破壊され、虐殺も発生し、約5万の市民が犠牲になった。各軍閥が支配する地域内でも、武装強盗が跋扈し市民生活を脅かした。軍閥そのものが乱暴狼藉の盗賊とも言えた。都市間の移動も常に危険が伴った。この時期、多量の難民が発生した。
こうした状況を一気に改善したのがタリバーンだった。タリバーンの治世は、「道路にお金を置いても誰も手をつけないくらい治安がよかった。三日後でも、まだそこにある」と人が言うくらい治安は改善された。移動の安全も確保された。
しかし、いまや、かつての軍閥は支配地域だけでなく、中央政府内でも権力を持つにいたった。
軍閥(北部同盟各派)は、アメリカの軍事的、資金的支援のもと、対タリバーン戦争に勝利した。欧米のメディアでも対タリバーン戦争の「ヒーロー」として喝采された。そのため現政権は、軍閥に一定の権力を与えざるを得ない。とくに、軍、警察での軍閥の権力は大きい。アフガニスタン市民にとっては、かつての乱暴狼藉と虐殺の軍閥が、「ヒーロー」としてさらにパワーアップして、戻ってきたのだ。アフガニスタンの治安が悪化するのは、理の当然といえる。
中央政府の権力は微弱だ。
軍閥は自由に軍事力を行使し、テリトリー内で麻薬を栽培し、それを密輸し、また勝手に税金も徴収している。つまり各軍閥勢力には、アフガニスタンの憲法も法も及ばないのだ。
カルザイ大統領がコントロールしているのは、カブールとその周辺地域だけだ。しかし、そのカブールでさえ、日々治安が悪化している。
武装強盗団や犯罪組織は、軍閥勢力から派生している。つまり、犯罪集団は、軍閥、そして軍や警察の中にも有力な仲間を持っているということだ。しかも彼らは「ヒーロー」としてこの街に戻ってきたのだ。
「ヒーロー」たちが軍服を羽織り、街を闊歩し、タダ食いタダ飲みをしているところを、僕は何度も目撃している。若者から、いい年をしたオヤジまで。飲食店に「ミカジメ料」を要求している「ヒーロー」も目にした。
この「ヒーロー」達の出身地の軍閥の代表者(故人)は、公式に「ナショナル・ヒーロー」とされている。したがって彼ら犯罪集団の助長はとどまることを知らない。市民にとってこんな恐ろしいことはない。
「ヒーロー」による横暴や凶悪犯罪が拡大していけば、大きな社会不安となり、民族的反感や対立が拡大する。彼らは「官軍」ではあるが、民族的には少数派なのだ。「賊軍」の多数派民族の堪忍袋の尾が切れたとき、アフガニスタンはまた混乱の中に放り込まれるかもしれない。アフガニスタン国民のほとんどが、何らかの武器を所有しているのだ。
<市民の安全に無関心の米・国連>
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アメリカや国連は、対テロにばかり気を奪われ、市民の安全には無関心だ。悪く言えば、自分たち外国人に危害が及ばないものはどうでもよい、ということだ。
現在のアフガニスタンは、米軍とISAF(国際治安支援部隊)のプレゼンスと援助国資金によって、かろうじて国家としての体裁を保っているが、その実態は、いまだ国家内国家が乱立する群雄割拠状態なのだ。この国家内国家を統一することは、ほぼ不可能だ。
なぜなら、この国家内国家群は、国家よりも資金を持っているからだ。2005年度のアフガニスタンの国家予算は47億5000万ドル。しかもそのうちの四分の三は、援助国が直接管理する復興事業に費やされる。つまり、アフガニスタン政府が自由にできる資金はごくわずかということだ。
しかし、軍閥や麻薬組織はケシ栽培とその密輸で、年間23億ドルを稼ぎ出している。アフガニスタンの国家予算の半分に達する規模だ。軍閥と麻薬組織は、この資金を全額自由に使えるのだ。
ケシ栽培は、タリバーン政権時代にはほぼ壊滅し、年間の生産量は190トンだった(これに反対する説もある)。しかし、北部同盟の勝利とともに一気に栽培が復活し、いまや年間4000トンを生産している。これは世界の生産量の75%にあたる。
カルザイ大統領は、ケシ撲滅キャンペーンを展開しているが、その効果のほどは、たいへん怪しい。ケシ栽培業者は、宣戦布告的な発言さえしている。すでに、ケシ撲滅部隊に死者もでている。年間23億ドルの巨大麻薬ビジネスを根絶することなど、いまのアフガニスタン政府には不可能だ。したがって、ケシ撲滅も軍閥の解体も不可能と言える。
アフガニスタン政府は実質的にアメリカ政府の統治下にある。そしてアフガニスタンの役割とは、中央アジアの石油をパキスタンの積出港に輸送するためのパイプライン建設にある。アメリカ政府にとっては、将来建設されるパイプラインの安全さえ確保できればいいのだ。軍閥や麻薬組織がパイプラインを爆破する危険はない。タリバーンとテロ部隊さえ抑止すれば問題ない。アフガニスタンの民主化は単なる建前にすぎない。たとえ軍閥や麻薬組織に国家が乗っ取られたとしても、パイプラインの安全には問題がない。そういうことだ。
今後ますますアフガニスタンの治安が悪化することは間違いない。いまは、アフガニスタン国民は「フリーダム」と「デモクラシー」への期待で何とか我慢している。しかし、いつまでたっても生活が楽にならず、「官軍」の威を背景にした蛮行や凶悪犯罪が市民生活を脅かし続ければ、いつか国民の憤懣が一気に爆発する恐れもある。
しかし今後も、アメリカ政府、国連、カルザイ政権が国民生活の安定的向上に目を向けることはないだろう。
5月16日にカブールでイタリア人女性が誘拐された。カブール在住の全外国人に激震が走った。ついにアフガニスタンでもイラク型の誘拐が始まったか、と。しかし、そうではなかった。彼女を誘拐したのは、タリバーンでもテロ組織でもなかった。一般の犯罪集団なのだ。目的は、逮捕された組織幹部を取り戻すことだ。しかも、この犯罪組織による外国人誘拐は、あらかじめ予想されていたことなのだ。にもかかわらず防ぐことができなかった。
アフガニスタン市民の安全をないがしろにしてきた占領政策のツケが、こういうかたちで露呈したと言える。
彼女は、アメリカの占領政策の犠牲者だ。
一刻も早く開放されることを切に願う。